大阪・なんばグランド花月の夏の風物詩である落語家・桂文珍による独演会が、今年も8月8日(金)に開催されました。今回の『吉例88 第四十三回 桂文珍独演会』には、ゲストとして春風亭一之輔が登場。文珍は三席を披露して、集まった観客を沸かせました。

春風亭一之輔が特別な「がまの油」を口演
今年で43年になる『吉例88 桂文珍独演会』。文珍は「粗忽長屋」と、東京の噺家・桂三木助のLPレコードに収録されたものを聞いているうちに興味を持ったという「雑穀八(ざこはち)」、そして狐が7回きっちりだます文珍流「七度狐」の三席を披露しました。
前座を勤めたのは、文珍の四番弟子の桂文五郎。マクラではクセの強い人の実話エピソードで沸かせ、「二人癖」を口演して、会場の雰囲気を温めました。

続いて文珍が登場、舞台に出ると一礼して高座へ。「今年で43年目です」と挨拶すると、大きな拍手が沸き起こりました。大阪・関西万博で盛り上がるこの夏、吉本興業のパビリオンの小噺で笑いを誘います。
上方落語ならではの、楽器を使った“ハメモノ”で市中のにぎわいを描きながら、本ネタの「粗忽長屋」を。素っ頓狂でどこかちぐはぐな八五郎が現れると世界はゆっくりとズレ始め、まるでアハ体験のような感覚になります。八五郎の唯一無二の親友である熊五郎が現れるとその現象はさらに加速して、にぎやかながらもオカルトチックな印象を残す一席でした。

続いてはゲストの春風亭一之輔です。高座に上がるなり、「帰りたいですよ」とぼやく一之輔。なんばグランド花月に初めて出演した一之輔は、「舞台袖には上方の落語家がいっぱい、吉本の社員もいっぱい、標準語は私だけ!」と“大阪の圧”をたっぷり感じている様子です。
事前に視察をしたようで、ぼんちおさむのマネをして「一之輔ちゃんです!!」と叫んで客席は大喜び。ネタは立て板に水のような口上に引き込まれる「がまの油」です。江戸落語にはないハメモノも取り入れた、スペシャルな演出で大阪の客席を魅了しました。

文珍は「七度狐」の“フルバージョン”を披露
再び登場した文珍は、一之輔について「面白かったですね。『がまの油』をあんなふうに面白くできるんですね」と感心しきった口調で話します。そして「人生はどこに落とし穴があるかわからない」と言って、「雑穀八」を口演。
雑穀商「雑穀八」の一人娘であるお絹との婚礼を控えていた鶴吉は、婚礼の日に突然行方をくらまし、10年後に二百両の財産を築いて戻ってきます。しかし、そのときすでに「雑穀八」は潰れていて……という物語。登場人物の心情を丁寧に描きました。

休憩後は文珍の三席目「七度狐」です。舞台には前半の美術セットと変わって金屏風が据えられています。文珍は「黒紋付を着て、金屏風の前にいたら婚礼で相手に逃げられた婿はんみたいやと、師匠である先代の文枝が言うてました」と思い出話を明かしつつ本題へ。
悪さをしたら7回きっちり騙すという古狐を怒らせた喜六と清八の、お伊勢参りの道中に不思議なことばかり起こります。今回、文珍が披露したのは落語作家の小佐田定雄と考えた“フルバージョン”とあって、次から次へと騙される喜六と清八。「後半はジェットコースターのように流れていくと思う」と事前に予告していた通り、後半に向かうにつれ噺は加速し、文珍は狐の“執念”を面白おかしく描きました。
最後に文珍は「『吉例88 桂文珍独演会』が55周年を迎える年に私は88歳になります。それぐらい続けていけたらいいなぁと思っております」と挨拶。万雷の拍手の中、落語会は幕となりました。
