吉本興業と岡山県玉野市がタッグを組んで制作したオムニバス映画『たまの映像詩集 渚のバイセコー』が、11月12日(金)に全国公開されます。今回はそれに先立って、主役を演じたお笑いコンビ・尼神インターの渚を直撃! 「ドッキリだと思い込んでいた」という渚のぶっ飛んだ役作りや、映画の見どころ、さらには父親役のジミー大西との撮影秘話など、たっぷり語ってもらいました。
『たまの映像詩集 渚のバイセコー』は、“競輪”と“自転車”が紡ぎだす3作からなる心温まるオムニバス映画。多くの吉本芸人が出演し、玉野市のシンボルである「玉野競輪」とそれにまつわる人間模様や、海や山、瀬戸内に浮かぶ島々といった豊かな自然など、玉野市の魅力を余すところなく発信しています。
第1話の『美しき競輪』は、玉野競輪で活躍中の三宅伸選手が主演を務め、江西あきよし、ハロー植田、ネゴシックスら個性豊かな面々が脇を固めます。第3話の『氷と油』には、ゆりやんレトリィバァと空気階段(水川かたまり、鈴木もぐら)らが出演。そして、渚が主演を務める第2話で表題作の『渚のバイセコー』は、主人公の女漁師が浜辺に打ち上げられた自転車を拾うところから始まる物語で、ラストに予想外の展開が待ち受けます。
「絶対ドッキリやろ、と思った」
——映画初主演ということで、出演のオファーを受けたときにはどう思いましたか。
最初はずっとドッキリやと思っていました。名前がそのまんま「渚」の役で、年齢設定も35歳だったんですけど、当時の私が36歳だったから、だいたい一緒です。それでタイトルは『渚のバイセコー』で、お父さん役がジミー大西さん。絶対ドッキリやろ、と思った(笑)。でもドッキリの目的がわからへんっていう印象でしたね。
——なんのためのドッキリか、と?
「どういう気持ちにさせるドッキリなんだろう?」と思ってました。私は別に映画に出たいと言っていたわけじゃないから、「じつはウソでした」と言われても落ち込んだりしないので。ドッキリのジャンルがわからへんと。
——ドッキリではないと確信したのは、いつだったんですか。
上映が決まったときです。
——それはずいぶん長いこと疑っていましたね(笑)。となると、撮影中もドッキリだと思いながら?
疑っていましたね。マネージャーさんにも確認していました。でもドッキリを疑っていても、撮影中はめっちゃ楽しかったです。天気もよくて、自然豊かな海沿いや田んぼ道を自転車で走る仕事。気分がスッキリするから、ドッキリでも別になにも困らへんなって。イヤな気持ちではなく、ずっとウキウキしながらやっていました。
——役作りは、どうしていたんですか?
役作りはほぼしていないです。観てもらったらわかると思うんですけど、ただの渚やったと思います。
——最初の船のシーンを見て、本物の漁師さんのようだなと思いました。
ああ、あれも渚ですね(笑)。あの船は、ほんまの地元の漁師さんの船をお借りしているんですよ。着ていたカッパも実際に使っているもの。そのおかげで漁師っぽく見えたのかもしれないです。あのシーンは、船の持ち主のご夫婦も一緒に乗ってくださっていて、漁の仕方などを教えてくれていたんです。
——撮影では、地元の方々の協力もあったんですね。
漁師さん以外も、地元の皆さんがメチャメチャ協力してくれましたね。コロナ禍で、玉野市の方々も東京から撮影で人が来ることに不安が絶対にあったと思うんです。やけど皆さん、快く受け入れてくれはった。ほんまにありがたかったですね。
監督はスゴいけど変わり者!?
——蔦哲一朗監督からは、演技に関してどんな指導があったんですか?
実際の映画では少しだけ喋ったところが使われていますけど、台本上では私のセリフは一切ないんですよ。だから演技指導もほぼなかったんですけど、監督から唯一、しっかりと言われたのが、「この自転車を自分の恋人だと思って接してください」ということです。それが、まったくピンとこなくて。
——ピンとこなかったんですか(笑)。
むずないですか? 自転車を好きな人と思うってありえへんから(笑)。
——たしかに難しい……。最終的には自転車を恋人のように思えたんですか?
いや、私は心の中で「むちゃなこと言うてるやん」と思ってるから、自分の好きな食べ物に置き換えようと思って。私は好きな食べ物がセロリなので、最終的には自転車を「セロリ」やと思って接しています。
——ややこしいですね(笑)。
ややこしい(笑)。好き繋がりで「こいつはセロリや! 私の好きな食べ物のセロリや!」と思って接しました。それがうまく恋人と思って接しているように見えたかどうかは、見どころですね。
——この映画は3つの物語から構成されていますが、とりわけ玉野市の自然の魅力が伝わるのが、渚さんが主演した第2話だと思いました。
それは絶対にそうですね。第2話はセリフが少ないので映像がメインだと思います。最後にはCGも使っていますし、映像にこだわっていますよね。
——オチにはビックリしました。
あれも見どころですよね。どう思うかは見る人それぞれで感じ取ってほしいです。
——ほかにも映画の見どころを教えてください。
第1話は現役の競輪選手(三宅選手)が俳優さんとして出ています。その演技がめっちゃうまかったので、どういう演技をしたのかは、ぜひ劇場で観てほしいですね。あと、この映画は飽きずに観られるように作られていると思います。有名なハリウッドスターとかが出ているわけじゃないけど、3つのストーリーでパンパンパンって区切られているから飽きないんですよね。
——本当にあっという間でした。しかも3つのストーリーが、じつは少しずつ繋がっていますよね。
第2話で私が自転車を浜辺で拾ったのも、第1話の中に伏線があったりね。あとは第3話で出てくるものが、第2話にも出てきたり。そのへんは監督がスゴいと思いますね。でも、監督はかなり変わった人でしたけど(笑)。
——どんなところが変わっているんですか?
人間味があるというか。私が競輪場で自転車に乗るシーンがあるんですけど、競輪場って斜面になっているじゃないですか。そこで監督から、「もしいけるんやったら、斜面になっているところを走ってほしい」って言われたんですよ。
でもあれって、見るよりもやるほうが怖くて、無理だったんです。監督に無理って言ったら、残念そうに「わかりました」みたいな感じで。後日、お世話になった競輪場の職員さんと話していたら、監督がその撮影のあとに体中ズルむけで現場に来たという話を聞いて。
——(笑)。自分でやってみたんですかね。
ワーって行って、たぶんコケたんやと思う。自分で試して体がズルむけになったんや(笑)。そういうおもろい監督やったということは伝えてほしいですね。
「主演・渚」なんて仕事は最初で最後
——ほかにも印象に残っている撮影エピソードはありますか?
撮影中ですか(思い出し笑い)。えっとね、船のシーンでほんまの漁師さんが教えてくれたんですけど、網に食べられへん魚が入っていたら、カマみたいな道具で引っかけて海に放り投げるんですよ。たとえば、エイは食べられへんからカマで取って外に放り投げる。それを漁師さんが見せてくれたら、監督が「それいいですね。やりましょう」ってなったんです。
で、「よーいスタート」で、ジミーさんが船の中にいたエイを3匹、カマで引っかけて放り投げたんですけど、ぜんぶ船体に当たって戻ってきてたんですよ(笑)。
——(笑)。海にリリースできなかったんですね。
演技しているから、ジミーさんもプロの漁師みたいな顔でやっているんですけど、ぜんぶ戻ってきてて。ほんまに「何してんの」みたいな感じで笑っちゃったんですよね。見たら、ジミーさんも笑ってはって。そしたら監督が「OKです」って言って、「なにがOKやねん」と思った。作品を見たら、そのシーンは使われてなかったです。やっぱりアカンかったやんと思いましたね(笑)。
——現場の雰囲気がとてもよさそうです。
いや、ほんまにめっちゃ楽しかったですよ。スタッフさんもみんな人間味がある方たちだったし、玉野市も後日、プライベートで訪れたくらい大好きになりました。地元の方をはじめ、人に助けられた映画だっていうことは、いちばんに伝えたいですね。
——映画を撮り終わって、今後も俳優をやっていきたいと思いますか?
それは、ぜんぜんないです。プロの俳優さん方も、しっかりとプライドを持ってやられているから、ちょっとやっただけで「俳優をやりたい」って言うのはおこがましいかなと思っていますね。それに、私はやっぱり演技ができひんので。
——でもカメラを意識しないで、自然に演じることができている気がしましたが。
自然体でやってますけど、私はそもそも自然体がヘタなんですよ。たとえば、プライベートでご飯を食べたときに、「うまー」とか言うと、「ほんまにおいしいと思ってる?」とか言われるんです。ほんまにおいしいと思っているのに、おいしいと聞こえないみたいなんですよね。だから、普段がずっとヘタなんですよ。
——普段がヘタって初めて聞きました(笑)。では、最初で最後の映画主演になるかもしれませんね。
どう考えてもそうでしょう。こんな仕事まあないです。「主演・渚」てね(笑)。だからこそ、絶対に観に来てほしいと思います。