創作落語を330本以上生み出してきた桂文枝が、10月2日(水)に都内で行われたGoogle主催のイベントに出席しました。文枝はこの日、Googleの生成 AI(人工知能)「Gemini(ジェミニ)」と一緒に作り上げた落語を披露。終演後にGoogleのスンダー・ピチャイCEOと文枝の対談も実現し、AIが持つ可能性について語りました。
生成AIと二人三脚で落語を創作
この日のイベントに向け、文枝とGeminiが初めて“対面”したのは今年の8月5日(月)でした。当初、文枝が「どんなことを話せば、人は笑うと思いますか?」と質問すると、Geminiは「その人の性格、年齢、状況、文化的な背景などによって大きく異なります。まわりの人を笑わせるために、自分自身も楽しみながら、ユーモアを磨いていきましょう」と回答。これに文枝が「そんなことは前からわかってる!」と返す、というやり取りからスタートしました。
その後、監修・口演をする文枝と、台本を担当する「Gemini」とのやりとりは真剣そのもの。Geminiは、文枝から「桂文Gemi(かつらぶんじぇみ)」という高座名も与えられました。
Geminiがアイデアを投げると、文枝がダメ出しをする……まさに「弟子と師匠」のような対話を繰り返して落語を作ります。そして約1カ月半に及ぶ準備期間を経て完成。満を持して、今回のイベントで披露する運びとなりました。
今回、落語を披露する場所は寄席ではなく、この日のイベントのために特設されたステージ。文枝は「高座に上がるのに手すりがあるなんて」「高座というのは『高い座』と書いて高座と書くのですが、だいたい檜舞台の上に作るものなんです。こんなに高いとは!」などとボヤいて、来場者の笑いを誘います。
文枝は落語の導入である“枕(まくら)”についても“文Gemi”にオーダーしたそうです。10個提案されたうちの1つの枕を紹介しますが、文枝は「私ならもっと面白いことが考えられますけどね」とニヤリ。会場が笑いに包まれました。
この日、文枝が口演した「リーダーシップ」という噺は、スーパーマーケットの社長が「AI社長を作った」と専務に持ちかけるところから始まります。文枝が監修した“文Gemi”の台本に、文枝自身が命を吹き込み、さらなる上質な落語へと進化。見事なオチで成功を収めました。
「きっと面白いものができる」
終演後、GoogleのピチャイCEOと文枝の対談が実現。落語の歴史や落語の楽しみ方について話すなか、ピチャイCEOからGeminiの改善点を問われる一幕がありました。
文枝は「人を笑わせることを“文Gemi”に教えていったら、きっと面白いものができると思うので、ご安心ください」と回答。ピチャイCEOが「AIは、やはり師匠を超えられないと思います」と語ると、文枝は笑顔で「ともに超えていきましょう」と返しました。
最後に文枝は、AIの可能性についてこうコメントしました。
「落語というのは庶民の暮らしを噺にしますし、将棋や囲碁みたいにかたちがあるものではなく、“心”ですからね。AIにどこまで伝わるものかと思っていましたが、1回目としてはよかったんちゃうかなと思いますよ。今後も“文Gemi”に落語を教えていけば、もっとやれるんじゃないかなと思います」