ネタ作り、ライブ、テレビ、YouTube……さまざまなシーンで、芸人たちを陰で支えている“作家”と呼ばれる職業の人たちがいます。第一線で活躍する芸人たちは、どのように作家と仕事をしているのでしょうか。芸人×作家のスペシャル対談シリーズ『芸人と、作家と』。今回は、実力派として知られるトータルテンボス(藤田憲右、大村朋宏)と、彼らを支える作家のパジャマとりやを迎え、「元芸人」が「作家」になっていくプロセスなどを語ってもらいました。
NSCでの運命的な出会い
――とりやさんがトータルテンボスの2人とお仕事をするきっかけは?
藤田 もともと作家志望で、“芸人の気持ちも味わってみよう”とNSC(吉本総合芸能学院)に入ってきたのがとりや。芸人を2、3年やったあと、「そろそろ本格的に作家になる」と言うので「じゃあウチくる?」って言ったのが始まりです。
とりや ……まったくのウソだよね? ビックリした~。誰かと間違っちゃった?
藤田 違ったっけ?
とりや 芸人になりたくてNSCに入ったからね。
大村 そもそもオレらとグループ面接で一緒だったんだよな。しかも、同じ列に並んでいて。(とりやが)どうしても学校に入りたかったのか、すっごい声が大きかったんですよ。ちょっと恥ずかしくなりましたもん。こんな鼻息荒いヤツがいるのか、って。
とりや 声を大きく出したら受かるという情報が入っていたんでね。
藤田 「なにかアピールある人」って聞かれたとき、「ハイ!」ってまっすぐ手を挙げてたな。
とりや これは事実なだけに何も言えないです……。
藤田 NSCでは、2クラスに分かれていて、僕らがAで、とりやたちがBで、そのBクラスがめちゃくちゃレベル高かったんですよ。
とりや いま事務所は違いますけど、髭男爵の山田ルイ53世とかAMEMIYAとかいましたからね。
藤田 Bはレベルが高くて、面白いヤツらがいっぱいいたんですけど、その一員にとりやはいなかったっけ?
大村 そうだね。
とりや ……いま、流れ上だと「Bの面白いコンビのなかに、こいつがいたんですよ」がキレイな流れなんじゃない?
藤田 でも、事実だからな。
とりやは“おしゃべり要員”だった
――そこからどうやって仲良くなるんですか?
藤田 NSCの最初のころ、大村から「友だちを作りに来ているわけじゃないから、(ほかの生徒と)なれ合いするなよ」と言われていたので、僕は孤立していましたし、話しかけんなオーラを出していたんですよ。でも、あるとき、授業の合間に待ち合わせ場所に行ったら、大村を中心に輪ができていて。
“どういうこと?”と思って近づいたら、「(ほかの生徒に向かって)こいつ、オレの相方。ちょっと気難しいところあるけど、仲良くしてやって」と……。こっちとしては「は?」でしたよ。お前が言うから守っていたのに、って。大村も(話さないことが)耐えられなくなって、誰よりも友だちを作っていたっていう(笑)。そこからいろんな同期と話すようになって、仲良くなっていきました。
大村 (NSC卒業後)銀座7丁目劇場のライブで、僕らが同期のなかで最初にレギュラー組になって、2番目がこいつらだったんですよ。そのあたりで初めて認めはじめました。変なヤツだなと思って軽んじていたんですけど、お客さんには評価されるんだなと。
とりや 意識するの遅いな~!(笑)
――そもそも、とりやさんが作家になったのはどういういきさつなんですか?
とりや 卒業して数年後、コンビは続けていたんですけど、月2回くらいのライブに出る程度だったんですよ。そんなときに、トータルテンボスが同期で最初にルミネtheよしもとで単独ライブをやることになって。そのライブを作る仲間として入ったのが始まりですね。しばらくしてコンビを解散し、ピン芸人になったんですけど、面白いことを考えるというスタンスは芸人と変わらないので、軽い気持ちで作家になりました。
――そこからトータルさんの専任になるということですか?
とりや 「座付き作家」という言葉もわかってないくらいで。とりあえず、この一座にずっといるみたいな。
藤田 ウチらもおカネがなかったんで、作家費用を出せるわけもなく。「ライブやるから一緒に考えようぜ」みたいな。
大村 最初は藤田とネタを作っていたんですよ。一応、主導権は僕にあるから、藤田がいろいろ(ネタ案を)言ってくれるんですけど、「あんまりだな~」とか返していたら、そのうちヘソ曲げちゃう。だったら、パジャマ呼んで「ちょっとおしゃべりしてな?」ってな。だから最初は、ネタ作りを円滑に進めるためのおしゃべり要員だったんですよ。
藤田 そうだわ。笹塚のデニーズでネタを作っていて、大村が考え始めると、とりやと話をしていましたね。そのうち「オレら、ネタ作りに行かなくていいんじゃない?」という話になったんですけど、大村は「ダメだ」と。
大村 その2人の雑談から拾えることもあるんですよ。2人ともずーっとしゃべっているんで、ネタのフックになることがあって。
手探りで作家の勉強!?
――ほかの作家さんもいるなかで、とりやさんを選んだのは、やはり魅力があったからなのでしょうか。
大村 いまでこそ作家陣も充実していますし、戦力として選ぶような時代だと思うんですけど、当時はそんな時代でもなかったんですよね。考えるのは当人というのが当たり前だったから……、友だち感覚?
とりや (笑)。本当に話し相手に呼ばれていた感じですね。
藤田 友だちとだべっているのが、いつしかおカネをもらえるようになったんだよね。いままでは自腹で来てメシ食って何時間も喋って帰っていたのが、僕らの実績が上がるにつれて、作家をつけていいという話になり、とりやを呼んだら、彼にもお金カネが支払われるようになって。
とりや そういうことだよね。「これ仕事になるやん!」って(笑)。
藤田 いまじゃ当たり前ですけど、作家としてギャラが入ったと聞いたときは嬉しかったですね。
大村 『M-1グランプリ』(2007年準優勝)、『爆笑オンエアバトル』(3大会連続チャンピオン)で結果を出していくなかで、(とりやも)作家の価値を上げていきましたもんね。
藤田 たしかに。「トータルテンボスの座付き作家」ということで、1年目の後輩が羨望の眼差しで見ていましたから(笑)。
とりや (吉本の)社員さんが挨拶をしてくれるようになったし、まわりの反応も変わったんですけど、「(心の中では)雑談しているだけなんだけどなあ~」って(笑)。
藤田 だから、彼が独自で切り開いたものは、ほとんどないんじゃないですか?(笑)
――とりやさんは、いわゆる作家の勉強はしなかったんですか?
とりや 師匠もおらず、懐に入らせていただくようなお兄さんもおらず、野良犬みたいな暮らしをしていました。勝手に番組見て勉強したり、番組の台本見て「こうやって書くんだ」って学んだりしていましたね。
作家なのにライブの前説も
――これまで一緒にやってきたなかで印象的な仕事は?
とりや 最初に作家っぽい仕事をとってきてくれたのは、藤田なんですよ。当時、ホームページはあるけど、まだブログが流行っていない時代。そんななかで、単独ライブの様子を写真と文章で紹介するネットの仕事をとってきてくれました。その気持ちが嬉しくて、数行でいいところを2,000文字とか書いちゃいました(笑)。
藤田 そのコラムが、すげー面白かったんですよ。それを冊子にして売ったら完売しました。
大村 『単独稽古日誌』みたいな感じだよな。
とりや それが名刺代わりになって、構成作家の仕事にも役に立ちましたね。いま、YouTubeチャンネル『トータルテンボスのSUSHI★BOYS』でイタズラをよくやるんですけど、そのベースみたいなものも生まれていました。あと、2人が(吉本の)社員さんに言ってくれて、芸人さんが営業に行くときのアテンドをする仕事ももらいましたね。
藤田 まだ食えてないとき、泊まりの仕事に行ったこともあったよな。前乗りして「◯◯円までだったらごはん食っていい」と聞いたときは「会社のカネでメシ食えるんだ!」と大喜びしていましたね。
とりや 貧乏作家が、会社のおカネで新幹線やタクシーに乗って、友だちと一緒に地方に行けるというのはテンション上がりました。
大村 トータルテンボスの47都道府県ツアーも一緒にまわりました。お客さん7人の場所もあって……。小さいライブハウスとはいえ、7人はヤバいから急遽、円卓テーブルを用意して、このテーブルがあるからそんなにお客さんは入れられないんだ、という言い訳を作ってな。
藤田 テレビ局のロビーにパイプ椅子を並べただけのライブもやりましたね。音響もないからとりやがラジカセを使って出囃子かけて、ネタが終わったら蛍光灯のスイッチ押して暗転させるみたいな……。ほとんど手作り。でも、楽しかったですね。
とりや 僕、前説もしていたんですけど、作家になってからのほうが、前説の場数が多いんですよ(笑)。100や200じゃ、きかないと思います。
藤田 ふだんは出役じゃないから、とりやがめっちゃ緊張するんですよ。会場を温めようと必死になっているところを、余計にパニックに陥れてやりたい気持ちが湧いてきて。前説途中に、彼のバッグを舞台に投げ込んだりしていましたね。
イタズラでイジられることも
――いまも続けているようなイタズラや“ノリ”はずっとあったんですね。
大村 一時、オレのまわりを全員アフロにすることによって、オレがいちばん変な髪型になるという空間にしたことがあって。
藤田 変な髪型にしようキャンペーンをずっとやっていたね。
大村 あと、デブにさせたりな。
とりや メシ食えてないときに「食べさせてあげる代わりに太れ」って……。静岡に行く道中、コンビニ通るたびに肉まんを買われるんですよ。
藤田 1日6,000キロカロリーくらいとったときあったよな。
大村 「ロードオブデブ」もやったし「ロードオブロン毛」もやったし。最終的に、デブでロン毛できったねーやつになったんですよ。
とりや 1カ月で12キロくらい太って、髪が腰くらいまであったという。
大村 そこまで伸ばした段階でメスを入れたんだよな。
とりや 当時、遅刻したら「体のあらゆる場所を剃るからな」と言われていて。でも、どうしても遅刻しちゃう……。それで、剃るものがなくなったので、僕が「坊主にする」と言ったら「髪伸ばしているからダメ。上半分だけ坊主だ」って(笑)。
その上半分の坊主も飽きちゃったんでしょうね。僕がトークライブに出るとき、服の中に長い髪を入れて、ニット帽をかぶっていたんですよ。出番前に「上半分隠れているんだったら遊ばせろ」って話になって。大村に任せてやった髪型がコレ。
とりや 不機嫌な状態で舞台に出てきて、「やってらんねーよ!」とニット帽投げつけたらこの髪型ですから(笑)。
藤田 第2弾は日本列島にしました。そこで「どこ出身?」と聞いたら京都を指させるように練習してもらったんですけど、毎回、間違えて山形を指しちゃう(笑)。
大村 いまのカセ(ルール)は、動物が描かれているTシャツを着ること。最初は嫌々やってましたけど、いまはノリノリで集めていますからね。
とりや 最初は嫌だと思っていたんですけど、いまはクローゼットにある服がぜんぶ動物の服です。200着くらいありますかね。
大村 (おカネがないときのことを考えると)服を買えるという状況が嬉しいんですよ。彼は、僕らのことを間近で見ているのかもしれないですけど、僕らも彼のステップアップを見てきていますからね。最初は3万円のアパートから始まったからな。
とりや トータルと同い年なんですけど、2人が結婚をして子どももいるとき、家賃を滞納して家がなくなっちゃった時期があって。
大村 そんなヤツがいっぱしの家を借りられるようになったときは、泣きそうになりましたよ。次に泣くときは、彼が運転免許をとったときじゃないですか。免許証見せられたら泣いちゃうでしょうね。
藤田 いま、免許がないのに車が欲しいという意味のわからないこと言っているんでね。
とりや 年内くらいには免許とりたいと思っていますけどね。
大村 聞いたら「ミニクーパーほしい」みたいなこと言ってんのよ!
藤田 嬉しいですね。
分岐点となったM-1グランプリ
――とりやさんは現在、どういう仕事をしているんですか?
とりや トータルやチーモンチョーチュウ・白井鉄也のYouTubeに携わったり、むかしはチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)の単独ライブを手伝ったりしていましたね。最近は、企業さんの懇親会を、お笑いのシステムを導入して面白くする仕事を請け負っていて。台本を書いたり、進行をしたり、多方面にわたっています。
あと、麻雀が好きすぎて、出役もやらせていただくことがあります(日本プロ麻雀連盟に所属)。以前、あるスタッフさんに「麻雀番組お手伝いしたくて探しているんですよ~」と相談したら、その方が、麻雀番組『THEわれめDEポン』の総合演出の方で。それが縁で、スタッフとして参加させていただくことになりました。
――長い歴史を2人と歩んでいるとりやさんから見たトータルテンボスの分岐点は?
とりや 高校球児みたいな熱気でやっていたM-1じゃないですかね。M-1に勝つため、予算がなくても全国ツアーをやるという熱量がハンパなかったです。
――トータルテンボスの2人の印象を教えてください。
とりや やっぱり大村はしっかり者なんですよ。全国ツアーで各地をまわったときも、アンケートで面白い漫才を聞いてデータを取り、大事な場所にかける漫才は上位になったネタ……という戦略的思考に長けていました。
豪快でイジられるイメージの強い藤田は、じつはすごく几帳面。一緒に住んでいたときに、藤田のものもあわせて洗濯していたら、「お前、Tシャツはこの干し方すんなよ!」と怒られましたから。あと、コンビニでごはん買って、割り箸をもらったら、藤田が横から入ってきて、「家に箸があるんだからいらない。地球の資源守れ!」って。そのくせ、自分は家でパン食べてたら気持ち悪くなって、ペッと吐いたりするんです。
――最後にトータルテンボスの2人から見たとりやさんの魅力を教えてください。
藤田 完全に下に見れちゃうところですね。
とりや おもちゃじゃねーか!
藤田 安心感ですよね。
大村 マジで穏やかですよ。めちゃくちゃだらしないですけど。人間性で得している部分もあると思います。彼のまわりには人が集まりますから。
公演概要
トータルテンボス25周年全国漫才ツアー2022「ちりぬるを」
静岡県御殿場市出身で同級生という関係からお笑いの道へ進み「M-1グランプリ」の決勝3度進出、2007年には準優勝を果たし確固たる彼らの「漫才」を作り上げてきたトータルテンボスが結成25周年を迎え全国10ヵ所を回る漫才全国ツアーを開催。
単独ライブお馴染みの漫才合間でみせる「今日のいたずら」も必見。
静岡県沼津市からスタートし、千葉、静岡県浜松市、宮城、愛知、福岡、愛知、石川、大阪、東京にて開催。
7月30日(土)よりチケット販売開始。先行発売では「特典付きチケット」も。
出演者:トータルテンボス
詳細はトータルテンボスツアー公式HPをご確認ください。
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