小手先の器用さではない「輝き」コウテイに送る徳井からのファンレター

敗北からの芸人論

平成ノブシコブシ徳井が独自の目線で芸人やお笑いを考察した書籍「敗北からの芸人論」。FANYマガジンでは発売を記念して、考察された側の芸人のアンサーコメントと共に本編を掲載します!

平成ノブシコブシ徳井が独自の目線で芸人やお笑いを考察した書籍「敗北からの芸人論」。FANYマガジンでは発売を記念して、考察された側の芸人のアンサーコメントと共に本編を掲載します!

出典: FANY マガジン
出典: 吉本興業、新潮社、FANY マガジン

平成ノブシコブシの徳井健太が芸人愛をつづった新刊「敗北からの芸人論」の発売を記念しての立ち読み短期連載企画。最後に取り上げるのはコウテイの章です。

徳井とコウテイの二人は、話したこともない関係とのこと。ですが徳井のまるでファンレターのような原稿を読んだコウテイから、まるでラブレターようなアンサーコメントが届きました。

下田
「徳井さん! ありがとうございます!!!
特に関係性がない時のこうゆうのは非常に嬉しいです! ただその優しさがアダになる時もあります! 配信で麻雀をするという仕事でご一緒させて頂いた際、鬼越トマホークの金さんが山の牌を崩した時ちゃんとチョンボ取ってください!!!!!!!!!! あれだけ未だに許せないです! 徳井さんがちゃんとチョンボを取れるようになったらまたお仕事ご一緒させて下さい。」

九条
「親愛なる徳井さんへ

ボク達はまだ、
あの頃の輝きを放っていますか。
ボク達はまだ、
あの頃の風格を纏っていますか。
ボク達はまだ、
間違った方向へ走り続けていますか。

ボクは今も変わらず、
自分が正しいと思う事を
コウテイし続けております。
それに賛同してくれる
相方が横に居ます。

そちら側から見えるボク達が、
あの頃と変わらない
輝きを放ち続けていますように。

お会い出来る日を
心待ちにしております。
ズィーヤ★
軽愚コウテイ 九条ジョー」

出典: FANY マガジン

それでは本編をお読みください。


第7世代なのに「昭和」なコンビ
コウテイ

「本格派」が優勝する大会

今回ご紹介したいのは、コウテイ。
ただ残念なことに、これまで取り上げた芸人の方々と違って、僕はコウテイに会ったことも話したこともない。だから、コウテイからすると、否定したくなるようなこともあるかもしれないけれど、彼らを見た時に僕が思ったこと、感じたこと、思い出したこと。そんなことを書いてみようかと思う。
コウテイの名前は少し前から知っていた。まず見た目のインパクトが強かった。髪の毛を逆立てた下田真生と、マッシュルームカットの九条ジョー。お揃いのワインレッドのスーツを着た二人は、2013年にコンビを結成した。僕が知らなかっただけで、関西ではさまざまな賞にノミネートされ、19年にはかつてダウンタウンさんも受賞したことのある「今宮こどもえびすマンザイ新人コンクール 福笑い大賞」も受賞している。
けれど僕が実際に映像で目にしたのは、2020年のABCお笑いグランプリ。かまいたちや霜降り明星なども過去に優勝している西のお笑いの登竜門で、売れる人や面白い人は、必ずこの門をくぐると言われている。
この大会で特徴的なのは、本格派が優勝するということだ。本格派、つまり本当に面白い人。お客さんよりも、芸人や同業者が笑うような芸人。そのてっぺんが、ABCの覇者なのだ。

「この人たちが優勝でしょ」という空気

そんなABCお笑いグランプリは、これまでは関西でしか放送されなかったのだが、2020年はABEMAで観ることができた。南海キャンディーズ・山ちゃんの絶品MCを堪能しながら配信を見ていると、最初からコウテイには優勝する風格が溢れ出ているように感じた。
お笑いの大会で優勝する風格、オーラ、波動。
M–1でいうと2005年のブラックマヨネーズさん、06年のチュートリアルさん。
キングオブコントでいうと2011年のロバートさん、12年のバイきんぐさん。R–1ぐらんぷり(現・R–1グランプリ)だと11年の佐久間一行さん。
みなさん、圧巻、圧倒の見事な勝ちっぷりだった。
周りの芸人がもうお手上げというか、「いや今年はもうこの人たちが優勝でしょ」というような空気が、会場や審査員を支配していく感覚。
ゴリゴリと笑いを取り、お客さんから大きな笑いが起きれば起きるほど、その場やテレビで見ている芸人たちの心の中には、ポッカリと大きな穴が広がっていく。
「あー、見たことないくらい新しくて面白いなー、この人たちが勝つべきなんだろうなー」
そんな集団心理がうっすらと広がっていくように働いて、結果爆発的に他を圧倒して優勝するケース。
そんな空気を、2020年のABCお笑いグランプリのコウテイにも感じた。だからコウテイのこの賞レースでの優勝は、この年でなくてはきっとダメだったんだろうなとも思う。
思い詰めていたり、コンビ仲だったり、経済的な理由だったり、環境や体調のせいだったり。とにかく、人というのはその時その瞬間にしか吐き出せない「輝く一瞬」というものが確実に存在する。今年、絶対決めてやる——。その思いが空回りせずに自分の体を走り抜け、そして世間に解き放たれて、そのまま同じように大衆の心が振動する。
それってなかなか有り得ないことで、本当に一瞬の煌めきで、偶然と奇跡が重ならないと生まれないひと時で……。
とにかくコウテイおめでとう。と、言いたい。連絡先知らないから言えないけど。

粗品が流した「言葉にならない涙」

ABEMAではその後の「優勝特番」も生放送で流れた。その番組は、2017年ABCお笑いグランプリ優勝、18年M–1グランプリ優勝の霜降り明星がMCを務めていた。
これがまた、最高に良かった。
「最高」なんて平凡すぎる表現だと自分でも思うが、本当に最高に良かった。
偶然にもコウテイの下田くんと霜降りの粗品は、プライベートでも仲が良く、苦楽を共にしていたらしい。ここが「最高に良かった」理由のひとつだ。
「え? 芸人さんってみんな仲良いんじゃないんですか?」
そんなふうに思う人がいるかもしれない。バラエティ番組で楽しそうに絡んだりロケをしたりする姿から、そんな妄想を膨らませる人も多いだろう。
が、当然のことながら、芸人はみんながみんな、そんなに仲良くはない。仲良くないというか、プライベートではそれほど干渉し合わない。自分の考えるお笑い観や感性が合う人間としか、深い付き合いはしない。けれどそれは、どの社会でも同じだろう。
もちろん同じ会社の人間と日々、仕事はするわけだし、仲が良くなることもあるだろう。が、自分に幸せなことがあった時、不幸なことが訪れた時、その感情を共有したいと頭に思い浮かべる相手は会社内でもごく僅かなはずだ。
だから自分の可愛がっている後輩、可愛がってもらった先輩が、自分の目の前で優勝を果たし、そのまま自分がMCの番組で一緒に絡むなんて奇跡は、なかなか起こらない。
それが、起こった。
粗品は泣いていた。
そりゃそうだろう。
たかがお笑いの大会と言われたらそれまでだ。そもそもこの大会自体、一般的にはそれほど知られていないし、優勝したことだって、何年か経ったら忘れてしまう人が多いだろうと思う。それでもきっと本人たちは「最後のつもり」で1年間頑張って、大会の本番中は無我夢中でなりふり構わず走り切り、その姿をずっと見ていた隣のスタジオの同志は、そりゃ涙も流す。
この大会で優勝しなかったら、コウテイは解散していたかもしれない。
冒頭で触れた通り、僕はコウテイのことをほとんど知らない。なんなら、霜降り明星のこともほとんど知らない。けれど、解散しそうだな——そんな空気感がコウテイから出ていた。調べてみると、実際に一度は解散をしているらしかった。
ネット上には理由も書いてあったけれど、本当の理由は分からない。人間にはいろいろある。友達や夫婦、仕事仲間といった関係と同じで、コウテイにも当事者にしか分からないことや伝えられないこと、伝える必要のないこと……さまざまにあるのだろう。
だが結果として二人は解散し、そして、もう一度コンビを再結成することにした。語り尽くせぬ理由や感情が渦巻いたのか、それらも粗品は知っていて、言葉にならない涙を流していた。

他の第7世代にない「昭和の匂い」

が、これはすべて僕が配信を見て感じた気持ちで、きっとこんなふうに考えるのは「古い」のだろう。
今、テレビで見ない日はないほど活躍している「第7世代」と呼ばれる芸人。彼らを一括りにすること自体がそもそも申し訳ないのだが、それでも、第7世代はとても合理的な世代だと僕は思っている。効率重視の世の中と同じだ。コンビ仲は良いとアピールした方がいいし、打ち合わせもZoomでするし、ネタもパソコンで書いた方が便利だ。
僕らの頃はコンビ仲を「悪い」と生々しく伝えたし、打ち合わせも深夜まで顔と顔を突き合わせて行っていたし、ネタも不便だがノートに書いていた。時代も環境も変化したのだ。どちらが良い悪いということを言うつもりはない。
ところがこのコウテイという若手コンビは、調べれば調べるほどに古い。
下田はカッとなりやすく、ギャンブルで身を滅ぼすタイプ。九条はスタイリッシュな見た目にもかかわらず、親父ギャグを大げさな身振りで繰り出す。
実に古い。
これは僕ら世代の感性だ。だからこそ、とても応援したくなる。
千鳥さんで最後だと思われたこの昭和芸人の背中を、僕はコウテイに感じた。

小手先の器用さではない「輝き」

ABCお笑いグランプリに優勝し、満を持して『ワイドナショー』にコウテイが出演した回を観た。目の前には正に「皇帝」のダウンタウン・松本人志さんがいる。その隣には白い悪魔、東野幸治さん。きっと二人は今まで体感したことのないような緊張をしたことだろう。
番組内で、コウテイはコウテイなりの武器と培ってきた経験で戦っていた。
関西のライブやメディアで手応えがあったであろうコンビでの合わせ技や、これまた昭和の臭いプンプンの顔芸、特に勝算もなく踏み出す重たい一歩と張り裂けんばかりの大きな声。
血だらけのように見えた。
松本さんと東野さんはいとも簡単に、子供と遊ぶかのように軽々とコウテイから「勝ち」を指先だけで摘んでいく。
だが、そんなコウテイの姿を見て、それでいいんだと思った。会ったこともないのに偉そうだが、本心からそう思った。
小手先の器用さ、場に応じた対応能力と瞬発力。それらがテレビバラエティにはかなり重要で必要なことだとは思う。けれど今しかできないこと、出せない輝きを、確実にコウテイは持っている。そんな一生に一度あるかないかの波動を、目の前のことに捕らわれて隠しちゃいけない。
スベればいいし、絶望すればいい。
落ち込んで忘れられない後悔と、してもしきれない反省に、押しつぶされた方がいい。経験と知識で、器用さなんていくらでも手に入れられる。
それはかつてのダウンタウンさんや東野さんもそうだったのではないだろうか。今思い出せば赤面してしまうようなことを、何度も繰り返したと思う。
けれどそれは今となっては過去のこと。大天才たちにも、きっとあの頃の輝かしい恥部はもう二度と出せない。
あの時、あの状況で、全力で間違って走った記憶は、必ず年老いてからプラスになって返ってくる。その時のため、今は誰がなんと言おうが自分たちで考えたことや感じたことだけをやっていった方がいい。
こんなふうにしてみたら? それはやめた方がいいんじゃない? そんな二流三流のアドバイスは絶対に、無視した方がいい。
全力で、間違って、今のコウテイにしか出せない輝きを放ち続けて欲しい。
応援しています。
なんだかただのファンレターみたいになってしまったけれど、その眩い光が放てなくなって、器用にLEDライトを照らせるようになったら会いましょう。

敗北からの芸人論

出典: FANY マガジン
出典: 新潮社

著者:徳井健太
発行:新潮社
価格:1430円(税込)
発売:2022年2月28日