桂文珍、38回目の独演会を開催 コロナ禍に生んだ新作落語「在宅勤務」披露

毎年8月8日、大阪・なんばグランド花月を舞台に開催される『吉例88 桂文珍独演会』が、今年も行なわれました。

今年で38回目の開催となった『桂文珍独演会』。7月20日(月)に実施された概要発表会見では、文珍は演目・ゲストともに「まだ決めていない」と語っていました。新型コロナウイルス感染症対策が敷かれた会場には、そんな文珍の話芸に期待を寄せる観客が集まりました。

前座には一番弟子、楽珍が登場

開演時刻になると会場には笛と太鼓の音が響き、文珍の一番弟子である桂楽珍が登場。愛嬌のある表情で頭を下げる楽珍に拍手が起こります。

楽珍は「今年2月28日(金)に落語をやって、それからずっと落語をやっていません」と話し、「だから5か月半ウケたことがないんです」と明かすと、会場からは笑いが。その5か月半の間に自身の妻がクスッと笑ったというまくらで笑いをとってから、『宿替え』を披露します。短時間にも関わらず、体全体を使った噺で会場を盛り上げました。

自粛期間中に作った新ネタを披露

続いては主役の文珍が姿を見せます。黒の羽織にマスクをつけての登場に、会場からはひときわ大きな拍手が。

「換気などしているので、どうぞ安心して」と告げ、時事ネタなどで笑いを取りつつ、改めて38回目となる独演会について「今日まで続けて来られたのは皆様方のおかげ」と感謝の気持ちを伝えました。そして「楽珍の技量が1回目から変わらない」とボヤきつつも、今回は独演会1回目のゲストだった桂文福を呼んでいると明かします。

ここで古典落語『藪入り』について軽く触れてから、「コロナの時代に自宅待機をしながら作った噺。あまり試せる場所がなく、プロトタイプをやらせていただく。今でないとできない」と新作の『在宅勤務』を披露。在宅勤務中に災難にあった男が交わすユニークなやりとりを、軽妙な語りで聞かせました。

文福、内海とゲストが登場

続いては先ほど紹介のあった文福の『一人歌謡笑』がスタート。文福がいきなりその美声を響かせると、会場も手拍子でレスポンスします。そこから謎掛けを連発したかと思えば、再び自慢の声を存分に披露し、笑いを誘いました。

中入りのあとは、内海英華が三味線を鳴らしながら登場。「第1回目から文珍独演会のお囃子をやらせていただいている」と明かすと、会場からは拍手が起こりました。

そして女道楽が本職であると話し、その女道楽を生業とするのは日本で自分1人のため“日本一”と笑いを誘い、美しい三味線と艶のある声で観客を魅了しました。

今年の独演会を締めるのはあの大ネタ

そしてトリは文珍。まくらでは1席目でも触れた自身の生まれ故郷の話や、自粛期間中に目覚めたという料理の話などを披露。そして「暑い時期なんで夏らしい噺を」と、大阪の夏をしっかりと感じさせてくれる大ネタ『船弁慶』へ。主人公の男と嫁、男を誘う友人のやりとりを、緩急自在の話術で聞かせる文珍。観客もその芸を存分に堪能し、30分を超える噺の間、笑いが途切れることはありませんでした。

噺が終わると、文珍は「(『船弁慶』を)久しぶりにやらせていただいた」と告白。これほどの長い噺をしばらく披露していなかったため、喉がカラカラでしびれも切れたと笑わせます。そしてお囃子のメンバーをステージに呼び込み、「最後に錣(しころ)を聞いてお開きに」と告げて鐘と太鼓が軽快に鳴り始めると来年はいい年にしたいと思います。誠にありがとうございました」と改めて感謝を述べます。大きな拍手が起こるなか、38回目の独演会は終了しました。