「絶対にネタから降りない」ノブコブ徳井が同期への23年間の想いを込める

敗北からの芸人論

平成ノブシコブシ徳井が独自の目線で芸人やお笑いを考察した書籍「敗北からの芸人論」。FANYマガジンでは発売を記念して、考察された側の芸人のアンサーコメントと共に本編を掲載します!

平成ノブシコブシ徳井が独自の目線で芸人やお笑いを考察した書籍「敗北からの芸人論」。FANYマガジンでは発売を記念して、考察された側の芸人のアンサーコメントと共に本編を掲載します!

出典: FANY マガジン
出典: 吉本興業、新潮社、FANY マガジン

平成ノブシコブシの徳井健太が2月28日に自身の連載をまとめ、加筆した新刊「敗北からの芸人論」(新潮社)を発売します。21組の芸人の生き様を、愛情あふれる熱いまなざしでつづった一冊です。

FANYマガジンでは発売を記念して、この作品の中から3組の芸人についての章を抜粋して短期連載いたします。まずは同期で苦楽をともにした5GAP。5GAPの二人からは徳井へのアンサーコメントが届いています。

トモ
「芸人青春時代に本当によく一緒にいましたね〜思い出しますね、海プロライブの時に僕が心折れてしまった時も説教もされましたし、僕の相方の結婚式スピーチのグズグスの時も説教されましたし、僕のやらかしがいっぱいあるんですけど、昔から徳井という男は、沢山の愛のある言葉くれるんですよね。あと、、金無くて実は大五郎の中にいいちこもMIXしてたんですよ〜あの時記憶飛ぶほどの悪酔いさしてごめんなさいね。」

クボケン
「徳井先生、御出版おめでとうございます。
先生といえば、ボートレース・パチスロ・酒・真の破天荒・腐り・考察という6つの才能の持ち主でしたが、今回新たに執筆が加わり7色に。今思えば22年前、NSCの講師から『ニジマス』と呼ばれていた理由がハッキリと分かります。
これからもその7色の光で、先生に2000円を渋った大馬鹿者をお導き下さいませ。」

出典: FANY マガジン
©吉本興業

それでは、本編をお楽しみください。


芸歴23年、ラストチャンスでブレイク中
5GAP

ようやくチャンスを迎えた同期

芸歴23年目、吉本興業東京NSC5期生、5GAP。クボケンとトモのコンビで僕らの同期が今、空前のブームだ。
さすがに「空前のブーム」は言い過ぎか。でもそうなる可能性が出てきたし、そうなるように願っている。
同じ同期でも、大阪NSCのキングコングやダイアンのような大阪と東京の違いもない。
圧倒的な実力でスターになったピースのように、劣等感を覚える間柄でもない。長いこと泥水を湯煎しては一緒に飲み交わしていたような仲間だ。だから気を使わないで書く。
何かを書くことで、彼らにとってそれが微風でも追い風になればと思って書く。向かい風になったらごめん。でも、書いてあげたいし、書きたい。
なぜなら、厳しい言い方かもしれないけれど、5GAPにとっていまが最後のチャンスだと思っているからだ。

トップエリートだった5GAP

平成ノブシコブシと共に腐っていた若手時代。僕はどちらかと言うと、トモの方と仲が良く、相方の吉村はクボケンと同居をしていた時期もあるくらいの間柄だった。
だがこのトモ、クボケンという芸名も最近変わったもので、僕には全く馴染みがない。秋本、久保田くん、と彼らのことは呼んでいた。改名してからまだ二人には会っていないので、ある意味この原稿が初めましてだ。ナイストゥーミーチュー、トモアンドクボケン。遠い昔、そもそも5GAPはエリートだった。信じられない、そんなわけがない。いやいや事実だ。間違いなく同期の中で5GAPはエリートだった。
ピースの又吉くんと綾部、ピン芸人の三瓶と並ぶトップエリート。東京NSCの中ではいつも注目されていたし、講師たちにも認められていた。秋本は同期内のリーダーシップも取っていたように思う。
僕ら日陰の平成ノブシコブシはまだコンビも組んでいない頃に、5GAPの二人はすでにブイブイ言わせていた。

売れるための登竜門番組に出演

結成1年目、すでに5GAPはプスプスと売れるにおいを漂わせていた。そのにおいは、『新しい波8』への出演でより強くなった。
『はねるのトびら』の前身番組であり、言わばそのオーディション番組だった『新しい波8』で、キングコングもここから『はねる』出演の切符をもぎ取った。売れるための登竜門的番組『波8』に5GAPは出演していたのだ。
東京の同期で出演したのは、キシモトマイと5GAPのみ。まだピースが結成される前、綾部は「スキルトリック」というコンビで、又吉くんは「線香花火」というコンビでそれぞれボケを担当していたが、いずれも『波8』には出られていない。
ひょっとしたら自分もキングコングに、もっと言えばナインティナインさんのようになれるかもしれない。そんな一番熱い瞬間だったに違いない。
当時はまだ5GAPとは仲良くなかったので、その時の話は後に聞いた。さぞ輝かしい思い出なのかと思いきや、その記憶は彼らのブラックボックスの奥深くに仕舞われていた。

東京NSC5期生は「ピース一強時代」に

原因は、鈍色に輝く若き天才、劇団ひとりの存在だ。「スープレックス」というコンビを解散して、ピン芸人になって間もないひとりさん。一緒に出演したチャンスのはずの『波8』は、ひとりさんの独壇場だったという。
ネタ以外にもゲームやトーク、芸人としての資質も試される収録で、ビンビンのバッキバキだった劇団ひとりさんに、全部持っていかれた、と。何年か経った後でも、瞳に絶望感を浮かべながら、5GAPは語っていた。
ひとりさんは天才だ。芸人なら全員が知っている。今は落ち着いているし、余裕もある。けれど当時は、超人気番組『めちゃイケ』の姉妹番組に出られるかもしれない権利の争奪戦で、ピンになったばかりのひとりさんはところ構わず実力を振るう。5GAPのプライドはズタズタになった。
チャンスはピンチだ。巡ってきたチャンスをものに出来なかった場合、しばらくは順番待ちになる。そのあとピースが結成され、東京NSC5期生はピース一強時代に突入する。

不誠実でクズだけど、なぜか憎めない

それでも5GAPはネタを諦めなかった。
『爆笑レッドカーペット』という1分ほどのショートネタを披露する番組で、ホワイト赤マンというキャラを生み出し、プチブレイクを果たす。今でこそ『ゴッドタン』などでダサい、恥ずかしい、なんていじられてはいるが、当時は営業やライブなどに引っ張りだこで、老若男女にウケまくっていた。
その頃僕は秋本と仲良くなり一緒にギャンブルをしたり、酒を飲んだりする間柄になっていった。秋本と一緒に「海プロ」という謎の軍団をつくり、僕は参謀として率いるようにもなった。
秋本はお調子者だ。決して〝良い人〟ではない。だが、人望はある。それがなぜかは分からない。嘘つきだし、不誠実でクズだけど、なぜか憎めない。後輩からは「兄貴!」と呼ばれ、まるで神輿のように担がれていた。
「海プロ」はヨシモト∞ホールで、夏や海に関することを歌ったり踊ったりと、アイドルとお笑いを混ぜたようなお祭りをエンタメとして昇華したつもりでやっていた。そんなお祭りでも、秋本はいつも本気だった。
元々ネタを考えるのが好きな人間で、5GAPのネタも骨組みは秋本が書いている。じっくり喋れば真面目で神経質な性格だと分かる。だから僕は二人で一緒にいても安心できた。
この「海プロ」は、後輩からすればアルバイトのようなものだったろう。僕らがいくら真面目にやろうとしても、後輩はふざけ、適当だった。その度秋本は「オーライ、オーライでしょ」なんて言いながらふざける後輩を見て笑っていた。本心を隠していたと思う。
ライブの当日まで何日も集まり、何時間も打ち合わせをして考えたライブのプランだったが、後輩たちはつまらないと思ったのかもしれない。簡単に適当にあしらわれる。けれど、やっぱり秋本は怒らなかった。怒れなかった、という方が正しいのかもしれない。
僕は、その一連の流れがもどかしかったし、悲しかったし、ふざける後輩たちに内心ムカついていた。あえてピリピリとした空気を醸し出しもした。
「なんでこいつだけマジなの? 夏じゃん! 遊びじゃん!」
若手たちからそんな気配も感じたが、僕は同期の〝バカ神輿〟を守りたくて、後輩に嫌われるであろう動きを続けていた。

恩返しとして出された「4リットルの大五郎」

そんなある日、秋本が珍しく僕のことを誘ってくれた。
「いつもトクには世話になってるから、今日は恩返しさせてくんねーかな」
何とも粋なことを言ってくれる。呼ばれた通り、僕は秋本の家に向かった。当時は少しだけ僕の方が稼いでいたため、普段飲みに行くとき、僕が奢ることが多かった。
僕自身はそんなことは気にしていなかったし、どうでも良かった。けれど秋本は僕より5歳年上だ。顔や言動には出さなかったものの、本当は悔しかったのかもしれない。
秋本の家に着くと、まずは座ってくれと言われた。そして「ドン!」と、畳にボウリングの玉が落とされたような音がした。目の前には4リットルの大五郎がそそり立っている。
別に大五郎が悪いとか、そんなことは言っていない。ただ、大五郎は安い。とても安い。お酒が大好きで大好きで仕方がない、でもお金はあんまりないから、今日はこれでたらふく飲むんだ! 大五郎って名酒は、そんな庶民のための愛すべき酒だと僕は認識している。
大五郎に罪はない。それに僕は大五郎が好きだ。けれど、友人への「恩返し」には適していないと思った。しかもすでに栓が開いていた。
「今日は飲もう」
大五郎を、しかも蛇口から捻った水道水で割り、その日の記憶は溶けていった。

芸人一真面目な久保田くん

一方、久保田くんは真面目だ。僕が思うに、芸人の中で一番真面目だと思う。それはお金の面にしてもそうだし、恋愛に関してもそうだし、もちろん芸事にしてもそうだ。
僕らがまだ1年目くらいの時、僕がライブのチケット代を使い込んでしまい、精算の時に持ち合わせが足りなかったことがある。まぁ、そんなことも若いころはよくある。確か2千円か、そのくらいだったと記憶している。僕は近くに偶然いた久保田くんに2千円貸して、と言った。
「やだ」と少しも迷わずに断られた。
当時オレンジ色の髪色をしてビーチサンダルを履いていて、しかも初対面の僕に突然話しかけられても、2千円を貸さない、という返事をきっぱり言えるのは素晴らしいことだと思う。こんな僕が言えたことでは決してないが、久保田という人間は信頼できる男なんだな、とその時思った。

絶対にネタから降りない

久保田くんはコント中も、絶対にネタから降りたりしない。
ウケなかったりその場に合っていないと感じたらすぐにそのネタをやめたり、ネタにはないアドリブに逃げてしまうことが、恥ずかしながら僕らにはよくある。それは今の僕や吉村の根底を作ったと言えなくもないが、賞レースや純度の高いお笑いの舞台で、とても失礼なことを繰り返していたと思う。スベるのは、いつだってどこでだってやはり怖いのだ。
だから久保田くんには、スベったらその場で真摯に腹を斬る覚悟があるのだろう。ネタを書いている秋本にとっても、久保田くんのそういうところは信頼出来る部分で、誇らしいと思っているようだ。
志村けんさんに憧れてこの世界に入ったという久保田くん。照れ屋なコントの神様・志村さんの遺伝子はここでもしっかりと受け継がれていた。
緊張しいで真面目な久保田くんだけど、役さえあれば、どんな人間にでも変われると僕は思っている。久保田くんには、これからきっと役者の仕事も来るだろう。

腎臓の移植手術を経験

そんな5GAPに、2016年大ピンチが訪れた。久保田くんが慢性腎不全で、腎臓の移植手術をすることになったのだ。
これは僕の勝手な考察だが、お調子者の秋本は、アドリブに弱い。彼はじっくり考えて行動を起こした方が良いタイプで、だから僕はこの時秋本に、本を書けと言った。
久保田くんの移植手術は、若くはない実の父親の腎臓を一つもらうものだった。結果、久保田くんは蘇ったのだが、手術や入院となったときは、もはやどうなるか分からないのが本当のところだった。
5GAPはその間4か月、活動を休止した。
残酷なことかもしれないけれど、僕は、久保田くんの今、秋本が思うことなどを、日記形式でも良いからできるだけリアルに書き留めた方が良いと秋本に伝えた。何かのきっかけで、映画やドラマになる可能性だってある。しかも、秋本ならそれが書けると思った。脚色なんかしなくていい、今は一日一文でも良いから何かその時に思ったことを書け、と。
仕事がないのを久保田のせいなんじゃないかと思う自分を呪いたい。
パチンコを打ちたい、でも金がない。
久保田の見舞いに行った、たくさんの芸人がいたが、僕だけは久保田に温かい言葉を掛けられなかった。
何でも良い。その時のリアルな感情は、時が過ぎると薄れてしまう。感じるままに、忠実に書き留めておいた方が良い。
もし久保田くんが仕事のできない体になってしまったとしても、その本の印税を渡すことができるし、万が一最悪な状況になってしまったとしても、相方が書き留めた「日々」が、久保田くんにとってもご家族にとっても、ささやかながら慰めになるのではないかと。
僕は真剣に言った。だが、秋本は書かなかった。
書けなかったのか書かなかったのかは分からない。秋本に本心を聞いていないし、これからも聞かないつもりだ。コンビにはコンビにしかわからないことがあるから。
しばらくすると久保田くんは元気に、とまではいかないかもしれなかったが、無事に仕事に復帰した。

『ザ・ノンフィクション』に出演した秋本

5GAPは帰ってきた。久保田くんはその時期に結婚もしている。奥さんとの馴れ初めがとても良い話で、バッドボーイズの(大溝)清人さんや久保田くん、芸人仲間で飲んでいる時に、そのエピソードを聞いてみんなが泣いた。
その飲みの席に、偶然テレビのスタッフさんがいた。僕は「こんなに良い話、テレビでやらなきゃダメでしょ!」とそのスタッフに詰め寄った。すると、馴れ初めエピソードつきで、久保田くんの結婚式をテレビで密着取材してくれたのだ。
感動の式だった。
当然、相方である秋本の祝辞がトリとなる。どう考えても感動的なものになる。はずだった。だがトリを務める秋本は、酔っ払ってヘラヘラしているだけで祝辞の紙も持っていない。
妙な空気のまま、式は終わった。

二次会で僕は秋本に説教をした。あそこは嘘でも感動の祝辞を読むべきだった、と。秋本はモジモジしながら照れていた。
「俺、『ザ・ノンフィクション』に出るんだ」
会話になっていないが、どうやらそうらしい。芸人としてではなく過ぎたただのおじさんとして婚活クルーズ船に乗り、リアルに婚活するというドキュメンタリーの密着に、秋本が出演する。
僕らの周りは歓喜に沸いた。どう考えても面白い。無様だ。これぞ芸人の鑑で、恥はかけばかくほど面白くなる。結果、番組は最高だった。
何しろ芸歴は15年以上のおじさんが、素人相手に優越感たっぷりとMCしている姿は、仲間からすれば腹がちぎれるほどに面白かった。

『いろはに千鳥』をきっかけにプチブレイク

けれど、それで売れるほど芸能界は甘くない。にもかかわらず、何度も訪れる、神の救いの手。2021年初め『いろはに千鳥』に5GAPが出演した。
千鳥さんは芸人をいじるのが本当に上手い。どうやっていじって良いのか分からない、そんな、人のナイーブな部分やセンシティブな部分を優しく面白く伝える天才だ。5GAPはその後も何度か『いろはに千鳥』に出ているうち、今度は全国ネットの千鳥さんの番組でも見かけるようになった。するとそれを見た他の番組のスタッフさんたちが5GAPに興味を抱き始め、千鳥さん以外の番組にも呼ばれるようになっていった。
何しろいじり方は天下の千鳥が見せつけてくれたのだ。こうして5GAPの令和のプチブレイクが始まった。

保険をかけずに裸で泣いて恥かいて、笑ってもらおう

みんなに好かれたいし、褒められたい。そう思うのは当然かもしれないが、僕はそんな人間には魅力を感じない。1億人に嫌われたって、一人が気絶するほど好きでいてくれるような人間になりたいし、そんな人間が大好きだ。
5GAPは、そんな存在になれると思う。
特に秋本はその象徴だ。辛かっただろうし、バカにされたろうし、諦めかけたこともあるだろう。久保田くんはまさに死にかけたし、思わぬ形で親に迷惑を掛けてしまった、なんてことを思ったかもしれない。
でも、君たちの全部をそのまま吐き出せば良い。それを世間がどう受け止めようが関係ない。芸人はみんな、君たちが好きだ。
間違っていても良い、否定されても良い。今思うことを正直に、全部やった方が良い。
これが最後のチャンスと思って、保険をかけずに裸で泣いて恥かいて、笑ってもらおう。ダメだったらまたヨシモト∞ホールで「海プロ」をやろう、その時は僕が2千円貸してやる。
あの時飲んだ大五郎。あれより美味い酒に、僕はまだ出会っていない。

敗北からの芸人論

出典: FANY マガジン
出典: 新潮社

著者:徳井健太
発行:新潮社
価格:1430円(税込)
発売:2022年2月28日

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