霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載1回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

『Mー1グランプリ』優勝、テレビドラマ出演など、大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが小説に初挑戦!

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

青春小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をラフマガで独占連載することが決定しました!
自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。
その名も『奪われかけた⻘春をコントで取り返してみた』。
中学生、高校生の皆さんにリアルなメッセージを贈ります。
果たしてどのような結末を迎えるのか? 乞うご期待ください。

『いじめは、急にはじまる。』

 ほとんどの人は「自分はいじめと無縁だ」と思っている。この話に出てくるホシノ高校1年生のイシカワもそう思っていたひとりだ。
(俺がいじめられるわけがない)
 高校1年の新学期までそう思い込んでいた。振り返れば小学校、中学校時代、友だちは人並みにいたし、比較的性格も明るかったし、お笑いが好きな性格だった。だから、高校の新学期でもすぐに友だちができると思っていた。
 高校1年の新学期というのは、一見すごく華やかに見えて、実はとても不安定な時期でもある。熱を加えればなんにでもなってしまう未完成の空気だ。特に最初が大切で、クラスメイトたちに自分のことをどう知ってもらうか――慎重に行かないと3年間、この新学期の印象でいってしまう可能性があるからだ。
 たとえばこの新学期でたまたま顔に鼻クソがついていたら、もうあだ名は「ハナクソ」で確定。教室でうんこを漏らせば、例外なく「うんこマン」もしくは「うんこくん」など、うんこを軸にあだ名を構成され続けることになる。
 ゆえにこの新学期というのは、とても大事な時期であり、ピンチでもあり、チャンスでもある。親や学生時代を忘れた大人にはわからない世界かもしれないが、高校1年の新学期というのは全員が少しずつ警戒しながらガードを固めて椅子に座っている。『風の谷のナウシカ』でいう王蟲(オーム)の目が赤い状態である。
 イシカワもそうだった。初日は慎重に、目立たないようにして普通に過ごした。しかし、次の日にはもう男子グループ、女子グループが少数ではあるが、形成されている雰囲気が出ていた。
 (マズい。自分もみんなのこの輪の中に入らないと取り残される)
 そんな焦燥感にかられていた。ここで乗り遅れるとクラスの一軍グループに入れない気がするからだ。実際に今思えば、一軍だからいいということは別にないのに、思春期は非常に小さなカーストを気にしてしまう。
 この日の長いお昼休み、事件が起きた。教室内では出来て間もない男女グループが「ゴミ箱シュート」をして楽しんでいた。ゴミ箱にペットボトルを投げて、上手く入れば盛り上がるというすごく単純なゲームだが、グループを作れたことに安心してか、異様な盛り上がりを見せていた。「俺ら私ら、早くもこのクラスの『一軍』です」みたいな顔に見えた。
 (このグループに入らないと……)
 イシカワは焦ってしまった。なんとかこのグループに入れるようにみんなの気を引きたい。
 そんなとき1人の女子が「どうやったら上手くペットボトルをゴミ箱に投げられるんだろうね?」とみんなに尋ねていた。ここで僕は『スラムダンク』の主人公・桜木花道のセリフを思いついた。
 (あれ、このタイミングでこのセリフで入っていったら、みんな笑ってくれるんじゃないか?)
 最初から飛ばし過ぎかもしれないが、
 (よし、行ってみよう!)
 とイシカワはそのグループに近づき、ペットボトルをバスケットボールに見立てて、「左手は添えるだけ」と『スラムダンク』の作中のモノマネをかまし、笑いを誘った。


 信じられないぐらいスベった。


 シーンとなった空気に焦り、すかさず追撃。「安西先生、バスケがしたいです!」と顔を目いっぱい揺らしながら言った。


 校舎が崩れるぐらいスベった。


 やってしまった。
 しばらく続いた静寂のあとに、「キモっ……」とグループのリーダー格であろう男子がそういうと、やっと笑いが起きた。
 (第一印象が終わった)
 あれだけ気をつけていたのに……それから、このグループに関わらず、静かに過ごすことにした。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 「今日こそ友達を作ろう!」。昨日の変な雰囲気を払拭しようと気合を入れて次の日、登校してみると、イシカワの机は上下を逆にされて置かれていた。そして椅子は先生が使う回るタイプのイスに入れ替えられていて、イシカワの椅子は先生の机のところに入っていた。ふと黒板を見ると、日直の名前の欄が両方とも「イシカワ」になっていた。3秒ぐらい静止したあと、心の中でツッコんだ。
 (いじめ、はじまるの早っ! まじか、まじでか、
 こんなささいなことで始まってしまうのか)
 そうか、こいつらは俺をいじめることで、「自分は外れていない」という感覚を確認しているんだ、ということを理解した。急に始まりすぎて心の中では笑いそうになるぐらいだった。
 その日の夜、少し考えたが、性格的に「学校に行かない」という結論には至らなかった。ちゃんと毎日学校に行きたい――。
 それからもちゃんと毎日、学校に行った。それでも机は毎日ひっくりかえっていた。
 (これの何が面白いんだ? これでクスクスしてるやつ、
 どんなバラエティー見てきたんだ)
 イシカワはへこたれない精神も持っていたし、ものすごく冷静な自分もいた。しかし、ボッチになってしまったイシカワに避けることのできない問題が発生した。そう、「休み時間をどう過ごすか」という問題だ。
 これは経験した人ならわかると思うが、浮いてしまった状態で、休憩時間にひとりで教室にいるのはつらい。他人の視線が非常に気になる。だから寝てしまおうとするのだが、この状態を受け入れてしまうと、3年間このまま孤立してしまうという恐怖が頭をよぎる。本当は休み時間に自由に行き来したい場所があった。それは「廊下」だ。でも、このときのイシカワにとっての廊下はあまりにも華やかで眩しすぎる場所だったのだ。
 運命の文化祭まであと98日。

霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

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