沖縄県八重山郡の町、与那国町の地域発信型映画『かでぃんま』の完成を記念した上映会&沖縄出身監督によるトークイベントが、3月4日(火)に東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開催されました。登壇したのは、与那国島出身で本作の脚本も務めた東盛あいか監督、主演の俳優・カトウシンスケ。そして沖縄出身つながりで、ガレッジセール・ゴリこと照屋年之監督、平一紘監督も登場! 沖縄で映画を撮る魅力や独自の文化を語り、感動と笑いがあふれるイベントとなりました。

与那国に生きる父子と馬を描く
『かでぃんま』は、沖縄県の「フィルムツーリズム推進事業」の一環で、地元の魅力を発信する「地域発信型映画」の企画募集で選ばれた作品。東盛監督が、故郷である日本最西端の地・沖縄県与那国町を舞台に映画を撮るのは、ぴあフィルムフェスティバル2021でグランプリを受賞した『ばちらぬん』に続き2作目です。
亡き妻・カヨの故郷である与那国で与那国馬を育てるタケシと、それを手伝う息子の潤寧(じゅんねい)。父のように馬と意思疎通ができないことに悩む潤寧が、あるできごとをきっかけに、幼いころに亡くなった母・カヨの温もりに触れ、成長していく物語です。与那国の言葉や文化を織り交ぜながら、与那国に生きる父子と馬の姿が優しくあたたかな視点で描かれています。
上映後、与那国の風が吹き抜けたような場内に大きな拍手が巻き起こるなか、まずは東盛監督と主演のカトウが登壇しました。

「この映画、ハプニングしかなくて…」
今回の撮影で初めて与那国島を訪れたというカトウ。撮影は短期間で行ったそうで、カトウが「(与那国)空港に着いて、45分後くらいには赤ちゃんを抱いていました」と明かすと、「この映画、ハプニングしかなくて……」と東盛監督が切り出しました。
「主演予定の子が撮影2日目で高熱を出したんですよ。途中、潤寧と一緒に横笛を吹いていた坊主頭の子がいたでしょう。本当は彼が主演予定だったんです」と驚きのウラ話を語り、会場をどよめかせました。
この日、東盛監督が着ていたのは、与那国の伝統織物「ドゥタティ」でつくられた衣装。劇中で、地元の女性たちがこの衣装を着て、豊作を祈り踊るシーンはとても印象的です。東盛監督は、このシーンに込めたこだわりをこう語りました。

「(劇中で踊る)彼女たちが普通の世界線に存在しているというのも、私のこだわりでした。幽霊とか(架空の存在)ではなく、そこに存在していることは特別でもおかしなことでもなくて、上の世代の方々が暮らしの中で培ってきたものが、長い時間を経て、いま私たちのもとにあるということを大切にしてきました。その想いを彼女たちに反映しているんです」
ここでゲストとして照屋監督と、同じく沖縄出身の平一紘監督が登場。照屋監督はさっそく、「僕がちょこっと出ていたのに気付きましたか? いまは髪が伸びてしまったのですが、坊主頭で、横笛を吹いて、すぐに熱を出しちゃったんですけど」とボケて笑わせました。

与那国は“アジアの入口”
平監督は沖縄市出身で現在も市内に在住。短編作品『おかあの羽衣』では、照屋監督を役者として起用しました。MCのガレッジセール・川田から「沖縄の魅力は?」と問われた平監督は、こう語ります。
「『かでぃんま』を観て改めて思いましたが、文化や人にたくさん魅力があって、とくに東盛監督の作品は当事者としての目線が強いなと」
一方、照屋監督は沖縄特有の文化“模合(もあい)”を挙げながら、こう語りました。
「“模合”という助け合いの文化があって、月に1回、仲間同士で集まっておカネを出し合い、『今月はうちがもらうね』って、集まったおカネを順番にもらうんですよ。でも、ときどきそのおカネを持って遠くへ逃げるヤツがいて……“模合泥棒”っていうんですけどね。そういうのがたまに出るのが、沖縄のいいところです」
これに川田がすかさず「何の話をしているんだよ。時間返せ!」とツッコむと、照屋監督は「“時間泥棒”です」としっかりオチをつけて笑わせました。

そんな空気のなか、東盛監督は真面目に沖縄への思いを語りました。
「私は、沖縄独自の言葉も文化も世界に通じるものだと思うんです。与那国は“日本の最西端”と言われるけれど、私は“アジアの入口”とだ思っていて、ここから世界へつながる可能性も秘めていると思っています」
浅野忠信の困ったエピソードも
ここで、絶賛公開中の照屋監督最新作『かなさんどー』と、平監督が共同監督をした最新作『STEP OUT にーにーのニライカナイ』、そして監督作品『木の上の軍隊』の予告が上映されると、シークレットゲストとして『かなさんどー』主演の松田るかが登場!
松田は、照屋組の現場を「かなさし(沖縄の方言で“愛おしい”の意味)現場でした」と振り返りながら、父親役の浅野忠信の困ったエピソードも暴露します。
「浅野さんが、沖縄が大好きというのは聞いていたんですけど、余命いくばくもないという役どころなのに、元気に泳ぎにいっちゃうんです!」

一方、6月に公開予定の平監督作品『木の上の軍隊』は、終戦に気づかないまま木の上で生き抜いた2人の日本兵の実話に着想を得た井上ひさし原案の同名舞台を映画化したもので、川田も共演しています。「熱い現場でしたね」という川田に、平監督はこう応えました。
「僕が撮りたかったもの、やりたかったことが詰まった夢のような1カ月でした。生き残った方たちのご家族などに取材を重ねるなかで、これが実話であるという強固な土台に支えられている作品なんだと感じたり、木の上だけというシチュエーションをどう撮るか、みんなで工夫するのも楽しかったですね。早く皆さまにお届けしたいです」
「沖縄のさまざまな側面を見届けてほしい」
最後に、カトウは観客に向けて「地元の人たちの空気がスクリーンを通して感じてもらえたら嬉しいです。日本に限らず、世界に届いて与那国を知ってもらえたら」と挨拶。

東盛監督は与那国の言葉で挨拶をしたあと、こう語ってイベントを締めくくりました。
「こんなふうに与那国の言葉ってわからないじゃないですか。でも、それが現実です。私は与那国の出身だけど、沖縄の島々には詳しくない。映画はそれを知るきっかけになると思うんです。これからもたくさんの沖縄映画が生まれると思うので、沖縄のさまざまな側面を見届けてほしいし、ぜひ、与那国島へ遊びに来てください!」