「上方落語若手噺家グランプリ」優勝は笑福亭笑利! 当日完成したばかりのネタで「ハマって嬉しい」

上方落語の登竜門『第十回 上方落語若手噺家グランプリ2024』の決勝戦が、6月19日(水)に大阪・天満天神繁昌亭で開かれました。予選を勝ち抜いた9人の若手落語家が高座に上がり、とっておきのネタを披露。審査の結果、笑福亭笑利が優勝の栄冠を勝ち取りました。

出典: FANY マガジン
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予選を勝ち抜いた9人がネタ披露

トップバッターとして登場したのは笑福亭呂好。「お酒飲みの噺をします」と「三人上戸」を披露しました。笑い上戸、泣き上戸、怒り上戸の3つを一手に引き受けためんどくさい男を愛嬌たっぷりに演じ、会場を盛り上げます。

続いては桂慶治朗で「癪の合薬」です。ごりょんさん(奥様)や女中、丁稚に侍と、さまざまな人物が登場。女方ははんなりと、侍は親しみやすさと威厳とを織り交ぜながら巧みに演じわけました。

桂りょうばは「阿弥陀池」を口演。元気よく高座に飛び出すと、「芸歴10年目の52歳です!」と挨拶し、会場から温かい拍手が沸き起こります。無学な男と博識な男の対比を鮮やかに、絶妙な間合いでテンポよく魅せました。

続いて笑福亭笑利が披露したのは創作落語の「或る夏の出来事」。日本人より日本を知る外国人旅行客に質問攻めにされる日本人。2人のやり取りを快活に演じ、次々と爆笑を起こしました。

前半のトリは林家染八の「浮世床」。字が読めない男が見栄を張って「太閤記」を朗読しようとするのですが……。壊れたCDのようにリピートする様子や動揺を表情豊かに口演し、技巧派の実力を見せつけました。

出典: FANY マガジン
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中入り後は桂笑金からスタートします。横歩きで高座に現れ「ありがとうございま~す!」と元気よく挨拶。「へそが臭すぎる男の出世物語をやりまーす!」と高らかに宣言して創作落語「ミスター・スメルバズーカ」を披露します。自分のへそから漂う悪臭を周囲にぶちまけるため、ポン! と勢いよく腹を叩く男。笑金は何度も何度も腹を叩き、出演者の中でもっとも体を動かしていました。

続く桂三実も創作落語で勝負。「冒険せよ」と題した噺は、「人生、失敗するかもしれないけど攻めたほうが大きな成功を得られると思います」というメッセージも込められています。「これをするのも人生であと何回」と、切なさもにじませた一席でした。

後半では唯一、古典落語の「千早ふる」を演じたのは桂紋四郎です。立て板に水の語り口でぐいぐいと引き込み、会場の意識が紋四郎に一点集中。時折はさむダジャレで和ませるなど、緩急自在の落語で魅了しました。

大トリを飾ったのは月亭希遊。笑顔を浮かべて飛び出してきた希遊は、「ちゃんとした落語は紋四郎さんまで。ここからはエキシビションです!」と笑わせ、創作落語の「流れる星を、とめるヒト」を熱演しました。

笑利「今年、どうしても勝ちたかった」

そして審査結果発表へ。審査員は在阪テレビ局、ラジオ局の関係者、上方落語協会若手育成委員会の桂枝女太委員長らです。結果は、笑福亭笑利が優勝、笑福亭呂好が準優勝となり、それぞれ賞金40万と10万円を手にしました。

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優勝した笑利が、「今年、どうしても勝ちたくて、このネタは今日作りました」と明かすと、会場から驚きの声が上がりました。

「出番順の抽選が終わって、ネタのタイトルだけ先に出して、今日、完成しました。オチまで決まったのは出番前でした。なので、捨て身というか、負けても仕方ないなと思っていたネタなので、めちゃくちゃうれしいです!」

準優勝の呂好は、「トップバッターで、(噺の)最初のポスターの場面で、当初は自分の名前でやろうと思っていたんですけれども、思い切って(司会の笑福亭)銀瓶お兄さんをイジってよかったです! また来年も頑張りますので、よろしくお願いします!」と笑顔を見せました。

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上方落語協会会長の笑福亭仁智は、若手たちの熱演を振り返ってこう総括しました。

「今日は、みんなキャラクターが立っていましたね。びっくりしましたわ! 私も負けないようにやろうと思います。本当に、回を追うごとに審査員の方は苦労していると思います」

『上方落語若手噺家グランプリ』は、第10回までの実施予定で2015年にスタート。本来は今年が最後の予定でしたが、アートコーポレーション株式会社の寄付によって来年以降も続けることが決定。惜しくも今回勝てなかった噺家たちは歓喜の声を上げました。

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「過去のネタでは勝てないな」

終演後に笑利、呂好、仁智が、大会を振り返りました。驚きの「当日仕上げ」で優勝した笑利は、こう語ります。

「いままでそういう作り方をしたことがなかったのですが、それがハマって嬉しいです。『上方落語若手噺家グランプリ』に挑戦することは正直、しんどいですが、ここに向けて頑張っている間に成長できると思います。いま大きいところでどんどんやっていこうとしているので、ここで成長できた姿をお客さんに見てもらえるかなと思っております」

ネタの構想が固まった時期については、「出番の抽選が6月3日にあって、そこから“この人は古典やな”とか、“新作やな”とか考えて、6月9日のネタ出しでタイトルだけ出しました。そして6月10日くらいから構想を練りました」とのこと。

笑利はそこに「怖さもあった」と打ち明けます。

「もう、むちゃくちゃ怖かったです。でも、それぐらい追い込まないと、皆さん強いので。過去のネタ持ってきても勝てないなと感じました。『或る夏の出来事』という曖昧なタイトルにしたのはそのためだったのですが、ネタ中も最初に『今日、暑いな』しか言うてません」

一方、今回が初の決勝進出だった呂好も、猛者たちを相手に「ふつうにやっても……」と考えて古典落語の中に自分なりの“変化球”を取り入れたといいます。

「酔っ払い系のネタはこれからも引き続きやっていきたいと思っていますし、今後は、ネタ数を増やして、笑いの多い噺とか怪談にもチャレンジしていきたいと思っております」

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最後に、上方落語協会会長の仁智が2人をこう評しました。

「呂好さんは、(出番が)トップということで、普通ならそれほど高い評価は期待できない出番ですが、準優勝という評価につながって。本格的な口調の中で酔っ払いをしていた印象があって、もともと古典のあるべき姿をちゃんと考えながら工夫されたところがよかったのではないでしょうか」

「(笑利は)ふつうはスルーするような当たり前やと思っているところを、ちょっと立ち止まって切り取って、その考え方を浮き彫りにする。そこで共感を呼ぶ。ネタとして取り上げた『インバウンド』のアイロニーの部分がお客さんにも受け入れられて、審査員の評価にもつながったと思います」

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