漫才日本一を決める『M-1グランプリ2020』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の決勝が12月20日(日)に開催され、お笑いコンビ・マヂカルラブリー(野田クリスタル、村上)が16代目王者に輝きました。3年前の決勝最下位から一気に頂点へ。優勝会見では勢いそのままに、「お笑い3冠王」という大いなる“野望”を掲げました。
「あれは漫才です!」と断言
プロ・アマ問わず、芸歴15年まで、“とにかく面白い漫才”を出場資格としている漫才頂上決戦『M-1グランプリ』。過去最多となる5081組がエントリーした今大会の頂点に立ったのはマヂカルラブリーでした。
「もちろん嬉しいと言いたいんですけど、まだ飲み込めてなくて、どうしちゃったんだろうっていう気持ちのほうが大きい。無の状態です」
大会を終え、記者会見の会場に大きな拍手で迎えられた“新王者”のマヂカルラブリー。優勝した感想を聞かれた村上は、戸惑いを露わにこう語ります。
2人の決勝ネタは、ほとんどしゃべらずに動きでボケまくる野田に、ツッコミの村上がしゃべりまくるという独特のスタイル。それだけに、野田は「いろんな漫才があったな」と大会を振り返りながら、「漫才中にしゃべってなかったので、僕らの優勝でよかったのかな」とポツリ。それでも、すぐさま「でも、チャンピオンとしての自覚は持ってます。チャンピオンです! あれは漫才です!」と断言し直しました。
前回出場した2017年の決勝では、審査員の上沼恵美子に「好きじゃない」とバッサリ切られ、最下位という結果に終わったマヂカルラブリー。その後、2018年に『キングオブコント』(TBS系)ファイナリスト、さらには野田が今年3月の『R-1ぐらんぷり2020』(関西テレビ・フジテレビ系)優勝とメジャーな賞レースで次々と好成績を収め、ついに悲願のM-1で3年越しのリベンジを果たしました。
「諦めないでください!」
この日の決勝では、マヂカルラブリーのほか、アキナ(山名文和、秋山賢太)、見取り図(森山晋太郎、リリー)、錦鯉(長谷川雅紀、渡辺隆)、ニューヨーク(嶋佐和也、屋敷裕政)、おいでやすこが(こがけん、おいでやす小田)、オズワルド(畠中悠、伊藤俊介)、東京ホテイソン(たける、ショーゴ)、ウエストランド(井口浩之、河本太)の9組に加え、決勝当日に行われた敗者復活戦で最後の1枠を掴み取ったインディアンス(田渕章裕、きむ)の計10組が激闘を繰り広げました。
MCは、今年も今田耕司と上戸彩。審査員は上沼恵美子、ダウンタウン・松本人志、中川家・礼二、立川志らく、ナイツ・塙宣之、サンドウィッチマン・富澤たけし、オール阪神・巨人のオール巨人というお馴染みのメンバーです。
ソーシャルディスタンスを保ちながら行われたファーストラウンドの出番順は、笑神籤(えみくじ)を引いて決定。結果は下の通りとなりました。
- インディアンス(敗者復活)=625点
- 東京ホテイソン=617点
- ニューヨーク=642点
- 見取り図=648点
- おいでやすこが=658点
- マヂカルラブリー=649点
- オズワルド=642点
- アキナ=622点
- 錦鯉=643点
- ウエストランド=622点
ピン芸人同士のユニットながら爆笑を起こして1位通過したおいでやすこが、マニアックなネタで笑いの爆風を起こしたマヂカルラブリー、細かい笑いを積み重ねてハイクオリティな漫才を見せた見取り図が最終決戦へ。
その結果、電車の「つり革」に捕まりたくないというテーマ1つで、創造性の高い表現力が光るボケと観客の心情を細やかに表した絶妙なツッコミで爆笑を起こしたマヂカルラブリーが頭一つ飛び出し、王者の座を勝ち取りました。
優勝が決まった瞬間、村上は顔を覆った直後に“信じられない”といった表情を浮かべます。一方、頭を抱えてふらふらと揺れながら、溢れ出てくる涙を堪えた野田。松本からトロフィーを渡されると、「ありがとうございます」と噛み締めるように呟き、そして「最下位を取っても、優勝することがあるので諦めないでください!」と漫才師たちへ言葉をかけました。
3年前の“因縁”は「覚えていない」と言う上沼ですが、改めて「ごめんね、3年前。本当におめでとう!」と祝福。立川は「あれだけしゃべらずに笑いを取るのは、漫才を超えた喜劇。いちばん笑えた」と絶賛し、礼二も「漫才をやり続けてください」とエールを送ります。
松本は「いまでも(誰に入れたらよかったのか)悩んでる。これでよかったんかなって」と三者三様のオリジナリティーに感服しつつ、「漫才をやることの幸せと、漫才を観ることの幸せを特に感じました」と総括しました。
「みんなが笑ってくれるネタを選んだ」
優勝会見では、野田のR-1優勝が今回の結果に間違いなく影響したと、勝因を語った2人。野田は、今回のM-1にかけた思いをこう語ります。
「いままでは、お客さんが笑わなくても自分たちが面白ければいい、というネタが多かったんですけど、ウケたら(上沼さんにも)票を入れてもらえると信じていたので、ウケることは意識して。あと、いままでも手は抜いてなかったけど、このままじゃマズいぞと思って今年から本気で、死ぬ気で取り組みました」
村上は「(野田が)がんばらなきゃと思ってくれたおかげで優勝できた」と、相方に感謝しました。
最終決戦で披露した「つり革」に捕まらないという題材の漫才は、今回の準々決勝、準決勝でうねるほどの笑いを生み出した勝負ネタ。最終決戦に進んだほかの2組は準決勝のネタをファーストラウンドの「1本目」として選びましたが、マヂカルラブリーは最終決戦の「2本目」に選択しました。
その理由について、野田は「今年はつり革のネタをやらずに終われなかった」と説明しながら、こう振り返ります。
「(1本目の)フレンチのネタの後半が弱いのを見抜かれて点数を下げられたら、つり革のネタをやれなくなる。(自分たちより出番が早かった)おいでやすこががウケてたので、どうせならつり革のネタをやって散りたいと思って、1本目にしようかなとも考えたんですけど、しないほうに賭けました」
一方、村上は「3年前の決勝でやらせてもらったネタは、老若男女がいる寄席だとウケなかったけど、今年やった2本は反応が返ってくる。みなさんが笑ってくれるネタを(勝負の場に)選べるようになった」とネタ選びの変化について言及しました。
「えみちゃん、やめないで」の理由は?
3年前の最下位について、「並の最下位じゃない。お笑いやめてもいい最下位だった」と振り返った野田。村上が「野田は、もう漫才やれないかもって言いましたんで」と続けると、野田は「1回沈んで、『キングオブコント』で決勝へ行って(自分たちは)コントなのかなって思ったけど、結局7位で。そこから『R-1』で優勝して……いろんなことがあった」としみじみ語ります。
それだけに、放送終了直後にカメラに向かって「えみちゃん、(審査員を)やめないで~!」と笑顔で手を振ったことについて、野田は「今年は上沼さんに誰も怒られてない。(番組冒頭、今年でやめるつもりで審査すると話していたが)本当にやめちゃうつもりなのかなって不安になったから」と説明。改めて3年前の“どん底”について触れ、「僕らは、ああいうことがあったから優勝できた。上沼さんは絶対に必要な存在なので、やめないでほしいです」と力強く語ります。
もっとも、その上沼が最終決戦で票を入れたのは「おいでやすこが」。それでも野田は、前を見据えます。
「しれ~っと、おいでやすこがさんに入れてましたよね(笑)。(前回の)2017年は、どさくさに紛れて松本さんの点数も低かったので、今回、松本さんの票も入らなかった心残りはあります。けど、これで終わりじゃない。いろんな大会がありますから」
これで『M-1』『R-1』の2冠を達成した野田は、ここで「お笑い王になります。史上初の3冠を獲ります!」と高らかに宣言。「やるっていうなら、一応、付き合います。でも、ちょっと休んでもいいかな」と渋り気味の村上を尻目に、「休まねぇ。俺は止まらねぇ! 3冠を獲ってみせる!」と、コント頂上決戦『キングオブコント』優勝を目指すことを明言しました。