危ないとこやったわ
この年齢になって、新しく友だちができるとは思わなかった。もう45歳なので、もし言うとしても「友だち」ではなく「友人」と呼ばなければならないのかもしれないが、彼らに関しては、やはり「友だち」がしっくりくる。「友人」だと、ちょっと距離を置いてる感じがしてしまうから。
向こうがどう思ってるのかはわからない。でも、さすがにこの年齢になって「僕たち、友だちやんな?」とは言えないので、確認はしてないけど、少なくとも嫌われてはないと思う。
長いつきあいを経ていたら、逆に「友人」と言いやすい。自分から「親友」と呼ぶのは照れくさいし、「友だち」は、おさなすぎる感じがするから、「友人」がちょうどよくなる。
僕らは、まだ知り合って5か月。もしかしたら「知人」とか「知り合い」くらいにとめておいたほうがいいのかもしれないとも思うけど、なぜか僕は二人のことを好きになってしまったので、「友だち」と言いたい。
ちなみに、二人とは今年6月に初めて会って、それから7月、8月、9月と月に1回のペースで飲みに行っただけなので、まだ計4回しか会ってない。飲みに行くときは、いつも三人。
彼ら二人は僕の10コくらい下で、中学時代からの同級生らしく、20年近いつきあいだと言う。いわゆる「親友」だ。たがいに呼び捨てで呼び合い、自然に「お前」と言い合える仲。
僕は、二人のことを「Kさん」と「Oさん」と「さんづけ」で呼んでる。でも、二人はそんな感じ。
だから、二人のやりとりを見てると、うらやましくなる。子どものころ、近所の友だちが楽しそうに遊んでいるところに「僕もまぜてほしい」と思った、あの感覚になる。
もともとKさんとは仕事先で知り合った。「今度飲みましょう」と言ってもらったが、社交辞令で連絡なんてないだろうと思っていたら、本当に連絡をくれた。しかも、飲みの誘いではなく美術展の誘いだった。
「友達が個展やるんでよかったら見に来てください!」。それがOさんの個展だった。
三人で最初に飲んだ7月は、シモキタの『長光』だった。ここは僕の好きな店で、大将が大分出身で、とにかくもつ鍋が抜群にうまい。その話を二人にすると、ぜひ行きたいと言ってくれ、その夜はそこから移動せず、たらふく食べて、酔っ払うまで飲んだ。
正直、僕はそこまで酔ってなかったが、Kさんは酔ってた。なぜなら、酔った勢いで元カノに電話してたから。結局、その電話は取ってもらえずに終わったのだが、Kさんは自分から電話しといて「危ないとこやったわあ」とつぶやいたのでOさんと爆笑した。
たぶん、あの夜はOさんも酔ってた。Kさんとともに個展の感想を伝えていたら、最終的に Oさんは「絶対ジョン・レノンより有名になる! それがジョンへの恩返しやから!」と高らかに宣言していた。
二回目に飲んだときも、シモキタだった。その日は、『晩杯屋』という居酒屋で待ち合わせした。数杯飲んで、移動しようかというタイミングで「この前行った店、『東京カレンダー』に載ったんですよ」と、僕が言うと「あそこうますぎたからなあ」と二人は返し、再び『長光』に行くことになった。
その晩は、台風の影響でかなり天気が崩れるという予報だった。実際、向かってる途中に猛烈な大雨が降ってきた。
Kさんはちゃんと傘を持って来ていたが、僕とOさんは持っていなかった。僕は濡れたくなかったので、なんとか店の軒先テントをうまくつたって、雨をしのぎながら店にたどり着いた。しかし、Oさんは「雨、最高」とか言って、ずぶ濡れもずぶ濡れになり、最後は「Tシャツが体にへばりつく」と叫んで、Tシャツを脱いで上半身裸の状態で『長光』に突入した。
大将は驚きつつも、僕よりOさんのほうが芸人だと笑って、あたたかく迎え入れてくれた。そして、それからOさんは2時間あまりずっと上半身裸の状態でもつ鍋を食べ、酒を飲んでいた。
トイレに近い奥のテーブル席に座ってたこともあって、Oさんは行き来する客から「なんで服着てないんですか?」と、たびたび訊かれていた。痩せ型のOさんは、Kさんから「お前、ほんまに全然筋肉ないやん」といじられると、なぜかOさんは僕に「ピストジャムさん、聞いてください! こいつハゲてるんですよ!」と言って反撃していた。
三回目の飲みは、恵比寿だった。ただ、この晩は申し訳ないことに、途中で先輩と会うことになり、一軒しか行けなかった。
6月から毎月三人で顔を合わせてたけど、今月はまだ会ってない。そういえば、これはこの前恵比寿で飲んでたときに聞いたのだが、二人は二人だけで焼肉に行ったり、僕がいないところで普通に飲んだり会ってるらしい。
そらそうやろうと、もちろん思うけど、僕もまぜてほしい。
このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。
書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日
[/hidefeed]
ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。