芸歴30周年を迎えた落語家・桂かい枝の記念独演会が、11月27日(水)に大阪・なんばグランド花月で開催されました。ゲストとして笑福亭鶴瓶と桂二葉が出演したほか、人形浄瑠璃文楽座も登場。かい枝は二席を披露し、会場に詰めかけたお客さんを魅了しました。
“NGK初”となる人形浄瑠璃も
かい枝は1994年6月に五代目桂文枝に入門し、“華の平成6年組”と呼ばれる同期の桂吉弥、桂春蝶らと切磋琢磨しながら芸を磨いてきました。かい枝の代名詞とも言うべき“英語落語”は高く評価されていて、2014年に参加した世界最大の芸術祭「エジンバラ・フェスティバル・フリンジ」で地元紙の最高評価を獲得。これまでに世界28カ国で300回を超える公演を開催し、小中学校や高校の英語の教科書にも顔写真付きで紹介されています。
独演会のオープニングを飾ったのは、人形浄瑠璃文楽座による『二人三番叟』です。NGKで文楽が上演されるのは初めてのこと。2体の人形が客席に降りた場面では、大きな歓声が上がって祝祭ムードに包まれました。
続いて、スライドショーで30年の芸歴を振り返り、主役のかい枝が登場。「師匠の懐かしい写真にウルッときました」と話すと、一席目の新作落語「ハル子とカズ子」を口演。高齢女性2人のユニークな会話で、NGKに大きな笑いが起きました。
1人目のゲストは、桂二葉。トレードマークの甲高い声で挨拶し、かい枝が入門当初から落語会に声をかけてくれたことを振り返ります。この日のネタは、賭場の一幕を描いた『看板のピン』。親分は眼光鋭く、アホな若者は愛嬌たっぷりに、情感豊かな描写で魅了しました。
続いて登場したのは笑福亭鶴瓶。マクラでは、自身の身の回りで起こった奇跡的なエピソードで沸かせます。そして、鶴瓶の実体験から創作した私落語(わたくしらくご)の中でも根強い人気を保っている『青木先生』を口演。高校3年生の思い出が詰まった噺は、爆笑に次ぐ爆笑ながらも最後にはほろりとさせる場面もあり、さすがの表現力で沸かせました。
「夢のような夜でした」
中入り後は、かい枝の『芝浜』。こちらは、鶴瓶から勧められたという人情噺の大ネタです。上方から江戸に越してきた夫婦という設定で、酒で失敗した男が再起を図り、妻と二人三脚で魚屋を持ち直す噺。舞台は深い青の照明に染まり、スポットライトが一点、高座のかい枝を照らします。
前半の夫婦のやり取りは面白おかしく、笑いもたっぷりに。後半、大晦日の夜に妻がある事を告白する場面ではしんみりと。どん底でも、緊張感ある場面でも、どこかほんのりとした温もりが感じられる、かい枝の個性が光った一席でした。オチで頭を下げると、舞台の上から紙吹雪がはらはら――。冬の風情もたっぷりに、最後まで楽しませました。
落語を終えたかい枝は涙をぬぐい、「泣くつもりはなかったんですけど……」と照れたような笑みを浮かべます。「夢のような夜でした。夢で終わらないようにしたい」と、『芝浜』になぞらえた心境を語り、最後は観客と一緒に記念撮影。「また頑張ります!」と笑顔で31年目に向かって意気込みました。
急逝した桂雀々を偲んで
独演会を終えたかい枝が、心境をこう語りました。
「最初からお祝いムード満点の感じで、本当に祝いに来てくれているという空気がビンビン伝わってきました。文楽も、二葉さんも鶴瓶師匠も、お客さんも、みんな縁の深い方々だったので、本当に一体化していたと思います。『芝浜』も下ろしたところなので、そんなにやり慣れていないのでおっかなびっくりやっていましたが、お客さまがいいように反応してくださった。いまは、よくぞ30年やらせてもらえたなという感謝の気持ちでいっぱいです」
また、『芝浜』での照明や雪などは落語作家・小佐田定雄のアドバイスを受けた演出だと続けます。
「今日だけの『芝浜』にしようということで、あんな形でやらせてもらいました。客席の照明を真っ暗にしたのは、僕がビビりだからです。お客さんの顔が見えたら『おお……』ってなるから、真っ暗にしてもらったんです。そしたら今度はどこを見てええか、わからへんようになって(笑)」
そして最後の涙の理由について、こう明かしました。
「なんとか無事にサゲまで行けたという安堵感が大きかったのと、サゲを言ったときにお客さんがドーッと拍手してくださったのと、(お客さんの)すすり泣きの声も聞こえたので、伝わったのかなという感覚もあったりして、ホッとしました。出囃子もうちの師匠の出囃子だったので、師匠のことも思い出しました。『よう弟子にしてくれはったなぁ』という思いもふと湧いてきて、思わずウルッときました」
この日、観客に配布されたチラシには、11月に急逝した桂雀々と来年1月11日(土)に大阪・天満天神繁昌亭で開催予定だった『雀々・かい枝 新春二人会』の告知も記載されていました。「“二人会”は追善公演にしたいと思います」と言及したかい枝は、次のように話します。
「あまりに突然のことだったので、びっくりしました。二人会を予定していたし、『さくらんぼ』のお稽古をしてもらう予定もありました。雀々師は僕にはものすごく心を開いてくださって、仲良くしてくださりました。上方の古典落語の面白さをあれだけ伝えられる人はそうそういないと思うので、本当に残念でしかないです」
かい枝は最後に、こう意気込んで締めくくりました。
「また来年もNGKでいろんな噺家が出る落語会をやりたいなと考えています。吉本所属の落語家はNGKで独演会ができるという形にして、後輩もそれを目標に頑張るようになったらいいなと思います。個人的には、NGKにもうちょっと出たいですね。1週間の出番で出て、独演会も定期的にやりたいです。あと、看板芸人になるのも目標です」