日々生まれるネットミーム、何となく目にするポップアップ――そんな“インターネットのかけら”を現代アートに昇華して、見る人々の心を掴むアーティスト・南村杞憂さんの作品を展示・販売するアート展「ちくわ大明神」が、大阪・LAUGH & PEACE ART GALLERYで12月17日(日)まで開催中です。インターネットの世界とアートが融合するおもしろさ満載の展覧会の見どころを、南村さんに聞きました!
南村さんは1995年生まれ。幼少時代からインターネットに親しみ、「親の顔より見てきた」というインターネットのカルチャーをテーマに、“けったいなもの”を制作するアーティストです。今回のアート展のタイトルである「ちくわ大明神」も、匿名掲示板「2ちゃんねる」(現「5ちゃんねる」)を中心に拡散したコピペに端を発するネットミームです。
インターネットの表示が“具現化”する不思議さ
——ネットを使っていて画面に出てくる「エラー表示」のポップアップなどの作品を拝見して、「これが作品に!?」と驚きました。
ポップアップ表示の作品は、今回、初めて展示しました。これまで大型の作品はなかったんですが、先月の展示会で同じようなポップアップ表示の作品を展示したところ、好評だったのでシリーズ化してつくっています。
——ポップアップ表示は、紙がよれたようにクシャッとなっています。どういう意味が?
こういうのって、じっくり見ないじゃないですか。邪魔だし、すぐ消しちゃったり、後回しにしたり、キャンセルしたり。だから、「ぞんざいに扱われる存在やな」と思っていて。
レシートがポケットの中でクシャクシャになっているイメージで、ポップアップ表示もリアル空間に現れたら、きっとあれぐらいクシャクシャにされるんかなって。
——たしかに。「マウスカーソル」も立体化されるとこうなるのかと、妙に納得しました。
「マウスカーソル」がリアル空間に現れると、トリッキーでおもしろいかなと思って。この「マウスカーソル」を写真に撮って、SNS上にアップした時のおもしろさも生まれると思っています。
たとえば “ぬい撮り(ぬいぐるみを旅先に連れて行き、名所などで撮影すること)”のように、景色に紛れさせて撮影してSNSに上げてもらう。そこまでやって、あの作品自体が完成するのかなと思っています。
——楽しい発想ですね! パソコンやスマホ画面でしか見たことがないものが、空間にある不思議さがあります。
ちょっとトリッキーなことが好きなんですよ。最近ではリアルなものがバーチャルになっていますが、その逆みたいな感じの作品が多いですね。
ネット上のものこそ消えてなくなる!?
——「『インターネットにアップしたものは半永久的に残り続ける』と言われていたけど、もう見られなくなったネット上のサイトやサービスがどれほどあったでしょうか」という南村さんの言葉がとても印象的でした。たしかに、もう見られなくなってしまったブログやSNSも多いですね。
デジタルのものほど儚くて消えやすいものなのでは、と感じます。そういうものをアーカイブしたいなと思っていて、とくにネットミームは一過性のものだったりするじゃないですか。「ちくわ大明神」(のネタ)は15年ほど前からありますが、もしインターネットが突然、20年くらい使われなくなったとしたら、もう何も残らず、ぜんぶ懐かしいものになると思いますよ。
——それこそ記憶の片隅で、思い出すのも大変かもしれません。
そうなんです。情報量がすごく多い世の中になっているので、もはや半年前のトレンドでも「あった……ような気がする」みたいな。iPhoneやChromeの表示とか、まさに忘れ去られていく存在と思っています。そういうのをひとつずつアーカイブして、ピックアップして作品にしていく形はどうだろう? と思いながら制作しています。
——ポップアップ表示とかも、バージョンアップしていつの間にか変わっていることが多いですね。
めっちゃ生活に密着しているのに、ぜんぜん注目されない存在です。むかしの貴族の暮らしは(資料などで)残っているけど、庶民の暮らしのことは、あまり残ってなかったりするじゃないですか。
ネットのいろいろなものって、そういう庶民の生活に似ていると思うんです。こういうふうにピックアップされたとき、初めて存在が意識される面白さもあると思っていて。「取るに足らないもの」こそネタにして残したい、と思いながら制作しています。
——インターネットミームをネオンにした展示も気になるところです。
ギャグ的な景色が好きというか。床の間に掛け軸が掛けられている景色ってよくあるじゃないですか。その掛け軸の文字がすごいシュールやったら……とか考えるのが好きで。誰かの部屋で、「パチンコガンダム駅」のネオンが暗闇の中に光ってたら、面白い空間になってしまうだろうな、と思いながらつくっちゃうんです。
一番人気は「帰りたい」ソックス
——グッズも種類豊富で興味深いものが多いです。
日常から着想を得ることが多いんですけど、「お気持ちソックス」や「ごめんなさいメリケンサック」はそんな発想から制作しました。日常生活の中で生まれるモヤッとすることや“膿”みたいなものを、こんなふうに昇華するとおもしろいやろうな、と。
——「お気持ちソックス」には「帰りたい」「しらんけど」「ふざけるな」などユニークな言葉が刺繍されています。
足元からこっそり「ハッキリとは言えない気持ち」を表明する、みたいな(笑)。一番人気は「帰りたい」です。最近は「しらんけど」が人気です。
——リング(指輪)やキーホルダーも多いですね。
私、手作業が好きで、最初はハンドメイドのものを作ることが多かったんです。だんだんそれがアートの方向になってきました。
最近、アート界だとNFTが流行っていますけれど、私は興味を持てなくて。それは“モノ”じゃないから。あくまでもモノをつくるのが好きなんです。グッズも全部、自分の工房で機械を使って印刷したり、組み立てたりしてつくっています。
アート作品って高価なものが多いですが、私の作品を好きと言ってくれる高校生や大学生も多くて。そういう世代にも持ってもらえるグッズって何かな? とか考えてつくっていますね。
——今回は、グッズも展示台に飾っているんですね。
今回、ふだんお世話になっているギャラリーのオーナーさんに設営を手伝ってもらったんですが、そのときに「グッズもクオリティが高いから、ちゃんと作品として展示したほうがいい」とアドバイスをいただいて、それで今回は小さな作品もしっかりと見ていただけるように工夫しました。
——「ちくわ守」も、なかに「ちくわ」の文字が入っていてかわいいですね。
なかの「ちくわ」がシャカシャカ動きます(笑)。「ちくわ大明神」って(大明神が)“神様”やし、きっとお守りがあるよな、あるとしたらどんなんかな? と想像してつくりました。お守りは、ほかにも「データ守」というやつがあります。ファイル拡張子も「doc」「csv」「mp3」「zip」などいろいろあります。
ネットカルチャーを“現代アート”で残していく
——インターネットの世界は多岐にわたりますが、南村さんのアンテナにいちばん引っかかるものは何ですか?
いちばん好きなのは旧Twitterです。トレンドが常にあって、身近な共通の話題があって、言語表現をする人たちが集まっているので、けっこう賢い人がいるなっていう印象がある。限られた文字数で言葉遊び的に面白いことを言う人が多いんですよ。
——以前、旧Twitterに書き込まれた南村さんへのアンチコメントをピックアップしてTシャツをつくったことで感謝され、アンチの方がファンに変わったという話も聞きました。
ありましたね(笑)。それがクリスマス・イブだったので、アンチだった人と逆に仲良くなりまして、見守っていた人々も「いい話が見られた」と言ってくれました。あと、グッズだと「4℃のネックレス」とか「ごめんなさいメリケンサック」がバズったりしましたね。旧Twitterでは、作品を発表してバズらせるというカルチャーがあるので、おもしろいものをつくって旧Twitterに出してみて、それが反響を呼んでっていうのは楽しいです。
でもそれも、アーカイブしないと消えてしまう。私は「こういうカルチャーがあった」ということは、民俗学的にも意味があると思っているんです。「民俗学といえば柳田国男」といったイメージがあるかも知れませんが、土着的なもの、自発的につくられたカルチャーって民俗学的に意味があるので。インターネットカルチャーも、いまここにあるものをアーカイブしていかないことには残っていかない。そういうものをアーカイブすることに意味があると思っています。それを“現代アート”として出して残していくことに、新しさがあるのかなと。
——いま南村さんが「これはアーカイブしておかないと!」と思うものは何ですか?
作品では、旧Twitterのアイコンだった、「青い鳥の位牌」でしょうか。「残しておかないと」って思うものは、日常的にあるけど見過ごしているものが多いです。iPhoneの仕様とか、「こんなんだった気がする」と言いながら、いつのまにか忘れていくじゃないですか。それくらい身近なものが大事だったりすると思います。
個展概要
南村杞憂 個展「ちくわ大明神」
日程:12月7日(木)~12月17日(日)時間:13:00~18:00 ※毎週火曜・水曜定休
会場:LAUGH & PEACE ART GALLERY入場料:無料
「ちくわ大明神」公式ページはこちらから。