ピストジャムが綴る「世界で2番目にクールな街」の魅力
「シモキタブラボー!」危ないとこやったわ

シモキタブラボー!

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン
イラスト:ピストジャム

危ないとこやったわ          

この年齢になって、新しく友だちができるとは思わなかった。もう45歳なので、もし言うとしても「友だち」ではなく「友人」と呼ばなければならないのかもしれないが、彼らに関しては、やはり「友だち」がしっくりくる。「友人」だと、ちょっと距離を置いてる感じがしてしまうから。

向こうがどう思ってるのかはわからない。でも、さすがにこの年齢になって「僕たち、友だちやんな?」とは言えないので、確認はしてないけど、少なくとも嫌われてはないと思う。

長いつきあいを経ていたら、逆に「友人」と言いやすい。自分から「親友」と呼ぶのは照れくさいし、「友だち」は、おさなすぎる感じがするから、「友人」がちょうどよくなる。

僕らは、まだ知り合って5か月。もしかしたら「知人」とか「知り合い」くらいにとめておいたほうがいいのかもしれないとも思うけど、なぜか僕は二人のことを好きになってしまったので、「友だち」と言いたい。

ちなみに、二人とは今年6月に初めて会って、それから7月、8月、9月と月に1回のペースで飲みに行っただけなので、まだ計4回しか会ってない。飲みに行くときは、いつも三人。

彼ら二人は僕の10コくらい下で、中学時代からの同級生らしく、20年近いつきあいだと言う。いわゆる「親友」だ。たがいに呼び捨てで呼び合い、自然に「お前」と言い合える仲。

僕は、二人のことを「Kさん」と「Oさん」と「さんづけ」で呼んでる。でも、二人はそんな感じ。

だから、二人のやりとりを見てると、うらやましくなる。子どものころ、近所の友だちが楽しそうに遊んでいるところに「僕もまぜてほしい」と思った、あの感覚になる。

もともとKさんとは仕事先で知り合った。「今度飲みましょう」と言ってもらったが、社交辞令で連絡なんてないだろうと思っていたら、本当に連絡をくれた。しかも、飲みの誘いではなく美術展の誘いだった。

「友達が個展やるんでよかったら見に来てください!」。それがOさんの個展だった。

三人で最初に飲んだ7月は、シモキタの『長光』だった。ここは僕の好きな店で、大将が大分出身で、とにかくもつ鍋が抜群にうまい。その話を二人にすると、ぜひ行きたいと言ってくれ、その夜はそこから移動せず、たらふく食べて、酔っ払うまで飲んだ。

正直、僕はそこまで酔ってなかったが、Kさんは酔ってた。なぜなら、酔った勢いで元カノに電話してたから。結局、その電話は取ってもらえずに終わったのだが、Kさんは自分から電話しといて「危ないとこやったわあ」とつぶやいたのでOさんと爆笑した。

たぶん、あの夜はOさんも酔ってた。Kさんとともに個展の感想を伝えていたら、最終的に Oさんは「絶対ジョン・レノンより有名になる! それがジョンへの恩返しやから!」と高らかに宣言していた。

二回目に飲んだときも、シモキタだった。その日は、『晩杯屋』という居酒屋で待ち合わせした。数杯飲んで、移動しようかというタイミングで「この前行った店、『東京カレンダー』に載ったんですよ」と、僕が言うと「あそこうますぎたからなあ」と二人は返し、再び『長光』に行くことになった。

その晩は、台風の影響でかなり天気が崩れるという予報だった。実際、向かってる途中に猛烈な大雨が降ってきた。

Kさんはちゃんと傘を持って来ていたが、僕とOさんは持っていなかった。僕は濡れたくなかったので、なんとか店の軒先テントをうまくつたって、雨をしのぎながら店にたどり着いた。しかし、Oさんは「雨、最高」とか言って、ずぶ濡れもずぶ濡れになり、最後は「Tシャツが体にへばりつく」と叫んで、Tシャツを脱いで上半身裸の状態で『長光』に突入した。

出典: FANY マガジン
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イラスト:ピストジャム

大将は驚きつつも、僕よりOさんのほうが芸人だと笑って、あたたかく迎え入れてくれた。そして、それからOさんは2時間あまりずっと上半身裸の状態でもつ鍋を食べ、酒を飲んでいた。

トイレに近い奥のテーブル席に座ってたこともあって、Oさんは行き来する客から「なんで服着てないんですか?」と、たびたび訊かれていた。痩せ型のOさんは、Kさんから「お前、ほんまに全然筋肉ないやん」といじられると、なぜかOさんは僕に「ピストジャムさん、聞いてください! こいつハゲてるんですよ!」と言って反撃していた。

三回目の飲みは、恵比寿だった。ただ、この晩は申し訳ないことに、途中で先輩と会うことになり、一軒しか行けなかった。

6月から毎月三人で顔を合わせてたけど、今月はまだ会ってない。そういえば、これはこの前恵比寿で飲んでたときに聞いたのだが、二人は二人だけで焼肉に行ったり、僕がいないところで普通に飲んだり会ってるらしい。

そらそうやろうと、もちろん思うけど、僕もまぜてほしい。


このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が2022年10月27日に発売されました。

書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日

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出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。