人気芸人の月亭方正。現在は落語家としても確固たる評価を得ていますが、音楽フェスをプロデュースするなど、無類の音楽好きとしての一面も幅広く知られているところ。その方正が、アーティスト「Ho-Say」として、“落語×音楽”の融合に挑戦!
7月1日(水)に音楽配信サイトでデジタル配信をスタートしたのが、古典落語の名作「看板のピン」をヒップホップ曲にアレンジした、その名もズバリ、「看板のピン」です。
今回は、新たなチャレンジに至った背景や作品の出来栄えなどについて、本人にたっぷりと語ってもらいました。
「看板のピン」は、落語家・月亭方正が紡いだリリックに、MCのサッコン(ヒップホップグループ「韻シスト」のメンバー)とMC MIRI(女性アイドルグループ「我儘ラキア」のメンバー)のラップがミックスしたキラーチューン。これまでにないまったく新しいスタイルの楽曲は、若い世代や落語に興味のない人たちも、一度聴いたら思わずハマる完成度です。
落語に興味ゼロの娘たちへ!
—今回の作品をリリースしようと思ったきっかけを教えてください。
時間にずっと追われてきたんで、(新型コロナウイルス感染拡大の影響で)こういう状況になったとき、最初はちょっと“ちょうどええわ”って思ったんです。
それで(落語の)稽古をずっとやってたんですけど、それでも時間が余ってきて。で、高校2年と3年の娘がおるんやけど、まあ落語に全然興味ないんですよ。聞こうともせえへん。“普通そやわな〜、俺も40前で初めて聞いたしなぁ”って思ってたけど、このくらいの子らが落語を聞けるような、キャッチーなもんてないんかなぁって考えて、「音楽」と「落語」を融合して娘たちの年代に興味持ってもらおうと思ったんです。
—そもそも方正さんが音楽好きになったきっかけは?
小学2~3年生くらいかなぁ、そのときの音楽の先生が田中先生っていうオッチャンやったんですけど、その先生がよかったんですよね。
1時間の授業の半分は音符とかのいわゆる勉強、あとの半分は7歳、8歳の子どもにクラシックをただただ聴かせるという授業、毎回それで。初めは(じっと音楽を聴くのが)しんどかったのよ。でもなんか好きになってきて。「ペルシャの市場にて」という管弦楽曲があるんですけど、それがえらい好きになって。小学4年くらいのとき、初めて親に買ってもらったレコードもクラシックでしたね。
—田中先生のおかげ?
まあ、その前も「なみだの操」(殿さまキングスの1973年のヒット曲)とか、5歳くらいで親戚の前で歌ったりしてたけど、音楽を好きになったのは、その授業がきっかけ。そこからだいぶクラシックも聞いたし、やっぱりそれ(音楽の授業)ですね。
—プライベートではどんなジャンルを聞いてますか?
今は娘の影響が多いですね。ちょっと人気が出すぎてしまったけど、最近はブラックピンク(韓国のガールズ・グループ)にハマってて。あとは(レディー・)ガガとか、ビリー・アイリッシュとか、とにかく今の洋楽ですね。上の娘がすごく音楽が好きで、“これカッコいいよ”ってやつが、確かにカッコいいんですよ。
—方正さんにとって音楽とは?
落語と音楽っていうのは、ずっと自分の近くにあって。俺、遊ばへんから、酒も飲まへんし、「飲む・打つ・買う」の全部せぇへんから時間があるんですよ。基本的には落語をずっとやって、その落語の気晴らしに音楽、みたいな感じ。
試行錯誤の末にラップとのコラボへ
—今回は落語とラップの融合ということなんですが、ラップの曲はよく聞くんですか?
全然ですね。ラップというと怖い感じ、悪いヤツの感じがしてたから。でも今回、「看板のピン」で曲を作ろうと考えて、ネタのストーリーを抜粋して聴くだけでなんとなく「看板のピン」(のネタ)がわかるような歌詞にしようとしたんです。だけど、その歌詞にメロディをつけたら、フツーの歌になってしまった。これやったら落語のよさも出てないし、音楽にする必要性があんまりないなぁって。
—おもしろくなかった?
そう。それで改めて、やっぱり落語はせなアカン、落語の流れのなかで音楽がひっついてるような感じにせなアカンって考えて。じゃあ、クラシックみたいな曲をBGMみたいにして流すのか……なんか違う、という試行錯誤をしてるときに、ラップと組み合わせたら、もしかして言葉と言葉のぶつかり合いでおもしろいかな〜って思いついたんです。基本的には俺の落語がわかる、そこに音楽をつけて途中でラップが入る、という形。すごいぶつかるかもわからんけど、ワケわからんかもわからんけど、そのくらいのほうがエエか、となって。
—やってみて手応えはどうでした?
落語とラップは、それぞれが生きて、それぞれを引き立たせる、すごく相性がいいなと。それと、やってる途中でわかったことですが、節をつけて言葉で自分の想いをぶつける……ラップは浪曲や、現代の浪曲なんだ、なるほどそれは落語と相性いいわ!と気がついたときに「これイケる」って思いましたね。
ラップはダジャレ……じゃない!?
—歌詞も自分で書かれたんですね。
音楽に合うように古典落語に加筆しました。あと、ラップ部分も最初は僕が書いたんだけど、なにしろラップの概念がわかってなかったんですね。「これがラップの部分やねん」って渡したら、「方正さん、これラップじゃないです。ダジャレです」と音楽担当のスタッフに言われて(笑)。
俺はフリがあってダジャレがきて、またフリがあって——という感じで思っていたけど、「方正さん、これ違うんです」、「え、なんで? シャレやろ」、「まぁそうなんですけど……」というやりとりがあった。
そこで、俺わからへんし無理やから、俺が書いたやつをもとにラップにしてって言うて、やってもらったんです。
—作曲も方正さんが?
曲は完全に自分です。
—今回コラボしたMCのサッコンとMC MIRIの印象は?
MIRIちゃんのなかで、落語とラップってすごくおもしろいと思ったらしくて。会ってしゃべったときには、すごくクレバーで頭がいい子やなと思いました。
サッコンは落語が好きで、話が来たときもノリノリですごくうれしかった、と言ってくれてましたね。
—レコーディングのエピソードはなにかありますか。
サッコンも20年選手やし、MIRIちゃんもラップを始めて4〜5年になるんかなぁ。
そういうプロの方やから、素人がいろいろ意見できない、でも言いたいってところで苦労したかな。
結局は言ったけども(笑)。あとで“あそこ言うてたらよかったなぁ”って思うのもイヤやし。
—たとえば、どの部分ですか?
最初のMIRIちゃんの歌い方、「看板のピンや〜」のところを(音程が)上がる感じでとか、そういう細かいリクエストを「ごめんなさい、ここはこういう感じで」って言いましたね。
バズる手応えアリアリ! しかし……
—落語+ラップの初作品、仕上がりの感触は?
曲ができたときに、“これはおもしろい、イケるんちゃうかなぁ”と思って。娘にも「パパ、これひょっとしたバズるかも」って言われたんですよ。音楽も映像も僕のココ(頭の中)のヤツがしっかりと具現化されてたから、僕はすごく楽しくて。
—ミュージック・ビデオ(MV)のビジュアルもすべて自分で指示したんですか?
そう。ただ認識が甘かったというか、“すぐ10万回再生くらいいくやろ”とか、“1万人くらい登録者なるんやろ”とか思ってたけど、そこは全然で、思ったほど伸びてない(笑)。
—もっと告知や宣伝をするとか?
そこが全然わからない(笑)。まあなんというか、俺はYouTuberになろうとも思ってないし、YouTubeで稼ごうとも思ってない。
ただ、せっかく作ったモノをみんなに見てもらいたいという気持ちだけやから、(再生回数とかに)振り回されんとこうと。みんな再生回数がどうとか、登録お願いしますとか言うてるけど、なんかそういう欲はなくて、ただ見て欲しいって欲があって。なんていうかなぁ……いちばんの目標は、まず娘の世代がこれに興味をもってもらいたい。結局は、興味を持ってもらって落語界に来てもらう、ていうのが目的やから。
落語に興味ない人に向けて裾野を広げるというか、それが目的やから。
—自身も始めたYouTubeチャンネルについては、どう考えているんですか?
実は俺、(オリエンタルラジオの)中田あっちゃんだけ登録してて。すごいなって思うのは、俺、あいつのことあんまり好きじゃないけど(笑)、登録してるやんって。
それなんやって言うたら、あの子の才能に惹かれてるってことやから。(YouTubeは)その人のすごく得意なところ、テレビではできないその人のすごく得意なところを出す場所なんかなって。
—では今後、YouTubeのほうも力入れていくとか?
いま1本(「看板ピン」のMV)しか出してないから……(笑)。みんなは、再生回数とか登録者数を増やしたいんやったらポンポン出さんとアカンと言う。でも、別にそれをやりたいわけじゃないし……だから、俺もようわからへんねん。ただ俺は、こうやって自分の脳内を具現化して、なにか商品ができた、これを売りたい、見てもらいたいってことだけ。
膨らむ新作の構想…ライブはそれから!
—今後、ライブなどの予定は?
まだ予定はないけど、次の創作は始めています。古典落語と何かを組み合わせたものを3つくらいやりたくて、もう動いてる。
—その新作は、いつごろ見られそうですか?
始めたらダダダーって進むから。いまは、なんとなく自分のなかでこんな感じでやろうっていうのを30〜40%くらい作っているところです。ぶっちゃけ、この「看板のピン」がもうちょっと伸びていたらダダーッといっただろうけど、そこまで伸びてないから、“なんかコレ、どうしたらいいんやろ”って(笑)。
だからライブするんやったら、あとの2つができてからかな。
—最後に改めて、この作品をどう聴いてほしいかメッセージをお願いします。
この「看板のピン」はすごくおもしろい、新しい作品です。落語に興味ない方も「看板のピン」がどんなもんかわかるし、もちろん落語を知っている人にも、音楽と融合したおもしろさがある。落語の可能性というか、そんなところもちょっと見ていただきたいです!
作品情報
「看板のピン」
アーティスト名:Ho-Say
原作作詞:古典落語、追加部分作詞:山崎邦正
作曲:山崎邦正、編曲:浜崎州平
ゲストボーカル:サッコン(韻シスト)、MC MIRI(我儘ラキア)
iTunes /レコチョク他、各配信サイトにて配信開始 261円(税込)
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