漫才界に精通するお笑い論者が、若手コンビのネタを見て、お笑い論を戦わせるというまったく新しいタイプのイベント、その名も『祇園漫才夜会~お笑い論者が若手芸人のネタを見るライブ~』が、5月28日(土)に京都・よしもと祇園花月で開かれました。若手を鼓舞しようとこの日、集まったのはスーパーマラドーナ・武智、NON STYLE・石田明、ギャロップ・林健の3人。イキのいい若手のネタと、的を射た論者たちのコメントが会場を盛り上げました。
「今日はオレと林が損するライブですか?」
よしもと祇園花月が劇場を挙げて、実力ある中堅芸人をこれまで以上に盛り上げていこうという取り組みの一環として開かれた今回のイベント。MCのガクテンソク・奥田修二がお笑い論者の3人を呼び込むと、M-1グランプリなどの賞レースで優勝を狙う有力若手芸人10組が4分の漫才を披露します。
トップは、2010年結成の黒帯(大西進、てらうち)。ゲームに関するやりとりで笑いを取っていく2人ですが、ネタが終わると「やりづらい!」といきなりブーイングします。
しかし武智はひるむことなく、「おもしろかったですよ」と落ち着いたトーンで論評をスタート。「ツッコミの寺内が軽いかな?」と言うと、林もネタの作りについてマジメにダメ出し。さらに石田も、「林と同じところが引っかかった。そこを直していかないと競り合ったときに負けそう」と全員論者らしい意見。思わぬ真剣なトーンに、会場に笑いが起こります。
続く、2017年結成のイチオク(タケヤ、けんしろを)は、職種不明の男を中心としたネタ。しっかりウケるシーンもありましたが、石田から、発声やネタの内容などに対して意見を連発され、2人は「NSC(吉本総合芸能学院)を思い出す」とタジタジ。ツッコミについての林の指摘も鋭く、「今日はオレと林が損するライブですか?」と石田。言い過ぎたと心配になったのか、「すごくよくなりそうやから」と愛のムチであることをアピールしていました。
3番手は2019年結成の牛ぺぺ(おねえちゃん、ゆたか)。NGワードをベースにしたネタに、武智は「少し変えることで完成度がもっと高まる」と助言。林は「コント過ぎる」と評し、石田も「おもしろい内容は作ってる」と一定の評価はしつつ、「漫才の鎧をかぶったコントという印象」と辛口コメント。それを受けて、牛ぺぺの2人からも論者たちに質問するなど、この企画ならではの白熱したやりとりが見られました。
「無理やり言ってる部分もある」
2011年に結成して昨年、エンペラーから改名した崋山(やすい、にこらす)は、2019年に上方漫才協会大賞新人賞、ABCお笑いグランプリ優勝という輝かしい経歴を持つコンビ。ネタは訪問販売がテーマで、動きや話し方、声色まで工夫して笑いを取っていきます。
武智は「めちゃくちゃおもしろかった」と感想を言ったうえで、ネタの構成について指摘。林はズルい笑いのとり方もあったとしつつも、「それも個性だし、技術もあるし、とてもよかったと思います」と評価。石田も「すごくおもしろかった」と高評価で、「強いて言うなら……」と、ネタな細かな部分についてアドバイスしていました。
5組目は2014年結成後、2017年にM-1決勝進出、2019年に上方漫才コンテスト優勝、2020年には歌ネタ王決定戦でも優勝したさや香(新山、石井)。出だしから思わぬ展開を見せるネタに、会場から笑いとともに拍手が起きていました。
論評では、ネタのテーマが途中で変わったことについて、変えるべきだったか否か、3人が話し合う場面も。林は「入りは100点」と評価。石田は好きな感じのネタと語ったうえで、「(ネタの)前半と後半で齟齬がある」と指摘していました。
前半を終えて、「全員おもしろいから言える隙間が少ない」と武智。林は「楽しいです!」と言い、「笑っただけで帰るわけにはいかないので、無理やり言ってる部分もある」と本音をポロリ。石田は「娯楽としては200点。ただ戦うということを考えたら、ということ」と話しました。
「粗い。でも納得させる」
後半1組目は、大阪市大正区住みます芸人で、2012年結成のZUMA(しんこだ、ひかる)。登場から元気いっぱいの2人は、ネタもその勢いのまま。これまでのコンビとは毛色が違うネタに、「好き嫌いがわかれる。僕は好き」とMCの奥田。武智も「僕も好き、パワフルさがいちばんのウリ。もう少し固有名詞を減らしてオリジナルのボケでいってほしい」とコメント。石田は「パワーがあるぶん、聞き取りにくいところがあったのがもったいない」と伝えました。
2組目は、2019年結成の三遊間(稲継諒、櫻井一世)。スーパーを舞台にしたネタは、予想を超える展開とワードチョイスが秀逸で、「M-1の3分ならハマりそう。若手やのにおもろい」と武智。林は「ネタのベースとなる設定の部分が気になった」と、石田は「最初のラリーで復唱が少し多い」と細かな部分を指摘し、より臨場感を高めるための方法をレクチャーしていました。
2017年結成の侍スライス(加藤、門田)は、M-1準決勝進出の実績を持つコンビ。バイキングをテーマに歌を絡めた漫才を披露し、林から「粗い。おかしなところもある。でも納得させる」と評価。武智はネタ中の言葉のチョイスをチェックしますが、林は「そこは気にならなかった」と意見が対立。石田は「切り口はおもしろいが、ネタのなかのメロディを活かしきれていなかった」と指摘していました。
「漫才は進化している」
続いては、上方漫才協会大賞新人賞の受賞歴があり、最近は全国ネット番組でもその姿を見せている、2011年結成のマユリカ(阪本、中谷)。ネタは結婚式の2次会が舞台。テンポのいいしゃべりで会場を盛り上げました。
武智が「おもしろい、手数が連発で出れば」とコメントすると、その真剣さに、中谷が「ためになる。飲んでるときの武智さんとぜんぜん違う」と笑わせます。林も「風格すら感じる」と高評価で、気になった点としてディテールを指摘しますが、「ただ、この意見は無視したほうが賞レースではいいかも」とも。石田は「漫才コントの妙を活かせてない。でも、マユリカはこのままでもいいとも思う」と伝えていました。
後半ラストは2009年結成、上方漫才協会大賞文芸部門賞の受賞歴があるデルマパンゲ(迫田篤、広木英介)。日常的な道具についてのトークから突拍子もない展開を広げていくネタを披露します。
武智は「ある種の中毒性がある、ポップじゃないランジャタイ」と話し、林は「入り方がいつも好き」とコメント。石田は「広木がどれだけ常識人になれるかがポイント」とアドバイスして、ネタのなかの細かな言葉選びについて意見を言いました。
全10組のネタを見終えて、「めちゃくちゃ勉強になりました。こっちも得るものがあった」と武智。林は「的外れなことを言ってしまわないか心配もあった。僕のあと、石田くんが『林の言ったことがわかる』と言ってるのを聞いてホッとしてました」と本音を吐露。石田は「漫才は進化してるな、未来は明るいなと思いました」と総評しました。