2005年に芥川龍之介賞を受賞し、その後も国内外で高い評価を得ている小説家・中村文則氏。衝撃のデビュー作「銃」が発表されてから20年となる今年、京都国際映画祭にて映画化された中村文則氏原作の映画全6作品を会場&オンラインで一挙紹介する「小説家中村文則原作映画特集」が組まれました。映画祭初日の10月15日(土)、ヒューリックホール京都では『銃』を上映。上映後、原作者と進行の深い又吉直樹、プロデューサーの奥山和由氏、武正晴監督が舞台挨拶に登壇。中村氏はリモートで参加しました。
『銃』は、一人の大学生が、河原でたまたま銃を拾ったことがきっかけで銃に支配され、徐々に狂気が満ちていく様子を描いた物語。
原作に惚れ込んだ奥山プロデューサーによる企画・製作で、武監督がメガホンを取り映画化。難役の主人公・トオルを村上虹郎が熱演し、ヒロインの女子大生、ヨシカワユウコを広瀬アリス、そして、トオルを追いつめる刑事にはリリー・フランキーなど、個性派俳優の面々が脇を固めます。またこの作品は、フィルム・ノワールの映像表現によって人間を追及していく純文学性を持った質の高い作品として描かれていて、トオルの世界が白黒とカラーの世界で表現されています。
「警察に追われる夢をよく見る」
舞台挨拶で又吉は「(『銃』の)原作を20代の時に取り憑かれたように読んでしまった」と明かします。その理由として、「20代の頃から警察に追われる夢をよく見る」と話し、映画でトオルが刑事に追われるシーンと重なるといいます。「そうした自分の感覚とこの話の内容が合っていて、その怖さが映像でもリアルに描かれていてすごく好きです」と感想を語りました。
奥村プロデューサーは「自分の思うような作品がつくれなくて、精神安定剤のように『銃』の文庫本をいつもポケットに入れていた」と話し、とくに惚れ込んだ理由を「(原作の)書き出しに誘い込まれた。映画人にとって画がバンと浮かんできました」とその世界観を絶賛。武監督は「小説の中にもありましたが『人を殺してしまうと世界が変わってしまう』という一文を映像としてどうやって表現するかというのが魅力的でした」と振り返りました。さらにトオルを演じた村上虹郎が撮影で使ったアパートに撮影前から実際に住み込んでいたという撮影秘話も飛び出しました。
これらを聞いて中村氏は「伝説的なプロデューサーの奥山さんから(映画化の)話をいただいてすごくうれしかった」と笑顔。とくに印象的だったのは「ラストシーン」と明かし、「いち観客として見ても、伝説的なシーン。原作にはないんですが、村上くんが笑うんです。本人に聞くと、無意識に笑ったみたいで。演技に集中していて、笑ったことを覚えていないそうです。あの笑いは原作者から見てもゾゾッとした」と衝撃のラストシーンを振り返りました。
新たな展望も
また、又吉と中村氏が「自分の小説が映像化されることについて」という話題で盛り上がる一幕も。又吉は「自分の作品が映像になって『なるほど、こういうことだったんだな』と気付くこともあるから楽しいです」と語ると、中村氏は「又吉くんは脚本に意見を言ったりする?」と質問。又吉は「ほとんど言わない」とのことで、相方との経験が生きているのだとか。その話を聞いて、中村氏「あー、なるほどねー」と深く納得したようでした。
最後に又吉は「昔、中村さんとごはんを食べている時に『銃、いつか映画になればいいですね』という話をして、それを思い出しておもしろい映画になってよかったなと思います」と感慨深げ。奥山プロデューサーは「こういう時代だからこそ、中村さんの言葉は沁みるものがあって、だからこそ原作の言葉のまま、脚本にしたものをいつかやりたいと思っています」と新たな展望を明かしました。
武監督は「中村さんは『小説に救われた』とよく言われますが、僕も『映画に救われた』という人間で、映画も小説も人を救うためにあるもの、という中村さんの思いにすごく共鳴しました。『銃2020』もあるのでぜひ観てください」とアピール。中村は「僕の原作の映画は一般的な日本の映画とは違う質のものになっているので、こういう映画もあるんだなという風に思ってくださればうれしいです」と語りました。