2012年に50歳を迎えた10人の俳優による「500歳の会」が話題を呼んでから早10年。還暦を迎えた彼らが「600歳の会」として帰ってきました! 12月1日(木)から東京・下北沢のザ・スズナリで舞台『迷惑な季節〜おそらく諦めきれない数々のわたし達〜』の上演が始まるのを前に、宇梶剛士さん、小川菜摘さん、千葉雅子さん、山西惇さんの4人に話を聞きました。
「500歳の会」から10年…奇跡の再結成!?
――10年前、「500歳の会」として集まった面々が、こうして再び「600歳の会」を結成することになったきっかけは?
宇梶 そもそも500歳の会は俺と山西くん、深沢敦ちゃんが一緒に時代劇をやっていたときに持ち上がった話なんです。「俺たちもう50歳じゃん。黙って50歳を受け入れるの嫌だね、ひと暴れしたいね」って。それで同じ50歳の役者10人が集まって舞台をやったんですよ。で、「600歳の会」ができたのは菜摘ちゃんのおかげ。
小川 いやいや。ただ、宇梶くんに会うたびに何年も前から「600歳の会やんないの?」って言ってたんです。千葉さんとも「やりたいよねー」って。
山西 僕も宇梶さんと会うたびに「600歳の会」の話をしていたけど、正直、実現するかどうかは五分五分だろうなあと思ってました。
小川 そこを宇梶くんが頑張ってくれたんだよね。
千葉 状況的にもね。いまはようやく少しずつ(コロナの)対策しながら公演できるようになったけど、もし私たちが2年早く生まれてたら、できてなかったかもしれない。
山西 宇梶さんから「内藤裕敬さんの『手の中の林檎』をやりたいんだ」って、具体的なタイトルが出てきたのが1年と少し前くらいかな。そのときに「本当にやるんだ」と思いましたね。
宇梶 『手の中の林檎』って同級生7人の話なんですよ。「キャスト10人だからこっちで書き足すか?」と迷っていたら、池田成志が……。
――「500歳の会」に出演された池田成志さん。「600歳の会」はスケジュールの都合で出演されませんが、池田さんとも連絡を取っていたんですね。
宇梶 成志が「書き直してもらったらいいんだよ」って言ってくれたんですよ。アイツのこと、あんまり褒めたくないんだけど(笑)。
千葉 それで新作にしてくれたの?
宇梶 そうそう。俺もお願いして、深沢あっちゃんからもお願いしたら、内藤さんが完全に新作として書いてくれたんです。
山西 僕は30年前に出演した『九月の昆虫記』(シアター・ドラマシティのこけら落としとして上演された南河内万歳一座と劇団そとばこまちの合同公演)以来の内藤作品なんです。そのときは台本が遅くて苦労しました(笑)。でも内藤さんの作品はずっと好きで、今回も僕らにしかできないお芝居になっているし、3歳上の内藤さんが60歳を迎えんとする僕らにエールを贈ってくれるようなお芝居だなと思って、これをいま上演できるのがうれしいですね。
安心できる“同じ年の先輩”たち
――とあるアパートの一室でみんなが目をさますが、昨日の記憶がない……という、謎の多いはじまりの物語ですが、一人ひとりのキャラクターが立っていて、あて書きのようにも見えますね。千葉さんは出演もしながら演出も担当していますが、どんなふうに演出していますか?
千葉 もう本当に10人それぞれが育ってきた畑、まとっている演劇観がすべてですよね。何かを演じるのではなく、自分がまとっているものをどうここに持ち込むか。今回は役作りよりも自分との戦いだと思います。人間力のぶつかり合い。
宇梶 千葉さんは母のように見守ってくれるんですよ。でも、稽古中にときどき笑いすぎて演出できなくなってるよね(笑)。
小川 稽古場の空気も特別なんですよ。なにも言わなくても通じ合うところがあるし。最近は、どこの現場に行っても「私が最年長だからしっかりしなきゃ」と思うわけですよ。でも私は、演劇から離れていた時間があるぶん、今回は「私はこの中では、まだまだ若手だ!」って思うんです。「皆さんから吸収させてもらいます!」って。同じ年の先輩たちが受け止めてくれる安心感がすっごく居心地よくて。
宇梶 でもさ、結局、みんなクソガキのまんまだよね。人間って、誰もが持ってる無垢なところをいつの間にかオブラートに包んだり、仕舞っちゃったりして生きていくじゃない? でも、演劇はそこを見つめて作っていくものだから。よく言えば、無垢さを仕舞えないまま歳をとってきたというか。
山西 むかし南河内万歳一座の河野洋一郎さんが「俺たちは面白い劇をやりゃあいいんだよ」って言ってたんですよ。「演劇」なんて立派なものじゃなくて、学芸会のよくできたやつ。今回も、みんな育ってきた道のりは違うけど、やっていることはそういう感じだよね。誰も、高尚なことをしようとしている人はいないし。
宇梶 本当にそうだね(笑)。
60歳を感じる瞬間は…塩を振るとき!?
――せっかく60歳の皆さんが集まっているので伺いたいのですが、60歳という年齢を感じる瞬間ってありますか?
千葉 私は目ですね。もう、料理してるとき、塩を振ってるんだか振ってないんだかわからない。
小川 あるある! だからもう手に出して、確認して鍋に入れたりして。(笑)
宇梶 塩か!
山西 あははは!
小川 すっごい二度手間が増えたよね。薬の瓶に書いてある文字がちっちゃくて、老眼鏡をかけても見えないんですよ。だからそれを写真に撮って、拡大して見るの。
山西 僕はまだ子どもが小さいんですけど、一緒に遊ぶときに全力疾走ができなくて。あと、絶叫マシンってだいたい65歳までの制限あるの、知ってました?
小川 ええ~! 知らなかった!
宇梶 俺は、もともと絶叫マシン乗れないから……。
山西 今回のタイトルが『迷惑な季節』じゃないですか。僕ら、60歳になっても迷い、惑っているし、ぜんぜん大人になってないというのはありますよね。
小川 本当にそうだよね。けど、みんな、目は悪くなってるけど声はでかい! 演劇で培ってきたものもあるんだろうけど……耳が遠くなっているからかな?(笑)
全員 (笑)
小川 面白いですよ、いい大人たちがでかい声で言い合ってるのって。
千葉 最近の演劇って、あまり大きな声出さないのにね。
――お手本になりそうですね。
宇梶 お手本と言われたらありがたいけど、迷惑と言われちゃうかも(笑)。俺ら10人、まさに異端だなあ。
そんなにうまくていいのか?
――最後に、あらためてこの作品の魅力や見どころを教えてください。
宇梶 ただただ過ぎていく時間のなかで、ふと気づくとここに立っていたというところから始まる作品で。僕らも気づいたら60歳になっていたけれど、そんな僕らが集まって、限りある生命のなかで永遠を見つけるような芝居になるんじゃないかと思いますね。僕らが皆さんにお渡しできるのは、経験や技術じゃなくて、魂。生きようとする命の力。若い子どもから俺らの先輩の世代にまで見てもらって、元気になってもらえたらなと思います。
小川 私が演じる役に「これからも着いちゃうね。“今”に振り回されながら、思いもしないどこかへ」というセリフがあるんです。まさに自分のいままでの人生がそうだったなって。まさか演劇の場へ戻ってこられるとも思っていなかったし、10年前にはまさか「600歳の会」でまた皆さんとお芝居できるなんて思ってなかった。だからこのまま、最後まで振り回されていたいし、思いもよらない1年を重ねていきたいなって思える、そんなお芝居です。同年代の方には懐かしポイントもありますし、下の世代の方にも楽しんでもらえると思います。
千葉 60歳というのは同じだけど、それぞれの時間の流れ方はさまざまでここまで来た。そんな10人が集まって、その思いを吐露できるんだという新鮮な驚きがありますね。私自身、自分の役が生身の姿を反映したものだから面白いし怖いし。でも10人それぞれの、いろんな演劇の匂いとか空気をみなさんに味わってもらえたらと思います。
山西 最近、若い人たち、本当にうまいんですよ。俳優もうまいし、台本もよくできてるのがいっぱいある。でも、そんなにうまくていいのか? そんなにきれいにまとまってなくていいんじゃない? とも思うんですよ。そんななかで「600歳の会」って、芝居を始めたときの熱を思い出させてくれるような存在なんです。だから、きっと「ちょっと最近、こんなの見たことない」という芝居になるんじゃないかな。
宇梶 確かに!
小川 本当ですね。
千葉 見たことない。
山西 それを面白がりにきてもらえたら。
公演概要
劇団600歳の会「迷惑な季節~おそらく諦めきれない数々のわたし達~」
日程:12月1日(木)~12月11日(日)
場所:下北沢 ザ・スズナリ
作:内藤裕敬
演出:千葉雅子
出演:天宮良、宇梶剛士、内野智、小川菜摘、金井良信、高橋耕次郎、千葉雅子、中村まこと、深沢敦、山西惇(出席番号順)
チケット:6,600円(全席指定・税込)※未就学児の入場不可
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