いまをときめく芸人たち……周囲から一目置かれる存在になった彼らにも、かつて「こんなふうになりたい!」という憧れの存在があったはず。そんな売れっ子芸人たちに、芸人を志したきっかけや憧れた芸人、そして芸人になるまでの道のりなどを語り尽くしてもらうインタビューシリーズがスタート! 栄えある第1回は、今年1月に『上方漫才協会大賞』を受賞したばかりのすゑひろがりず(三島達矢、南條庄助)です。
『吉本超合金』と『すんげー!ベスト10』
――「誰に憧れて芸人を目指しましたか?」。こう聞かれて、まずおふたりが思い浮かべるのは?
南條 最初に夢中になったのは、やっぱりダウンタウンさんですね。小学生のときに『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)が始まって、毎週家族で見てました。でもこれは芸人を目指すきっかけというよりは、お笑いを好きになったきっかけですかね。
三島 僕も子どものころにダウンタウンさんを見てて。そこから高校時代に『吉本超合金』(テレビ大阪=FUJIWARAと2丁拳銃のロケ番組)を見て、憧れというか「めちゃめちゃ楽しそうな、ええ仕事やな」と思ったのが最初ですかね。高校を卒業してギャンブルばっかりやっていたころ、ちょうど『M-1グランプリ』が始まって。ダウンタウンさん、FUJIWARAさん、笑い飯さんと流れるように見て、漫才に憧れるとかコントをやりたいとかじゃなく、職業として芸人に憧れたんかな。
――南條さんも『吉本超合金』は見ていましたか?
南條 高校のときは野球ばっかりしてたんで、ちらっとしか見てないんですよ。僕は中学のときに『すんげー!Best10』(ABCテレビ)という、千原兄弟さんがMCの、劇場からネタを披露する番組を見てて。そのときまでは、お笑いってテレビで見るもん、スタジオでやるもんやと思ってたのが、「劇場のお笑いというのがあるんやな」と初めて知ったんですよ。中川家さん、メッセンジャーさん、ケンドーコバヤシさん、陣内智則さん……。若い感じのお笑いに触れて、むちゃくちゃ面白くて、自分でやりたいなあと強く思ったのはそれからですね。
――じゃあ時期的には、南條さんのほうが先に「自分でもお笑いをやってみたい」と思ったわけですね。
南條 『すんげー!』は衝撃でしたねえ。ジャリズムさんもすごかった。僕、山下さん(現・インタビューマン山下)は神様くらい面白い人やと思ってたんですよ。でも芸人になってから、ほかの先輩にイジられてるのを見て、「山下さんってむっちゃカッコいい、バチッとツッコむMCタイプやと思ってたけど、違うんや」と気づきました(笑)。
すゑひろがりずが生まれなかった可能性も!?
――おふたりはNSC(吉本総合芸能学院)で出会ったわけですが、三島さんがアルバイト生活から急にNSCに入学しようとしたいちばん大きな動機は何だったんですか?
三島 それまで、親戚を頼って仕事をさせてもらったりもしたんですが全部続かず、22歳になって、このままだと将来やばいなと思って。「高校のとき、お笑いっていいなと思ってたなあ」くらいの感じで飛び込みました。
――南條さんはどうですか?
南條 『すんげー!ベスト10』を見て、やりたいとは思ってたんですよ。高校卒業のときに1回、友だちに「NSC行けへん?」と誘ったんですけど断られて、1人で行く勇気はなかったので大学に行って。お笑いやりたい気持ちと、現実的には無理かという気持ちがずっとせめぎあって、「まあ就職する前に一度は挑戦してみたほうが納得できるやろ」と就活せずにNSCに行ったんです。
三島 ……忘れてましたけど、そういえば僕、NSCに誘われて入ってるんですよ。
南條 ええ?
――そうなんですか?
三島 いま思い出しました。中学の同級生に「一緒に行けへん?」と言われて。そいつは大学に行ってて、僕はプラプラしてたから「わかった」とおカネ貯めながら大学卒業を待ってたんですよ。そしたらそいつが留年しちゃって、「そんなら俺、先に入っとくで」と。
南條 へー!
三島 そうそう。で、その子は1年後、東京のNSCに入るんですよ。すぐやめちゃって、いま、ぜんぜん違う仕事してますけど。
――もし三島さんがその人をもう1年待っていたら、南條さんとも組んでいないし、いまのようにはなっていないんですね。
三島 東京の1年後輩で入ってた可能性ありますね(笑)
こだわりがなかったから、この形になった
――最初におふたりが憧れたり、お笑いっていいなと思った人たちと、ご自身のいまの芸風はまったく違うものになっているように思えます。
三島 違いますねえ(笑)。特に「絶対コントで」とか「漫才で」とかこだわりのない2人が組んだから、こんなスタイルになっているんやと思いますね。
南條 うん、ないですね。
三島 いろんなお笑いを見て、1回やってみよう、よかったら取り入れよう、あかんかったらやめようと何ごとにもこだわりがなかったのが、いまとなっては意外とよかった……。いいかどうかわかりませんが。
南條 いや、いいと思う。このスタイルのなかでも、初期からだいぶ変化してるんですよ。いろんなことして、和風というのだけ残して、かたちもだいぶ変わっているので。いまはもう、着物着てるだけくらいの気持ちになってるときもあるくらい。でもそうやって変化していくのもいいんかなと思います。
――結果として、上方漫才協会大賞を獲得したわけですもんね。
三島 いや、ほんとですよ、もう。
南條 こうやって変わってきたことが、正解やったんかもしれないですね。
――大賞をとっても漫才は今後も変化していく?
南條 はい。まだ何が正解かもわからないし、形も決まらないし。これからも変わっていくと思います。
出てみてわかった「テレビは団体芸だ!」
――芸人として活動するようになってから、劇場で出会って憧れた人や、テレビで活躍するようになってからそのすごさに気づいた人はいますか?
三島 僕は、テレビに出させてもらうようになって「テレビって団体芸なんだな」とむっちゃ感じるようになりました。それこそFUJIWARAの藤本(敏史)さんが、めちゃくちゃ裏で目配せしてくれるんですよ。オンエアにはのってない、裏のパスがめっちゃ来る。合図がきて、促されるままにシュートを打ってウケても、実はほとんど藤本さんの手柄で、僕がゴールだけ決めさせてもらってる状態なんです。目線って、ほんま大事なんですよね。MCの人がパッと見渡してきたときに、自分に言えることがあったら見返す、そしたら目が合って「三島、これは和風でなんていうの」と振ってもらえたりする。そういう細かい技術がたくさんあるんだなというのは、テレビに出させてもらって知りました。
――視聴者に見えていないところで、そんなことが行われているんですね。
三島 すごいです。活躍されてる方は、自分がどうこうじゃなく、番組全体を盛り上げるように動いてるんだなというのをめっちゃ感じました。
――南條さんはどうですか?
南條 僕はずっと劇場コンプレックスみたいなものがあったんですよ。特に大阪時代は(劇場に)所属できない時期も長かったし、劇場のお笑いに憧れて芸人になったはずが、まったくそれができない若手時代やった。だから当時の劇場「baseよしもと」(1999年9月~2010年12月)とか「5upよしもと」(2011年1月~2014年11月)の上のほうの人たちには、いまだに会うとめちゃくちゃ緊張しますねえ。入りたてのころやったら、千鳥さん、笑い飯さん、もう少しあとだとジャルジャルさん、かまいたちさん……。そういう皆さんに会うと、「あんとき全然あかんかったな」という記憶がフラッシュバックしてしまって。
――テレビなどで共演しても緊張しますか?
南條 必要以上に声が大きくなったり、汗かいたりしちゃいますねえ(笑)
憧れの人に「おもんない」と思われたくない
――たとえば麒麟・川島明さんはどうですか? おふたりも時々出演する『ラヴィット!』(TBS系)のスタジオで、たびたびやり取りがあると思いますが。
南條 川島さんは、緊張させないようにしてくださるんですよ。「いまここ!」とスポットライトを浴びているのとはちょっとズレたところで、小声でジャブのようにずっとツッコんでくれる。それで「あ、川島さん、いまの俺の言葉拾ってくれた」とホッとさせられるんです。たぶんあえてこちらが安心するように、細かいところをすくってくれてるんだと思うんですけど。やさしいんですよ。
三島 そうや、川島さんは憧れの存在です。いちばんの憧れかもしれん。
南條 MCも大喜利も、ぜんぶすごいもんな。
――三島さんは、かつて大喜利で川島さんと対戦したことがあるんですよね?
三島 はい、NSC在学中に一度、戦わせてもらったことがあって。ボッコボコにやられましたけど、そのことを覚えていてくださって……。僕にとって川島さんは、すごくお近づきになりたいけど、気軽に喋りかけることができない人。川島さんにおもんないやつと思われたくないという気持ちがものすごく働いちゃう。そうや、僕、憧れの芸人は川島さんですわ。
南條 あれ、藤本さんは?(笑)
三島 もちろんFUIJWARAさんを見て育ってきて、テレビで助けてもらってご恩もあるんですけど、ここは川島さんにしときます!
南條 あはははは!
三島 カッコよすぎるんですよねえ、川島さん。
――では、三島さんの「憧れの芸人」は川島さん、ということで。ライブでも、大喜利を頑張りたいと話してましたね。
三島 はい。僕も頑張って、また川島さんと戦える日がきたら最高ですね。
――南條さんは、どなたか改めて挙げるとしたら?
南條 やっぱりジャリズムさんじゃないですか。10代のころにガシッとつかまれた感じはあります。
――そういえば、先ほど言っていた山下さんの“まわりからイジられる感じ”は、ちょっと南條さんも通じるところがあるような……。
南條 ああ、そう言われたらほんまですね。山下さんの感じを無意識にやってるのかもしれないですね。じゃあ、(山下と同じように)「うどん屋」やろうかな。
三島 大宮にもできてたもんな(笑)