審査員5人が関西演劇祭を熱く語る! 吉岡里帆「学生時代を思い出しました」【開幕直前SP座談会】

演劇を通して関西の街を元気にしようと2019 年に始まった『関西演劇祭』が、今年も 11 月20日(土)から 28日(日)に開かれます。いよいよ間近に迫ったこの一大イベントに向けて、今回は、スペシャル座談会を実施! フェスティバル・ディレクターを務めるお笑い芸人の板尾創路と、審査員を務める映画監督の行定勲氏、劇作家で演出家の西田シャトナー氏というお馴染みのメンバーに加え、今回、初参加となるNHKエンタープライズの一色隆司氏、そして実行委員長の女優・吉岡里帆の5 人に、ほかにはない関西演劇祭の魅力や楽しみ方、見どころについて、演劇愛たっぷりに語り合ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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『関西演劇祭』は、「クリエイター×劇団×観客の出会いの場を提供する演劇祭」をモットーに、関西から演劇シーンを盛り上げようと始まりました。3 回目となる今年は、有名無名を問わず実力勝負で選ばれた10 劇団が全国から参加。バラエティ豊かなラインナップは、演劇ファンはもちろん、観劇初心者も魅了する内容です。

上演のたびに面白さが変わる

板尾 この関西演劇祭は、これまでにあまり聞いたことのないやり方に取り組んでいるんですよね。数日にわたって各劇団が1作品を3回上演することだったり、(1回の公演が)90分で2劇団が連続上演することだったり、終演後に観客・作り手・サポーターのみんなでティーチイン(上演後に劇団員、観客、審査員が意見交換する仕組み)を行うことだったり……。だから、最初は関わったメンバー全員が、どうなるんやろう、という気持ちだったと思います。参加してくれる劇団にとっても、お客さまにとっても、どうなんやろうと。
でも、第1回(2019年)が無事に閉幕したとき、言葉にはできないような充実感があったんです。その感覚は、実際にやってみないと味わえないものでした。お客さまにとっても、お芝居の新しい観方というか、お祭りに参加するような感覚を味わっていただけるいい機会になっているんじゃないかな、と思います。

出典: FANY マガジン
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フェスティバル・ディレクターとして2回の開催を経て、この演劇祭の存在が広まって、ひとりでも多くの方が観に来てくださるような大きな祭りになればいいなと、ますます強く思うようになりました。3回目となる今年は、吉岡さんが実行委員長を、一色さんがSPサポーターを引き受けてくださることになって頼もしく思っています。

吉岡 私が、(女優という)このお仕事に「夢」を持ち始めたのは、大学時代に初めて観た演劇がきっかけでした。大学に入学してすぐのころ、エキストラとして映画の撮影に参加したことがあるんですが、そこで学生演劇をやっている方と知り合って公演のチケットをいただいて観に行ったことが、人生の転機となりました。その舞台に心を掴まれて、演劇ってなんて素敵なんだろう! と感動したんです。それまでは書道関連の仕事に就きたいと思っていた私の人生が、演劇との出合いによって大きく変わりました。
それで今回、微力ながら演劇の一ファンとして、少しでも多くの方に演劇を楽しんでいただくための窓口になれたら、と思ってお引き受けしました。

出典: FANY マガジン
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一色 関西演劇祭は1回目に盆子原誠さん、2回目に櫻井賢さんと、NHKの番組制作に携わっていらっしゃる方々が続けて「SPサポーター」を務めていらっしゃるんですよね。そのご縁もあって今回、お声掛けいただいたのですが、僕自身、NHKエンタープライズに所属して映像の仕事をしながら、最近では舞台の演出も手掛けていて、演劇が好きなんです。それに高校まで大阪に住んでいたこともあって、すぐに手を挙げさせていただきました。

板尾 本当にありがとうございます。シャトナーさんも行定さんも断らずに、2019年から続けて引き受けてくださってありがたいです(笑)。

西田 本当に面白い演劇祭なので、参加できて光栄です。僕は、各劇団3回の公演をできるだけ、ぜんぶ観るように心掛けているんですけど、ティーチインでの評価や意見を採り入れている劇団があったり、一緒に上演する2劇団の組み合わせによって面白さが違ったりして、同じ作品を観ているのに3回それぞれに感じ方が変わるんですよね。
すると、演劇祭で丸ごとひとつの物語を観たような感覚を得られるんです。1シーン1シーンの楽しさから、作品自体の面白さ、数日間にわたっての演劇祭のストーリー、コロナ禍にもかかわらず2回目、3回目と毎年続けて行われること……と、どこまで引いてもドラマを感じることができる。さらには、未知の世界と現実の世界とが接続しているような、そんな美しい興奮を味わうことができるんです。

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ティーチインの仕組みが新しい!

吉岡 ティーチインがあるのは貴重ですよね。コロナ禍になってからは特に、感想を直接伝えたり、伺ったりという機会がなかなか持てませんから。

西田 ティーチインでの板尾さんや行定さんや観客の皆さんのコメントが作品に影響を与えることによって、作品の世界が客席まで広がっていく感じがして、ものすごくエキサイティングですよ。

行定 実はそのティーチイン、最初に方法を伺ったときには「おかしいよ」と意見したんです。僕は、これまでいろいろな映画祭で審査員を務めてきましたが、ティーチインに審査員が参加することは、まずないんですよね。審査をシビアにするためには、作り手と審査員が接してはいけませんから。だけど、実行委員の方が「おかしいかもしれませんが、やってみたいんです!」と熱く仰るので、そこまで言うならと参加してみたら、やっぱりおかしいんです(笑)。
さっき西田さんが仰っていましたけど、ティーチインで審査員が言っていたことを、次の回で反映してくるんですよ。たとえば……「小道具が小さくて見えない」というコメントがあったら、その小道具を作り直してくるんです。それ、審査される側としては本来やってはいけないでしょう?(笑)。だって、僕たち審査員側がアイデアを提供していることになりますから。

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一色 えっと……、それは僕のことでしょうか(笑)。演出した舞台を信用した方が観に来てくださったときには、感想を聞くようにしているんですけど、一度、小道具を変えたことがあったので(笑)。映像と違って演劇は“生もの”、長期間の公演だと特にどんどん変わっていくのはよくあることですよね。お客さまの反応や役者さんやスタッフさんとの会話から、毎日どんどん育てていくことがお芝居の醍醐味でもありますから。

行定 そうなんですよね。だから、この関西演劇祭は、既成概念にとらわれないということがルール、それがこの演劇祭の面白さなんだ、と今では思っています。それでティーチインでは遠慮なく言いたいことを言うようにしているんですけど、話しているうちに僕たちのなかにも熱い気持ちが沸き上がってきて、控え室に戻ってからも議論が止まらないことがあるんですよ(笑)。

一色 そういう熱量を肌で感じられるお祭りというのは本当に素敵ですね。まだ開幕していないのに、もうすでにこの演劇祭に参加できてよかったなと思っています(笑)。お芝居を観に行って、親しい役者さんや演出家の友人から感想を求められたときには思ったことを素直に言うようにしているので、このティーチインでもその意識を変えずに参加するつもりです。僕が思ったり、感じたりしたことは普遍的に正しいではないにしろ、なにかの参考になれば、という感じで。

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ほかにも、いろいろな経験値を積んだ立場の方々が参加されますし、それぞれの観点を知ることができるのは僕にとってもプラスになるので、良い機会だな、と思っています。

西田 劇団の皆さんの話によって、作品の印象や見え方が変わってくるのも面白いですよ。

演劇は無限だから面白い

吉岡 これまでの審査基準と言いますか、皆さんが選ばれるときのポイントを伺いたいです。技術的な面を重視されているのか、ぐっと胸を掴むものなのか……。

行定 まず西田さんが演劇作品としてのクオリティを掘り下げて、ほかの人たちが西田さんに対抗する意見を述べていくという感じで議論を深めていますね。

一色 なるほど、それぞれに役割があるんですね。

西田 1年目に、板尾さんが「めちゃくちゃでワケわからんけど、面白かったから」と、ある劇団を推されたことが強く印象に残っています。

板尾 お前ら、この場によう出てきたな、と思いながらも忘れられなくて(笑)。それに、やり方はいろいろ。自分たちの感性ではわからないから認めない、というのは違うなと僕は思うんです。

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西田 演劇としてのクオリティとは別に、自分たちの感性や経験では分類できない面白さを認めることも大切なんですよね。

行定 たとえ脚本や演出が面白くなくても、独特の視点や、クタクタになっている姿のほうが強く印象に残ることもありますからね。

吉岡 クッタクタになってる演劇、私は好きです! クオリティの高い作品はもちろん素晴らしいと思いますが、学生時代に初めて演劇を観たときに「なにこの熱量!?」と衝撃を受けたような演劇に出会えたら嬉しいです。演劇は無限というか、作り手が変わるとまったく別物になる面白い世界ですから、今回、どれだけ強烈な個性に出会えるか楽しみです。

出典: FANY マガジン
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行定 比べてはいけないかもしれないですけど、1回目よりも2回目のほうが全体的にレベルアップしていた気がするんです。3回目の今年は、さらにレベルアップしているかもしれませんね。

板尾 レベルアップしていくことの良さもありますが、僕自身は劣悪なやつらも参加することができる演劇祭であり続けてほしいな、と思うんです。

行定 絶対に許さない、と思うくらい劣悪な作品を上演した劇団のほうが、後から愛着が湧いてきますからね(笑)。あいつら、どうしてるかなって、いまでも思い出します。

西田 不思議ですよね。みんな、元気にしてるのかな。

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音楽フェスと映画祭のいいとこ取り!?

吉岡 皆さんの会話を聞いていると、学生時代にいろいろな劇団に客演させていただいたとき、終演後に良いところやダメだったところを言われたり、みんなで議論を交わしたりしたことを思い出します。小劇場はお客さまとの距離も近くて、そういうことも楽しみのひとつなんですよね。この演劇祭を通して、またそういう場や空気を体感できると思うとワクワクします。

一色 僕も楽しみです!

板尾 賞はありますけど、明確な順位を決めるというよりも、ビンゴ大会みたいに思ってもらえたらいいな、と(笑)。せっかくのお祭りですから、みんなが楽しめたうえで少しでも作り手の励みになって、演劇の熱が上がるような場になればいいなと思っています。

西田 劇団同士がお互いの作品を観て、応援している姿が見受けられるのも、またいいんですよ。

板尾 それがきっかけで交流が始まって、次のお芝居に客演で呼ばれたりしていますからね。

吉岡 素敵な出会いが生まれているんですね。実は今回、以前共演したことがある俳優さんがひとり、出演されるんです。それに拝見したことのある劇団さんも選ばれていて、私自身、とても縁を感じています。

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板尾 演劇を観るのが好きな方にこそ、一度、体感していただきたいんですよね。2本立ての映画を観に行ったとき、目当てじゃない作品のほうが面白かった、ということがあるじゃないですか。この演劇祭では2劇団の作品を連続で観ていただくので、そういうふうに好きなものが広がる可能性も秘めていると思うんです。

行定 音楽フェスティバルと映画祭が合わさったような形で、新しい劇団に出会える機会になっている。つまり新しい観客を獲得できるチャンスでもあるわけです。それは理想的な形だと思いますし、運営側の愛情を感じますよね。表にも裏にも感じる熱さ、独自のことをやろうという姿勢が、この演劇祭の面白さにつながっていると思いますし、そこに関わらせていただけることは幸せです。

吉岡 私の生まれ故郷である関西で開催される演劇祭で、このように素晴らしい方々とご一緒できる貴重な機会をいただけたことは本当に嬉しいですし、心から楽しみたいと思います。そして来年、再来年へとつながるように、この演劇祭の面白さを発信することが実行委員長としての務めだと思うので、ここで体感したことをさまざまな形できちんと伝えたいです。

映画祭概要

『関西演劇祭2021』
日程:11月20日(土)~28日(日)
場所:COOL JAPAN PARK OSAKA SSホール
参加劇団:劇想からまわりえっちゃん、劇団不労社、劇団5454、劇団レトルト内閣、試験管ベビー、創造Street、project真夏の太陽ガールズ、メガネニカナウ、猟奇的ピンク、笑の内閣
フェスティバル・ディレクター:板尾創路
スペシャルサポーター:西田シャトナー(劇作家・演出家・俳優・折紙作家)、行定勲(映画監督)、一色隆司(NHKエンタープライズ制作本部ドラマ番組エグゼクティブ・ディレクター)
実行委員長:吉岡里帆

公式サイトはこちらから。