「老い」をテーマに小説&エッセイを上梓した野沢直子 2冊同時発売のきっかけは、あの伝説の編集者・高橋朋宏氏のひと言!?

2022年10月、野沢直子が2冊の本を発売しました。エッセイ集『老いてきたけど、まあ~いっか。』、そして小説『半月の夜』。3人の子どもを育て上げ、現在59歳。気が付いたら、自らの老いと向き合う年齢になっていたという彼女が、エッセイと小説、2つのアプローチで「老い」を真正面から多彩に描いており、早くも評判を呼んでいます。

出典: FANY マガジン
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この2冊の本は、吉本興業に所属する芸人や文化人などから、有名・無名を問わず「本気で本を出したい人」を育成する『作家育成プロジェクト』から生まれたもの。このプロジェクトは、ベストセラーとなった片付けコンサルタント・近藤麻理恵(こんまり)さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)などの編集者であり、吉本興業に文化人として所属する高橋朋宏氏が中心となって動いています。

高橋氏は58歳ということで、奇しくも二人はほぼ同世代。伝説の編集者・高橋朋宏氏は、作家・野沢直子の本をどう読んだのでしょうか? 読書の秋にぴったりの対談です。

「人生で一度くらい、茶髪か金髪にしてもいいかな」と思えてくる

――まず、今回上梓した野沢さんの2冊を読まれて、高橋さん、いかがでしたか?

高橋 エッセイのほうの『老いてきたけどまぁいっか。』、私は編集者なので、本来はその視点で読まなければいけないんですけど、でも、なんていうんだろう、自分事として読んでしまいました。自分の年齢が58歳なので、すごく共感する部分も多かったし、野沢さんが悩みながら、考えながら書いていき結論に向かっていく。それが没入感につながっていく感じがしたし、勇気をもらった気がしましたね。

野沢 ありがとうございます! まさに今回は私と同世代の方にそんな風に読んでもらえたらいいなと思っていたのでうれしいです。

――まだ発売されて1か月経っていないぐらいですが、レビュー欄などでも「共感しました」という声が多いですね。

野沢 ほんと良かった~。共感してもらいたいっていうのがいちばん思いとしてあったのでうれしいです。

高橋 この本の良いところが、「こうすべきだ」とか「こうである」とか、当然そういうのが入っているんですけど、それがまったく押しつけがましくない。だからこそ、自然に文章が入ってくる。そこがいいなとすごく思いました。

出典: FANY マガジン
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野沢 ありがとうございます。ほとんどが自問自答のスタイルで書いていたのと、自分自身に言いたいことが多かったんでそんな感じになったのかなと。

高橋 他にも「明るい色で老いごまかし作戦」とかすごく共感しました。野沢さんを見ていると「自分もちょっと髪、染めてみようかな」とかふと考えてしまいました。さすがに野沢さんみたいにオレンジまでは行けないですが、人生で一度くらい茶髪か金髪か、するのもアリだなと(笑)。

野沢 フフ。一度くらいはどんな感じかって冒険してみるのも楽しいですよね。私の場合、髪の色は、ちょっと白髪を隠すという意味があるんですけどね……(笑)。

エッセイも書くことになったのは高橋氏のひと言がきっかけ

――この本は2冊とも『作家育成プロジェクト』から生まれたと聞きました。どういう経緯で本の出版に至ったのでしょう?

野沢 このプロジェクトを聞き、ちょうどそのころに考えていたのが「老いとの向き合い方」で。「老いてきて、こんなはずじゃなかった」と思っていた気持ちがあったので、それをテーマにしたいなと思っていた。私としても結論はわからないんですが、どうしたらいいのかなと考えている過程を書こうと思って。最初は小説だけと思っていたんです。ただ、そのプロジェクトの中で「エッセイのほうも書いてみてはどうか」というお話をもらって。

高橋 最初に企画書を拝見したとき、小説の企画だったので私が「もうひとつエッセイを出しませんか?」というお話を伝えたくて、野沢さんとリモートでお話させていただいたんですよね。だから、2冊発売になったのは、ある意味で僕の願いを叶えてくださった形なんですけど。

野沢 あぁ、そうだ、そのとき仰ってましたよね! すいませんでした、忘れちゃってて。これも「老い」ってことで(笑)。

出典: FANY マガジン
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高橋 そうそう。本の中でも「すぐ忘れる」とかっていう話が出てきますけどね(笑)。ほんとそうですよね。僕もどんどん忘れていく。
最初の段階で、小説のサンプル原稿も出していただいて、それを読んですごいなとびっくりしたんです。恥ずかしながら、野沢さんの過去の作品(『アップリケ』)を読んでいなかったので、「こんなに書ける方なんだ! しかも面白い!」と驚いて。あのサンプル原稿の段階で、今回、本になっているものとほぼ近い形ですよね。

野沢 そうですね。あのあたりはほとんど変わっていないと思います。自分と同世代の女性が主人公だというのは決まっていたので。書き出しはほぼ変わってないです。

高橋 つまり、このテーマ自体は野沢さんの中にずっとあって、そこにちょうどこの出版プロジェクトがたまたまあったというだけなんですよね。サンプル原稿の段階で「これは間違いなく本になるだろう」と思って。でも、それとは別に、僕自身が読みたいものとしてエッセイを提案させてもらったんです。同じ年代でもあって、50代になり、高齢者というほどでもないけれどもその手前に来ている。その戸惑いや気持ちを書いてほしいと思ったんです。

――小説とエッセイ、書くにあたって書き手として意識の違いはあるんですか?

野沢 エッセイもちょいちょい書いていたので初めてではなくて。基本的には書くのがすごく好きなので。でも、エッセイのほうが自分の言葉なので比較的書きやすいと言えば書きやすい。でも、楽しんで書いたのは小説のほうかなという感じです。でも両方とも自分の問題だったので、とにかく同世代の方に共感してもらい、読んで少しでも気が楽になってもらえたらなと思っていた。読んだ方が最後には「楽しい老後を過ごそうという気持ちになってもらう」というゴールがすごくハッキリしていたので。

小説のリアリティは「ネットから拾ったネタ」がヒントに

――野沢さんはアメリカ在住が長いですけど、小説の中で描かれている日本の世界の描写がすごくリアルで。スーパーのパートたちの関係性だったり、いろんな社会問題の取り交ぜ方が現実味あって、そこがすごいなと感じました。

野沢 パートの部分は、ネットで「レジ打ち 喧嘩」とかで出てくる話をたくさん読んで。そこで分かったのが「レジ打ちの職場にはボスがいるらしいぞ」と(笑)。それを膨らませて、それでキャラクターを作り上げていった感じです。だから、実体験ではなくて、ネットでいろいろ調べて想像して書きました。

出典: FANY マガジン
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――作家さんは実体験でなくても書けるっていうのがすごいところですね。

高橋 そうですよね。実体験をそのまま書くのではおそらく面白みがなくて、そこをいかに膨らませられるか、実体験なんだけど普段使わないような言葉だったり、描写で織り込まれているから余計いいのかもしれないですね。

野沢 それはある気がします。小説の場合、キャラクターたちの話になるので、結局は他人事というか。だから考えやすいのかもしれないですね。エッセイは逆に自分事で、それはそれで書きやすい部分もあったんですけどね。

――小説は「老い」だけでなく、他の問題もいろいろと盛り込まれていて、エンタメとしてもすごく楽しめました。

野沢 私と同じくらいの年代の方だと、子育ても終わっていたり、仕事もひと段落してリタイアするというときに、人生を振り返ってみて自分は社会に貢献したんだろうかとか、何かの役に立ったんだろうかとか、なんかすごく考えてしまって、はたしてこれでよかったんだろうかと考える節目の時だと思うんですけど。

出典: FANY マガジン
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野沢 でも、それで考えていてもしょうがないし、考えたうえでこれまでの人生があんまり良くなかったと思ったとしても、そうなら余計に今からでも幸せになろうとしてもいいじゃないかと。そこが小説のゴールだったんです。それもあって、小説はイケてなかった人たちの人生にしたかった。そんな男女が出会ってその後の人生をどう生きるかという流れにした。イケてない人生のほうはまたもやネットでいろいろ調べて、不妊治療や毒親、嫁姑問題とか、ありとあらゆる悩みや大変なことをぶっこんでみたという感じです。でも、なるべく、いろんな人に共感してほしかったので、4つ5つとそういう要素を入れてしまったんですけど、ちょっと多すぎかなという感じもしなくはないんですけど(笑)。

高橋 今、聞いていて思ったのが、芸人さんをされているから、世の中を感じる感度というのがほかの人、例えば編集者なんかとぜんぜん違うんじゃないかなと。それでネットで検索して情報を仕入れたとしても、それを自分なりに受け止めてアウトプットしていくというのが芸人さんらしい角度だったのではないかなと。そこが他の小説家とある意味で違う、野沢さんらしさにつながっているのではないかなと思います。

――野沢さんは今後も書きたいものは自分の中にあるんですか?

野沢 まだまだ書きたいですね。書いていると別のテーマになりそうなものを思いついてしまうんですよね。今回も、書いている間にもう1つ書きたいことを見つけてしまったので。

高橋 そのテーマはなんですか?

野沢 じつは「認知症」をテーマにできないかなと思っていて。エッセイを書いたのが大きかったんですけど、死ぬときのこととかを真剣に想像してみて。自分の父親もそうでしたけど、死ぬ前にどうして認知症になるのかなと。現実と記憶の世界を行ったり来たりする感じがあって。それで「認知症ってもしかしたら、死に対しての抵抗なのかな」と思ったり。それでそれがなんか形にならないかなと。

高橋 面白そうですね。次回作も楽しみにしています!

書籍情報

『老いてきたけど、まぁ~いっか。』
著者名:野沢直子
発売日:10月5日(水) ※電子版同日配信
定価:1,540円(税込)
頁数:224頁(予定) 
体裁:46並製 単行本
ISBN:9784478115770
発 行:株式会社ダイヤモンド社

『半月の夜』
著者名:野沢直子
発売日:10月11日(火)※電子版同日配信
定価:1,430円(本体1,300円+税)
頁数:200頁予定
カバーイラスト:西川真以子
装丁: 大久保伸子
体裁:四六版並製 単行本
ISBN:9784041121610
発行:株式会社KADOKAWA

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