国内外で広く活動する注目のアーティスト、サトウナツキさんによる個展『楽園から』が、3月6日(木)〜16日(日)に大阪・LAUGH & PEACE ART GALLERYで開催中です。会場には、今回のために制作された新作を含む全23点が並び、サトウナツキワールドが全開! そこでファニマガでは、さまざまなアートイベントで活躍中の“お絵描き芸人”らむね・岡昌平とサトウさんのスペシャル対談を企画。“かわいい”タッチ以外にも共通点が多く、共感しまくり、大盛り上がりとなったその模様をお届けします。

ポップな色合いとかわいいタッチが目を引く一方で、どこか危うく不安定な“揺らぎ”を感じさせるサトウさんの作品。なかでも注目なのは、自作の短歌をからめた連作シリーズです。昨年、福岡で開催した個展から描き始めたそうで、短歌を3つのフレーズに分け、それぞれに合う絵を制作。アニメーションのようなストーリー性も感じさせる3枚の絵が、見るものの想像をかきたてます。もちろん岡も展示作品に興味津々で、対談ではサトウさんを質問攻めに!
「口を描かない」それぞれの理由
岡 僕の作品では、「口」を描かないようにしていて、そこはサトウさんの作品と、ちょっと似通ってる部分ですよね。僕は自分の作品だと一発でわかってもらえるように、目の形とかいろいろ考えながらやっていってそうなったんですけど、サトウさんはどういう過程を経てここに行き着いたのかなと。
サトウ 私も、だんだん口がなくなっていったタイプなんです。10年前の作品を見たら、口がまだあったんですけど。
岡 口が減っていってる!?(笑)
サトウ ある時期から口がなくなってて(笑)。私も、目がちょっと変わるだけで表情もけっこう変わるなと思って、口を描かない、いまの感じになりました。

岡 僕も、表情とか感情を目だけで出せると思ってます。眉毛をちょっとつり上げたら怒ってるとか、ハの字にしたら悲しんでるとか。ただ、サトウさんの絵はそういうのもないので、顔や体の向き、背景、陰影なんかで出してはるのかなと思ってて。
サトウ はっきりとした喜怒哀楽というより、ひとことで表せないような感情の瞬間を描きたいんです。たとえば、この子(『手を繋ぐ』『これが祈りと信じてる』に描かれた左側の少女)の目は、片方は横線の部分と丸がかぶってないけど、もう片方はかぶってる。そのちょっとの線の幅や違いで変わるなと。
岡 それ、思ってました! たぶんですけど、こういうところは意識してはるんやろうなって。
サトウ 髪型に合う目、しっくりくる目も、その子によって違うんです。表情も込みで、目の形を変えたり。
「のっぺりした感じ」を出さない
岡 人に言っても伝わらんやろうけど、自分の気持ちいいところってありますよね。
サトウ まわりはわからなくても、そこに気を使えるのは大事なのかなと思います。
岡 あとは、やっぱりスパッタリング(筆などを使い、小さな粒子としてしぶきのように絵具を飛ばす技法)が気になります。

サトウ さっきの感情の話にも繋がるんですけど、気持ちの中のノイズ感とか、ちょっとザワっとする感じプラス、自分の記憶が霞んでいくみたいなことを、テクスチャーを加えることで表現してる感じです。あれがないと、わりとのっぺりして見えるというか……私はポートレート作品じゃなく、その子の心情、気持ちを描きたいと思ってるんで、女の子がかわいいだけの作品とは思ってほしくないんです。
岡 キャラクタータッチのものを描くときって、のっぺりしがちですもんね。だから僕は、描き込むのが好きだったりするんです。特にキャラクターを描くときは、自分らしさをどこで出すのかとか、めちゃくちゃ考えますね。
ガサガサした感じを出すためにアクリル絵具を使う
岡 そういえば、サトウさんは版画をやってはったんですよね。
サトウ はい、大学で。
岡 版画って、木と墨でやるあれですか?
サトウ 版画にはいろいろあって、私はリトグラフっていうのをやってたんです。有名なところで言うと(アルフォンス・)ミュシャもリトグラフです。
岡 あれ、版画なんですか!
サトウ 水彩っぽい表現とかもできるんですよ。

岡 そこから、いまのスタイルに行き着いたというのは、繋がっていることなのか、ぜんぜん別ものなのか……。
サトウ イラストと、いろんな素材を組み合わせたコラージュ作品の2つの作風で活動してた時期があって。リトグラフの作品でも、コラージュした上から版画をやるとか。大学ではそういうのをやってたんですけど、ちょっとイラストっぽい作風に力を入れようかなとなったとき、最初は水彩画だったんですよ。ミリペンで絵を描いて、それを水彩で着色して。
でも、1本の線を引くのにもけっこう気を使ってるのに、1ミリ以下のペンだとあんまり主張ないなと思って、じゃあちょっと太めの線にしてみよう、それならアクリル(絵具)のほうが適してるかなって。コラージュのときも、いまのようなテクスチャー感とか、ガサガサしてる感じを大事にしていたので、昔のコラージュと昔のイラストを合体させて、それをアクリルにしたって感じですね。
岡 ということは、やってたことがいまに繋がってるんですね。
サトウ 意味はあったと思いたいです(笑)。
短歌を絵で表現する
岡 あの作品(『風が吹いたら』と『ここが楽園』)は、似た構図が並んでいるようにも見えますね。
サトウ あれは、短歌を使った連作で、自分が作った短歌を、上の句、中の句、下の句という感じで3つのパートに分け、それぞれを絵で表現してるんです。そのうちの2作ですね。
岡 なるほど!

サトウ これ(『手を繋ぐ』『これが祈りと信じてる』『世界が逆さになったとしても』)も短歌の作品なんですけど、恋人つなぎで手を繋ぐと、逆さにしたとき、お祈りのようなカタチになるのが神秘的だなあと思ってて。街で手を繋いでいる人が、みんな、お祈りしながら歩いてると思うと幸せだなあと。それを作品にしました。
岡 僕も絵を描いてキャプションを付けるとき、1枚の絵本みたいな感覚でやることが多いんですよ。でも、それを短歌に落とし込んでるのは、すごくめずらしいなと思いました。短歌だけでひとつの作品なのに、それを絵でもうひとつの作品にするなんて……なんか1ピース1ピースが絵になってる、パズルみたいな感じもあっていいなあ。ちなみに今回、見た作品のなかで、僕が好きだったのは『ゆれるたましい』です。
サトウ うれしい! 私もお気に入りなんです。
岡 あの絵の解説を聞きたいです。
サトウ 髪の毛がなびいてる感じと、目の前に花がバーっと咲いてる感じを描きたいなと。全体を描くより顔メインで切り取ったほうが、ワンシーンとして面白い作品になるかなと思って描きました。何かをするぞと決めて、それを熱く内に秘めて進んでいる、みたいなイメージ。そういう強い少女を描きたかったんです。

「自分の絵が“けっこう”好き!」
岡 僕は自分の強みとして、自分の絵を世界一好きだと思ってるんですけど、そういうのはありますか?
サトウ 私は自分の絵、好きです。“けっこう”を付けてですけど(笑)。「かわいい」って思いながら描いてるんで。
岡 僕、ずっと「かわいい!」って言いながら描いてます(笑)。絵の上手い下手では、絶対もっと頑張らなあかんと思うんですけど、かわいいとか気に入ってる度で言えば、もうずっと自分の絵が好き。
サトウ 私は昔よりも、より好きになりました。水彩で描いてたときは、好きやけど、なんかもうちょっと足りない、自分の技術では描けない部分が大きくて。いまはすごい描きやすくって、好きな絵ができたなと思ってます。岡さんは、ミストアートをされてるじゃないですか。
岡 はい、霧吹きで地面に絵を描くっていう。
サトウ あれを見てたら、いろんな絵柄で完璧に描けるし、でも似顔絵のときは、ちょっとゆるい感じでやっておられて。ほかにも、いま着られているスウェットのキャラクター(ヒキコモンスター)とか、いろんな絵柄が描ける方だからこそ、どういう過程を経ていまの絵柄になったのか気になって。

岡 ミストアートは、いわゆるファンアートみたいなもので、漫画のキャラクターの絵とかは(元の絵を)見ながら描いている。模写は子どものころから好きで、たとえば『ドラゴンボール』とか、そういった少年漫画のキャラクターの絵を描いていました。でも、漫画的な絵を描けって言われたら、たぶん描けないんですよ。得意ではない。
サトウ そうなんですか。
岡 で、自分で描ける絵ってなったら、かわいい感じのキャラクター。あと似顔絵に関して言えば、やっぱり僕は芸人なので“おもしろい”っていうのが根底にありたいなと思ってるんですよ。いまやってる「世界一ハードルの低い似顔絵」は、「顔が全員一緒になりますよ」「髪型と服装だけでどうにかしてあなたに見せますよ」っていう似顔絵なので、タイトルでお客さんがけっこう笑ってくれる。
サトウ 「そんなんやったら描いてほしいわ」ってなるんですね。
適当に描いた絵が「めちゃくちゃいい!」という感覚
岡 サトウさんの短歌と似たようなところがあるかもしれない。キャッチコピーとか文字情報で、僕の場合はちょっと笑ってもらうというか。顔とかも、昔はもっと長く描いてたのが、アゴがどんどんなくなっていったんです(笑)。だから顔に関して言えば、いちばん自分が描きやすい顔だったのかなと。適当にぱっと描いた絵が「めちゃくちゃいいやん」みたいなことがあるじゃないですか。
サトウ ありますね。「よく描けたな、この線」みたいな(笑)。

岡 それと一緒で、ちょっと片手間に描いてた絵がめちゃくちゃかわいいとか、めちゃくちゃ気に入る瞬間っていうのがあって、それの連続でここに行き着いてると思うんです。キャラクタータッチにしても、いろんなタッチを描いてるんですけど、いま描いてるのは“ヒキコモンスター”って言って、世界征服のために博士に作られたのに、博士が大事に育てすぎて引きこもりになってしまったっていう。
サトウ かわいい!(笑) そういう物語があると、愛着を持っちゃいますね。
岡 さっき言った絵本の1ページじゃないですけど、何かストーリーがないとっていうのは思ってたので。
サトウ 全部の絵にストーリーを付けるんですか?
岡 全部にあります。ひとつの漫画や絵本を見ているような感覚で見てもらえたらいいなと。お笑い的な考えで言うと、やっぱり何か伝わってほしいんですよ。
ミストアートでバンクシー!?
岡 じゃあ、サトウさんの、これからの目標を聞かせてください。
サトウ いままで正方形のキャンバスで描くことが多かったんですけど、短歌の作品を始めてから、正方形にこだわらなくても、絵の幅はむしろ広がったかもと思っていて。なので、自分の中で決めてしまわず、いろんな規格に挑戦したいなというのはあります。活動としては、海外での展示とか、パッケージデザインをしてみたい。岡さんはどうですか?

岡 僕も、海外ではやってみたいですね。ミストアートでバンクシー的なことをするとか(笑)、ミストアートの作品展もやってみたい。いろんな絵を描くのが好きなので、キャラクターのイラストもそうですし、ほかの人がやってないようなやり方での作品展とか。あと、こういう対談をさせてもらうと、ほかの人の知識や考え方を新しく新鮮に仕入れられるので、これからもやっていきたいです。
サトウ それ、すごくわかります!
岡 とにかく、いろんな人としゃべりたいですよね。今日も、すごく楽しかったです!
個展概要
サトウナツキ個展「楽園から」
日程:2025年3月6日(木)~3月16日(日)
時間:13:00~18:00
定休:毎週火曜・水曜
会場:LAUGH & PEACE ART GALLERY
入場無料・予約不要
詳細はこちらから。