とにかく個性的な名前が並ぶ芸人たちの「芸名」や「コンビ名」。いったんなんでそんな名前に――という疑問は誰もが持つはず。ということで新企画、始めます。その名も、ド直球の『どうしてその芸名を付けたのですか?』。記念すべき第1回は、『キングオブコント2021』などの活躍で人気急上昇中のお笑いコンビ・蛙亭(中野周平、イワクラ)が登場。コンビ名の由来はもちろん、得したことや損したことなど名前にまつわるエピソードを根掘り葉掘り、聞いてきました!
「蛙」を入れたらテンションが上がるやろ
――今日はコンビ名の由来について、お話を伺いたいと思います! おふたりはNSC(吉本総合芸能学院)大阪在学中の2011年に結成していますが、コンビ名をつけたのはその時ですか?
中野 そうですね。NSCでコンビを組んだときに、コンビ名も一緒に考えました。
――「蛙亭」というコンビ名になったいきさつを教えてください。
中野 最初は、2人の名前を足して「ナカノイワクラ」なんて考えましたが、微妙だなと思って。そこで運に任せようと思って、お互いに好きな単語を紙に書いて「せーの」で見せあう方法を取りました。そしたら、何回目かに「青」と「レンジャー」で「青レンジャー」になって、「いいじゃん!」と盛り上がったんです。その翌日に、さっそくNSCにコンビ名を申請しに行ったんですけど、そこで急にイワクラさんが「ちょっと青レンジャーはヤバいんじゃないか」と言い出しまして……。
イワクラ ダサいなと思ってしまって。NSCの事務所に申請用紙があって、そこに「青レンジャー」と書こうとしたときに、「あれ? ダッセー」って思いました。
――そんなに直前にですか。
イワクラ ウワッて。「ちょっとヤバいかもしれん」ってなって(笑)。それで、その場で(中野が)蛙が好きなのと、私が前にバイトしていた「はいから亭」というお店の名前を組み合わせて、「蛙」と「亭」で「蛙亭」にしようと提案しました。
中野 僕は、その時点では「青レンジャー」のダサさに気づいていなかったので、「え?」ってなったんですけど、「蛙亭」がけっこう良かったので素直に受け入れられましたね。
――「蛙亭」はその場でひらめいたんですか?
イワクラ その場です。(中野は)蛙を飼っていたり、グッズを集めていたり、蛙がすごい好きなので、蛙を入れたらテンションが上がるやろと思って。
中野 上がりましたね(笑)。
イワクラ あと漢字のコンビ名にしたかったんです。「青レンジャー」も漢字が入ってますけど、カタカナのコンビ名が多いなかで、漢字は目立っていいなって。天竺鼠さんとか学天即さん(現在はガクテンソクに改名)とか好きで、カッコいいなと思っていました。
由来となった「蛙」と「はいから亭」
――中野さんは、子どものころから蛙が好きだったんですか?
中野 小学生からですね。僕はお父さん子なんですが、父親がすごい蛙のグッズが好きなんです。縁起のいい蛙のグッズを財布に入れていたり、家にジャズバンドの恰好をしている蛙の置物があったり。あと父親は趣味で革細工をつくっているんですけど、その革細工に刻印を入れるんですよ。その刻印も葉巻を加えたオリジナルの蛙のマークでした。
――すごいこだわりですね。
中野 ブランド名は「ga-ma」っていいました。そうした影響で僕も蛙が好きで、中学生のときには「ジョンコ」という名前のアマガエルを飼っていましたね。オーストラリア産で10センチくらいのイエアメガエルです。だからずっと蛙が好きだったんですけど、コンビ名を考えるときは、なぜか出てこなかったです(笑)。
――お父さんに、コンビ名を報告したときはどんな反応でしたか?
中野 褒めてくれましたね。覚えやすいし。「亭」も屋号ではあるけど、コンビ名では見ないのでいいなと言ってくれました。
――「亭」の由来となった、イワクラさんの「はいから亭」についても教えてください。
イワクラ はいから亭は、私が地元の宮崎にいたときにアルバイトをしていたゴハン屋さんです。高校を卒業してから2年間、NSCに入るおカネを貯めるために働いていました。当時の宮崎は時給600円台がふつうだったんですけど、はいから亭だけは時給が1000円くらいですごい良かったんです。
――働いた2年間で特に覚えていることはありますか?
イワクラ 私はとにかく接客が苦手で、毎日、声が小さいと怒られていました。あと接客のときにヒザをつくんですけど、その影響で色素がヒザに溜まって、真っ黒になっちゃいました。最初の1週間は痛くて、めっちゃ赤くなったんですけど。
中野 そんなに酷使するの?
イワクラ 先輩のおばちゃんたちは、ヒザにサポーターを着けたりしてましたけど、それもあまり意味がないので結局、みんな何もなしでやるんです。ズボンをはいてますけど、2カ月くらいでズボンのヒザがすり減っちゃうくらいなんですよ。それで私は右ヒザが真っ黒になりました。いまもちょっと黒いです。
――それでもNSCに入るために頑張っていた、と。
イワクラ そうですね。接客が本当に苦手だったんで辞めたかったんですけど、NSCに入るためにやっていました。コンビ名に入れたのは、そういう気持ちを忘れないという思いもあったと思います。
コンビ名で得したことと損したこと
――「蛙亭」というコンビ名で得したことはありますか?
イワクラ まわりの同期や先輩の芸人から、すごい褒められましたね。「めっちゃいいよな。こんなにいいの、よく付けたな」みたいに言われました。コンビ名ってだいぶ良くないと褒められないと思うんですけど。
中野 うん。たとえばラジオに出ても、最初にコンビ名について褒められたりして、話のとっかかりになりましたね。
――2人とも、すぐに気に入ったんですか?
中野 そうですね。NSCは事務所に入室するときに、コンビ名と名前を名乗らなきゃいけないんですけど、オリジナルのコンビ名って最初は口に出すのが恥ずかしいんですよ。でも、「蛙亭の中野です」って言うのは、あんまり恥ずかしくなかったですね。抵抗なく言えました。
イワクラ やっぱり、漢字っていうのもカッコいいなと思います。出番表を見たときに、和牛、天竺鼠、蛙亭と漢字のコンビが並んでいたら、すごいテンションが上がりますね。
――ほかにも得したことは?
中野 蛙なので、「緑」というテーマカラーがあるんですよ。それはグッズをつくるときに統一感があっていいなと思います。あと僕は絵を描くのが好きなんですけど、キャラクターにしやすいですね。僕たちのYouTube(蛙亭のケロケロッケンロール)のアイコンも蛙の絵にしています。
――青レンジャーだったら、青がテーマカラーでしたね。
中野 そうですね。青自体はいい色ですけど、青レンジャーだったらと思うとやっぱりダサくて恐ろしい(笑)。何もいい要素がないです。別に特撮オタクでもないのに、絶対に「好きなの?」って聞かれますし、デメリットだらけですね。
――逆に、蛙亭で損したことは何かありますか?
中野 SNSでトレンド入りしないことがありますね。Twitterはシステム的に3文字か4文字かの文字数からしかトレンド入りしないらしいんですよ。僕らが結成したときは、SNSがまだそこまで普及していなかったので、これからコンビを組む人はそこを気にするのかもしれないです。
イワクラ それは、ぜんぜん知らなかった(笑)。
相方に勧めたまさかの改名案
――イワクラさんは、昨年6月に芸名を変えましたが、そのきっかけについても教えてもらえますか?
イワクラ 改名の少し前に劇場で占いライブがあって、占い芸人の天狗の横山(裕之)さんに姓名判断で画数を見てもらったんですよ。そしたら改名前の、本名の「岩倉美里」が最悪だったらしくて、「将来、おカネで警察沙汰になる」って言われて。それはめっちゃ怖いと思ったし、自分でもやりそうだなと思ったので改名しました。
――おカネで警察沙汰ですか!?
イワクラ はい、わざとおカネを払わないとかは絶対にしないんですけど、うっかりとか騙されてとかはありそうだなと思ったので。
中野 その辺に詳しくないもんね。
イワクラ 怖いなと思って。「じゃあ、変えたいです」と言ったら、カタカナにしたらタモリさんやヒロミさんと同じ画数だからいいと言われました。芸能界のすごい方たちなので、同じ画数はいいなと思いましたね。
――改名をしたあとのまわりの反応はどうでしたか?
イワクラ 改名をすると、それをもとに先輩が話しかけてくれたり、番組に呼ばれたときの話のタネになったりしたので、それは良かったですね。おカネのことは、これから結果が出ると思います。
――「イワクラ」ではなく、「人恵(じんけい)」という名前に改名しようとしていたという話も聞きましたが。
イワクラ そうなんです。最初は「人恵」にしようと思ってました。私は昔から、バイト先のおばちゃんにゴハンを食べさせてもらったり、同期の子の彼女から服をもらったり、めちゃめちゃまわりに助けてもらって生きてきたんですよ。それで、人に恵まれているから「人恵」にしようと思って、劇場の支配人に「人恵に変えます」って言いに行ったんです。
――もう、ほぼほぼ決めていたんですね。
イワクラ はい。そしたら支配人に「怖いな。なんか宗教がましい」って言われました……。
中野 耳障りが悪いんですよね、人恵って(笑)。
イワクラ 私は「そんなことないやん、いいやん!」って思ってるんですけど、誰もいいって言わないんですよ。みんなに「なんか気持ち悪い」と言われて(笑)。支配人から「改名はいつでもできるから、とりあえず、いまはしないほうがいい」と言われて諦めました。
――中野さんは人恵にしようとしているのを知っていましたか?
中野 はい、ずっと言ってましたから。ただでさえ、「何それ」って感じの芸名なんですけど、イワクラが人恵にしたら、一緒に改名してほしいとも言われてました。それが「人恵の友(じんけいのとも)」っていう名前だったんです。
一同 (笑)
中野 いやいやいや、と。人恵ありきのネーミングですし、それでやっていく自信がまったく出てこなかったです。これから何度、人生で「人恵の友」の説明をするんだろうと想像したら、途方のなさにゾッとしました。まず人恵の説明をしなきゃいけませんから(笑)。
――イワクラさんは、なんで「人恵の友」にしてほしかったんですか?
イワクラ 「なんで」とかはないですね。なんか響きで。
中野 「なんで」があってほしいよ。強い「なんで」がないと僕も変えられない。それで「じゃあ」とはならないですよね(笑)。
センスがいいコンビ名は…
――これからコンビ名を決める人にアドバイスをするとしたら、どんなアドバイスをしますか?
イワクラ やっぱりコンビ名や芸名って、めっちゃ大事だなと思います。適当につけたら後で後悔するので、ちゃんと決めたほうがいいと思います。
中野 そうだね。僕らは本当にたまたまひらめいて、たまたま褒められましたけど、ちゃんと考えたほうがいいね。
イワクラ 私、芸人のコンビ名や芸名がすごい好きなんですよ。センスがいいコンビ名を見ると話しかけてみたいと思ったりします。その逆に「なんか嫌だな、このコンビ名」っていうのもあるんですよね。たとえば「流しそうめん」とかならまだいいけど、「巨人流しそうめん」とかだと、組み合わせが気持ち悪いなあって思ったり。
中野 確かにNSC現役生のライブのMCとかをさせてもらうときに、出番表を見て「巨人流しそうめん」みたいなのがいると、あまり目につかないですね。ダメとは言わないですけど、話を聞いてみようとは思わないかも。やっぱりコンビ名は名刺なので、センスをアピールするうえでも大切だと思います。
――おふたりがセンスがいいと感じるのは、どういうコンビ名や芸名ですか。
イワクラ ニッポンの社長さんとか。響きが面白いし、カッコいいとも思いますね。ピン芸人のキャツミとかもセンスがいいと思う。
中野 天才ピアニストも面識がないときから褒めてたよね。あとは、ロングコートダディの兎さんとかも、めっちゃいいと思うな。
イワクラ うん。兎になったときにみんなで、いいって言ってたもんね。やっぱり芸名は見た目に合っているのが、いちばんだと思う。あと、コンビ名は熱い思いを込めなくてもいいので、聞き心地とかはよく考えたほうがいいと思いますね。
公式YouTube『蛙亭のケロケロッケンロール』はこちらから。
公演概要
蛙亭単独ライブ『TOKYO PUBLIC NIGHT』
日時:4月10日 開演18:00
場所:森ノ宮よしもと漫才劇場(大阪市中央区)
チケット:前売3,000円(完売) 配信2,000円
FANYオンラインチケット(配信)はこちらから。