落語家の林家菊丸が、優れた芸術活動を表彰する「令和4年度(第77回)文化庁芸術祭賞」大衆芸能部門で大賞を受賞し、1月25日(水)に大阪市内で行われた受賞贈呈式に出席しました。受賞の連絡に「何かのドッキリではないかと驚いた」という菊丸。昨年11月の「第八回三代目林家菊丸独演会」での新しい試みが高く評価されたという菊丸に、喜びの声を聞きました。
「林家は自分が引っ張る」
今回の文化庁芸術祭賞では、関西から13の団体・個人が受賞。菊丸の受賞理由は次の通りです。
「女性を描くことに定評のある林家菊丸が『癪の合薬』『二番煎じ』『井戸の茶碗』という“侍の噺”三席で新境地を開拓。特に『井戸茶碗』では、清貧な暮らしぶりの浪人、若き武士、正直者の屑屋を巧みに演じ分け、爽やかで温もりのある笑いを届けた。また、浪人の娘の心情をさりげなく織り込むなど、現代感覚にマッチした演出も光る」
授賞式後の祝賀会で菊丸は、こう喜びを語りました。
「私は、いま48歳で、40代で大賞をいただけるのは本当に身に余る思いでございます。上方落語界も世代交代と言われています。われわれ中堅どころがもっともっと精進して、上方落語をしっかりと盛り上げていかないといけない立場だと思っています」
そして、自身の一門である林家に触れながら、こう気を引き締めました。
「この賞は、うちの師匠の染丸も受賞し、兄弟子の染二も2年前に受賞し、上方の林家はしっかり板の上の芸を守っていく、そんな一門だと思っております。この受賞は、自分が引っ張っていくんだという腹をくくる良ききっかけになったと自負しています」
師匠・染丸も“手”で喜びを伝える
受賞式を終えた菊丸に改めて受賞の感想を聞くと、「この賞は僕の憧れとしている師匠方が過去に受賞されてきたものだったので、受賞者一覧のなかに自分の名前を刻むことができて本当に嬉しく思っています」と感無量の様子。
「師匠にも報告もしました。うちの師匠はいま、脳梗塞の後遺症で手足があんまり動かないのですが、一生懸命に手でトントントントンと拍手をしてくれました」
また、新しい演目を選んだ理由については、こう明かします。
「前の名前の染弥時代から19回、独演会を続けてきましたので、常連のファンの方には、あのネタも聞いた、このネタも聞いたと思われないように、ファンの方に聞いてもらっていない、そんな演目、そんな芸風を見せたいと思って挑んだのが今回でした」
過去には「賞」を強く意識していたと話す菊丸ですが、今回の心構えは少し違ったようです。
「文化庁芸術祭のエントリーは過去もしていまして、そのときは審査員が会場のどこかで見ている、その審査員に評価されたい、審査員が評価してくれそうなテーマで芸を見せないと賞は獲れないという思いでやっていました。お客さんにプラス、審査員のことをずいぶん意識しながらやっていました。でも今回は、3年ぐらいあいて久しぶりにエントリーしたんですけど、まったく審査員のことを意識せず、長年のファンの方に違う自分を見せたい、その一心だけでやりました」
その結果の受賞に「狙いに行っても取れないんだなと。やっぱりお客さんのことを一番に考えたら結果がついてくるんだなと思いましたね」と思いを新たにしていました。