ウーマンラッシュアワー村本大輔が本気の“アメリカ修行”で得た変化とは? 「いまは羽をもがれた鳥。代わりに足を鍛えまくった」

ウーマンラッシュアワー・村本大輔が、今年1月に渡米してから初となる国内トークライブ『Call me the GOAT at ニッショーホール』を12月20日(金)に東京・虎ノ門で開催します。このライブは、渡米後にさらに進化した“村本ワールド”をファンに届ける75分の独演会。今回は、アメリカで文字通り“武者修行”の日々を過ごす村本を直撃し、ニューヨークでの暮らしぶりやアメリカのお笑い文化から受けた“洗礼”、そして「史上最高」と銘打つライブへの熱い思いなど、たっぷり語ってもらいました!

出典: FANY マガジン
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「赤ちゃんに生まれ変わったような気分」

――いまは一時帰国中ですか?

そうですね。いまは一時帰国中で、1月にまたニューヨークに戻ります。その間に、アメリカでの10カ月間の成長を確かめるライブをやりたくて、公演を開催することにしました。

――アメリカでは、どんな暮らしをしているんですか?

僕はアパートにカーテンをつけていないのですが、ニューヨークは日差しが強いので、朝8時ごろに自然と目が覚めるんです。そして起きたら、まずはカフェに行って日本語でネタを書き、それをGoogleで英語に翻訳する。そして、そのネタをぶつぶつ独り言のように練習して、丸暗記をして劇場で試す。そんな生活を10カ月間やっています。

――どんな規模の劇場でネタを披露しているんですか。

本当にいろいろなんですけど、100人くらいが入る劇場がニューヨークにはたくさんあるんですね。そういう劇場は、プロの人が使う時間帯以外にアマチュアの人がパフォーマンスできる“オープンマイク”というものがあるんです。5ドルくらい払えば、5分間くらいの時間をもらえるんで、そこでネタを試しています。

出典: FANY マガジン
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――では、一般のお客さんは少ない?

そうです。観ているのは、同じようにネタを試しに来た芸人ばっかりですね。あとは夜にアメリカ人が賑わうバーに行くと、そこでも5ドル払うかビールを1杯注文すれば、5分くらいの時間をもらえるんです。そこでネタを披露すると、酔っ払いが「ヘイ、チャイニーズ」とか野次を飛ばしてくるんですけど(笑)。そういう環境で、いまはやっていますね。

――日本では知名度があって、『THE MANZAI 2013』で優勝もした村本さんが、また下積みのような生活をしているんですね。

(大阪にあった)baseよしもとの劇場オーディションを受けていたときと同じ感覚です。でもいまは、違う環境や言語のなかで、「こんな笑いの取り方があるんだ」「アメリカの芸人はこんなことをやってるんだ」と勉強するのが楽しいんですよね。

日本ではウケるものが、向こうではウケなかったり……。料理にたとえると、同じ「魚を煮る」でも海外では“アクアパッツァ”になるように、新しい笑いのパターンややり方を学んでいます。

――その状態を「楽しい」と言い切れるのが素敵ですね。

日本では『THE MANZAI』で優勝したし、M-1だって若手ばかり出ているし、次のステージというか「これに挑戦したい」と思えるものがなかったんです。それに僕のことを知っている人からは、「売れてる芸人」とか「もうテレビに出ていない」とか「政治的」とか色がついてしまっていた。でもアメリカでは誰も僕のことを知らないから、本当に赤ちゃんに生まれ変わったような気分です。

アメリカでいちばん有名な「コメディ・セラー」というクラブがあるんですけど、そこでは夜の7時くらいからショーが始まって、夜中の2時半ごろまで5、6ステージやるんです。深夜でも人がわんさかいて、世界中の芸人がそこを目指してくるんですけど、僕もいつか出たいと思って、よく観に行くんですよ。もちろん英語は理解できないんですけど、空気だけ味わいに行っていて。

それでショーが終わったあとに外に出ると、お客さんがタクシーを待っていたり、たむろしていたりする。そこで僕は、プロの芸人を観たばかりのお客さんたちにネタを試しにいくんです。

――ひとりで話しかけるんですか?

そうです。「I’m Japanese Comedian. Can I try my jokes?(私は日本の芸人です。ネタをしてもいい?)」と。それで見てもらったら、「さっきの芸人とどっちが面白い?」と聞くんです。それぐらい、アメリカでは恥も何もない状態なんで。

出典: FANY マガジン
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――すさまじい行動力ですね。

そういったことをしても、彼らは「ヤバいやつ」という感じで見ずに、ちゃんと聞いてくれて、ちゃんと笑って、ちゃんと英語のダメ出しとかをしてくれるんですよ。

あと、コメディ・セラーの近くにプロの芸人が飲みに行くバーがあるんです。そこも突き止めたんで、そのバーに行って芸人に「今日見たよ」と声をかけて。大統領選の翌日にトランプのことを誰もネタにしていなかったから、理由を聞いたら「まだアメリカ人もショックが大きくて笑いにくいから、2週間後くらいにネタにする」と言っていました。そうやってアメリカの芸人が考えていることを、見たり聞いたりして学ぶ。そんな毎日ですね。

タブーのギリギリ境界線上の“笑い”

――そもそも、どうして渡米しようと思ったんですか?

渡米のいちばんの理由は、高校生のときにダウンタウンさんを見て大阪に行ったのと同じで、すごい芸人を見つけてしまったからです。すごくカッコいい芸人を見つけて、その芸人を生んだニューヨークという街で、その土の中に入ってみたかった。自分が年をとっていくなかで、50歳や60歳になったときに、その土からどんな花が咲くかを自分に期待してニューヨークに来ました。

――なんという芸人さんですか?

ジョージ・カーリンという芸人で、もう亡くなったおじいさんなんです。そのおじいさんのことを、むかし秋元康さんがご飯に連れて行ってくれたときに教えてくれて。その人のネタを和訳で見たときに、重層的で、面白くて、感動したんですよね。

出典: FANY マガジン
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――どんな点が魅力なんでしょう?

ジョージ・カーリンは、たとえば既得権益のようなタブーに切り込むんです。宗教というものを皮肉ったり。それがすごく痛快で、ネタを見たときに「あ、すごいな」って。

――そういうお笑いが、次に村本さんが目指すものに近かったんですね。

そうですね。自分の思想や考えていることをロジカルにまとめて、最後にドーンと笑いで落とすスタイルが、カッコよくて感動しました。

――ただ日本だと、タブーに切り込むようなお笑いは、苦手に感じる人も多いのではないでしょうか。

日本人自体が、日常会話でそういう話をあまりしないですからね。でもアメリカ人も、実はそういう話を好まない人は多いです。

ただ、日本とアメリカのお笑いの違いはあって、日本はルールを守りながら楽しい笑いをつくるけど、アメリカの芸人は「タブーとのギリギリの境界線を見つけて、その上で踊るのがコメディアンの仕事だ」と言う。そういう考え方は面白いと思いますね。

――そうした笑いへの考え方の違いは、どこから生まれると思いますか?

僕の考えですが、日本は大人から子どもまでがバスに乗って、ツアーでなんばグランド花月に来るじゃないですか。その人たちを全員笑わせないといけない。それに対して、アメリカの芸人は夜のバーで、大人だけが集まるところでネタをするので、ネタの内容も変わってくるのだと思います。

――そのアメリカのコメディー文化に触れている村本さんが、この10カ月間で、自身の芸に影響を受けたと感じる部分はありますか?

日本にいたときも自由だったつもりなんですけど、「もっとウケないといけない」という思いから解放されたのはあります。もちろんウケないといけないんですけど、アメリカのロニー・チェンという有名な芸人が「コメディにウケるもスベるもないんだ」と言うわけですよ。自分の面白いと思うことをただ表現して、そのなかの1人でも笑って、また来てくれたらいいと。

アメリカの芸人さんって「お客さんと一緒に笑おう」というよりも、自分の面白いと思うことを信じていて、「ついて来たい人だけついて来い」という姿勢なんですね。寄席の精神がない。だから強いし、どっしりしている感じがします。

たとえば僕も1回、イスラエルとパレスチナに関するネタをやったら、お客さんがザワザワしたんですよ。「それを言っちゃうか……」みたいな。

出典: FANY マガジン
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――タブーの境界線を越えているのではないかと。

そうです。前のライブではウケてたんで「あれ?」と思って。でも人種がいっぱいいるから、タブーもその日によって違ったりするんですよね。それで、友だちのアメリカの芸人に相談したら、「それは悪いことじゃないよ」って言われて。

「そのテーマで笑いを取ろうと攻めていってるんだから、(客の反応を)比較したらダメだよ」と言われたときに、「気にしすぎてるんだな」と思いました。いろいろなリアクションがあって、それもいいんだなと思えましたね。

「自分史上最高のショーをお見せできる」

――アメリカでタフな毎日を過ごしている村本さんのライブ『Call me the GOAT』では、さらにパワーアップしたお笑いを期待できますか。

そうですね。アメリカでのネタをそのまま日本でやっても共感を得られないと思うんですけど、いまは日本に戻ってきたので、日本仕様のネタをゼロから作っています。12月20日に向けて、日本で感じたことやアメリカで思ったことを伝えたいと思います。

――「GOAT(史上最高)」という言葉には自分史上最高という意味が込められているんですか?

スポーツ選手にはピークがあるじゃないですか。それと同じで、芸人にも「『ごっつええ感じ』のときの松本さんはスゴかった」とか、「あのときのたけしさんはキレキレで」みたいに言う人がいますよね。でも、本来ならば「いまが最高の状態でありたい」とみんな願うんです。

僕も44歳になるんですけど、「むかしの『バイトリーダー』の漫才やTHE MANZAIのネタはよかった」と言われることがあるんで、いまが史上最高と証明しないと、ちょっと切ないというか……。常に上に上がっていることを証明しに、舞台に上がります。

出典: FANY マガジン
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――自信はありますか?

知らないことを知っていく経験をいまは積んでいるので、そういった意味で強いんじゃないですかね。もみあげに白髪が生え始めてからbe動詞を学びはじめたので(笑)。失うものは気にしないし、常に攻めたいという気持ちだけなんで、いま(の自分)は良いと思います。

日本語では、ベラベラ早口で喋ってきたけど、いまは英語だからその武器が使えなくなったんですよ。でもだからこそ、羽をもがれて、その代わりに走り回って足を鍛えまくった鳥みたいな感じ。ちょっといままでとは違う脳を使っているんで、かなりパワーアップしていると思います。自分史上、いや日本史上最高のコメディーショーをお見せできると思うので、ぜひ観に来てほしいですね。

取材・文:前多勇太

公演概要

「Call me the GOAT at ニッショーホール」
日時:12月20日(金)開場18:00/開演18:45
会場:ニッショーホール(東京都港区虎ノ門2-9-16)
出演:ウーマンラッシュアワー・村本大輔
チケット料金:前売 5,000円/当日 5,500円
チケット販売:FANYチケット

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