「好きな映画は好きな音楽で憶えている」をテーマに映画音楽を楽しむトーク&ライブセッション
心震わせる珠玉の名曲を堪能

10月15日(土)と16日(日)の2日間、今年も京都市内各所で開催される「京都国際映画祭2022」のイベントとして、15日、ヒューリックホール京都で、プロデューサー・ディレクターの立川直樹氏と広告映像ディレクターの杉山恒太郎氏によるトークと2人の選曲による珠玉の映画音楽を楽しむライブイベント『好きな映画は好きな音楽で憶えている~トーク&オーディオライブ~』が開催されました。

出典: FANY マガジン
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「トークの流れに任せた」選曲

音楽、映画、美術、舞台など幅広いジャンルで活動するプロデューサー・ディレクターの立川氏とその盟友で数多くの名作CMや映像作品を手掛けた広告映像ディレクターの杉山氏が登壇。「『好きな映画は好きな音楽で憶えている』というテーマの通りのイベントです」という立川氏の第一声で、音楽、映画に造詣の深い2人の名画と名曲にまつわるトークと珠玉の映画音楽にひたるイベントがスタートしました。
立川氏は「ライブの感覚でいきたい」という思いから、最初と最後の曲だけを決めて、ジャズライブのようにセットリストや台本なしで楽しんでいこう、と説明。どんなトークが繰り広げられ、どんな音楽が流れるのか、期待感が高まります。

素晴らしい音楽を楽しむ最高の機材を紹介

出典: FANY マガジン
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ここで立川氏から紹介されたのは、パナソニック株式会社テクニクスブランド事業推進室の上松泰直・日本市場マネージャー。アナログレコードプレーヤーの最高峰SL1000Rや、表現帯域が広く、あらゆる音を豊かに表現する最高級スピーカーなど、テクニクスの技術の粋を集めた最高のオーディオ機材を紹介していきます。名曲を最高の機材から流れる音で楽しむ、となればさらに期待が高まります。

音楽は語らずとも人の心を表現する

立川氏と杉山氏が最初に選んだ曲は、巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の映画「地獄の黙示録」からドアーズの「ジ・エンド」。重厚で緊迫感あふれるヘリコプターの音から始まる美しく悲しげな旋律とボーカル。1曲目にふさわしい、名曲からスタートです。
聞き終わった後の杉山氏は「カッコイイね」と嘆息します。

立川氏は「オープニングにこの曲を持ってくるコッポラのセンスがすごい。名監督は音楽選びもすばらしい」と絶賛。そしてその曲選びのセンスの真骨頂として2曲目に選ばれたのは、同じく「地獄の黙示録」からワーグナーの名曲「ワルキューレの騎行」。サウンドトラックは映画のワンシーンも含むため、ヘリコプターの音、演者のセリフ、爆発音までが入り込み、来場者も映画のワンシーンに巻き込まれたような感覚に。聞き終わると杉山氏が「狂気、だよね」と一言発します。

出典: FANY マガジン
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ただ勇ましいだけではなく、戦争の根底に横たわる狂気までも表現するのにワルキューレを使うコッポラ。この「戦争の狂気」つながりで次に選ばれたのがオリバー・ストーン監督の映画「プラトーン」から、ジェファーソン・エアプレインの「ホワイト・ラビット」。
立川氏は「不思議の国のアリスの白ウサギがモチーフのこの曲が流れるシーンは戦闘シーンじゃないけれど、これも戦争の狂気を表している」と音楽が映像に与える影響を紐解いていきます。そして、「オリバー・ストーンもやるよね!」と笑顔で賞賛します。

センスある監督もいいけど、センスある映画音楽アーティストも

6曲目は、杉山氏が過去に手掛けたウイスキーのCM映像が流れます。ライ・クーダーのギターの調べとCMの映像の調和が印象的で、当時の杉山氏とライ・クーダーとのこぼれ話も飛び出して笑いが起こります。
7曲目はライ・クーダーが音楽を担当した映画「パリ、テキサス」のテーマ。映画のワンシーンにより叙情性を加える映画音楽の力に2人とも感嘆。そして立川氏がライ・クーダーと並んで映画音楽の巨人として挙げたのがミシェル・ルグラン。映画「おもいでの夏」のテーマが流れます。あるシーンと音楽の調和の美しさに、聞き終わった後の杉山氏の「美しい曲だ」という言葉には単に曲が美しい、という意味だけではない感慨深い響きがありました。

悲しく切ない愛の物語つながりで「ヴェニスに死す」からマーラーの交響曲第五番より「アダージェット」が流れます。ともすれば重くなるこの曲を甘く切なく仕上げた名曲。杉山氏の「エレガントだ」という一言に集約されます。
ここでマーラーの「大地の歌」と使った名作CMが映し出されます。杉山氏が手掛けた名作の中でも非常に評価の高い1本。杉山氏も「完成度高いでしょ」と自画自賛しました。

あっという間の1時間半

イベントもいよいよ佳境に入り、12曲目はジム・ジャームッシュ監督の映画「ミステリー・トレイン」から、エルヴィス・プレスリーの「ブルームーン」。エルヴィスの甘く、うまく肩の力の抜けた、でもハートのこもった歌声に来場者も魅了されます。杉山氏は「音楽を大事にする監督は『この音楽を使いたい』というところから映画を作っていってるよね」。そしてラストは、2人が決めていた曲で、同じくジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」からスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの「I put a spell on you」。

出典: FANY マガジン
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こうして映画と音楽にどっぷり浸る1時間半のセッションが終了。と、思ったら「客出し曲」としてもう1曲。名作「エヴァの匂い」からビリー・ホリデイの「Willow weep for me(邦題:柳よ泣いておくれ)」が流れます。メロウでロマンティックな調べと歌声が今日のイベントの余韻をより深くさせてくれました。

壇上の2人の知識の深さ、経験の多彩さに舌を巻きつつ、なにより映画と音楽を語る2人がとにかく楽しんでいるのが伝わってくる「ライブ」でした。