世界初公開
今朝は睡眠不足だった。
午前8時すぎ、段ボールとかまぼこ板200枚を抱えて家を出る。
目的地はラフォーレ原宿。
ふだんなら自転車で向かうのだが、雨だし、荷物が多いので徒歩で下北沢駅に向かう。
段ボールを片手に持ちながら傘をさすのはひと苦労だ。
おまけに通勤ラッシュ。
朝からうんざりする。
昨晩は、ラフォーレ原宿の階段ディスプレイに展示するオブジェを深夜まで制作していた。
集めた段ボールを切り貼りし、一辺45センチの立方体をつくり、絵の具で色付けする。
単純な作業なのに、意外と時間がかかった。
本当は、その段ボールにかまぼこ板アートをびっしり貼るところまでやりたかったが、かまぼこ板を貼ると持ち運びが困難だと途中で気づいて、残りは現地でやることにした。
今月頭から、ラフォーレ原宿で開催されている「愛と狂気のマーケット」というイベントに参加している。
「極彩奇天烈板絵図」というショップ名で会場の壁の一部を借りて、かまぼこ板アートを中心に、自作のステッカー、アクリルキーホルダー、Tシャツなどを今月末まで展示販売させてもらっている。
先日、そこのスタッフのかたから階段ディスプレイの展示の話をいただいた。
今日は、その設営。
「極彩奇天烈板絵図キューブ」と名づけたそのオブジェは、ラフォーレ原宿の営業時間前ぎりぎりになんとか完成させることができた。
昨年、本を出版するまで、ずっと暗い井戸の底にいるような生活だった。
何をしても井戸から出られない。
空を眺めてはため息をつき、気持ちを切りかえて自分を奮い立たせ、体力の続くかぎり必死に壁にしがみついて地上を目指すのだが、つかんだ壁はもろくも崩れ落ちて、また空を仰ぎ見て嘆息する。
そんな日々の繰り返しだった。
それが、いまは少しだけ地上に顔を出せるようになった。
本を出せたことで、井戸の中で20年以上ももがいている中年の芸人がいると、やっと見つけてもらえた。
いままで宣材写真すらなかったような僕に、手を差し伸べて応援してくれるかたたちがいた。
感謝してもしきれない。
原宿から帰宅したあと、シモキタのトリウッドという映画館に『宇宙の彼方より』という映画を観に行った。
世界初公開と銘打たれたこの作品は、15年前にドイツで制作されたという。
掛け値なしにおもしろかった。
映像も脚本もすばらしく、ホラーサスペンスの良作だった。
最後のどんでん返しや、ラストカットまで手を抜かない監督の徹底した姿勢に感銘を受けた。
なぜこんなにもおもしろい映画が15年もの間、公開にこぎつけられなかったのか不思議だ。
上映後、この作品の配給会社の宣伝プロデューサーが登壇するトークイベントがおこなわれた。
語られる言葉の一つひとつに熱がこもっている。
けっして派手な語り口ではなく、落ち着いたトーンで淡々と話しているけれど、発せられる言葉に深い考察と愛情が感じられた。
この映画を見つけたのは、きっとこの人なんだ。
そう思うと、この映画が自分自身のように思えた。
そして、この作品が公開されるに至るまでのストーリーこそ、映画のような話だと感じた。
『宇宙の彼方より』の公開は反響が大きく、当初の予定を延長して今月22日までトリウッドで上映されることになった。
奇遇にも、僕がつくった「極彩奇天烈板絵図キューブ」も22日までラフォーレ原宿で展示されている。
どちらもおもしろいので、時間があればぜひ観に行っていただきたい。
このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。
書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日
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ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。