名作舞台『さようなら』が17年の時を経て映画化! 「いまでは書けない物語といまだからできる演技が融合した」

関西演劇祭受賞者の野村有志による1人演劇ユニット・オパンポン創造社の代表作『さようなら』が待望の映画化となりました。8月6日(土)~12日(金)に大阪・十三のミニシアター「シアターセブン」で公開されるのに先立って、監督・脚本を務め、キャストとして出演もする野村にインタビューを敢行! ロケ地となった淡路島での撮影秘話や、作品に込めた思いなどを語ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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淡路島が舞台のクライムムービー

『さようなら』は、「CoRich舞台芸術まつり!」2018春グランプリをはじめ、6人の全キャストがさまざまな賞を受賞した同名舞台作品を映画化した長編作品。兵庫・淡路島を舞台に、小さな工場で代わり映えのしない日々を過ごす4人が、ある日、工場の社長が脱税で貯めた大金を奪う計画を企てたことから物語は大きく動き始めます。大金で人生を、自分を変えたい……彼らが生み出す甘美な絵空事が心に刺さるストーリーで、ラストには予想外の展開が待ち受けています。

この作品では、演劇界で長年活躍してきた野村が初めてメガホンを取り、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2022」のコンペディション部門にノミネートされるなど、すでに注目を集めています。

出典: FANY マガジン
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監督・脚本に出演もする“スタローン方式”

――まず今回、舞台作品を映画化することになった経緯から教えてください。

きっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大です。演劇の公演がつぎつぎと中止になる状況で、「どうしようか」と考えていたときに、本作の撮影監督でもある武信貴行さんに「映画を撮りませんか」とお声掛けいただきました。
表現活動を継続するために何かできないかというなかで、“映画化”は唯一の光でした。ありがたいことに、「AFF」(ARTS for the future!/コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)の補助金をいただけることになり、補助の対象外になる費用はクラウドファイティングでの皆さんからの応援でなんとか集めることができました。

――数あるオパンポン創造社の舞台作品から『さようなら』が選ばれた理由は?

もともと舞台版の上演時から、「映像っぽいね」というお客さんの感想が多かったんです。また、声をかけてくださった武信さんは、ふだん舞台映像を撮られている方で、武信さんも、映像にしやすいんじゃないかと思ってくださったのが大きいですね。

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――長編映画の初監督ということで、初めての経験ばかりだったのではありませんか?

舞台版の『さようなら』は、素舞台(何も飾られていないカラの舞台)に用意するのはパイプ椅子6脚だけなんですが、今回は撮影のため3日間ほど淡路島に滞在しまして。宿舎を予約して、スタッフのごはんを用意して、移動費も必要ですし、自動車も用意して……と、こんなにおカネがかかるのか! と驚きました(笑)。
あと、この作品は全編を通して雨が降っているんですけども、舞台だとSE(効果音)や(パント)マイムでできたことが、映像となると実際に雨を降らせる必要がある、とかですね。なかなか大変で、手探り状態でした。

――同じ作品でも、舞台と映像ではそれだけ違うんですね。

撮影に入る2~3カ月ほど前にロケハンもしました。本来は裏方さんの仕事かもしれませんが、候補地を挙げたり淡路島に偵察に行ったり、撮影許可をもらうためにその地域の警察に出向いたり。
監督をしながら出演するのも初めてで、書いたのも僕で、いわば“(シルベスター・)スタローン方式”で手掛けたので、シーンによってはめちゃくちゃ疲れた顔をしていますが、物語上、僕は疲れていく役柄だったので、ちょうどよかったのかなと思います(笑)。

出典: FANY マガジン
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自分と同じ“世界中の野村有志”に何かを伝えられれば

――舞台『さようなら』の初演は17年前だそうですね。

そうなんです。17年前、何もかもうまくいっていなかった僕が、「変わりたい」と思って書いた作品です。だから、こうして時を経ていざ映像化すると、「言葉がすごく青いな」と感じるところもあるんです。たとえば(登場人物の)末田さんが淡路島を出ていきたい理由とか、すごく小さくて、視野が狭い若者の叫びみたいなものを感じます。

――若さゆえの純粋さや、ヒリヒリとするほどの真っ直ぐさが表されているように感じました。

僕は毎年、1日だけボランティアで女子高生の制服を着て高校演劇に出演するんですけど、一緒に演劇をする高校生たちには、その時期にしか出せない熱だとか悩みがあるんです。大人になると「でも、こんな意見もあるし……」とよぎって、自分の思いで100%言えないことってあるじゃないですか。でも若いと、信じられるし言い切ることができる。いまのコンプライアンスの時代には言い切るのって難しいことだと思うんですけど、この映画には、若いとき特有の信じて疑わないよさがあるんじゃないかなと思います。

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――物語に登場する末田さんには、まさに信じて疑わない真っ直ぐさがありました。

しょうもないことで悩んでいるんですが、末田さんの世界の中ではもうパンパンに詰まっているんですよ。2000万円を奪って「これで、変わりたいねん」って。
多角的に物事が見られるようになると「そんなん、やったらあかん」ってなるんですけど、作者である当時の僕自身が「それでいい」と信じて疑っていなかったし、自分の思いを信じることができた。だから、「悪いこととわかっていても、それでなんとかしたい」というフン詰まりの人たちを描けたんだと思います。
いまでは書けない物語と、いまだからできる演技が合わさった感じです。あのころに、この作品を映像化しても稚拙やったと思うので、このタイミングだったからこそベストなものが撮れたと思います。でも、恥ずかしかったですよ、その青さが。昔の日記を音読しているような気分でした(笑)。

――(笑)。特に印象的なシーンはありますか?

淡路島での撮影の最終日、末田さんが船着き場で雨に打たれながら泣き崩れるシーンがあるんですが、本物の大雨が降りまして。ひと粒ずつが痛いタイプの強い雨で、陸にいながら溺れそうなほどの激しさで。山場のシーンということもあり、何度も撮り直したんですが、僕の疲労がピークだったので、心のなかでは「これは死ぬ……」ってなっていました(笑)。大変だったからこそ、思い入れのある作品にもなったんですけれども。

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――その船着き場でのシーンもそうですが、映像だと、登場人物の表情やしぐさまで細かく観られるよさがありますね。

たしかにそうです。人間は生き物なので、舞台上で全員が静止しているなかで誰かが動くと、お客さんが反射的にそちらを向きます。その反射を利用して、僕らが見てほしい場所にフォーカスを当てます。でも、お客さんに自由に見ていただくというのが舞台の醍醐味なので、100%は難しい。一方、映像だとフォーカスが自分で自由に決められる、というのはすごく新鮮でした。
あともうひとつ、映像を撮ると、このまま一生ここに時を閉じ込めたまま、僕はこれ以上年を取ることなく、残っていくんだ、というのが舞台と映像の違いなんだろうと感じました。

————いよいよ8月6日(土)~12日(金)に、大阪・十三のシアターセブンで公開されます。

今後、『さようなら』を全国いろんな地域で上映したいですね。人生って、うまくいっていない人のほうが多いと思うんです。その人たちに向けて、“世界中の野村有志”に向けて、何かを伝えられればいいな、と毎回作品を作ってきました。
『さようなら』でも、ひとりでも誰かの心が明るくなるといいし、人生を変える、というと大げさですが、誰かにとってそういう存在になれたら。ひとりでも多くの方に観ていただけるといいなと思います。

作品概要

映画『さようなら』

監督・脚本:野村有志
キャスト:野村有志(オパンポン創造社)、一瀬尚代(baghdadcafe’)、川添公二(テノヒラサイズ)、美香本響(meyou)、伊藤駿九郎(KING&HEAVY/theatrePEOPLEPURPLE)、殿村ゆたか(MelonAllStars)、飯嶋松之助(KING&HEAVY)

公式サイトはこちらから。