鑑賞する人の心情次第で、ガラリと印象を変える抽象画。そんな人々の心の機微にそっと寄り添い、新たな発見をもたらしてくれる水彩アーティスト・U-kuさんの作品を展示・販売する個展『U-ku Solo Exhibition「朝と霞」』が、大阪・LAUGH & PEACE ART GALLERY OSAKAで3月10日(日)まで開催中です。作品に隠された「小さな女の子のシルエット」が持つ意味や、水彩画の魅力についてU-kuさんに聞きました。
もともと抽象画は苦手だった!?
——U-kuさんの抽象画は美しいグラデーションがとても印象的です。抽象画というと難しいものと思われがちですが、今回、事前に「絵画の中に、小さな女の子のシルエットが隠れている」と聞いて、「見つけよう!」と俄然ワクワクして鑑賞しました(笑)。「小さな女の子のシルエット」には、どんな意味が込められているのでしょうか。
実はもともと抽象画が苦手だったんです。だって、わけがわからなくないですか? 少なくとも私は最初、わからないジャンルでした。絵具が流れているだけの絵に何の価値があるんだろう……?と思っていて。
でも、抽象画を知れば知るほど、価値はキャンバス上だけではなくて、作品を描いたアーティストの思想やコンセプトにあって、「何を伝えたくて、この絵を描いているのか」っていうのが結局、重要なんやなっていうのがわかったんです。そうすると抽象画の見え方も変わってきて、いつの間にか「おもしろい」と感じるようになりました。
——U-kuさんご自身が抽象画を「苦手」と思っていたとは驚きです。
「抽象画って、ようわからんわ」と感じていた昔の私をないがしろにしていいのかっていうと、それもまた違うと思っていて。自分も含めて、「抽象画って、どうすれば楽しく鑑賞できるんやろう?」って考えたときに、抽象画の中に小さな女の子や動物などのシルエットを挿れようと考えました。
でも、女の子のシルエットを見つけるのが真の目的ではないんです。鑑賞する人は女の子を探すとき、絵の近くに寄ってくれるじゃないですか。そうすると、絵具の鮮やかな色が見えてきたり、遠くで眺めると気づかなかった絵の表情が見えたりして、鑑賞する人も作家目線の距離感で楽しんでもらうことができるんです。
「小さな女の子のシルエット」を入口に…
——たしかに、絵をじっくり見ながら女の子を探すと、まったく別の発見がありました。キャンバス上に雫のような透明の部分があるのに気づいて「なんやろ、このきれいなやつ……」と思ったりしていました。
抽象画が苦手だったときの私は、美術館で遠くから絵を見て「ほぉ~……」ってなっていまして(笑)。で、「ようわからんから、解説見よ」みたいな。人はどうしてもわかるところから情報収集しようとするもので、結局、絵そのものをちゃんと鑑賞することができていなかったんです。でも画家は、絵でしか見てもらえない何かがあるから描いているはず。なので、「どうすれば、抵抗なく絵を見てもらえるか」というのは考えていました。
——女の子のシルエットが、絵を見てもらうためのきっかけになっているんですね。
人は、「探す」となると、「自分で探して見つける」という、とても能動的な時間を過ごします。なので、すごく積極的に見てもらえる。そうすると、いつの間にか作品を深く見てくれて、気づかないうちに好きになってくれることもある。
たとえば、「あの日の空に似てる」といったように何かを連想して、絵と自分がつながったような気持ちになることがあると思うんです。恋愛ソングを聴いたとき、「あのときの失恋した気持ちを思い出す」「この歌詞は私の気持ちを代弁してくれてる」とかあるじゃないですか。
——とてもわかりやすい例えです。そうした出来事が抽象画にも。
あの感覚の「アート版」といいますか。「自分のことを描いてくれた絵なんじゃないか?」と思ってもらえたら、作品も“自分ごと”として見ていただけるのではないかなと思うんです。
だから、絵に潜んでいる小さな女の子は「顔を描かない」というのがこだわりで。もし女の子が泣いちゃっていたら、「この絵は悲しい絵なんだな」って解釈せざるを得なくなるじゃないですか。だから抽象画と、女の子のシルエットの具象(具体的なかたち)とのバランスは大事にしています。
——私の場合は、見つけた途端、女の子が作品の中に暮らしているようなイメージが湧きます。
よく言っていただけるのが、「VRみたい」と。「作品の中に、自分が入っていったような感覚になる」と言ってもらえるんです。抽象画って、遠くから眺めているときはイメージだけをとらえる感じですが、小さな女の子を見つけた瞬間、親近感が湧いて作品の印象がガラッと変わると思います。
ずっと「女の子」を探す鑑賞者も
——どれも思い入れがあると思うんですが、U-kuさんイチ押しの作品は?
全部で31点、展示しているんですが、半分以上が新作で、とくに今回の個展タイトルでもある『朝と霞』は見ていただきたいです。ふだん青を使うことが多いんですが、どうしても落ち着いた印象になるので、今回は笑いの会社である吉本さんのLAUGH & PEACE ART GALLERYで個展をやらせてもらえるということで、意識して赤など明るい色をプラスして試行錯誤して描きました。
——今回の個展でいちばん大きな作品である『反芻』は、1303×1620mmもありますね。
ここには(小さな女の子が)6人、描かれているんです。実は私もいま、6人見つけるとなると、難しいです(笑)。でもコンプリートする必要はなくて、「ひとりと目が合えばいいな~」くらいに思ってもらえたら(笑)。
この作品は以前の個展でも展示したんですが、中学生の女の子2人がこの絵の前で30分~1時間ほど滞在してずっと女の子を探していて(笑)。そういう姿を見るのがすごくうれしいです。
——「これは人に見える!」と思ったら、「女の子と違うか~」のくり返しです(笑)。
抽象画の別の楽しみ方として、「私にはこれに見える」もあると思うんです。子どものころ、空に浮かぶ雲を見て「クジラがいる!」とかあったじゃないですか。そんな感覚を思い出して、童心に帰って純粋な目で絵を見てもらえるとうれしいです。
「趣味」のつもりだった絵画が仕事に
——何かを表現するとき、音楽や文章などいろいろな方法があると思いますが、U-kuさんはなぜ「絵画」だったのでしょうか?
みんなで遊ぶより、自由帳に向かって黙々と絵を描いているような子どもで、絵を描くのがずっと好きでした。でも絵を描くことを仕事にすると、もし仕事が辛くなったとき、自分の心の支えがなくなるのが嫌なので、趣味としてずっと続けていこうと考えていました。進学も美大ではなく一般の大学の英文学科を選びましたし、卒業後に就職したのも大阪の一般企業です。
でも結婚を機に東京に引っ越すことになり、ゼロから何かを始めるなら好きなことをしよう! と思い立って、タイミングよく社員を募集していた東京・銀座の画材屋「月光荘」に就職することができました。
「月光荘」の社長は画材を売るだけでなく、その画材を使うアーティストの面倒も見たいという心意気のある方です。ある日、オーナーから、ギャラリーが運営するレストラン「月光荘サロン 月のはなれ」で作品を展示しないか、と声をかけていただきました。そのときに描いたテイストが、いまの作風につながっています。
——抽象画をもっと自分ごとに……と活動しているU-kuさんですが、今後はどんなことにチャレンジしていきたいですか?
水彩画って平面のイメージがあると思うんですが、立体にも挑戦したいなと思っています。「限られたことしかできないよね」「水彩絵具だからこれはできないよね」って思われるのは悔しいですから。
もともとは紙に描いていたんですが、いまは木製パネルにパルプベースという紙粘土のような下地材を使っています。素材を変えたことで可能性をひとつ広げたところなので、次はさらに平面じゃなくて、立体。私自身も想像がつかないんですが(笑)、可能性は無限です。
いまは国内で作品を発表することが多いですが、今後は海外の方々にも見ていただきたいと思っていて、今年も勉強のために1カ月ほどヨーロッパに行く予定です。
日本での水彩絵具のイメージって「小学生のときに使っていた」くらいで、現代アートの世界でも油絵具やアクリル絵具が主流です。水彩絵具は油絵を描くときの下絵に使われていたりして、メインで使う芸術家はとても少ない。でも、ヨーロッパでは美大に水彩学科があるくらい認められています。日本でも、もっと水彩絵具の可能性も広げたいですし、抽象画の楽しさも広めていきたいですね。
個展概要
U-ku Solo Exhibition「朝と霞」
開催日時:2024年3月2日(土)~10日(日)13:00~18:00
※毎週火・水定休
開催会場:LAUGH & PEACE ART GALLERY OSAKA
(大阪府大阪市中央区難波千日前3-15 吉本本館1F)