ピストジャムが綴る「世界で2番目にクールな街」の魅力
「シモキタブラボー!」待ってたよ!

シモキタブラボー!

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

「世界で2番目にクールな街・下北沢」で23年、暮らしてきたサブカル芸人ピストジャムが綴るルポエッセイ。この街を舞台にした笑いあり涙ありのシモキタ賛歌を毎週、お届けします。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン
イラスト:ピストジャム

待ってたよ!

あずま通り商店街はにぎわっていた。こんなに人が集まるところは久しぶりに見た。

イカ焼きを売る露店の前には長い行列ができていて、プラカードを持った係員が

「こっちに並んでくださあい!」

と、声を張りあげている。電柱にくくり付けられた簡易のスピーカーからは、商店街の真ん中でライブするミュージシャンの歌声が鳴り響く。

ドーナツ屋の前では、大きな将棋盤で中年男性と子供が将棋を指している。当然だが、駒も大きい。コンビニで売っているおにぎりくらいのサイズはある。

道路は歩行者天国になっていて、道の中央に置かれた長テーブルでみな食事している。さんまのつみれが入った女川汁とかイカ焼きそばとか。

天気もいいし、この光景を眺めているだけで気分がいい。やっとシモキタに活気が戻ってきた。イカす。

 

シモキタには六つの商店街がある。街の最北に位置する「一番街商店街」。駅の北側から西口にかけての「しもきた商店街」。駅の北東、本多劇場や北沢タウンホールがある「あずま通り商店街」。旧南口のマクドナルドから庚申堂までの「南口商店街」。庚申堂から茶沢通りまでの「ピュアロード」。茶沢通りに沿って代沢小学校までの「代沢通り共栄会」。

シモキタに越して来たころは、商店街の名前やエリアなんて気にしたことがなかった。でも、長く住んでいると少しずつ覚えるもので、いまは「一番街」とか「あずま通り」とか自分でも自然に口にしていて、いつのまにかシモキタの住人になったんだなと実感する。

住んでいると、それぞれの商店街に特色があることにも気づいてくる。もっともわかりやすいのは、各商店街の主催イベントだ。

一番街商店街は、天狗まつりと阿波おどりを主催している。シモキタをぶらぶら歩いていて、道路脇の街灯に天狗の顔とうちわの絵を見つけたら、そこは一番街商店街だ。

しもきた商店街は、ちびっこ天狗道中やキッズハロウィンなど子供が楽しめるイベントを開いている。くわえて、下北沢大学というアートや音楽などの芸術文化をサポートするプロジェクトもおこなっている。

あずま通り商店街は、イカ祭りとシモキタ名人戦。イカ祭りは、宮城県女川市の復興を応援するために2012年から始まった。シモキタ名人戦は、将棋のイベントでこちらも2012年に第一回が開かれた。いわゆる縁台将棋で、その日は駅前やあずま通り商店街の路上が将棋を打つ人たちであふれ返る。

ピュアロードでは、下北沢ピュアロード祭というイベントでフリーマーケットや大道芸が楽しめる。ぼろぼろ市とも言われていて、数年前に見たチラシには第120回と書かれていて思わず二度見した。どうやら35年も前から続いているらしい。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン
イラスト:ピストジャム

先日、あずま通りにあるろくでもない夜というライブハウスでトークイベントに出演した。『あなたと仲良くなりたいの!』というイベントで、MCはろくでもない夜の店長の原口ゆうすけさんと木曽さんちゅうさん。

MCの二人がゲストを呼び込んで順にトークしていくというスタイルなのだが、そのゲストのメンバーが多種多様すぎた。斧出拓也さんという全国に70人ほどしかいない変わった名字の男性シンガーソングライター、デスボイスを発する女性ボーカリストのメタルバンドSAISEIGA、そして謎の二人組赤羽ちあきなおき。

赤羽ちあきなおきは、お笑いコンビのような名前なので芸人かと思っていたら違っていた。赤羽のスナックのママちあきさんと、ギター担当のなおきさんからなる音楽ユニットだった。

楽屋に入ったときから、二人のインパクトは強烈だった。楽屋で、ボトルでシャンパンを飲んでいた。

ゲストで登場する芸人は僕ひとりなので一番ウケないと、と気合を入れて臨んだけれど、赤羽ちあきなおきにはかなわなかった。赤羽ちあきさんはスナックのママということだけではなく、原口さんの実の母だったのだ。

彼女はスナックのママでもあり、原口さんの本当のママでもある。客はみなそのことを知っていたようで、彼女がステージにあがり

「原口ゆうすけの母親やってましたー」

と、自己紹介すると爆笑が起こった。

木曽さんもとまどいながら、

「本当のお母さん? こんなの家でやれや!」

と、ツッコミを入れると客席はまた大いにわいた。

 

そんなはちゃめちゃなイベント終わりに、会場で打ち上げをしていたら

「今年はイカ祭りやるらしいよ」

「ああ、3年ぶりらしいね」

と、いう会話が耳に入った。

気になって調べると、あずま通り商店街のホームページに「イカ祭り2023」のチラシが掲載されていた。ついにやるんだ。

ほかのイベントは? 調べてみると、今年は天狗まつりもちびっこ天狗道中も開催されるらしい。

絶対全部行こう。そう心に決めて、スマホに表示されたイカ祭り2023のチラシを改めて眺める。

ん? 水色のイカのキャラクターの頭の下に何か書いてある。

〜イカすシモキタ〜

うん。シモキタはイカすっす。


このコラムの著者であるピストジャムさんの新刊が10月27日に発売されました。

書名:こんなにバイトして芸人つづけなあかんか
著者名:ピストジャム
ISBN:978-4-10-354821-8
価格:1,430円(税込)
発売日:2022年10月27日

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

ピストジャム
1978年9月10日生まれ。京都府出身。慶應義塾大学を卒業後、芸人を志す。NSC東京校に7期生として入学し、2002年4月にデビュー、こがけんと組んだコンビ「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビで結成と解散を繰り返し、現在はピン芸人として活動する。カレーや自転車のほか、音楽、映画、読書、アートなどカルチャー全般が趣味。下北沢に23年、住み続けている。