貸切状態だったわけ
再開発にともなって駅周辺に駐輪場が増えた。計4か所。
まず、reloadという商業施設の歩道の下に位置する「下北沢東自転車等駐車場」。ここは最初の2時間無料で、その後12時間ごとに100円の駐車料金がかかる。
大型自転車専用レーンもあるので、チャイルドシートを取り付けた電動自転車も停められる。一番街商店街やオオゼキに買いものに行くときには、ここに停めるのがいいだろう。
ちなみに、この駐輪場の向かいにある「セントラルフィットネスクラブ24」の場所には、かつて「オデヲン座」という成人映画館があったらしい。シモキタの先輩がたと話していると、たまにこの映画館の話が出てくる。
続いて、2019年の春にオープンした茶沢通り沿いの「京王サイクルパーク下北沢」。この駐輪場は2階建てになっていて、シモキタ最大の収容台数370台を誇る。
外観も特徴的で、看板の下には無数のホイール。車道に面した2階部分の壁には、フレームやハンドル、サドルなどが飾られている。
駐車のラックは上段と下段に分かれていて、最初はどっちに停めればいいのかわからなかった。それは、この上段と下段のラックに何も差はないと思っていたからだ。
しかし、それは間違いだった。上段と下段の違いは、駐車料金だった。
上段は最初1時間無料で、その後10時間ごとに120円。下段は最初1時間無料で、その後12時間ごとに150円だった。
30円の違い。ちりも積もれば、というからバカにはできないけれど、この料金設定は微妙だなと感じていた。
すると、オープンしてから5か月ほど経った9月10日に駐車料金が値下げされた。この日は僕の誕生日、まるでプレゼントをもらったような気分になった。
それから上段は最初1時間無料で、その後24時間ごとに100円。下段は最初1時間無料で、その後12時間ごとに100円に変更された。
こちらのほうがいい。半日で戻って来る人は下段、一日ずっと出ている人は上段、という感じで断然わかりやすい。この料金設定に変わってから駐車台数もあきらかに増加した。
ちなみに、この駐輪場沿いの歩道には「下北沢駅前」という小田急バスの停留所があって、よく人が並んでいる。この一つ前のバス停は、始発の「北沢タウンホール」。
120メートルしか離れていない。なんだったら「下北沢駅前」のバス停から見える。だから、ここでバスを待っている人を見ると始発のバス停がすぐそこなんだから、そこまで歩いたほうが座れるんじゃないか、といつも思ってしまう。
続いては、ミカン下北のB街区の2階にできた「京王サイクルパーク下北沢2」。この駐輪場は、ネーミングが映画のタイトルみたいでかっこいい。
「第2」とかではなく「2」と書いてあるのがたまらない。看板にふりがなはふられていないけれど、これは誰がなんと言おうと「京王サイクルパーク下北沢2(ツー)」だと信じている。
つくられたのも一番最近で、とにかくここはきれい。昨年の夏にオープンしたばかりなので、まだ1年も経っていない。
僕は「2(ツー)」のオープンをいまかいまかと心待ちにしていた。オープン初日、喜び勇んで駐輪しに行くと、なんと1番乗りだった。
駐車ラックは「1(ワン)」と同様に上下二段に分かれている。下段に、静かに自転車を停める。
自転車が1台も停まっていない駐輪場に自転車を停める快感。しかも、この駐輪場に停めた最初の1台目が自分の自転車だなんて。抑えきれないほど興奮した。
その日は、そのあと新宿で打ち合わせがあったので、自転車はそのままにして電車で新宿に向かった。シモキタに戻って来たのは19時ごろ。駐輪してから8時間ほど経っていた。
驚くことに「2(ツー)」には、まだ僕の自転車しか停まっていなかった。もしかしたら、途中に何台か停められていたのかもしれないけれど、さっきとまったく同じ光景。
これは、もう自分専用の駐輪場じゃないか。シモキタの民よ、この駐輪場がオープンしたことを誰も気づかないでくれ。ずっと、僕だけの駐輪場でいてくれ。
そんなことを思いながら駐車料金を精算しに行くと、機械に表示された金額に固まった。300円……。
オープン初日だから機械の不具合なんじゃないかと思い、立て看板を見に行く。すると、そこには「上段ラック 最初の3時間無料 その後3時間ごとに100円 下段ラック 2時間無料 その後2時間ごとに100円」と書かれていた。
完全に勘違いしていた。「京王サイクルパーク下北沢2」という駐輪場なんだから「京王サイクルパーク下北沢」と同じ料金設定だと思い込んでいた。
もしかしたらシモキタの民たちは、ここの料金がまわりに比べて高いと知っていて、最初から誰も停めていなかったのかもしれない。そう思うと、そこに自転車を停めた自分が急に恥ずかしくなり、一目散にその場を離れた。
ものすごいスピードで駐輪場から立ち去る僕。あの姿をもし誰かが見ていたなら、あの男はゾンビにでも追いかけられているんだろうかと思ったに違いない。
最後に紹介する駐輪場は、小田急線の南西口にできた「下北沢駅南西口前駐輪場」。これは「下」とか「北」とか「南」とか「西」とか「前」とか、名称に方角とか方向を示す言葉が入りすぎていてややこしい。
もしこれが東北沢駅だったら「東北沢駅南西口前駐輪場」。「東西南北」すべてコンプリートだ。
駅のまわりに駐輪場が増えたことは本当にありがたい。しかし、僕が行きつけの駐輪場を見つけるのにはまだ時間がかかりそうだ。
このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。
書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日
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ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。