くまだまさし、天才たけしの言葉を信じたから今がある【あなたは誰に憧れ芸人に?⑦】

あなたは誰に憧れ芸人に?

芸人を志したきっかけや憧れた芸人、そして芸人になるまでの道のりなどを語り尽くしてもらうインタビュー
(イラスト:ネゴシックス)

芸人を志したきっかけや憧れた芸人、そして芸人になるまでの道のりなどを語り尽くしてもらうインタビュー
(イラスト:ネゴシックス)

いまをときめく芸人たち……周囲から一目置かれる存在になった彼らにも、かつて「こんなふうになりたい!」という憧れの存在があったはず。そんな売れっ子たちに、芸人を志したきっかけや憧れた芸人、そして芸人になるまでの道のりなどを語ってもらうインタビューシリーズ『あなたは誰に憧れ芸人に?』。今回は、目の前のお客さんを笑わせる率100%の生粋の寄席・営業芸人、くまだまさしに話を聞きました。

出典: FANY マガジン
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ビートたけしの「男のカッコよさ」に憧れた

――くまださんは、誰に憧れて芸人になりましたか?

すごいなと思う方はたくさんいますけど、「憧れ」と言われてぱっと思い浮かぶのは2人ですね。1人目は、月並みですがビートたけしさんです。『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)も『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)も見ていましたし、たけしさんが書かれた本もたくさん読みました。

――子どものころから憧れの存在だったのですね。

そうですね。当然、ダウンタウンさん、とんねるずさん、ウッチャンナンチャンさんもすごいなあと思っていました。すごいとは感じながらも――いま思うと恐ろしいですけど、NSC(吉本総合芸能学院)に入ったころは「ダウンタウンさんには負けねえよ」と……。トガッていたくまちゃんは、そう思っていたんです。でも、たけしさんは少し上の世代ですし、そのトガりもきかないくらい雲の上の存在でした。面白さはもちろんですが、「男のカッコよさ」があって、ああなりたいなあと思ったのはたけしさんでした。

出典: FANY マガジン
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――実際に本人に会ったことはありますか?

『世界まる見え!テレビ特捜部』(日本テレビ系)で、ご一緒させていただきました。そしたらたけしさん、収録中に急に僕のカツラを奪ってかぶり、カツラがパカッと割れるネタをやってくれたんです。あのたけしさんですよ?  あまりの感動に僕は何もできず、呆然としていました。芸人としては間違っているかもしれませんけど、あれは本当にいい思い出になりました。

くまちゃんのトガりを斬ったマギー司郎

――もう1人の「憧れの人」はどなたですか?

たけしさんとはぜんぜん違うんですが、マギー司郎さんです。僕、20歳のときに「吉本に入ろう」と決めて、そこから2年間、準備をしていたんです。テレビで片っ端からネタ番組、お笑い番組を見たり、合コンや飲み会に行っては人を笑わせたりすることに、2年間を費やしていたんですよ。

――自分なりにお笑いの修行をしていたんですね。

素人が何をしているんだという感じですけどね(笑)。それからNSCに入るわけですけど、養成所なんて、みんな人のネタで笑わないんです。でもそのなかで、僕は大爆笑をとっていた。それで、よけいに自信が膨れ上がってしまったんですよ。ますますトガッたくまちゃんは、養成所どころか、テレビで誰のネタを見てもぜんぜん笑わない。そのトガリを、ある日バサッと斬ってくれたのが、マギー司郎師匠でした。たまたまテレビで見たマギー司郎さんのネタで、僕、大爆笑しちゃったんです。「なんだ、この面白さは! この人はすごい、この人のようになりたい!」と思いました。そこからネタの雰囲気が、ちょっとマギー司郎さんと似た感じになったところがあるかもしれません。いい意味で「本当にくだらない」面白さを追求するようになりました。

出典: FANY マガジン
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――ちなみに、養成所のころのネタはどんなものだったのですか?

いまとまったく一緒です。NSCの2回目の授業から、いまも言ってる「くーまーだまさしーの!」を使っていましたし、自作の小道具を使ったネタも在学中からしていましたし。よく言えば天才、悪く言えば進歩がない(笑)。

――実際にマギーさんと会ったことはありますか?

ないんですよ。お弟子さんのマギー審司さんとはご一緒したことがありますが、マギー司郎さんは、未知の、憧れの存在です。

たけしの言葉でピンの道を決めた

――そもそも、くまださんが吉本に入ろう、芸人になろうと決めたきっかけは?

僕は、小学生のときから“ひょうきん”くまちゃんだったんです。中学も楽しいくまちゃん、高校は男子校だったので一転、何もしゃべらないくまちゃん。社会人になって合コンを知ってからは、1日に2つも3つもはしごして、週10くらいでコンパに明け暮れました。そこで人を笑わせていたので、まわりからは「日暮里の明石家さんま」と言われて(笑)。でも、まだ芸人になろうとは思ってなかったです。初恋の人に「くま、将来どうするの?」と聞かれたとき、冗談で「吉本入って芸人になるよ」と言ったのがすべての始まりでした。

出典: FANY マガジン
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――最初からコンビを組んだりせず、1人でやろうと思ったんですか?

はい。これは、実はたけしさんの影響が大きくて。たけしさんの「10人中9人がこちらの道に行っても、芸人は違う道を選ばなくてはいけない」「人とは違うことをやらなければいけない」という言葉が頭に残っていたんです。僕がNSCに入ったのは松本(人志)さんが『遺書』(朝日新聞社)を出したころで、コンビで漫才をやったり、シュールなネタをやる人が主体の時代でした。だから僕は、みんながコンビならピン、シュールなネタが多かったら違うものを、と選んでいきました。おこがましいですが、いまの形は“たけしイズム”の結果なんですよ。

――NSC時代から変わらず、ブレずに、ここまできたんですね。

自分を強く信じられるほどには自分のことを理解できていないので、天才と呼ばれるたけしさんの言葉を信じて守っているだけなんです。僕が積極的にテレビに出ないのも同じことで。テレビの人気者になりたいという芸人がほとんどのなか、「10人中9人とは違う道」を選ぶという気持ちで、あくまでも寄席、営業を最優先にするというスタンスになりました。これも、たけしさんを信じているからなんですよね。

最終目標は村上ショージ

――実際にプロの芸人として活動を始めてから、すごさに気づいた人、新たに憧れるようになった人はいますか?

いつ言おうかと思ってました!  たけしさん、マギー司郎さんと来て、3人目がいるんです。吉本に入って実際に自分が出る側になって、「うわ、この人が僕の最終目標だ」と思った人が。

――それは……?

村上ショージ師匠です。あの方は化け物ですよ。もちろん漫談自体も面白いんですが、とにかく人間味がすごいんです。なにを言っても、あの人が言うから面白い。僕なんか、ぜんぜんかなわないです。営業芸人の仲間である、もりやすバンバンビガロとハイキングウォーキングにも「おい、オレたちはああならなきゃダメだよ」としょっちゅう言ってます。

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――ショージ師匠とは特に一緒になる機会も多いと思いますが、その気持ちを伝えたことは?

直接はないです。ただ、僕の立ち居振る舞いを見たら「くまちゃん、俺のこと好きなのかな」と気づいてくださっているかもしれませんけども(笑)。

――でも、なんだか納得できます。ショージさんとくまさんには、どこかしら共通項があるような気がします。

素人のころに憧れたたけしさん、トガッていたころに出会ったマギー司郎さん、いまのショージさん。憧れの3人に共通しているなと思うのが、やっぱりその人自身の面白さなんです。ネタとか言葉そのものだけじゃなくて、その人の魅力にやられてしまう。

――たしかに、マギー司郎さんも村上ショージさんも、あの佇まいを誰にでも出せるかというと……。

そうなんですよ。あの喋り方、あの目、あの動き、そしてあの芸。すべて人間味なんですよね。それは、日ごろの行い、人との接し方、芸との向き合い方、すべてが重なって生まれるものだと思うんです。作ってできるものではない。でも、僕はなんとかそこに近づきたいと思って日々過ごしています。

――芸そのものを磨くことよりも、人間味を磨くことのほうが難しそうですね。日々生きることそのものが、すべて人間味につながるでしょうから。

そうですね。最近、後輩やまわりの人からバカにされなきゃダメだなと思っていて。それは決して、ショージ師匠がバカにされているという意味ではなくて……。でも、ショージ師匠って、大先輩なのにまわりからツッコまれて、そこに笑いが生まれたりするじゃないですか。僕も年齢を重ねたときに、ああなっていたいんです。

出典: FANY マガジン
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