300年の歴史を有し、大阪の文化芸術を代表する伝統芸能のひとつ「上方落語」。大阪・関西万博の開催を控え、上方落語の魅力を大阪から発信する『大阪国際文化芸術プロジェクト 第四回 大阪落語祭』が2月9日(金)から12日(月)の4日間、大阪各所で開催されました。
上方落語の人気ネタが続々
期間中、なんばグランド花月を皮切りに、国立文楽劇場ほか大阪府内の会場で次代を担う上方落語家を中心に、東西の金看板も加わっての豪華な落語会を開催。2月10日(土)には、「太陽の塔」の「黄金の顔(EXPO’70当時)」が展示されているEXPO’70パビリオン(万博記念公園内)にて『第四回 大阪落語祭 立春大吉寄席 in 万博記念公園』が開催され、演芸場やホールでの落語会にはない雰囲気の中、上方落語の人気ネタで沸かせました。
トップを務めたのは笑福亭笑利です。高座に上がるなり、「上が気になりますよね!?」と「黄金の顔」のインパクトを叫びます。「椅子に座って、この顔を見ることもないので貴重な経験ですよ!」と会場を盛り上げ、前座ネタの定番『平林』を披露。笑利は通りを歩く大人たちに「平林」の読み方で翻弄される丁稚を表情豊かに演じました。
続いては桂そうば。福岡出身のそうばは、「めばちこ」や「さぶいぼ」といった大阪弁に驚いたと話します。また、「関西人は勝手に自分の好きな音程にもっていく」と、全国的に知られる固有名詞でも関西独特のイントネーションで言い直す癖があると続けます。
師匠の桂ざこばのエピソードでも沸かせると、『手水廻し』を披露。頭の長い人物が登場する場面では、目線や腕を巧みに使い、その長さを表します。表情、声色を目まぐるしく変えながら、田舎の素朴な人物をおもしろおかしく演じました。
中トリは月亭八方
枕から漫談のようなしゃべりで爆笑を巻き起こします。ネタは『応挙の幽霊』。道具屋の主人と好事家の旦那のやり取りを生き生きと。値打ちものかもしれない掛け軸をまじまじと見つめる主人を繊細に演じ、本当に目の前に掛け軸がかかっているようです。
また、掛け軸の値段交渉の場面では、通販番組の人気キャラクターのモノマネも取り入れて不敵な笑みを浮かべます。都都逸も披露、味わいある美声をホールに響かせました。掛け軸に描かれた女性の幽霊ではしなやかに。お座敷芸も飛び出し、その芸達者ぶりも堪能できました。
仲入り後に登場したのは桂塩鯛。塩鯛襲名披露時のエピソードも明かし、「この名前にもやっと慣れてきた」と話します。前日の9日に誕生日を迎え、69歳になった塩鯛。「年格好が同じの妻の方が年々元気になっている」と、女性のたくましさに舌を巻いている様子。ネタは桂三枝作(六代 桂文枝)の創作落語『妻の旅行』。
定年退職して一日中、妻と家で過ごすことになって初めて、そのパワーを思い知る夫。息子にこぼす愚痴は観客の共感を得るものばかり、悲哀たっぷりに語るたびに吹き出し笑いや、にぎやかな笑い声が聞こえてきました。
桂春之輔が上方落語の大ネタを披露
大トリを務めたのは桂春之輔です。「先に言うときますけど、まだ終わってませんよ」と高座にあがるなり念を押す春之輔。2023年5月に二代目を襲名した春之輔。師匠は四代目桂春團治で、「春團治は歌舞伎で言うところの團十郎ぐらい大名跡。だから春之輔も海老蔵と同じくらい大きいもの」と笑いを交えて自己紹介します。襲名披露公演を振り返り、師匠たちの高座のあとに落語をしたことを「サムライジャパンの後に草野球するようなもの」とたとえ、当時の心境を明かしました。
このたびトリを務めるということで、上方落語の大ネタを用意してきたと言います。そして、「このネタは1つだけ欠点があります。あのね、おもろないんですよ」とまたまた念を押し、船場の若旦那と芸妓小糸の悲哀を描いた人情噺『たちぎれ線香』を丁寧に語りました。緊張と緩和と巧みに操り、噺の世界へと引き込む春之輔。サゲでは会場に張り詰めていた緊張の糸もぷっつりと切ると笑顔で高座を後にしました。