『R-1グランプリ2021』ファイナリストのピン芸人・kento fukayaプロデュースによる企画ライブシリーズ『kento fukaya presents』。大阪・よしもと漫才劇場で不定期開催されているこのライブがいま、驚異的な枚数のチケットを売り上げ、Twitterでトレンド入りするなど大反響を呼んでいます。『非TikToker」『まきのちゃん』『骨折-1グランプリ〜早く病院に行って〜』など、タイトルからは内容がまったく想像できないこれらのライブはいったい……!? 企画誕生の経緯や今後の展開を本人に聞きました。
これまで5回開催「キモ企画」
これまでに開催された『kento fukaya presents』の企画ライブは5つ。どれも、ネットを中心にじわじわと人気を広げてきました。
第1弾『非TikToker』(2021年5月29日開催)
第2弾『まきのちゃん』(2021年8月8日開催)
第3弾『非TikToker season summer』(2021年8月25日開催)
第4弾『骨折-1グランプリ~早く病院に行って~』(2021年11月17日開催)
第5弾『非TikToker season autumn~期末テスト編~』(2021年11月24日開催)
『非TikToker』は、スーズ・高見がTikTokのアカウントを持っていながら、「フォロー0・フォロワー0」状態だったことから生まれた言葉で、そこから派生して、言葉や現象のアタマに「非」をつけて、逆の意味の“新たな言葉”を生み出していくライブ企画です。
『まきのちゃん』は、ライブ出演者のだれも面識がないNSC(吉本総合芸能学院)東京22期(2016年)の51歳の後輩おじさんピン芸人「まきのちゃん」のプロフィールをクイズ形式で当てる、という企画。誰も知らない“おじさん”のプロフィールをみんなで考えていくところに、だんだんと面白味が生まれてきて――。
『骨折-1グランプリ』は、ゲスト出演の芸人の“骨折”写真を見ながら、それが「骨折しているか、いないか」を看護師でもある天才ピアニスト・ますみと一緒にツッコんでいく企画。
ファンたちも、そしてkento fukaya本人も「キモ企画」と呼ぶこのライブシリーズ、どれも文字で説明されてもなんのことやら……という内容ですが、とにかく楽屋ノリをそのままライブ空間に持ってきたような、ネット時代ならでは“新しい笑い”を生んでいます。
「企画ライブ」ができるのはR-1のおかげ
──『kento fukaya presents』の記念すべき第1弾、『非TikToker』のライブは2021年5月に開催されました。企画が誕生した経緯を聞かせてください。
高見の写真を見て、ふと「こいつ、“非TikToker”だな」と思ってTwitterでつぶやいたんですよ。そしたらダブルヒガシ・大東(翔生)が反応して笑ってくれて。そこで「1回、3人で話し合うか」みたいな感じでYouTube(公式チャンネル『kento fukaya CH』)に持っていったんです。
そのあと、このノリをロングコートダディ・堂前(透)さん企画のライブ『ネコちゃん大特訓!』のリハのときにやってたら、近くにいた(ニッポンの社長の)辻さんと(ロングコートダディの)兎さんがめちゃめちゃ盛り上がってくれて、一緒にやろうということに。ロングさんとニッポンの社長さんはすごく尊敬してるし、一緒にやっていきたいと思ってるので、この人たちと何かやれたらなと思って(ライブを)打ったっていうのもあるんですけど。
──SNS、YouTubeを経てライブ開催とは、まさにイマドキな流れですね。
当時、緊急事態宣言で21時以降のライブが無観客・配信のみになってしまい、劇場のスケジュールがガラ空きだったんですよ。そこで「枠が空いてるなら変なことをしたい」と支配人に言ってみたら、「意味がわからなすぎる」と断られて(笑)。もう一度頼んで、ようやくやらせてもらえることになりました。
──そうだったんですね。
最初は得体が知れなさすぎて30枚しかチケットが売れなかったんですが、ほんとに演者全員、楽しすぎて。お客さんや芸人が拡散してくれたおかげで、見逃し配信が異例の575枚売れたんですね。配信チケットが売れるライブというと、見取り図さん、ロングコートダディさん、ニッポンの社長さん、コウテイとかなんですが、そこに『非TikToker』が入ってるのがまた痛快で、芸人界隈がざわつきました。
──チケットの売れ方もイマドキです(笑)。
僕はずっと、高校生のときに教室の隅で男子だけがキャッキャして女子から冷たい視線を投げられてる、みたいな笑いが好きで。それを形にしたのが『非TikToker』なんです。高校時代なら笑ってそこで終わってたものを、大人になったいま、どうにかしてみんなに伝えようとしてる。このシリーズを始めて、青春がもう1回来てるなって思います。
そして、これをやれてるのは、やっぱりR-1決勝に行けたからだっていうのがありまして。変なことやってても。「こいつ、R-1の決勝行ってんな」ってことで、ちょっと安心感が湧くというか(笑)。行ってなかったら、ただの悪ノリで終わっちゃうんですけど、「ネタもしっかりやってるのに変なことやってる」っていうのが説得力になってるかなと。なので、決勝に行けたことが本当にうれしかったです。
映画出演で海外映画祭にも
──ここで kento さん自身のことを聞きたいんですが、自分の芸風を一言で表現すると?
毒づいたり偏見とかも言ったりするんですけど、いちばんのテーマは「人を傷つけない」。全員が幸せになって帰れるような感じにしたいので、“平和ボーイ”でしょうか(笑)。
──ふだんのフリップネタは、どんなきっかけで始めたんですか?
相方が飛んでしまったので、「とりあえずピンやるか」と。で、絵が好きだったので描き始めたんですけど、今日までなにもうまくなってなくて(笑)。ただ、人の特徴をつかむのが意外に得意だったから、ピンでフリップやれてるっていうのもありますね。
──SNSでやっている“さえない似顔絵”シリーズも人気ですよね。
いまは自ら描くのはやめて、オファーがあれば描くという形にしてるんですが、ニノさん(二宮和也)、観月ありささん、西川きよし師匠、今田耕司さんとかにもつながって。顔をデフォルメして描くっていうのは、時代に100%逆行してるんですが(笑)、1枚1枚にめっちゃ愛情を注いでるので、叩かれたことは一度もないです。たとえばニノさんだったら、メンバーの名前が付いてるネックレスを描いたりとか。それでファンの方も「この人、ほんとにこだわってるんだな」ってわかってくれたんだと思います。
“さえない似顔絵”シリーズはこちら
──芸人になろうと思ったのはいつごろだったんですか?
高校生ぐらいかな? 深夜にNHKでやってた『爆笑オンエアバトル』を見て、「芸人さんっておもしろいな」と。そこからいろんなネタを見るようになったのと、あとはさまぁ〜ず(大竹一樹、三村マサカズ)さん。あのゆるい感じが好きでずっと見てて、いつの間にかぼんやりと「芸人になれたらな」と思ってました。
でも、親から「大学は行ってくれ」と言われまして……。じゃあ京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)に映画学科があるから、そこで演技を学ぼうと思ったんです。演技ってお笑いに近いところもあるし、そこでちょっと雰囲気つかもうかなって。
──NSC(吉本総合芸能学院)大阪に入学したのは?
大学3回生のときですね。(NSC)在学中、最初の相方が飛んだあと、別の人とコンビを組んだりしたんですが、いろいろあって「お笑いは無理だな」と思ってたところ、映画学科で(山本起也)監督から「映画に出ないか」と誘ってもらって。『カミハテ商店』っていう作品で、主演が高橋恵子さん、僕は準主役。
その映画がチェコの映画祭(カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭)で上映されてレッドカーペットを歩いたら、SNSなんかでそれを見た同期の芸人たちが「こいつ、NSCなのになんでレッドカーペット歩いてるんだ」っておもしろがってくれて(笑)。「あ、変なことやってたらおもしろいって思ってもらえる」と思ったので、もう一度、お笑いをやろうと復活した感じですね。
──ピン芸の魅力はどんなところにあると感じていますか?
やっぱりコンビとかだと、どっちがミスしたとか、遅刻とか、ネタ考えてこないとか、そういうストレスが絶対あると思うんですね。でも、ピンはやらなかったら自分が悪いだけですし、ウケたときは自分が100%やってるんで、ストレスがない。そこがいちばんのメリットかなって。
──その反面、大変な部分もあるのでは?
めちゃめちゃあります。もし生まれ変わったら、絶対にピンはやらないです(笑)。
YouTubeは“トリセツ”の場
──『骨折-1グランプリ』は1枚の写真から始まったんですよね。
紅しょうが・稲田(美紀)の、明らかにモロ折れてるなっていう(骨折しているように見える)写真がありまして。で、Twitterで画像を載せてツッコんだら反応がよかった。まわりも「いや、折れてるやん」ってなったので、じゃあライブにしよう、という流れです。これもほんとに意味がわからなすぎるので、まずYouTubeに持っていきました。
それ以前に『まきのちゃん』のイベントをやるとき、堂前さんに相談したら「めっちゃオモロいけど、意味がわからなすぎるから、『非TikToker』みたいに、まずはYouTubeとかでやったほうがいいんじゃない?」って言われたんです。そこで、ロングさんとニッポンの社長さんに協力してもらって、YouTube動画を撮影して。それがあることによって『まきのちゃん』もわかりやすくなってチケットが売れたと思うので、ここでも“トリセツ”(取扱説明書)を作りました。
あと『骨折-1グランプリ』に関しては、自分のなかでちょっと違う思いもありまして。『非TikToker』も『まきのちゃん』も、仲いい人たちだけで固めてやってたんですね。だから、その人たち目当てで(チケットを)買ってくれてるんじゃないかなっていう……そう思う人もいるかなと思ったんで、『骨折-1グランプリ』は、仲いいですけどまた違うメンツでやってみました。
──最終的にチケットは1238枚売れたそうですね。
はい、ありがたいことに。そういえば、滝音の秋定(遼太郎)も出てくれたんですけど、親が本当の賞レースだと思って(配信チケットを)買ったらしくて(笑)。そしたら息子がずっと「折れてる」「折れてない」とか言われてて、「あれはなんだったん?」と(笑)。動画やポスターもガチの賞レースの感じを出してやってたので、まんまとひっかかってくれたなと、すごくうれしかったです(笑)。
──ちなみに、一連のライブが別名“キモ企画”と呼ばれていることについては……。
僕は正統派の企画だと思ってるんですけど、まわりはそう言うんですよね。でも、“悪いキモ”じゃないです。陰で言われるんじゃなく、「何してるんですか、キモいですよ〜」と明るく言われるみたいな……“好意的なキモ”ですね(笑)。
次の企画はアイドルオーディション!?
──ここまでの話から、“非TikToker”というワードにいち早く反応した大東さんもキーマンの1人なのかなと感じました。
それはありますね。この企画にとって、なくてはならない存在というか。大東はニュアンスをすべて汲み取ってくれるよき理解者ですし、たくさん笑ってくれるいい後輩です(笑)。
あと、すべてのライブに皆勤賞なのが(ビスケットブラザーズ・)きんちゃんなんですよ。きんちゃんは、大東とはまた違う能力があって、ボケにも行くしツッコミもできるし、まわりの空気を読んで『非TikToker』の説明をしてくれたりとか。わけわからない企画すぎるんで、そういう説明とか、うまく空気を読める人が絶対に必要。きんちゃんがいてくれるから成り立ってると思ってます。もちろん、出てくれてる人は全員信頼してます。
──企画を進めていくうえで、心がけていることは?
さっきも言いましたが、わけのわからないイベントだからこそ、初見の人も楽しめるようにっていうのを心がけてます。あと“kento fukaya presents”って言ってるので、誰か任せじゃなく、自分のウエイトがいちばんキツくなるようにはしてます。
──今後の展望を教えてください。
いまはR-1に向けてネタをがんばって、4月ぐらいから(企画ライブを)復活させようと思ってます。(オーディション番組の)「Nizi Project」的な企画をこっそり進めてまして……高見を中心としたアイドルグループをデビューさせる大型プロジェクトです。
いまトレーニングの様子とかを追うドキュメンタリーを制作中なんですが、もし高見が天狗になったり、歌唱力が低かったりしたら余裕で落とします(笑)。高見以外のメンバーが誰になるのかにも注目してください。
──kentoさんもメンバーである「Berry Better!!」(ヘンダーソン・中村フーがプロデュースする音感・リズム感がない芸人を集めたユニット)と全面戦争になりそうですね。
僕がスパイみたいな感じであっちを探りつつ、第2の「Berry Better!!」を作りたいですね(笑)。
──ほかにも温めている企画はありますか?
インスタライブで『骨折-1グランプリ』の告知をしてたときに生まれたノリなんですが、出てくれた令和喜多みな実・河野(良祐)さんが、ずっとNGK(なんばグランド花月)の廊下を歩きながらしゃべってて。退出されたあと、もう一度呼んでみたら、また廊下を歩いてたんです。そこから「河野さんが無限廊下にいる」っていうくだりが発動したので(笑)、河野さんをメインに『鬼滅の刃〜無限廊下編』みたいなのとか。
あとは、『骨折-1グランプリ』でフィーチャーされた吉田たち・ゆうへいさんの骨折写真から派生したイベントも考えてます。それと、辻さんとは『アンチマリトッツォVS.非TikToker』というコラボをやろうよ、と話してて(「アンチマリトッツォ」は令和喜多みな実・河野の発言から生まれた言葉で、辻が企画ライブにした)。2人ともそういう悪ノリが大好きなので、お互い高め合っていこう、みたいな(笑)。
──では最後に、読者へメッセージをお願いします。
ほんとに意味わからない入り口なんですけれども、入ったら非常にわかりやすいアットホームな感じを心がけてるので、まだ見たことないという方は、次のアイドル企画からぜひ見ていただけたら。特に深夜2時以降に見るのをオススメします(笑)。大人の方なら、お酒のアテにもちょうどいい。笑顔で「こいつらキモいな」って言ってもらえる内容になってると思います(笑)。
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【おじさんクイズ!~まきのちゃん~】
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