劇作家の“大王”こと後藤ひろひとの名作『姫が愛したダニ小僧』が、2026年1月9日(金)~18日(日)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティでリバイバル上演されます。今回は、主演を務める紅ゆずるをはじめ、大阪にゆかりのある俳優たちを中心とした配役で、男性ブランコ(平井まさあき、浦井のりひろ)も出演します。約30年前の作品ながら、「いまの世の中にすごく当てはまる」というその内容とは――。12月11日(木)に都内で実施された公開稽古で出演者たちの声を聞きました。

“時空を超えたへんてこなラブストーリー”が2回目の再演
『姫が愛したダニ小僧』は、後藤が参加する演劇ユニット「Piper」によって1998年に上演された不朽の名作。今回の公演は、文化芸術の魅力発信を強化するために「大阪国際文化芸術プロジェクト」の一環として、2005年の再演から21年ぶりの再再演となります。紅と男性ブランコの2人は、後藤の作・演出で2月に上演された大阪国際文化芸術プロジェクト『FOLKER』に続いての出演です。
そのストーリーは――。老人介護施設を訪れた夫婦が、自らを「すみれ姫」と名乗る老婆と出会います。そしてその老婆の「若き日に恋した『ダニ小僧』に会いたい」という願いに押し切られ、たわ言に付き合うつもりで施設から連れ出すと、不思議でおかしな世界が次々と展開して……という摩訶不思議な内容。現実と幻想が入り混じっていく、時空を超えたへんてこなラブストーリーが観客を引き込みます。

■大阪のように“発展しながらもハートは変わらない”
この日の稽古では後藤、紅のほか、水田航生、松井愛莉、山崎真実、男性ブランコの平井と浦井が参加し、プロローグのシーンが公開されました。和気あいあいとした雰囲気のなか、関西弁混じりの軽快なコミュニケーションで、早くもカンパニーのチームワークのよさを伺わせます。
その後の囲み取材で、出演者たちが作品や個性豊かなキャラクターたちの魅力を語りました。
作・演出を務める後藤は、大阪国際文化芸術プロジェクトにこの作品を選んだ理由をこう語りました。
「本作は1998年に、大阪という土地のように“発展しながらもハートは変わらない”という話をやりたくて書いた台本でした。今年は大阪・関西万博も開催され、大阪はものすごく変わっているんですが、そのなかでも変わらないものがあるなら、この作品を上演する価値があるなと思いました。毎日稽古してみると、いまだから伝わる部分もあるし、変わらないものはやっぱり変わらない。なので、いまの大阪で見てくれるお客さんには、きっといろいろなものが伝わっていくと思います」

1人の女性の成長物語として深みが増していったら
紅が演じる「すみれ姫」は、話が進むにつれてある変化を遂げていきます。
「最初は老婆なんですが、老婆の中で成長していくというか、現代の方々の新しいものを吸収しながら、ちょっと頼もしい気持ちになったり……。そういう変化を見せていきたいです。ダニ小僧を愛する1人の女性としての成長物語として、深みが増していったらいいなと思っています」
水田は、すみれ姫と出会ってから次々と起こる不思議なできごとをなかなか受け入れられない“祐一”役。
「後藤さんに言われたことで、“遊園地にいやいや連れていかれた夫が、いつの間にか楽しくなっちゃって、帰ってきてから奥さん以上に遊園地の話をしちゃってる”っていう話がすごく印象に残っていて。空想を否定していた人間こそが、最後までその世界にどっぷりと浸かってしまっている、そのさまがとてもリアルに感じられました」

「今回の芝居はPiperと男性ブランコの対決だ!」
男性ブランコ・浦井は、絶望の果てに建物から身を投げようとしている自殺志願の“飯田”役。
「言っていいのかわからないんですけど、僕、ほとんど建物の上から出ないんですよ。そこから物語を俯瞰で見ているような、お客さんにいちばん近い役なのかなと思っているので、お客さんの気持ちに寄り添えるような芝居を心がけています。“大王”(後藤)とずっとおしゃべりするので、もう1本別の演劇が走っているくらいの存在感が出せたらなと思っています」

相方の平井が演じるのは、すみれ姫を捕らえるために雇われた悪党“ねじ武史”です。
「“ねじ武史”は2月の『FOLKER』でも演じた役です。『FOLKER』では1つ挑戦があって、踊ったことがないのにダンスに挑戦して、見事勝利を収めたんですね。今回も挑戦を見つけまして、それが腹筋善之介さんとのバトル。大王と腹筋さんは『Piper』なので、男性ブランコとPiper の対決なんです。腹筋さんとバトルのシーンもあるので、絶対に勝ちたいと思います! 2連勝です」そんななか、相方の浦井はか細い声で「巻き込まないでよ……」とつぶやき、後藤が「無理やな」と断言すると、現場は笑いに包まれました。
「ほぼ関西人なので、ノリがすごくいい」
また今回のカンパニーについて、紅がこう語りました。
「非常に個性豊かで、ほぼ関西人なので、ノリがすごくいいのと、役者自身の距離感が近くて、楽しく穏やかな空気が流れているんですけど……やる時はやります!(笑) サポート力もある素晴らしい皆さんとご一緒できて、とても嬉しく思っています」(紅)

一方、後藤は改めて今回の公演への思いをこう語りました。
「不思議なもので、1998年に書いたものなのに、いまの世の中にすごく当てはまることがあるんです。過労による自死の話とか、ジェンダー的な話とか、ルッキズムの話とか、介護の現場でのおかしなニュースも多いじゃないですか。問題意識もあるけれど、全体的にはコメディのファンタジーなので、お子さんが見ても絶対に楽しんでいただけるだろうなと思っています」
『姫が愛したダニ小僧』公式サイト:https://www.himedani.com/
FANYチケット:https://ticket.fany.lol/event/detail/7307
