喜寿(77歳)を迎えた落語家の月亭八方による記念公演ツアーが、7月28日(月)の大阪・天満天神繁昌亭からスタートしました。今回の『月亭八方喜寿記念公演』は全国5公演を予定。初日となったこの日は『月亭八方の山あり谷あり楽屋あり~60年の浮世話~』と題して、落語だけでなく人気公演『八方の楽屋ばなし』の要素も盛り込んで、集まった観客を喜ばせました。

「元気に産んでくれた母親に感謝します」
公演冒頭、八方は「77歳になってしまいました。仕方がないですね」と、とぼけた口調で切り出して笑わせます。
「喜寿とは、もともと“77歳まで生かせていただきました。皆さまのおかげです”と、まわりの人にお礼を伝えるものだそうで、本来ならば入場無料、手土産もお渡ししなければなりません。でも、それでは皆さまが手ぶらではダメだろうとなりますので、ここはひとつ“相殺”で」
そして、「元気に産んでくれた母親に感謝します。命の続く限りがんばっていきたい。私にとっては皆さまがお医者さまで薬です。これからもよろしくお願いします」と感謝の気持ちを伝えました。

開口一番は、八方の七番弟子である月亭八織が務めました。八織はマクラで「77歳」や「七番弟子」など7にまつわるエピソードを披露。そして「『芸は盗め』という師匠の教えどおり、舞台袖から見て覚えたネタです」と「平林」を口演しました。丁稚のとぼけたかわいさを軽快なテンポで演じきります。
続いて月亭方正が登場。方正は「師匠は真実の人」と熱く語り、自身が「山崎邦正」から「月亭方正」になったエピソードを交えながら、師弟関係の深さをにじませます。この日のネタは相撲を題材にした「大安売り」。ユニークな四股名を持つ力士たち、連敗続きの小兵力士の奮闘を情景豊かに描きました。
三席目は月亭文都による「替わり目」です。「お酒は百薬の長」というマクラから始まり、酔った夫とその妻のコミカルで人間味あふれるやり取りを、絶妙な間合いで表現。一転、夫が妻への本音を一人語りする場面ではじっくりと聞かせ、技巧者ぶりを発揮しました。
弟子たちが八方の過去を“暴露”!?
八方を囲んだ一門によるトークコーナーでは、月亭遊方、文都、月亭八光、方正、八織が勢ぞろい。爆笑の思い出話に花を咲かせつつ、八方の優しさを感じる弟子たちの思いなども飛び出しました。
筆頭弟子の遊方が「月亭返上事件」の真相を明かす一幕も。遊方は、八方に“月亭”の名を返し、約4年間『T-遊方』を名乗っていた時期がありました。「最後は師匠の奥さんに泣きついて、桂文福師匠のはからいで月亭を取り戻しました」と遊方。当時は緊迫した状況もあったようですが、八方は「じわっと覚えてるわ~」と穏やかな笑みを浮かべました。
二番弟子の文都も、自身の“月亭八天”時代に破門を言い渡されたことを振り返ります。こちらも八方はあまり覚えていないようで、「あのころは、弟子に怒るのもめんどくさくて、すぐ破門と簡単に使っていた」と語って笑わせました。

トリの八方は「紀伊国屋文左衛門」を口演
その後は、孫弟子たちも舞台に集合。花束とケーキでお祝いすると、中入り後は八光からスタートです。
八方の息子である八光は、「喜寿をお祝いしてもらって本人も幸せやと思います」としみじみ話し、「うちは誕生日を祝う習慣がなかった」と子ども時代を振り返りました。そのままネタの世界へと引き込み、「秘伝書」を口演。現代的な話題も取り入れつつ、怪しげな本を買われた庶民のリアクションを表情豊かに演じました。
続いて登場した遊方は、「大阪にはボケ・ツッコミの文化があります。誰かが言い間違えても、大阪の人間がおったらスカッとツッコみます」と、自身の新作落語「GORO」を披露。地方の喫茶店にモーニングを食べに来た大阪の男が、店員と常連のちぐはぐな会話にツッコみたくてうずうずする様子をおもしろおかしく表現しました。

トリはもちろん八方。マクラでは昨今の米価高騰や品薄に触れつつ、嵐のなか、紀州から江戸に向けて船を出した船頭たちの噺「紀伊国屋文左衛門」を語りました。船頭たちの姿を威勢よく、出港前の景気づけにと開いた酒盛りでは歌も飛び出し、雨や嵐にちなんだ昭和の名曲も披露します。
ときには歌舞伎のような言い回しで迫力たっぷり、嵐の海で船が帆を張る場面では、すさまじい雨風と荒波の様子を臨場感たっぷりに熱演。最後は「かっぽれ」の元歌ともされる「網引き音頭」を朗々と歌い上げます。オチも元気いっぱいの声色で決め、記念公演を締めました。

次回は9月21日(日)、大阪・朝日生命ホールで開催。人間国宝の浪曲師・京山幸枝若と、八方の義理の息子であり長唄の今藤政之祐を迎えます。その後も趣向を凝らして神戸、東京、大阪で上演予定です。
公演概要
■月亭八方喜寿記念公演 和のこころ 糸にのせて
日時:2025年9月21日(日)12:40開場/13:00開演/15:00終演
会場:大阪・朝日生命ホール
料金:前売 4,000円/当日 4,500円
出演:月亭八方、京山幸枝若、今藤政之祐
■月亭八方喜寿記念公演 八方の野球三昧
日時:2025年10月25日(土)18:30 開場/19:00 開演/20:30 終演
会場:兵庫・神戸新開地喜楽館
料金:前売 4,000円/当日 4,500円
出演:月亭八方、ちゃらんぽらん冨好、かみじょうたけし(松竹芸能)
■月亭八方喜寿記念公演 八方の楽屋ばなし
日時:2026年1月30日(金)18:00 開場/18:30 開演/20:30 終演
会場:東京・紀伊國屋ホール
料金:前売 5,000円/当日 5,500円
出演:月亭八方、今田耕司、小川菜摘、ガクテンソク
一般発売:8月17日(日)10:00
■月亭八方喜寿記念公演 八方のおねだり寄席
日時:2026年2月 18:00 開場/18:30 開演/20:30 終演
会場:大阪
料金:前売 4,000円/当日 4,500円
出演:月亭八方、他
※チケット発売情報は後日発表