「しゃべるだけで魔法をかけられる噺家になりたい」 NHK新人落語大賞は桂慶治朗に!

若手噺家の登竜門である「NHK新人落語大賞」が11月11日(土)、NHK大阪ホールで開催されました。予選を勝ち抜いた桂慶治朗、桂三実、春風亭一花、春風亭昇羊、柳家吉緑の5人がネタを口演。桂慶治朗が見事に大賞に輝き、「いろんな人にありがとうと伝えたい」と満面の笑みを見せました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

史上初の生放送で5人が競演

前身である「NHK新人落語コンクール」時代から、およそ半世紀の歴史を持つ「NHK新人落語大賞」。東京は「二ツ目」、上方はそれと同程度の芸歴を有し、かつ入門15年未満の若手落語家たちが頂点を競います。

今年は東京予選に63人、大阪予選に41人が参加。本戦は片岡鶴太郎、桂文珍、金原亭馬生のほか、関西の演芸情報を掲載するフリーペーパー「よせぴっ」の日髙美恵編集長、落語評論家でもある音楽雑誌「BURRN!」の広瀬和生編集長が審査員を務め、史上初となる生放送で開催されました。

本戦では、当日の抽選で決まった出演順でそれぞれ11分のネタを披露しました。

春風亭一花は美しい所作で「四段目」を、柳家吉緑は間抜けな泥棒と住民が登場する「置泥」、春風亭昇羊は「紙入れ」で色っぽい女将とたっぷりと間を取ったネタを披露。そして桂慶治朗は独自の構成を入れた「いらち俥(ぐるま)」、桂三実はオリジナルの「あの人どこ行くの?」でネタ中に拍手を浴びるなど、それぞれが会場を沸かせました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

そして厳正なる審査の結果、桂慶治朗が大賞に決定! 慶治朗は「ありがとうございました!」と感謝します。トロフィーを受け取ると、感極まった表情を見せ、改めて「いろんな人にありがとうと伝えたいです」と話しました。

文珍は慶治朗について新しい構成でネタを工夫していたのが大変よかったと話し、「明らかに師匠(桂米團治)を超えたと思います」とボケると、会場からは笑いと拍手が起こりました。

慶治朗は、生放送が終了したあとも「今日は皆さま方の力で獲らせていただいたと思っています」と客席に感謝しました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

感銘受けた師匠のネタ

囲み取材で慶治朗は、「本当にうれしいの一言です」と話し、「(米團治)師匠に入門させていただいて、落語家になれていままでやってきて本当によかった。師匠を始め、いろんな方に感謝の気持ちを伝えたいです」と安堵の表情を見せます。

慶治朗は高校を卒業後、フリーターから大学生、会社員を経て、ある日突然、落語家になろうと思い立った変わり種。弟子入りが必要だということをインターネットで調べたそうです。米團治の「親子茶屋」を見たとき、「目の前で人が生きてる。落語がしたいというよりこのネタがやりたい」と感銘を受けたと振り返ります。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

決勝前に、師匠から「とにかく楽しんで、ふだんどおりに」とアドバイスをもらったという慶治朗。この日のネタ「いらち俥」は、ふだんの高座より短い時間で勝負をかけないといけないので、笑いが早く来る、笑いの数も多いところから選んだそうです。

「これからも落語の基礎を」

日々の稽古で慶治朗は、理想とする桂米朝や米團治の落語を聞きながら、ときどき自分の落語を録音して研究分析しているといいます。10年目くらいまでは聞き比べるたびにイヤになって、すぐにイヤホンを外していたとのこと。しかし最近、ようやく自分の落語を最後まで聞けるようになったと話し、「成長したのかなと思います」と笑顔を見せました。

出典: FANY マガジン
出典: FANY マガジン

今後の目標について聞かれると、「ここから落語の基礎をもっと積んでいこうと思ってます」と謙虚に話します。また、「年齢を重ねないとどうしても登場人物になりきれないネタをぼちぼち手がけていきたいと思う」と言いながら、理想の噺家像を次のように話しました。

「しゃべり出しただけで、もっともっと聞きたいと思ってもらえるような噺家になりたい。演じ分けしなくても頭のなかで人物を勝手に作ってもらえる、軽くしゃべっただけで魔法にかけられる噺家になりたい」