ピストジャムが綴る「世界で2番目にクールな街」の魅力 「シモキタブラボー!」隠された秘密

シモキタブラボー!

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

出典: FANY マガジン
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イラスト:ピストジャム

隠された秘密

シモキタに突如出現した巨大ウサギ。全長14メートル。まるでダンプカーだ。

情報によると、計3匹がシモキタで発見されたという。一匹は商業施設BONUS TRACKの駐車場内で、ほか二匹はカトリック世田谷教会の裏庭で。

なぜシモキタに巨大ウサギが……。謎すぎる。

そういえば、たしか去年も同じ時期に目撃情報があいついだ。9月にウサギ……。月のウサギが逃げ出してきたとでもいうのか。

巨大ウサギたちが動く気配はいまのところなさそうだ。しかし、もし突然暴れ出しでもしたら……。今週末はBONUS TRACKの本屋B&Bで開催される吉本ばななさんとフリーライターの宮崎智之さんとのトークイベント『シモキタナイト』に出演する予定だから気が気じゃない。

イベントは9月23日19時から。会場のチケットはもう完売したと聞いた。

大事な、楽しみにしていたイベントなんだ。なんとか、それが終わるまではおとなしくしていてくれ。

いや、それも困る……。あそこにずっといられちゃ困る。イベントでは下北沢について語ることになっているのに、このままだと「あの駐車場にいる巨大ウサギはいったいなんなんだ」という議論に終始するに決まっている。

出典: FANY マガジン
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イラスト:ピストジャム

「昔のシモキタはよかったですよ。下町の感じが残っていて」なんて悠長に話していたら、客席から怒号が飛んでくるのは目に見えている。

「そんなことより、あの巨大ウサギについて話せよ!」

「そうよ! あのウサギはいったいなんなの!」

「そうざます! あのビッグなラビットちゃんは、いったいおいくら万円払えば買えるのざます?」

「こんなんだったら、リアルタイム配信と見逃し視聴が一か月ついた税込1650円の配信チケットを買って参加すればよかったよ!」

「シモキタナイト! ロケンロー!」

戦々恐々、阿鼻叫喚。もし、そんなことになったらどうしよう。「配信を見ている人は巨大ウサギがこの会場の駐車場に居座っていることを知らないんで、今夜それについての話はしません。予定どおりシモキタについて語ります」と落ち着いて答えられるだろうか。

よりによって、あの巨大ウサギはなんでBONUS TRACKの駐車場でくつろいでんだ。北沢1丁目にできた『シェア畑garden』っていう貸し農園のほうが居心地いいんじゃないか? 頼むからイベントまでにどっかに行ってくれよ。

そう心の中で嘆いた瞬間、脳裏に悪夢のような光景がよぎる。もし、あの図体のウサギがシモキタの街を走りまわったら……。

きっとシモキタはものの1時間で破壊されつくすに違いない。そうなったら、みんなどこに逃げればいい? 

……駅しかない。地下化した小田急線下北沢駅が唯一の逃げ場だ。あそこならシモキタ住民が避難するスペースが十分にある。

線路が地下化されるって聞いたときはなんだよと思っていたけれど、まさかこんなかたちで救われるとは思ってもみなかった。線路が地上のままだったら、破壊されて電車もストップして、神奈川方面に在住する人たちにも甚大な被害を与えたはずだ。

え……そんなわけないよな……。ぞくっと悪寒が走る。

もし小田急が、近い将来シモキタに巨大ウサギが出現することを知っていたとしたら!

あの地下化は、最初から巨大ウサギたちから身を守るためのシェルターだったとしたら!

……どうやら僕は、知ってはいけないシモキタの隠された秘密にいつのまにか踏み込んでしまっていたのかもしれない。

23日のシモキタナイト、配信チケットはまだ買えるので、ぜひご覧ください。


宮崎智之×吉本ばなな×ピストジャム 「シモキタナイト Vol.1」


このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。

書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日

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出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。