こんにちは、芸人ライターのあわよくば・ファビアンです。
今回は、吉本興業とブックオリティが手を組み始まった『作家育成プロジェクト』について紹介したいと思います。
はじまりは、ワクワクするメールから
2021年2月某日、吉本興業に所属している芸人に一通のメールが届きました。
添付されたPDFを開くと、こんな文字が……
こ、これは……!
うまくいけば、本が出せるってこと!?
なんだか、面白いことが始まりそうでワクワクします。
さらに読み進めると、プロジェクトの説明がありました。
『これは「本に向いている才能」を本気で見つけたいという思いから生まれたプロジェクトです。
有名無名問わず才能を世に出し、活躍の場を提供するために、自身の得意ジャンルで発信したい内容を募集することで、広く才能の発掘をはかります。
(中略)
審査を経て選抜された方は、吉本興業・文化人所属のベストセラー編集者・高橋朋宏氏による出版セミナーを受け、 多数出版社が参加するプレゼン大会に出ることで、出版へのチャンスが広がります。 文章の上手・下手よりも、経験や思いを重視します』
要は、“出版に向けての本格的なセミナーを開催する”とのこと!
募集ジャンルの欄には、【エッセイ、実用書、小説、絵本、マンガ、自己啓発書、ビジネス書など何でもOK】と書いています。
3年ほど小説を書いている僕としても、参加しないわけがありません。
締切日も待たず、すぐにその場で案内を読み込み、これから自分が執筆したいものをしっかり書き、過去の作品を添付して応募しました。
すると一次選考を通過し、さらに3月に行われた二次選考(課題あり)もなんとか突破。
そんなこんなで、4月14日(水)、第1回目の出版セミナーに出席してきました。
その様子と、学んだことをレポートしたいと思います。
編集者・高橋朋宏とは?
吉本の本社に集まったメンバーは12名、さらにオンラインの参加も含めて総勢33人でプロジェクトがスタートました。
220名もの応募者から絞り込んだというので、なんとかメンバーに入れたことに安堵しました。
しかし、喜んでいる時間はありません。
というのも、講師・高橋朋宏さんは立ち上がるなり、優しい口調で「おめでとうございます、でもまだ全然、出版決まってないからね」と言うのです。
どうやらここから、厳しい道のりが待っていそうです。
ここでまず、高橋さんについて、紹介します。
高橋朋宏(Takahashi Tomohiro)
- 通称『タカトモ』先生。
- ベストセラー編集者として、吉本興業に文化人として所属。
- ブックオリティ代表取締役学長。元サンマーク出版常務取締役編集長。
【過去に担当した本】
- 『病気にならない生き方』/新谷弘実(140万部)
- 『体温を上げると健康になる』/齋藤真嗣(70万部)
- 『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』/小林弘幸(52万部)
- 『人生がときめく片づけの魔法』/近藤麻理恵(159万部)
- 『一番になる人』/つんく
そうなんです、ベストセラー連発の、第一線で活躍し続けてきた編集者なのです!
とくに『人生がときめく片づけの魔法』は、2014年10月、米国でも刊行されて400万部を超え、日米両国でミリオンセラーという、日本の出版史上初の快挙となりました。
そんな方に教えていただき、原稿を見ていただけるチャンスがあるなんて、このチャンスを逃すわけにはいきません。
レベルの高いセミナーが始まり、みんな真剣な眼差しで授業に挑みます。
『本を出す』ということ
高橋先生の話に聞き入ります。
高橋「僕がどんなに頑張っても、本にはなりません。それぞれがめちゃくちゃ頑張らないといけません。そして『本を出す』というのは、『めちゃくちゃ頑張るに値する』ことです。
これからやる自分の深堀りは、これからの仕事や人生に絶対生きてきます。逆にいうと、生きてくるくらいやらないといけません。小手先のテクニックじゃなくて、まずは自分自身と向き合いましょう。
ここの33人はライバルではなくて、仲間です。自分の考えたことをシェアしながらいろんな人と繋がって、いい関係を築きましょう」
ここで、二人一組でのグループワークがありました。
テーマは課題で与えられていた、自分のプロフィール、自分が書きたい本の内容(あらすじ)などを共有し、感想をもらうこと。
僕もこの日までに自分のプロフィールと向き合いました。
芸人をしていると、幾度となく自己紹介をします。なんなら漫才の冒頭にツカミとして入れることもあります。
そんな親しんだ自分自身のことを、文字にし、「なぜ?」「なぜ?」と深掘りし、「この本の著者ってどんな人?」と聞かれた時用のプロフィールを完成させました。
さらに、僕は自分の書こうとしている小説のあらすじを、ペアの相手には書こうとしている本の見出しを共有してもらいました。
人が真剣に考えたことを聞くのは、いつでも面白いです。
人の心を動かすには……?
さらに授業は進みます。
高橋「本はあなたが有名でなくても、あなたに興味がない人にでも届く可能性があります。言葉、テーマ、アイデア、ノウハウ、作品を求めている人がいるからです。
だから、書くときは、読む人の気持ちを想像しながら書いてください。つまり、自分が書きたいことを書くだけではダメです。それでは読者のためになっていない。
読者は読みながら何かを感じます。ときには自分の体験を重ね合わせ、共感しながら読んでいる。だから著者としては、『ここでグッとくる』、『ここで疑問に思い、ここで納得する』など、相手の感情をコントロールするくらいの書き方ができればいいと思います」
さらに高橋先生は、原稿は出版が決まる前から書いたほうが良く、それに適したものがあると言います。
高橋「出版が決まる前に書くべき原稿は、ズバリ4~5ページの『サンプル原稿』です。
『人生がときめく片づけの魔法』の著者・こんまり(近藤麻理恵)さんの話をしましょう。
彼女は出版スクールに通っていて、僕はそこの審査員でした。プレゼンを聞いて出版してほしいなと思いました。
そこで『自分が一番、自信がある部分を書いてください』というと、持ってきたサンプル文章がセミナーのレジュメみたいなものだったんです。
まるで取扱説明書。わかりやすかったけれど、読んでも面白くなかった。正しいやり方や手順だけ見ても、人の心は動かないんです。
そこで僕は、編集者として手がけた本二冊を渡しました。
一つは『病気にならない生き方』で、断定して言い切ることの強さを学んでほしいと言いました。
もう一つは『ズボラ人間の料理術』という本。これは、料理本なのに写真とイラストがほぼなく、活字だけで料理について書いたものです。つまり読むだけで、料理の情景が浮かんでくる文章なのです。
また『ズボラ人間の料理術』には、そのレシピにたどり着くための失敗ヒストリーがたくさん書かれていました。こんまりさんの読者も、片付けられなかった彼女がどのように片付けが得意になったのか、つまり『できない部分』に共感すると思いました。
だから『人生がときめく片づけの魔法』には、正しい片付けに行きつくための失敗ヒストリーがたくさん書かれています。そしてイラストや写真は一枚もないのに、文章を読むだけで服が上手くたためるようになっています」
一冊の本、しかもベストセラーが完成していく経緯を、生の声で教えてくれました。
各章に、その中の一文一文に編集者と著者のドラマが詰まっているんだなと思いました。
『はじめに』には、本の全てがある
サンプル原稿では本文を書くのもいいけれど、『はじめに』を書くのがもっとも効果的だと言います。
高橋「『はじめに』は本の中で一番大事と言っても過言ではありません。なぜなら、その本のエッセンスが全て詰まっているからです。
なぜ書いたのか、何を伝えようとしているのか、読めば何を得るのか、他の本とどこが違うのか、著者はいったい何者なのか。
それらを読んで、読者は続きを読むか、書店の棚に戻すか決めます。途中まで読んだだけで『この本は私のために書かれたものだ!』と思ってもらわないといけません。
皆さんも、『はじめに』を書いてみてください。書いてみてはじめて自分は何が書きたいのかが明確になります。
意識してほしいのは、『正しいことを書いても、読み手の心は震えない』こと、『上手に書いても、読み手の心に届かない』こと。上手い下手は、編集者でも直せます。
著者は、内容の面白さを重視し、根っこの思いから発せられた文章を、読み手の心にぐさりと刺さる言葉で書かないといけません」
ここで、自分の書こうと思っている本の『はじめに』を書いてみる時間が設けられました。
高橋さんは、売れている本と自分の書きたいものと同じジャンルの『はじめに』を片っ端から読むことが大事だと言います。
どんな書き方があり、どこで差別化できるのか学ぶためです。
セミナーでは『人生がときめく片づけの魔法』の『はじめに』の部分を、自分の本バージョンに書き直してみるトレーニングを行いました。
その威力を知ったのは、発表のときでした。
さすがのベストセラーで、みんなキーワードを自分のものに変えるだけで、説得力のある文章をどんどん完成させていました。
- 僕の教える31文字の作詞作曲、いわゆる短歌を作る方法というのは、今までの方法からすると、かなり非常識です。
- まずはスマホを置いてください。そして一コマ漫画の世界に足を踏み入れてください。
などなど、読みたくなる『はじめに』がたくさん誕生しました。
そして高橋さんは言います。
高橋「みんな、書けるんです。型を知りましょう。学びましょう。そして型を破りましょう。最後に自分が書くときはこれはすっぱり忘れて、自分のオリジナルを作ってください」
さらに授業は、『章立て』の分類の仕方、つまりどう読ませるかの設計図を学び、終わりました。
特に、最後に高橋先生が言ったことが印象に残りました。
それは「根拠はなくてもいいから、自分がベストセラーを出すと思って、自分を信じてください」ということ。
というのも、高橋先生の感覚では、ベストセラーには著者の名前が知られてない本なんてごまんとある。つまり無名な人でもチャンスがあるということ。
優しい口調で熱く語る高橋先生のセミナーは、こうして終わりました。
次回は5月に予定されているので、またレポートしたいと思います。
それまでに課題を仕上げます。
プロジェクト概要
作家育成プロジェクト
吉本興業が本気で「本を書く才能」を見つけたいという思いから生まれたプロジェクト。
応募者総勢220名の中から審査を通過した、芸人、文化人、アスリート、アーティスト、アイドルなど吉本興業所属のタレント33名が参加中。
ブックオリティの出版セミナーでプロット作成や執筆の指導を受けたあと、複数の出版社が参加するオーディション方式の「出版プレゼン大会」(6月末開催予定)に参加し、出版のチャンスを広げていく。
さらに、『板尾日記』(リトルモア)などの著書があり、『火花』(文藝春秋)など書籍を原作とした映画作品の監督経験もある板尾創路が、アンバサダーとして携わることも決定。
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