落語家の桂文枝が、82歳の誕生日である7月16日(水)に大阪・なんばグランド花月で独演会を開催しました。「サニーからハニーへ!『桂文枝 華麗なる独演会』」と題された独演会には、ゲストとして桂南光、桂米團治、さらには弟子の桂三実が登場。自身の落語では、生成AI(人工知能)による映像も使って“落語の新しい見せ方”を披露しました。

文枝とゲストが珠玉のネタを披露
開演前、スーツ姿の文枝が幕前に登場すると、観客は盛大な拍手やかけ声で誕生日を祝います。文枝は、この日のために人間ドックに行ったエピソードを明かして健康をアピール。ここで西川ヘレンがお祝いにかけつけ、花束を贈呈しました。

開口一番を務めたのは、6月に行われた『第11回上方落語若手噺家グランプリ』で準優勝となった三実です。ネタは自身の創作落語「あの人どこ行くの?」。小学生の男と子と女の子による電車内の会話を、ときに鋭い考察も入れながら朗らかに繰り広げ、会場を温めました。

続いては1人目のゲストの米團治です。「おめでたい会に呼ばれて嬉しい」と笑顔を見せた米團治は、「レビュー好き」だという文枝のためにュージカルの楽曲を朗々と歌い上げました。
この日のネタは「稽古屋」。米團治は踊りの稽古の様子を活写して、まるで登場人物が目の前にいるかのように、噺の世界観を生き生きと立ち上げました。

そして文枝が登場。ネタは「Mango」です。大阪にいる次女と三女が東京に住む長女のお見舞いに向かいます。長女が入院に至った顛末や、お見舞いにマンゴーを選んだ理由などを、姉妹ならではの遠慮のない会話で繰り広げて、客席は大笑いでした。

45年前の創作落語をアップデート!
中入り後は2人目のゲスト、南光から始まりました。米朝事務所に所属する南光は、「われわれはNGK(なんばグランド花月)に出ることがないので嬉しいです」と挨拶。そして「(落語の)各一門には色がある」と米朝事務所の特色などを上げ、師匠である三代目米朝の思い出話も披露します。
ネタはこの季節にぴったりの「青菜」です。大きな家の旦那と妻の風流なやり取りを、自分の妻を巻き込んで一間しかない長屋で再現しようとする植木屋。むせるような暑さも感じさせる臨場感で沸かせました。

改めてトリで登場した文枝は「生中継・源平」を披露します。これは、いまから45年前、桂三枝時代の創作落語で、那須与一が船上の扇を射る場面で知られる「屋島の戦い」の様子をテレビの生中継風にレポートするというもの。実況と解説のやり取りや、源平の陣幕の様子を面白おかしく描きます。
さらに、今回は生成AIを使って制作した映像を演出に取り入れ、物語の世界観を視覚的に表現。文枝は最後に、大ヒットしている映画になぞらえてこう宣言しました。
「これからも、こういった新しいことにもチャレンジしていきたいと思います。そして目指すのは“国宝”です」

「新しい形の落語の見せ方になるのでは」
文枝は開演前の囲み取材でこう話していました。
「80歳になってからは、みんなに“長生きしてくださいね”と言われるようになりました。そういう年になったんやなぁと思いますが、桂米丸師匠は99歳まで生きられましたし、巷では新作派は長生きすると聞いております。それを信じて、これからも新しいものを作って頑張っていきたいと思います」
また、この日の「生中継・源平」で使った生成AIを使った映像について、こう説明しました。
「新しい形の落語の見せ方になるのではないかなと思います。今回はその先駆けです。また、創作落語をお芝居にするとか、AIと組むとか、落語でもいろんなことを試していきたいなと思います。82歳でそんなことやっていることが、若い人の刺激になればありがたいなと思っております」

文枝の目標は創作落語を500席作ること。その目標に向けて次のように宣言しました。
「そのためにも、10年先ぐらいを見据えてやっているのですが、寿命は神様が決めることですから、自分がやりたいと言ってもこればかりはわかりません。でも、できるだけ健康には気をつけて、甘いものをあまり摂らないとか、食事のバランスに気をつけています。僕よりひと回り上の大村崑先生を目指して頑張りたいです」