野沢直子が2冊“同時発売”した吉本『出版チャレンジ塾』ってなんだ!? 伝説の編集者と語る本づくりの極意

吉本興業に所属する芸人や文化人の中から、有名・無名を問わず「本気で本を出したい人」を育成する『作家育成プロジェクト』。このプロジェクトが『出版チャレンジ塾』と名称を新たに、今年も開催されます! そこで今回の募集が始まるにあたって、このプロジェクトから2冊の本の出版を実現した野沢直子と、プロジェクトのキーパーソンであるベストセラー編集者・高橋朋宏氏が対談。本づくりの裏側や、ヒット本になる秘密などを語り尽くします。「無名こそ最大の武器」という、高橋氏の真意はいかに? 

出典: FANY マガジン
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高橋氏は、日本とアメリカの両国で100万部超えの大ベストセラーとなった片付けコンサルタント・近藤麻理恵(こんまり)さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)をはじめ、数多くの大ヒット書籍を手がけてきた伝説の編集者です。

その高橋氏が手掛けた昨年の『作家育成プロジェクト』では、230人がエントリーして10人が本を出版しました。今回の募集は1月から段階的にスタートし、吉本興業所属のタレントならば誰でもエントリーOK。自分が「これぞ!」と思う本の企画を提出し、審査を経て選抜されたら、本作りのイロハが学べる出版セミナーでプロット作成や執筆の指導を受けます。そして出版実現への切符をかけて、複数の出版社が参加する「出版プレゼン大会」(昨年は13社が参加)に参加できるという流れです。

野沢「ありがたいチャンスだった」

――昨年の『作家育成プロジェクト』は、書類応募のエントリー段階でかなりの反響があったと聞きました。

野沢 たしか230名とかあったんですよね!

高橋 最初に応募された方はそのぐらいでしたね。

――そこから絞られて30人程度のセミナー参加者が決まり、野沢さんもその1人でした。そこから、野沢さんのエッセイ『老いてきたけど、まぁ~いっか。』(ダイヤモンド社)や小説『半月の夜』(KADOKAWA)のほかにも、ソラシド・本坊元児さんの『脱・東京芸人』(大和書房)や、ピストジャムさんの『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)など、続々と出版されていますね。

野沢 本当だ。もうみんな、けっこう出しているんですね。

出典: FANY マガジン
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高橋 そのなかでも2冊出されているのは野沢さんだけです。

野沢 ありがとうございます。2冊通っちゃうとは思ってなかったんですけど(笑)。

――このプロジェクトに参加して、野沢さんがいちばんよかったと感じるのは、どんなところですか?

野沢 よかったなというのは、単純に本が出版できたということ。ありがたいチャンスだったなと思います。

高橋 小説はこのプロジェクトの前から書かれていたということで、もしこのプロジェクトに参加していなくても、おそらく形になっていたと思いますが、小説だけでなくエッセイも書いてみてはどうですかと僕がお話させてもらったんですよね。

野沢 そうでしたよね。エッセイは最初、考えていなかった。どうにか出版にこぎつけて読んでもらえたら、きっとスポッと共感してもらえるだろうし、小説のほうがその力は強いかなと思ったので。だから、エッセイという頭はなかったんですが、このプロジェクトで「自分の言葉で書いてみては?」と言われて、それもまぁいいかなと思えて。うまく言えないんですけど。

出典: FANY マガジン
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高橋 野沢さんがこういう「老い」をテーマにした本を出すというのは、世の中の人が持っている「野沢直子」さんのイメージのフィルターが取れる、ひとつのきっかけになるかなと思ったんです。

野沢 確かに、それを最初のときに仰っていただきましたよね。実際、こういう形になって、取材していただいて、たくさん本の感想をいただくと「老いるっていうイメージがなかった野沢さんも、老いるってこと言うんだって驚いた」という感じのことをけっこう言われて。「あ、あのときに(高橋さんに)言われたことだな」と内心、思ってたんですよね。

編集者と作家、ラリーをしながら良いものを目指す

――2冊を並行して書いていくのは、なかなかハードだったのではないでしょうか。

野沢 1年間で2冊を書き上げたという感じですね。最初に3カ月くらいでエッセイをバーッと書いて。その後、編集の方との書き直し、書き足しというやりとりがあって。完成したのが半年後、そこから今度は小説のほうに着手してという感じで。

高橋 ということは、たまたま発売が同時期になったわけですね。

野沢 そうです。どちらかというと、エッセイのほうが編集の時期も短く、直しもそこまでなく、進めさせてもらいました。

――作品を生み出す苦しみはありましたか?

野沢 生みの苦しみっていうのはそんなに……。ないって言うとカッコいい感じになっちゃいますけど(笑)。途中、編集の方が「これも足してくれ」ということがあったり、たまに「ここは削ってほしい」と言われた部分が、私は「削りたくない」ということで、話し合ってラリーしたり。そのぐらいですね。

出典: FANY マガジン
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高橋 編集者っていうのは読者の代表なので。作家さんの書きたいことが、本来の本の筋から言って必要かどうかというのを踏まえてジャッジをするのが役目ではあるんです。ただ、編集者によってジャッジが違うんですよね。

野沢 そうなんですよね。それもちょっと面白かったし、言われて納得したところもあったし、ただ、ここだけはどうしても書いておきたいと残したところもあって。モメたわけではないですが、何度か編集の方とはラリーがあって。書かせてもらったところと削ったところと、どちらもあるという感じですね。

売れる本に必要なのはマーケティングよりも「情熱」

――このプロジェクト発でいちばん最初に出版されたのが、糸原沙也加(つぼみ大革命)さんの『#アイドルあるある推しごと図鑑』(宝島社)ですが、その糸原さんがインタビューのなかで「高橋さんが“本を出すうえで知名度は関係ない”と言ったひと言がすごく励みになった」と言っていました。

高橋 そうですね。僕は「無名こそ最大の武器」と思っていまして。有名だと、その人のイメージなどでフィルターがかかってしまう。野沢さんも有名な方だから、まさにそういうところがあるかと思うんですけど。

野沢 そうですね。それはあると思います。

高橋 特に芸人さんの場合は「芸人さんが出した本か」となる。でも、まったく無名だとフィルターがゼロなので。いつの時代も世の中は新しいスターを潜在的に求めている。無名だったときは、一気にどーんと行く。ベストセラーランキングを見ても、年間ベストセラーになると、ほとんどが初めて本を出した人だったりするんです。

出典: FANY マガジン
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――最近は「この人の本は過去にこのぐらい売れているから」とマーケティングで本を出したがる出版社が多い気がしますが、そうではない?

高橋 僕は、マーケティングをどんなに頑張っても、売れないものは売れないと思います。僕が編集をした近藤麻理恵(こんまり)さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』の場合、知り合った当時、彼女は片付けが大好きでそれを仕事にしている25歳の女の子で、まったく無名でした。でも彼女は「自分の仕事は世界に通用する」と思っていた。
根拠のない自信なんですけど。その自信が何から生まれていたかといえば、日本で出版されている片づけにまつわる本をすべて読んで、実践していた。20歳の誕生日に国会図書館に行き、絶版になったものも含めて片づけに関する本をすべて読んでいた。それぐらい「片づけ」への情熱があったんですよね。マーケティングより、その「情熱」が結局は大事なんです。

求めるのは「一芸に秀でている人!」

――今回、このプロジェクトが第2期として新たにスタートします。こういう人が向いている、あるいはこういう人を求めるということはありますか?

高橋 一芸に秀でている人ですね。その一芸というのは、芸人としての“芸”でなくても構わない。何かひとつのことをやり続けている人。今回のピストジャムさんは、芸人だけど、ずっとアルバイトを続けていた。そのアルバイトのことで本を書いた。本業がどっちだかわからないと冗談でおっしゃってましたけど、その視点がすごく面白いなと。芸人さんは何かひとつを突き詰める才能に秀でている方が多い気がします。

野沢 そうですよね。それは私も思います。プレゼンのとき、私も聞いていましたけど、みんな面白そうだなと思いました。

出典: FANY マガジン
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高橋 吉本興業は、芸人さん、タレントさん含めて、とにかく才能の宝庫だと思います。テレビがあるからテレビで活躍しないと、というふうに目指すのがこれまでだった。でも、テレビだけではないと思うんですよね。

野沢 そうですよね。とくに今の時代、テレビだけということは絶対ないですよね。

――最後に、“先輩”として2期生のタマゴたちにひと言お願いします。

野沢 アドバイスとか、こうしたらとか、そんな偉そうなことはまったくわからないんですけど、とりあえずは自分が好きなことを他人にすすめるというくらいの気持ちでチャレンジするのがいちばんかなと。本になるときは自分の「推し」がすごく大事になると思うので。

高橋 次の募集を見た瞬間に「チャレンジしてみようかな」と思った人は、ぜひチャレンジしてほしいですね。理屈を超えてチャレンジしたいと思った気持ち、それを大事にしてください。何を書くかというのは、吉本興業の編集者たちがフォローしてくださいます。また、審査に通りさえすれば、プレゼンの大会に至るまでにいろいろとフォローアップ体制もできています。こんなことをやってくれる会社は、マネジメント会社では絶対にないです!

野沢 そうですよね、面白い取り組みですよね。

出典: FANY マガジン
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高橋 僕の経験上、けっこうチャレンジングな企画でも興味を持たれます。ふつうならなかなか通りにくいような企画でも、そういうものを敢えて引き上げるというところもあります。各社の編集者の方々も、そういう気持ちでやってくださったのが、すごくうれしかったんですよね。それで昨年は、なかなか会社として通すのは難しいんじゃないかなというチャレンジングなものも本になっています。

野沢 たしかにバラエティに富んだ本が出てますもんね。

高橋 この記事を見てビビっと来た人は、それを信じてぜひチャンレンジしてほしいと思います。吉本に所属しながらベストセラー作家になっていく。そんな人が出てきたらすごく面白いだろうなと思っています!


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書籍概要

老いてきたけど、まぁ~いっか。』
著者:野沢直子
発売日:10月5日(水) 電子版同日配信
定価:1,540円(税込)
発行:株式会社ダイヤモンド社

Amazonはこちらから。

『半月の夜』
著者:野沢直子
発売日:10月11日(火) 電子版同日配信
定価:1,430円(本体1,300円+税)
カバーイラスト:西川真以子
装丁: 大久保伸子
発行:株式会社KADOKAWA

Amazonはこちらから。