マレーシアの極貧家庭から裸一貫でやってきた異色の産婦人科医・山分ネルソンが語る「逆転力」とは!?

ワイドショーのコメンテーターやラジオパーソナリティとして活動する異色の産婦人科医・山分ネルソン氏の著書『逆転力、激(たぎ)らせろ ―希望を咲かせて― 日本人が知らない「ジャパニーズ・ドリーム」を掴む方法。』(IAP出版)が発売されました。この本は、マレーシアの極貧家庭に生まれたネルソン氏が、18歳のときに一念発起して単身来日し、現在に至るまでの紆余曲折、激動の人生をまとめたディープな1冊。今回は、そのネルソン氏を直撃し、著書に込めた思いなどを聞きました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

明るいキャラクターで人気のネルソン氏は現在、吉本興業に文化人として所属し、コメンテーターとして『朝生ワイド す・またん!』(読売テレビ)や『ブラマヨ弾話室~ニッポン、どうかしてるぜ!~』(BSフジ)などに出演するほか、ABCラジオ『月曜から元気に!Joyful Monday!!』(ABCラジオ)ではパーソナリティとして活動しています。日々、食べることすらままならない幼少期を過ごしていたネルソン氏が、いかにして人生を逆転することができたのか――その「逆転力」の秘密に迫ります。

もともとは子どもに伝えたかった言葉

――ご自身の人生を、1冊の本にまとめようと思ったきっかけを教えてください。

はじめは、子どもに「パパはこういうふうに生きてきたよ」ということを残したいという思いからです。18歳でマレーシアから日本にやってきて、もちろん日本語はまったく喋れず、おカネもなくて、大変な思いをしながら暮らしていました。でもいま思えば、すごくおもしろくて有意義な体験だった、とも思うんですよ。
かれこれ16年前、妻が妊娠しまして、当時、僕はまだ研修医で財産もないし、過労死するかもしれないような過酷な労働環境でした。そんななか、「いま万が一、僕に何かが起きても、お腹の子に何も残せるものがないやん」とすごく悲しくなったんです。人生って、何があるかわからないじゃないですか。それで日本で経験したことが、いまの僕にとって唯一の財産じゃないかと思い、処世術やハングリーさが得られるひとつの源になればと思って書き始めました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

――この本のまえがきに、書き上げるまでに「15年以上かかった」と書いてありますが、なぜそんなにかかったんですか?

だんだん調子に乗っちゃって(笑)、せっかく書くなら僕の拙い日本語よりも、小説を読んでいるような美しい文章にしたいなと思いました。それで母校の大阪大学の、僕が所属していた舞踏研究会の後輩たちに「誰か、文章を書くバイトをしてくれませんか?」と声をかけ、その時に手を上げてくれたのが蒼井カナ(ペンネーム)さんでした。
初めは僕が書いた文章を彼女に送り、それをカナさんが美しい文章に整えてくれるというかたちを取っていたんですが、だんだんお互いに本職が忙しくなり、僕がボイスメモを送ると彼女が文章に起こして送り返してくれるようになりました。そうしたやりとりを15~16年積み重ね、やっと完成しました。カナさんの文章がまたよくて、「ほんまにあんた、ようわかるなぁ! 僕のお腹の中に住んでるみたいや」って思います。

貧乏学生時代や多額の借金を抱えた時期も

――「逆転力、激(たぎ)らせろ」というタイトルにはどんな思いが込められているんですか。

動き始めたころは「ハングリーになろう」がメインテーマだったんですが、みんなそれぞれ育つ環境も違うし、(ハングリーという言葉の)定義も違う。それに恵まれた日本で「ハングリー」と言われてもピンと来ないし、「それ何やねん?」となると思うんですよね。それで、「ハングリー」とはなんだろう? と改めて考えて、現状からもっといい環境をつくること、それは「逆転力」やんか、と思い至りました。
きっと誰もが、いまより上のステージを目指したい気持ちがあるし、「それなら逆転しよう」というメッセージなら全員に当てはまるんじゃないか、と。最初は違うタイトルだったんですけど、啓蒙的な意味も込めて、印刷する1週間前にいまのタイトルに急きょ、変更したんです。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

――ネルソンさんの幼少時代から現在までの波乱万丈ぶりに驚かされますが、特に印象に残っているのはどの時期ですか。

ひとつ目は、日本に来て2年目。北海道大学に入学が決まり、北海道に引っ越したときです。当時はインターネットがないのでアルバイト求人誌でバイト先を探したんですけど、北大生なのに「うちは外国人、お断りです」ってどこも雇ってくれなかった。
そんななか、1993年の米騒動(記録的な冷夏による米不足現象)も重なって、北海道だと米5キロが3000~4000円くらいしまして……。おカネはないし、お米も買えず、だからパン屋さんでパンの耳を買って食べていました。でもそのパンの耳も売り切れてしまい、「僕、食べ物もなくて、こんな寒い北の国で……。このまま死ぬやんか!」と怖かったです。
2つ目は参議院議員選挙に出馬したときかな。日本の医療システムに腹が立って立候補したものの、何もわからなくて。もっとショックだったのは、これまで仲良くしていた人たちに「選挙に出る」と言った瞬間、一気に冷たくなってしまったことです。たぶん、選挙に出ることに対していいイメージがないんでしょう。
逆に、これまでまったく交流がなかった方たちが応援してくれた。いい人生経験になりました。それに、選挙に出るなら仕事を辞めないといけない、でも選挙のための費用もかかる……。途中からは落選するのはわかってたので、「結果はわかってるのに、なんでこんなことをしているんやろ?」と思ってね。「妻も子どももいるのにこの先の人生、どうなるんだろう?」と不安でしたよ。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

3つ目は、クリニックを開業したときです。選挙のときに僕の話に感動してくださった方が「開業してみませんか」と声をかけてくださったんです。「絶対、おもしろいクリニックをつくろう!」と、最初から1日100人の患者さんに対応できる体制をつくったんです。なのに、開業初日の患者さんは2人(笑)。億以上の借金を抱えて、毎月何百万の人件費がかかるのに! このときも「この先、僕の人生どないするの?」でした(笑)。この3つが、いちばん怖かったです。

お笑い芸人にも共通する「逆転力」

——本には、ネルソンさんがピンチをどう乗り越えたのかが書かれていますが、どうすればそんなに強い気持ちが持てるんですか。

マレーシアからひとりで東京に来たときの経験のおかげです。おカネもない、しゃべれない、資格もない、ある意味、裸みたいなものです。さっき話した2つ目と3つ目の体験は、薬剤師の資格や医師の資格を持っていたので、もし失敗しても食いっぱぐれはないだろうと(笑)。
でも、18歳のときは本当に人生がどうなるかわからなかったですからね。僕は大学に合格できるのか、それとも不法滞在で逮捕されてしまうのか、すごい恐怖でしたね。そのときのエピソードも詳しく書いていますが、「あの恐怖心に耐えられたのなら、人間なんでもできるわ」みたいなね(笑)。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

——読むとたちまち元気が出る内容ですね。

肝が据わるといいますが、肝は基本的に自然にできるものではなくて、追い詰められて、追い詰められてできるものなのかな、と思います(笑)。日本で普通に暮らしていると、追い詰められることってあまりないじゃないですか。でも何かを変えたいと追い詰められたとき、逆転力が発揮されるんだと思います。
たとえば若手の芸人さんは、おカネもない、将来どうなるかわからない。でも皆さん、ネタを一生懸命やってるでしょう。すごく感動するんです。僕が吉本興業に入ったのは、その理由もあるんです。すごくカッコいいと思うんですよ。以前、ミルクボーイさんにお話を聞いたことがあるんですけど、「M-1グランプリに優勝したとき、その翌日も普通にバイトのシフトが入っていた」って言うんです。優勝して結局、行けなくなったそうなんですが、とても身近に感じます。芸人さんにも、すごく逆転力があると思いますね。

書籍概要

『逆転力、激(たぎ)らせろ ―希望を咲かせて― 日本人が知らない「ジャパニーズ・ドリーム」を掴む方法。』
著者:山分ネルソン
文:蒼井カナ
定価:本体1,800円(税込1,980円)
ページ数:278ページ
発行日:2023年9月9日
出版社:IAP出版

Amazonはこちらから。