桂三実、笑福亭智丸、月亭希遊──吉本興業所属の新鋭落語家3人が、きたる3月26日(日)から大阪・道頓堀ZAZA POCKET’Sで『三実×智丸×希遊 三ツ星落語会』を月1回ペースで開催していきます。賞レースでも活躍し、将来の上方落語界を背負って立つ存在へと成長を続ける彼らは、この落語会で何を表現し、アピールするのか? 「落語初心者にも楽しんでもらえるはず」と胸を張る会の内容や、これまでの道のりについて、ざっくばらんに語り尽くす座談会をファニマガ独占でお届けします!
3人でじっくりしゃべるのは初めて
──『三ツ星落語会』の企画を初めて聞いたときの心境から教えてください。
三実 時間帯が夜の9時前からで、そういう意味では新しいし、ちょっと楽しみというか。
智丸 名指しで会の企画をいただくっていうのは珍しいですしね。頑張らなあかんなと。
希遊 「コンテストや賞レースで勝っていってもらいたいんです」みたいにも言われたんで、期待されてんねんなと思いました。これからの上方落語界を背負っていこうかなと(笑)。
智丸 二人会だったら1人2席ずつで計4席、前座を入れて5席なんですけど、3人やったら1席ずつで、だいぶ尺が変わってくる。やりやすいですよね。
──この3人の交流は、以前からあったんでしょうか。
三実 プライベートで会うことはないけど……。
希遊 でも僕、三実兄さんには、映画に連れてってもらってます。
智丸 ええっ! 僕も連れてってくださいよ。
三実 映画がすごい好きで、観た後はやっぱ感想とか言い合いたいから……。
智丸 僕も、映画好きなんですけど。
三実 好きやけど、王道のベタな映画は嫌いでしょ?
智丸 いや、大好きです! まかせてください! この3人で映画観る会とかしたいです。
希遊 ただただ鑑賞するだけの(笑)。
智丸 仲悪くはないですよね。お兄さん(三実)とも一緒にずっと会やって。
三実 ただ、この3人っていうのは初めてかも。ここ(智丸と希遊)は?
智丸 一緒にやりかけてたけど、コロナ禍に入っちゃってナシになったのがあります。
──では、3人で膝を突き合わせてしゃべることは……。
三実 それがね、ないんです。
智丸 今日が初めて。
希遊 昨日、YouTubeではちょっとしゃべりましたけど。
三実 3人で作戦会議しようっていうのはなく。
智丸 ぜんぶLINEグループでのやりとりでした。
三実 まあ、信頼してるからっていうのはあるかもしれないです。2人とも、賞レースで決勝とかにいっぱい行かれてるので。
智丸 それはお兄さんのほうが。『上方落語若手噺家グランプリ』という大会がありまして、3人とも2回、ファイナリストになってるんです。
三実 そういうのもあって、心配いらないメンバーかなと。古典ももちろんですけど、初めての人にもわかりやすい新作も、なんでもできるので大丈夫だと思います。
希遊 落語をあまり知らない人のなかには、新作と古典があるというのを知らん人もいると思うんですよ。僕も初めて落語を聞いたときは、新作って意味がわからなかったんで……。でも、ほんまにコントとか、そんな感じで聞いてもらえたら。
三実 1時間っていうのがまたいいよね。
智丸 そうですね。しかも前座を入れて4人で1時間ですから、トントントンと回転していく。
漫才もコントも好きな3人ならではの落語
──読者には落語初心者も多いと思うのですが、そんな人たちにこの会の魅力をアピールするとしたら?
三実 世間一般の人が知ってる落語家に比べると、若いです。言うても僕が20代、あとは30代ですけど、世間一般の落語家のイメージよりかは……。
智丸 平均年齢はぜったい若いですよね。
三実 で、前座(開口一番)の(桂)天吾くん(第1回・3月26日出演)とか、(桂)源太くん(第2回・4月21日出演)は、より若いですから。若い人たちからすると、自分たちと同じ世代の落語家さんがいてるねやっていうところで、まずとっつきやすいかもしれない。それとやっぱり、さっきも出ましたけど、みんな新作をやるので、古典の難しい世界よりは親しみやすいかな。
智丸 「こんなんもあんねや」っていうのを知っていただける。
三実 そう、(新作と古典)どっちもできるっていうのがこの会の強みですね。一門が違うっていうのもデカいですし。一門によってネタの種類とかスタイルも違うんで、落語好きな方は、そういう楽しみ方もできるんじゃないかと。
希遊 それこそ“吉本”っていうイメージで来てもらってもいいかもしれないですね。もともと漫才やコントも好きな3人なんで、そういうのにも影響されてるというか。
智丸 だから、落語初めての人もうれしいんですけど、ディープなお笑いファンの方にも来てほしい。ふだんから、お笑いイベントを見にZAZAに通ってるような方が来てくださっても、おもしろいと思ってもらえる会にしたいです。
希遊 落語って漫才やコントみたいな笑いもありますし、それこそさっき映画好きって言うてましたけど、映画みたいな感じでじっくり聞かせる人情話もあって。そういう意味では、ほんまに初めての方でも、来てもらったら楽しさはわかってもらえるんちゃうかな。
賞レースには「人気出るなら、ちょっと狙いましょか」
──先ほども少し出ましたが、落語の賞レースにかける思いも聞かせてください。
希遊 僕は正直、勝とうと思いながらやるのが好きじゃないというか。「三題噺」とか、お客さんからお題をもらって落語するのが好きなんですけど、(ネタが)生まれた瞬間はめちゃくちゃ楽しいものの、それをきれいに整えていくのはしんどい。なので、賞レースはできれば出たくない。
三実 (笑)
希遊 けど、勝ちたいですし、アピールの場になるんで。
智丸 落語って、本来はゆっくり聞いてもらうものなんで、長尺がスタンダードなんですけど、大会は短期決戦で10分ネタとか。それも、これから生き残っていくためには必要なのかもしれないですし、賞レースがなければやらないことっていっぱいあるんで、いい経験かなと。
三実 優勝ってなったら、誰かわからへんでも「優勝してて、すごい人なんや」ってなるし、いままで出られなかったようなところからお声がけしてもらったりとか、次につながるのがデカいかなと思うんですよね。
──若手の登竜門には、『NHK新人落語大賞』『上方落語若手噺家グランプリ』、さらに『繁昌亭大賞』の新人賞もありますよね。
三実 特にNHKさんは、やっぱり全国区の影響力がありますし、東西の落語家が参加するので、そこに吉本から1人でもいけたらなっていうのがあります。吉本は漫才・コントっていうイメージが強いので、アピールするにはそういった賞レースがいちばんの名刺がわりになる。
希遊 あと、単純に優勝したらめちゃくちゃ気持ちいいいんちゃうかなとは思います(笑)。
三実 そら気持ちいいと思うで。
希遊 初出場で決勝に行かしてもらったんですけど、そんときも、やっぱり気持ちよすぎて1週間ぐらい頭がボーッとしてました。
三実 初めて彼女できたときみたいな感じな(笑)。
希遊 そう(笑)。それが優勝となったら、えげつない気持ちよさがあるんちゃうかなと。
三実 この会に前座で出てくれる天吾くん、源太くんはNHKの去年のファイナリストなんですが、ほんまに人気が出てるし集客もすごくて。本人たちもNHK効果やって言ってるし。
希遊 ほな、ちょっと狙いましょか。
三実 いや、毎年狙ってんねん(笑)。
──つまり『三ツ星落語会』は、そこに向けての腕を磨く場でもあると。
希遊 そうなんです。初めての方でも、来てくださったら、いつかテレビで優勝してる姿を見て、「あ、あのときの人や!」ってなるかもしれません。
三実 ちっちゃいとこで見てたのに、あんな大きいとこで……とか。竹原ピストルが紅白に出たときみたいな感じ(笑)。
智丸 ぜひぜひ青田買いをしてもらいたいですね。
元NSCに落研、名古屋から上方へ…三人三様のきっかけ
──皆さんが落語家になろうと思ったきっかけは?
希遊 僕はもともと、幼なじみとコンビ組んで大阪のNSC(吉本総合芸能学院)に入って、そこで解散して。その後はピンでやったり、コンビ組んだり解散したりを繰り返しながら、トータルで8年ぐらいやったかな?
三実 同期は誰がいるの?
希遊 31期なんでインディアンス、ロングコートダディ 、セルライトスパとかですね。で、ピンでやってるときに、放送作家の方から「落語聞いてみたら勉強なるで」って言われて、(桂)ざこば師匠の「肝つぶし」を図書館で借りて聞いてみたんです。それで「わあ、こんな噺もあるんや!」となり、いろんな人の噺を聞きまくるうちに、自分でやりたいって。
三実 そういうきっかけかあ。
希遊 漫才・コントって、なに作ってええかわからんし、どうしたら売れるかもわからへんし、やることが多すぎてどうしたらええかわからんかったんです。でも落語は、ネタを教えてもらえて、それを一生懸命やってたら、自分なりにやりたいことも表現できるんちゃうかって。新作で自分の思うことも表現できるし、これはもうやるしかないと。だから、いまはすごく楽しいです。
智丸 僕も、もともと漫才やコントが好きで、お笑いの世界に行きたいなっていうのがあったんですけど、高3ぐらいのときに落語にハマり出して。芸大(大阪芸術大学)で落研に入ったら、そこは漫才とかコント中心のところで、ぜんぜん落語やる空気じゃなかった。でも、プロ志向の人らばっかり集まってるディープな男臭い感じやったんで、その影響も受けながら、負けないように落語をやってきました。
──智丸さんは、文学系の活動もされているんですよね。
智丸 はい。詩の賞で、候補になっては落ちてを繰り返してきました。
希遊 詩はなんで書き始めたんですか?
智丸 お笑いとかエンターテインメントが好きな一方で、「わかってたまるか!」みたいなのも好きなんですよ。「誰もわからんことやったれ」っていうところがあって、現代詩っていうジャンルがいちばんそうやった。「こんな世界があんねんや」って衝撃を受けて、「ここで勝負してみたい」と。
──落語にハマったのは、なぜだったんですか?
智丸 落語会を初めて見に行ったとき、なんかホッとしたんですね。10分尺、5分尺でぽんぽんぽんと進むお笑いイベントと違って、ゆっくりのんびり見られるなって。漫才はおもろいかおもんないかしかない世界やったけど、落語にはおもんないけどおもろいなみたいなんがあって、それがいいなと感じてハマっていきました。
三実 確かに、人間が出るというか。
智丸 ホッとさせられるもんがあるんですよね。
──三実さんはいかがでしょう?
三実 僕もお笑い好きで、やりたいなあと思いながらも、(出身が)名古屋だったのでNSCもよう行かん、相方さんもいない、おカネもない。テレビでダウンタウンの松本(人志)さんとかが「(桂)枝雀師匠、聞いてんねん」と言われてるのを聞いて、TSUTAYAでCDを借りて聞いたのが中学3年生のとき。
これが面白くて、落語関連の記事なんかも読むようになったんですけど、(桂)吉弥師匠と千原ジュニアさんの対談記事で、ジュニアさんが「落語ほど、まだまだ手垢のついてない芸はない。新しいことめっちゃできる」とおっしゃっていて、確かにそうやなあと。で、師匠(六代 桂文枝)の落語に出会って、それをいちばん実践してる人やと。落語にメールを取り入れたり、実際に(高座で)メシ食うたり。
智丸 いまだに可能性を広げ続けてはりますよね。
三実 師匠のインタビューを読んだら、「もっと落語を壊す人が出てきてほしい」みたいなこと言われてて、「ここや!」と。まだ誰も見てないような落語をできたらなっていうので、落語家になりました。
希遊「落語の一大テーマパークをつくりたい!」
──最後に、それぞれが思い描く将来像も聞かせてください。
希遊 夢なんですけど、テーマパークをつくりたいです。新作落語をたくさんつくってるんで、それをモチーフにしたアトラクションがあるテーマパーク。
三実 すごい夢やな、それは。
智丸 僕は文学もやってますんで、落語家で芥川賞という夢はありますね。
希遊 芥川賞!
三実 それは夢あるわ。
智丸 そういう、意外といないポジションを確立したいなと思ってます。
三実 僕はやっぱり吉本にいる以上、なんばグランド花月に出て、そこで戦えるようになりたい。千鳥さんとかかまいたちさん、霜降り明星さんとか、いまをときめく人がドカーンとウケてるなか、最後に師匠(文枝)が出てきてボカーンと巻き返す、みたいな。
文珍師匠とかもそうですけど、結局、全部かっさらっていくじゃないですか。僕も、それにはほどほど遠いですけれども、少なくとも同じ舞台に立てたらいいなと思ってます。そのためにも、もっとウケを意識していきたいし、この2人とならそれができると思うので、この会はまさにぴったりやと……。
希遊 お、最後にまとめましたね(笑)。
三実 初めての人にも聞きやすい3人やと思いますんで、ぜひ足を運んでください!
公演概要
『三実・智丸・希遊の三ツ星落語会』
場所:道頓堀ZAZA POCKET’S
出演者:桂三実、笑福亭智丸、月亭希遊
チケット:前売1,500円 当日1,800円
【第1回】
日時:3月26日(日) 開演20:45 終演21:45(予定)
開口一番:桂天吾
【第2回】
日時:4月21日(金) 開演20:45 終演21:45(予定)
開口一番:桂源太
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