今年で芸歴40周年のお笑いコンビ・まるむし商店の東村雅夫。ふとしたきっかけで始めた川柳が、いくつものコンクールなどで入選しています。なかには、書籍に掲載された作品も。そこで今回は本人にご登場いただき、川柳の詠み方のコツや入選作品の読み解き、さらには川柳をめぐる今後の目標などを語ってもらいました!
桂文枝も絶賛する才能
――川柳を始めたきっかけはなんですか?
もともとは10年ほど前に、ラジオ大阪の番組コーナーでやっていました。その後、コロナ禍もあって、一昨年ぐらいから自分なりのテレワークはないかなと思っていろいろなことをやっていて、最初は手話とか美術検定とかいろんな資格を十何個か取ったんです。けれど、あとから聞いたら、女と男の市川くんが40以上の資格を取っていると。それはもう追いつけへんなということで、これはやめようと。それで10年ぐらい前に川柳をやっとったなと思いまして、2022年の春ごろから再び始めました。
――ラジオ大阪時代は、だれか先生に教わったんですか?
独学でした。当時はリスナーの人も「この人、ほんまに川柳できるんやろうか」と思ってたでしょうね(笑)。
――再開して、すぐに結果が出たということですね。
まずはあるコンクールで、「この春にやらかした失敗」というテーマで募集があったので出したんですけど、なにも反応がなく。次に出したのが「秘密」というテーマでした。それには、「普通」という評価をいただきました。けど、「普通」ではあかんなと。それで、「笑わせにかからんと、ちょっとくすぐるような、面白いものがいいのではないか」と考え直してまた作り始めて。そうしたら入選するようになりました。
――それでは、入選作の解説をお願いします!
【不二家・スマイル川柳の全国のベスト10】(2022年5月)
虫が鳴く 泣いているのと 聞く我子
これは全国で10人のなかに選ばれた川柳です。不二家さんということで、小さいころの自分の子どもの思い出というか、子どもが幼いときにあんなことを言ってたなという記憶をもとに作りました。子どもは「鳴く」と聞いても、「え~ん」と泣いていると思って、「かわいそうやな、虫が泣いている」と言ったのがよかったんでしょうね。
【よみうり時事川柳 井上一筒 選 最優秀賞】(2022年7月3日)
おい梅雨よ おまえはすでに 明けている
昨年の梅雨は明けたような、明けんような感じだったでしょう。気象庁もわからへんようで。梅雨明け宣言はなかったけれども、本当は明けていたと。それで『北斗の拳』のセリフをなぞって出しましたら、いきなり月間最優秀賞をいただきました。
それで、これや!と。なにかのセリフをなぞったらいけるんじゃないかということで、次に「リハビリ」がテーマの川柳コンクールに出しましたら、見事に優秀賞をいただきました。
【第9回理学療法川柳コンクール 優秀賞】(2022年7月17日)
あの日見た クララの一歩 おれもやる
母親がそうやったんですね。リハビリをしていて、頑張って立とうとしていました。母親の介護をしていましたので、そういう経験で作りました。
そうなると、飛ぶ鳥を落とす勢いですよ(笑)。次に「シルバー川柳」に出してみたら、14639句の中から20選に入りました。
【第22回有老協シルバー川柳 入選第二席】 (2022年8月4日) ※約14,000人中20人入選
名所より トイレはどこだ バスツアー
当初、自分では大したことないと思っていたのですが、六代 桂文枝師匠がシルバー川柳がお好きで、僕の入選を知って「お前、すごいじゃないか」と。「もっとあちこちで言いなさい」ということで、自分でも言い出したんですね。このシルバー川柳は本にもなっていまして、2ページ目に僕の本名で載っています。
【夕刊フジ ビジネス川柳入選】(2022年7月15日)
女子社員 誉めて誉めても あっセクハラ
入選日は前後しますが、こちらは「夕刊フジ」のビジネス川柳です。じつは意外と狭き門で、これは全国で2人しか選ばれないんですよ。おふざけで名前も「シャレスキー東村」にしています。会社員の悲哀ですね。おっさんが女子社員を誉めても誉めてもセクハラやと言われると。ちなみに、応募するものによって名前を変えていて、「イーストビレッジ東村」「イースト村」と本名の3つがあります。真面目なコンクールは本名で送っています。
目指すは川柳芸人として“選者”に!
――川柳の魅力はどういうところですか。
「五・七・五」は人間が非常に心地よいと感じるリズムだそうです。それで人を笑わせるというのが、いちばんじゃないですかね。
――たくさん取った資格は、川柳に役立っていますか。
いちばん有名なコンクールが「サラリーマン川柳」だと思いますが、初めて出したのが、「部下だった あいつは常務で 俺は総務」と、「上司部下 立ち位置変わる エレベーター」というものでした。僕は実用マナー検定準1級の資格があるのですが、その資格で得た知識をサラリーマン川柳に取り入れてみました。なので、サラリーマン川柳やビジネス川柳は、資格も役立ってますね。そのおかげか「夕刊フジ」のビジネス川柳も2回、選んでもらいました。
――即興での川柳も得意だそうですね。
そうですね、たいがいすぐ浮かびます。お題さえあれば、すぐ「五・七・五」でできると思います。たとえば生放送で明石家さんまさんにネタを振られたときのような、そういう気持ちで作りたいですね。
――入選を目指しているコンクールなどはありますか。
これからは二刀流でいこうと思って、標語とかキャッチフレーズに挑戦しています。それで長崎平和記念会館が募集した標語に応募しました。「長崎の鐘 戦争あかんと 今日も鳴る」と作りましたが、こちらは「努力賞」でした。
どうしても1位を獲りたいということで、次は国が募集していた脱炭素の標語を出しました。いまは結果待ちです。「出さないで おなら以外の 変なガス」という標語です。で、自分もCO2削減を実行しようと、今日は排出されるCO2を5分の1に減らして作ったというTEIJINのスーツを着てきました! あとは赤塚不二夫事務所主催の川柳にも応募して、結果を待っている状態です。
――“川柳芸人”として今後、やりたいことはなんでしょう。
今後も実績を重ねて、ゆくゆくは選者をやってみたいですね。あとは、前みたいにラジオで川柳コーナーをやってみたり。中高年がどんどん増えてきてますから、ラジオの川柳も流行るかもしれませんね。
川柳って「穿(うが)ち」「おかしみ」「軽み」という要素があるんですね。「おかしみ」と「軽み」はできるのですが、「穿ち」が難しくて……。ふだんスポットが当たらないものに当ててやるのが「穿ち」らしいのですが、そこまで精神が達していないというか、どうしても「軽み」「おかしみ」に走ってしまうんです。今後は「穿ち」も表現できるようになろうと思っています。
そして素直に「五・七・五」で人をぷっと笑わせたいですね。最近も兵庫・須磨の水族館と税務署が共同で募集していたので出しました。「これいるか すまんいります 消費税」。「絶対いける!」と思ったのですが、ふざけ過ぎたのか、いっさい返りがなかったです(笑)。
まるむし商店・東村の「川柳」「標語」の主な経歴・受賞歴
【川柳】
2012年ごろ:「ラジオよしもと すこぶる元気!」(ラジオ大阪)のコーナー内で川柳を行う
2022年4月ごろ:コロナ禍で川柳募集サイトへの応募を始める
2022年5月:不二家・スマイル川柳の全国のベスト10「虫が鳴く 泣いているのと 聞く我子」
2022年6月:読売新聞 月間秀句賞「おい梅雨よ おまえはすでに 明けている」
2022年7月:よみうり時事川柳 井上一筒 選 最優秀賞「おい梅雨よ おまえはすでに 明けている」
2022年7月:第9回理学療法川柳コンクール 優秀賞「あの日見た クララの一歩 おれもやる」
2022年7月:夕刊フジ ビジネス川柳入選「女子社員 誉めて誉めても あっセクハラ」
2022年8月:第22回有老協シルバー川柳 入選第二席「名所より トイレはどこだ バスツアー」
2022年10月:毎日新聞紙上全国大会入選「百聞いて 十しか知らん 後知らん」
2023年2月:J-AIR 恋する川柳 チョコレートこども賞 「だれよりも 妻と我が子が 数寄屋橋」
【標語】
2022年12月 令和4年度世界平和祈念 標語展入選 努力賞「長崎の鐘 戦争いカン行カンと 今日も鳴る」