4年間弟子入りを断られ続けていたある日、ポスターの中の師匠が“おいでおいで”していた…【芸歴3タイムリープ】月亭文都編

芸歴3タイムリープ

これまでの芸歴の中で「もし3回だけタイムリープできるとしたら」いつ、どの場面をやり直す? 人気芸人たちに聞きます。

これまでの芸歴の中で「もし3回だけタイムリープできるとしたら」いつ、どの場面をやり直す? 人気芸人たちに聞きます。

「あの時こうしておけばよかった……!」「生放送中にあんなことを言ってしまったけど、撤回したい!」など、芸人だれしも、もう1回やり直したい局面があるはず! ということで、「もし3回だけタイムリープできるとしたら、いつのどの場面をやり直す?」というテーマでトークしてもらう連載企画、その名も「芸歴3(スリー)タイムリープ」! 今回は襲名10周年記念独演会を7月29日(土)に控えた落語家・月亭文都が登場。4年を要した弟子入りまでの時間や、師匠である月亭八方への思いなどを語り尽くしました。

出典: FANY マガジン
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「やり直したいことがあるかと聞かれたら、100も200もいっぱいある」と文都。しかし、「反対に言うと、もしそのときそうしてたら、今の自分はない。やり直さずに来たからこうなってる。もっと高みに行きたいという願望はありますけど、自分では十分やってこれたんじゃないかとも思ってる」と語ります。そして、そんな大前提のうえで、「強いて言えば」と話し始めたのは……。

【1】4年間の弟子入り浪人時代

大学時代はミュージシャンを目指していたものの、小学校のころの夢だった落語家になることを決意。しかし、弟子入りをお願いしてもことごとくうまくいかず、4年もの時間が過ぎます。失意のまま、たまたま見かけたポスターで師匠となる八方が「おいでおいで」しているように見えて……。

——“もし時間を戻せるなら”という企画なんですが。

さっきも話したように、やり直さずに来たことで、今の自分があるんで、なかなか難しいですね。小学校のときから落語が好きで、卒業文集にも落語家になりたいって書いてたんです。でも中学、高校と進むにつれて音楽をやり始めて、ライブハウスで歌うようになって。そこでオリジナル曲をやってると、「サザン歌え、アリス歌え」ってお客さんがぜんぜん聞いてくれない。
それで落ち込んで家に帰ったとき、部屋のレコードのライブラリーを見たら、いちばん端っこに(笑福亭)仁鶴師匠の落語のレコードがあったんです。それを聞いたらすごく癒やされて。

出典: FANY マガジン
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そして次の日、またライブハウスで歌っても誰も聞いてない。曲と曲との間のMCで昨日聞いた仁鶴師匠の落語を少し話してみたら、そのときだけお客さんがこっちを向くんです。で、歌いだしたら、また聞いてない。そして、MCでまた仁鶴師匠の小話やらマクラをちょろっと話すと、みんなこっちを向く。そうやって最初は30分のステージで5曲やってたのが、MCを増やして4曲になって、3曲になって、最後は30分ずっと落語になって。そうして「これは音楽を捨てて落語家になるべきやな」と思ったんです。

——それは、いくつくらいのときですか?

21歳ですね。そこから4年くらい、何人かに弟子入りをお願いして、半年間通ったりもしたんですけど、ずっと断られて。それでもやっと弟子入りできると思ってたところがあったんですが、そこもダメになったんです。
大学の卒業式の日、何も決まってないまま、卒業証書持ってどうしようと考えながら、うめだ花月(北区曾根崎にあった劇場)の前を通ったら、ポスターの八方師匠が“おいでおいで”って顔してて(笑)。そこで八方師匠にこれまで4年間、弟子入りできなかったことを話したら、「ああそうか、えらいめにおうたな、明日からおいで」って(笑)。それで38年間、ずっとおらしてもらってるんです。

出典: FANY マガジン
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——では、タイムリープするなら?

やり直したいというのではないんですが、いちばん始めから八方師匠のところに行けばよかった、というのは思いますね。4年間、弟子入りにトライしてたけど、最初に行っておけば、その4年分、師匠の優しさとか心の大きさを勉強できたかなと。そして八方師匠のところではなく、違うところに弟子入りしてたらまた人生が変わってたな、とも思いますけど、そうしてたら襲名もできてなかったと思うし。だからやっぱり、やり直したいことはあるといえばある、でももしそうしてたら、今がないから……。

——弟子入り後は、まずなにをしたんですか?

車の運転をさせられましたね。それも師匠の運転じゃなく、息子のリトルリーグの送り迎え。そのときに車で(三代目・桂)米朝師匠の落語をずっとかけてたんですけど、それをいつも息子、いまの(月亭)八光が聞いてたんです。その落語を聞いてたおかげで八光は「落語家になりたい」となった。八光を育てたのは、俺です(笑)。

出典: FANY マガジン
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【2】師匠との密な時間の過ごし方

七代目文都を襲名する数年前から、準備のために師匠である八方と過ごす時間が増え、初めて気がつくことも多かったそうです。弟子入り以降、初めてじっくりと過ごした時間を、いま振り返ると……。

2013年の襲名の3年くらい前から、米朝や文枝、小文枝、ざこば……について、いろんなところで、師匠が話をしてくださってたんです。それまでの27年間、月亭八天でやっていたときには、そこまで師匠と接触することがなかったんですが、襲名準備の2年間くらいは師匠といる時間が増えた。そこで初めて師匠の温かさがわかったり、つながりもできたように思います。

——弟子入りから時間が経って、見えてきたものがあったんですね。

そうですね。いま思えば、あのときもっと甘えておけばよかったなと。襲名のときは僕ごときのために、文都を誕生させるためにスタッフが10名くら師匠いチームで携わってくれてたんです。そのときは、八方師匠も必ず出席してる。そこでもっと甘えておけばよかった。

出典: FANY マガジン
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——それ以降、2人の時間というのは?

文都 ほとんどないですね。襲名してしまうと“あとは1人で行け”という感じで。それで1人でやってみたけど、やっぱりつまづくこともたくさんありました。そこでも“もっと師匠にベッタリとついておけばよかったな”って。“八方エキス”を、たっぷりもらっとけばよかった(笑)。

【3】ギター落語をそのまま続けていたら…

真剣にミュージシャンを目指していた文都は、ギターを使った落語をやってみようと思いつきます。とあるテレビ番組にギターを抱えて出たところ、そこにいたある師匠からの言葉でギター落語は断念することに。しかし、それから月日が経ち、まさかの光景に出くわすことになります……。

入門してからも、音楽は並行してやってたんです。そのうちにコラボというか、落語と音楽を一緒にできないかとギター落語を自分で考えました。(月亭)可朝師匠もやってらしたし、月亭のお家芸だからいいだろう、と。可朝師匠はオーソドックスなギターで、エレキギターでミニアンプを帯にさして、正座して弾き比べのネタとかをやってましたね。

——順調だったんですか?

あるときテレビでコンテストがあって、落語家が5分くらいで諸芸を見せるというワンコーナーだったんです。そこでギター落語やります、と出ていったら、ざこば師匠が審査員長で、「そんなん流行らへんぞ、電気ギターみたいなの持って日本では流行らへん! やめとけおまえ」と(笑)。それで失格になりまして、ざこば師匠にそんなふうに言われてショックを受けて、もうやめとこと思ったんです。

出典: FANY マガジン
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それからだいぶ経ってからですけど、ざこば師匠の弟子に桂ちょうばっていうのがおって、見たらギターで落語やってる。“弟子にさせてるやん!”って。もし、あそこでやめんと続けてたら、おもしろかったかもしれませんね。(その後)襲名のときに、ざこば師匠にこんなことがあったんですよって言うたら「覚えてない、そんなんあったんかな」って(笑)。

――7月29日(土)に開かれる襲名10周年の記念独演会について聞かせてください。

今回は1部、2部制になってまして、1部は落語をやって、ザ・ぼんち師匠にも入っていただきます。2部は着物を脱いで洋服に着替えて、ギター落語はしないんですが(笑)、ミニライブを少しだけしようと思ってます。

——ギターの弾き語りですか?

そうですね。そんな長いことはせず、若いころに歌っていたのを3曲だけやろうと思ってます。これまで小さい会ではやってたものの、こうして公なところでやるのは初めてなんですが、それも師匠からのお達しなんですよね。
落語ばっかりじゃなくお客さんに楽しんでもらわないとアカンと、師匠もいろいろやってはって、そういう違う面を見せるのをおまえもやっていけと。これからはお客さんに楽しんでもらう機会をもっと増やしたほうがいいと言ってもらったので、2部制にして歌おうと思ったんです。3日ほど前、師匠に話したらえらい喜んで「やっと俺のいうことがわかったか」って(笑)。

出典: FANY マガジン
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——今後は、ギターを積極的に取り入れるんですか。

音楽に限らず、お芝居とかもやってるんで、芝居とかを公演のなかに組み入れる、落語のなかに組み入れていくようなこともするかもしれませんし、ギター落語も何十年ぶりにやってもいいかも。「ざこばさんにやめとけ! って言われたやつを、いまからやります」っていうのも、マクラになるしね(笑)。

公演概要

『兵庫文都の会 第60回「やなぎはらYEBISU亭」~七代目文都襲名10周年記念独演会「夏」~』
日程:7月29日(土) 開場17:30 開演18:00
会場:神戸新開地 喜楽館
出演:月亭文都、月亭天使、月亭秀都、ザ・ぼんち(ゲスト)
チケット:前売3,500円 当日4,000円

FANYチケットはこちらから。