お笑いコンビ・ナインティナインの矢部浩之が、女子サッカーを題材にしたアニメ映画『さよなら私のクラマー ファーストタッチ』(6月11日公開)の応援隊長に就任し、声優にも初挑戦しました。そこで今回は、矢部に直撃インタビュー! 映画の見どころはもちろん、サッカーのこと、恩師のこと、がむしゃらだった若手のころのこと――などなど話題はサッカーにとどまらず、今年で50歳を迎える彼の「いま」に迫りました。
女子サッカー選手の成長物語
原作は、アニメ・映画・舞台化もされた大人気コミック『四月は君の嘘』の新川直司によるサッカー漫画。主人公の女子中学生・恩田希は、男子サッカー部のなかで誰よりも努力してきたものの、試合にはなかなか出してもらうことができません。そんなある日、幼いころから一緒にサッカーを続け、小学4年生で転校していった幼馴染・ナメックこと谷安昭と再会し、「女のお前がかなうわけがない。男というだけで俺はお前を超えたレベルにいるんだ」と言われてしまいます。中学2年生の新人戦1回戦。対戦相手はナメックがいる学校。希は試合に出してほしいと監督に懇願しますが……という物語です。
今回の映画化は、高校の女子サッカー部で活躍する希の姿を描いたテレビアニメ『さよなら私のクラマー』(TOKYO MXほかで放送中)に繋がる物語としても話題を集めています。『やべっちスタジアム』(DAZN)のMCをはじめ、芸人界でも1、2を争うサッカー好きで知られる矢部は今回、原作にない映画オリジナルキャラクター「矢部先生」役で声優参加しました。
自分にも似た経験が…
――応援隊長&声優としてオファーを受けたときの率直な気持ちから聞かせてください。
最初、マネージャーから聞いたときは「何すんの、オレ?」って言いましたね(笑)。(アフレコは)何回か企画モノでやったことはありますけど、難しいということはわかっていたんで、「(うまくは)できへんで?」って(笑)。でも映画を観たら、いなくても成立するけど、本編に繋がる役になっていたので、よりよく考えていただいて、ありがたいなと思いました。
――今回の作品を観て、どんな感想を持ちましたか?
サッカーのアニメーションとしても当然面白いし、個人的にもすごく好きなお話でした。のんちゃん(希)のように、線が細い、フィジカルが弱い、でもボールの扱いには自信があって……という似た経験が、自分にも中学・高校とあったので、スッと感情移入できましたね。ただ、男の子と女の子では、どうしようもない成長の差があって、のんちゃんのほうが辛いやろなって。自分は高校のときに腐って辞めてしまったタイプなので、“エラいな”と思いました。
――経験者の矢部さんからして、アニメのなかのサッカーシーンはどう映りましたか?
めちゃめちゃリアルでしたね。あれだけ描けるんやなって。特にのんちゃんはテクニックを使うスタイルじゃないですか。むかし僕が観ていたのは『キャプテン翼』の映像で、十分楽しかったんですけど、より(リアルな)サッカーの映像になっていました。これは進化でもあるし、見ごたえがありますよね。
――矢部さんは、男の子のお子さんが2人います。少年少女たちが頑張るサッカーシーンは、以前と少し違った目線で観た部分もあったのではないでしょうか。
そうですね。僕は、監督さんのことを考えちゃいましたね。自分自身を振り返ってみてもそうなんですけど、子どもって成長期もあるし、なにかのきっかけで急にスタイルが変わる子もいるし、こればかりは、どこで伸びるかわからないんですよ。
子どもがサッカースクールに通っていて、ほとんど僕が送り迎えしてるんですけど、僕は何も言わないんですね。まだ絶対に教えないし、もちろんダメやったところも言わない。良かったところだけ言うんですよ。そしたら本人もその気になる。ただ、子どもって、わかってないことはなくて、口には出さないだけで“あいつ、俺より絶対うまい”みたいなことってちゃんと感じているんですよ。
映画に出てくる監督さんも、のんちゃんを試合に出したらチャンスになるのはわかっているけど、監督としては出せない葛藤がある。体ができてきている男の子と接触したらケガをする可能性がある……。そのあたりは、のんちゃんも自分でわかっているんですよね。決してがむしゃらに“男の子に勝ちたい!”じゃなくて、“私には時間がない。男の子に勝てなくなる”っていうのを感じている。そういうのが物語のポイントやなと思います。
「これが最後だから出してください」っていうのんちゃんの気持ちが、なかなか解決できへんなって。いまの時代に合ったメッセージ性のある映画だなと思いましたね。
大御所相手に1回だけ失敗した
――主人公の希は、壁にぶち当たりながらも前を向いていきます。ナイナイさんも、若手のころから、明石家さんまさんやタモリさん、笑福亭鶴瓶さんら大御所と共演して、大きな壁を目の当たりにすることも多かったと思います。当時、どんなことを考えていましたか?
若いころは、上の人と絡むときほど、“ツッコもう”って気持ちが前のめりでしたね。時代もツッコミ=叩くだったので、僕はそれを意識していました。サッカーで言うと、鶴瓶さん、タモリさんらがボケて、叩いて笑いになれば1点です。
若手のころ、日本テレビの特番で、自分がコーナーMCをやったことがあって、隣にいるのが相方(岡村隆史)じゃなくて(ビート)たけしさんだったんですよ。こんなチャンスはない、と。僕はメガホンを持たされていたんですけど、「(番組からすれば)叩け」ってことじゃないですか(笑)。でも、最大のボケのところで叩かないと失礼にあたる。そのときは、いいところで叩けて、笑いはとれたんですけど……たけし軍団のみなさんがすっごい目をしていて。
――(笑)。
あれほど怖いことはなかったです。でもまぁ、スタジオでウケたし、たけしさんもヨシとしてくださったなと思って、“よかった”と感じたことはありました。そうやって、いかに1点取るかどうかの戦いをしていましたね。
これはあまり言ってこなかったんですけど、1回だけ失敗したことがあって。『ぐるナイ』(日テレ系)が、夕方からゴールデンに移動したころ、僕、なんの説得力もない24~25歳で、とにかく“叩かな!”って思っていた時期だったんですよ。そのとき、小堺(一機)さんがゲストでいらっしゃって、なにかボケはって、頭をペチンと叩いたんですね。そしたら、「なにすんだよ」みたいな感じで、秒で叩き返されたんです(笑)。それが、いちばん焦ったかもしれないですね。もちろん笑いにはなったんですけど、タイミングを間違えたらアカンな、と。
そんなことがあって、どこかのタイミングで(考え方が)変わりましたね。自分のなかで“違うな”っていう違和感があったんだと思います。“ナインティナインの矢部って本当にこれ?”みたいな。今は今で、時代的にも間違えて叩いたらエラいことになるし、浜田(雅功)さんもほとんど(叩くことは)なくなりましたからね。
――矢部さんは、サッカーでMFの選手でした。パスを出したり、自らシュートを決めたりするポジションで、いまの芸能界の立ち位置と似た部分があると思います。MCとして、大切にしていることを教えてください。
全員にしゃべってもらうのは基本で、バラエティー慣れしていない緊張している人には、丁寧に接しようとは思っています。でも、その緊張が番組上面白くなったりするんですけどね。
いまだったらある程度僕の自由にしても怒られることはないんでしょうけど、スタッフさんが台本を作って、流れを考えてくれているんで、その流れに極力沿ってあげようとはします。逸れたら逸れたで、もとに戻して……を繰り返して、自分のなかでは何かをカットするということは、なるべくしないようにしています。それもあって、ウチは時間が巻くっていうのがほとんどなくて、ちょっと押すのが自分たちのスタイル。ゲストやスタッフには、そういう思いでやっていますかね。
あと、「逆やろ」って思われるかもしれないですけど、相方を押さえつけないっていうのは心がけています(笑)。押さえつけたら狭まる人なんで。ただ、自由にする分、本来は後半でやらないといけないことを先に相方が言ってしまうみたいなことがあるんで、難しいんですよね。そこは編集で入れ替えてもらうしかない(笑)。そうやって俯瞰でみるようにはしています。
「50歳」はこんなんでええんか?
――矢部さんは今年で50歳です。やっと50歳なのか、もう50歳なのか、どちらですか?
「もう50歳」ですかね。ぜんぜん気持ちは若いんですよ(笑)。だから、信じられないです。自分が小さいころ、50歳のおじさんを見ていたら、夢も希望もない顔してたんで(笑)。そういう意味では、“もう50か”ですよね。ただ、逆に“こんなんでええんか?”って思うときもあります。
長男がピアノをやっていて、この間、感染対策をした上で少人数の発表会があったんですけど、何気なしに、楽なスウェットパンツにシャツくらいで行こうとしていたら(妻から)「なにその格好? ピアノの発表会だよ?」って止められて。「え、ネクタイする?」「いや、ネクタイまではしないけど、ジャケットくらいは……」って。
自分はピアノを習ったことないし、発表会のイメージが湧かなくて、ジャケット大事なのか……と思って行ったら、みんなちゃんとキレイな格好されていてね(笑)。そんなのもアカンなと思ったり。“50歳らしく”ってなんだろうっていう話ですけど、バランスはとっていかなアカンなとは思いますね。
――現在、オーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』のMCとして、若者の頑張りを目の前で見る機会も多いと思います。年齢を重ねていくなかで、立ち回りも変わってくるものですか?
ぜんぜん違うオーディション番組ですけど、『ASAYAN』(テレビ東京系、1995~2002年に放送)をやっていたころとは、かなり変わったと思います。あのころは、ナインティナインも若手と中堅の狭間くらいで、まだ自分らのことを考えていたのが正直なところ。(出場者への)インタビューで“おもしろ”を引き出さなって思っていました。
いまは時代もあるけど、あんまりちょけれない(ふざけられない)。純粋に“この子ら人生かかってるな”って思うし、おもしろを引き出すところは引き出して……っていう区別をせなアカンなって思うようになりました。
“テレビ”を教わった恩師
――「クラマー」は、日本サッカー界の父と言われるデットマール・クラマーさんから名付けられています。矢部さんにとって師とは、どんな方ですか?
サッカーで言うと、中学(吹田市立第五中学校)のときのサッカー部の顧問が、元国体の選手で、その人の影響を受けているのかなと思います。自信をつけさせてくれたのも、その先生のおかげですね。3年間しかいなかったんですけど、今の質問でその人がパッと出てきました。
どっちかと言うと、理論と経験の先生。大学生のときに日の丸をつけていたほどだったので、その先生に褒められたのがデカいと思います。とにかく持ち上げてくれました。中学で吹田選抜にいくことになって、僕ともう1人が呼ばれたんですけど、最後に教官室に呼ばれて「今回、矢部はやめておく」って言われたんですよ。「体がまだできてないから、これからやし、高校になって頑張れ」って。そういうことも考えてくれていたんやなって思って、ずっと残っていますね。
この世界入ってからは、フジテレビのスタッフ・片岡飛鳥さん(『めちゃ×2イケてるッ!』の前身番組『とぶくすり』から演出として番組に携わってきた)に“テレビ”を教わりました。もちろんこっちも歳を重ねて経験もしていくので、違うなって思ったときは、ぶつかることもあったんですけどね(笑)。
――最後に応援隊長としての意気込みをお願いします!
今回もサッカーが好きというだけでやらせていただいて、自分のなかで“サッカー絡みだったら何でもするのかも”って思ってしまっています(笑)。いまはコロナ禍で、まだまだ大変でしょうけど、やっぱりこの先も強いサッカー日本代表を見ていきたいし、僕のW杯現地観戦記録も伸ばしたいし、Jリーグを含めて、日本のサッカーがもっと強くて面白くあってほしいという願いがあります。
この映画を観てサッカー始めてくれたら嬉しいですし、サッカーをやっているけど悩んでいるという人へのヒントにもなるシーンがあると思うので、楽しんで観ていただけたらなと思います。
取材・文 浜瀬将樹
映画概要
『さよなら私のクラマー ファーストタッチ』
公開日:6月11日(金)全国ロードショー
原作:新川直司「さよならフットボール」「さよなら私のクラマー」(講談社KC)
監督:宅野誠起
脚本:高橋ナツコ
製作:「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会
配給:東映
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