ネタ作り、ライブ、テレビ、YouTube……さまざまなシーンで、芸人たちを陰で支えている“作家”と呼ばれる職業の人たちがいます。第一線で活躍する芸人たちは、どのように作家と仕事をしているのでしょうか。芸人×作家のスペシャル対談シリーズ『芸人と、作家と』。今回は、引き続き男性ブランコ(浦井のりひろ・平井まさあき)と作家の大澤紀佳が登場。信頼関係が増すきっかけになった“ある事件”や、昨年のキングオブコント決勝の裏側などについて語ってもらいました。
3人の心地いい距離感
――大澤さんから見た、男性ブランコの2人のパワーバランスはどうですか?
大澤 ふつうのコンビは、ネタを書くほうと書かないほうで差があることもありますけど……おふたりの場合、ゼロから作り出す平井さんと、それを受け取る浦井さん、決定権はじつは浦井さんにあるのかなと思うことはあります。浦井さんがやるかやらないか。
ただ、それは浦井さんのほうが強いというわけではなくて、平井さんが生み出したものを浦井さんがどれくらい表現できるかという、それぞれ違うパワーの向き方をしているのかなと思います。
平井 まあ、そうですね。僕が書いたネタを読んで、浦井があまりにも絵が浮かばないというものはやらないかもしれない。今回(4月公演)も1本、わけわからんやつが入ってましたね。「これはちょっと考えさせてもらおう」と浦井が困惑してた(笑)。
浦井 だいたいのネタは、読みながら「こういう感じでやるんだね」と浮かぶんですけど、ときどきあるんですよね。「ん? これどういうこと?」となるのが(笑)。
平井 じつはそういうのって、自分でもまったくセリフが入らないネタなんですよ。
浦井 でも、「それでもやってみたいんだよね」と平井が言ったらやると思います。もしかしたら、僕が気づいてないだけでめっちゃウケるかもしれないし。
平井 浦井は「だったら、こうしたらどう?」とかも言ってくれるので。最近はネタ合わせの感じでセリフのやりとりはけっこう変えたりもするので。最初から自然な会話を書くのには限界があるので、実際にやってみて生きた言葉を採用して、2人で作っていく感じです。
――大澤さんは、ネタ合わせにも立ち会いますか?
大澤 ここ最近はおふたりがお忙しいのもありますし、正直、内容に関しては私が言えることはないので……。
平井 理想は、本番までに1回は台本持たずにやっているところを、大澤さんと、もうひとりついてもらっているワクサカソウヘイさんに見てもらって、アドバイスをもらうことなんですけどね。
浦井 ワクサカさんは作家というより、制作業というか。
平井 チラシのデザイナーさんとのやりとりとか、SNSアカウントを動かしてくれたり……。メンバーの1人として、演出面でのアドバイスをもらったりもします。
――ちなみに、大澤さんと男性ブランコの2人はプライベートでも交流はありますか?
平井 ぜんぜん行きますよ。ワクサカさん含めて、打ち合わせも兼ねて食事とか。
大澤 でも、いちばん行かないコンビかもしれないです(笑)。
浦井 うるブギ(うるとらブギーズ)さんとかとは、もっと行ってるのか……。
大澤 お互いに人見知りで、打ち合わせとかの理由がないと誘い合わないので。
平井 そうか、ワクサカさんが「みんなで行こうよ」と言ったら行くかもね。ワクサカさんは社交性の鬼なんで。
浦井 そうだね。3人だと言い出す人がいないから……。
大澤 でも、その距離感が心地いい感じもあります。
キングオブコントは現場で一緒に……
――男性ブランコの2人に6~7年ついている大澤さんにとって、これまでで特に印象的だった仕事はなんですか?
大澤 基盤になったなと思うのは、3331 Arts Chiyodaというスペースで少人数のスタッフでやっていた単独公演(2018~2019年)ですかね。
平井 スタッフ5人くらいと僕らとで、全部やりましたね。
大澤 会場を押さえたり、物販したりをワクサカさんにお願いして、転換とかキュー出しとかお客さんの案内を私がやって、セットの建て込みは全員でやって……。
浦井 僕らも含めて全員で舞台を作ってたよね。
大澤 窓をふさいで、イス運んで。公演の基礎の基礎を1年間やって、原始的なところを学んだのは大きいなと思いますね。
平井 劇団的な動きだったんですよ。自分たちで舞台袖のパネルを運んで、イスを並べて、「イスをここに置くと袖が見切れちゃう」とか調整したり。40人くらいの小さなキャパでしたけど、イスの数を減らして満席に見せようとしたり。
浦井 あの公演、4回くらいやったよね。設備がぜんぶ準備されて技術さんもいるヨシモト∞ホールとかではできないことだったな。
――今後、全国ツアーをやることがあれば、活かせそうな経験ですね。
平井 そう、技術さんのたいへんさがちょっとだけわかったんですよ。ライトの数で見せ方も変わるとか、パネル1枚建てるのもおカネがかかるから幕で代用できるね、とか。
浦井 そうそう。カーペットを全面敷いたらこれだけおカネがかかるから、敷くエリアを限定しよう、とかね。
平井 あの経験ができて、単独に関わるいろんなことが少しでもわかったのはいいことだなと思いますね。
――男性ブランコにとっては、『キングオブコント2021』決勝がとても大きな出来事だったと思いますが、そのとき大澤さんはどこでご覧になっていましたか?
大澤 オペレーターとして現地について行っていました。
平井 コント中の曲を流してくれたのが大澤さんです。だから暫定席に座ってるときとか、僕らも大澤さんもドキドキしながら待ってたよね。
浦井 ずーっと一緒に緊張しながら。
大澤 どうしようどうしよう、って。ネタ選びや内容に関することはおふたりの範疇なので、小道具のお手伝いとか、「テレビだから照明もう少し明るいほうがいいですか」くらいしか言えなかったですけど、実際、現場でご一緒していたので、やっぱり印象深いですね。
平井 演出面はけっこう相談しましたね。「小物どうしようか」とか。
大澤 1本目のネタで「どのワンピースがかわいいかな」とみんなで相談して。
平井 2本目のネタで僕がつけてるキーホルダーも一緒に探しに行ったりして。
大澤 何かがあったときすぐ対応できるスタッフとして現場にいたことが、少しでもおふたりの安心につながっていたらいいなと思います。
しっかり怒られて信頼が強固に
――改めて、作家としての大澤さんの魅力はどんなところですか?
平井 大澤さんって、めちゃくちゃ芯があるんですよ。違うときは「これはこういう理由だから違うと思います」とはっきり言う。たぶん、お偉いさんに対してもスタンスは変わらなくて。
大澤 (笑)
平井 以前、単独ライブのお客さんの来場特典について相談していたときに、ある案がちょっと難しくなってしまったんですね。そこで僕、頭パンパンになってしまって、「じゃあ、もうナシでいいですわ」と言ったんです。そしたら大澤さんが「いや、でも特典はお客さんが喜ぶものだから、そこはちゃんと考えたほうがいいと思います」としっかり怒ってくれて。
浦井 怒られたなあ(笑)。
平井 それで、「ほんまやな」と……。いままであった特典がなくなったら、どうしてもお客さんの気持ちが下がってしまう。ものじゃなくても、何かしらお客さんへのありがとうの気持ちを伝えることはあったほうがいいなって。大澤さんは僕ら芸人の目線も、お客さんの目線も常に持っていて、それをなあなあにせずに伝えてくれるんですよ。そこで信頼がより強固になりました。
浦井 僕ら2人だけでやっていると、たぶん欠けたものだらけのものになってしまうところを気づいてもらって、補ってもらって。単独ライブは大澤さんのケアのおかげでちゃんと完成できているなと思います。大澤さん抜きでは成り立たないと思う。
――大澤さんから見た男性ブランコの魅力は?
大澤 個々の魅力はいろいろあると思いますが、男性ブランコさんというコンビの魅力は、唯一無二の存在になってきていることだと思います。一時期は、それこそ全員がラーメンズさんを好きだったりして「それっぽい」と言われたりもしたのが、いまは「男性ブランコ」というブランドとしてちゃんと立ち上がっている。そこまでおふたりがずっと粘り続けて走り抜けてこられたのはスゴイなと思います。あと、おふたりが仲いいところがいいですね。これ大事なんです、意外と。
――大澤さんはいろいろな芸人に作家としてついてますが、男性ブランコと関わるときに特に気をつけていることはありますか?
大澤 すごく素直なおふたりで、吸収力がとても高いので、人からのアドバイスを1回、ぜんぶ飲み込もうとしてくださるんです。だから、まわりの私たちもつい楽しくなってしまう。けれど、もちろん主軸は2人だし、決定権も2人にある。男性ブランコにまつわるいろんな企画やものごとのスタート、最初の発信は必ずおふたりというのは忘れずにいたいと思います。
私たちはあくまでも、おふたりが作り出したものを装飾する立場で。単独ライブを毎月やりたいというのも私たちからではなくご本人の意志で始めていることですし。おふたりの「こういうことをやってみたい」の実現を支える側でいたいというのはとくに意識していますね。
仕事を一度も断られたことがない
――最後に、せっかくの機会なので、お互いへの不満やリクエストがあれば聞かせてください。
平井 なんだろうなあ……。
浦井 ……ない。
平井 でも、大澤さんからは……。
浦井 ある。
大澤 ないですよ。
浦井 これはね、絶対にあるんですよ。
大澤 (笑)
平井 そうそう、仕事をお願いするとき、「しんどかったら言ってくださいね」って言うんですよ。
浦井 大澤さん、仕事めちゃくちゃ抱えてるからね。
平井 でも、一度も断られたことがないんですよ。しかも期限には100%上げてくれる。こぼしたのはこの7年、1回もないんですよ。1回も。だからマジで難しそうだったら……。
浦井 断ってほしい。
大澤 プライドが高いから、「今回はアニメーションで映像を……」とか言われたら、やりたくなっちゃうんですよね(笑)。
――男性ブランコの2人に「今年は毎月、単独ライブをやろうと思う」と言われたときはどう思いましたか?
大澤 私がじゃなくて、これだけ忙しいなかで、おふたりが大丈夫かなと思いました。でも、今年はキングオブコント優勝を目指す1年だと思うので。
平井 そう、今年は頑張る年だなというのはありますので。
浦井 うん。
大澤 でも本当に、男性ブランコさんとご一緒してしんどかったことがないんです。あ、不満でもなんでもないんですが、おふたりとの仕事が回数を重ねすぎて、ほぼしゃべることがなくなっている感じはありますね。あと、久々にお会いしたときに私が髪を切っていると、おふたりとも絶対、「髪切ったの?」と気づいてくださるんですよ。でも、その後、なんのコメントもなく終わるので……。
平井・浦井 はははは!
浦井 気づくだけ。感想は言わない。
平井 確かにそうやなあ。確認作業だけ。
浦井 そこは照れなく言えるようになりたいなあ。
ワクサカソウヘイ氏コラム「人生の最期に走馬灯でこのネタがよぎりますようにマジで」はこちら