M-1で注目の社会人芸人・シンクロニシティが吉本所属に! 会社を辞めてプロ芸人にかける思いとは

会社員と芸人という、二足のわらじを履きながら『M-1グランプリ2022』準決勝に進出、敗者復活戦で注目されたシンクロニシティ(西野、よしおか)が吉本興業所属となり、プロの芸人として歩み始めました。2017年に結成、ライブシーンで人気を博し、フリーランスながらネタ番組にも顔を出していた若手の注目株です。これから『神保町よしもと漫才劇場​​』の劇場メンバー入りを目指す2人に、会社を辞めてプロ芸人として生きる決意を聞きました。

出典: FANY マガジン
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お笑いファンの反応に驚き

――4月から「吉本興業所属」になりましたが、現在の心境はいかがですか?

よしおか 私は不安でしかないです。(5月の)単独ライブに向けて動いてはいるんですけど、ライブにはほとんど出ていなくて、ヒマな時間が多いんです。3月31日までフルタイムで働いていたのもあって、「私、このままやっていけるのかな」という漠然とした不安に襲われています。

西野 相方が言ったとおり、4月から予定が詰まっているわけではないんですけど、ネットを見たら、(多くの人が)自分たちのことを書いてくださっていて……。いろいろ記事や書き込みがたくさんあるのに、自分は家で1人で過ごしているという不思議な感覚でした(笑)。

――確かにSNSでも大盛り上がりでしたね。

西野 「所属ってことは、いっぱい見られるようになるんだ」と言っていただいたんですけど、見る機会が増えるかどうかはわれわれ次第ではあるなと思います(笑)。

よしおか 「みんな、待っててくれていたんだ!」と意外でした。「吉本所属おめでとう」とか「これから応援できるぞ」といった声が多くて、すごく嬉しかったです。

出典: FANY マガジン
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フリーのままで戦い続けた『M-1グランプリ』

――2017年から事務所に所属せずに、漫才を続けてきました。やはり『M-1グランプリ』が念頭にあったのでしょうか?

よしおか アマチュアが出られるオーディションはM-1しかなかったですし、M-1がきっかけで知名度が出てきて、ライブに呼ばれたり、ネタ番組に出させていただいたりしたので、大きかったですね。

西野 もともと、(よしおかとは)大学の落語研究会で知り合ったんですけど、そこからプロになる選択肢もあったのに、お互い勇気がなかったので就職しました。プロになるという目標はありつつ、まずは「芸人でもやっていける」と思えるような結果を出したいなと思っていましたね。

――アルバイトではなく、就職して地に足をつけてプロを目指すということですね。

西野 たぶんバイトをしながら活動を続けていたら、仲違いしてすぐに終わっちゃうだろうな、というのもあって、それぞれ「生活」をしっかりしたうえで活動したほうが、やっていけるのかなと思っていました。

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――M-1では、2018年~2020年に準々決勝へ進出しましたが、その先は壁が立ち塞がりました。突き抜けられないジレンマはありましたか?

よしおか 毎回、準々決勝の会場が「NEW PIER HALL」という会場だったんですけど、あそこに行くたびになんかスベってて、何をすれば準決勝に行けるのかもわからないし、毎年、準々決勝が終わって「次行けなかったらもう辞めたいな」と思っていました。

西野 「働いてるから、このくらいしかいけないんだ」と思う部分と「いや結局、実力でいけないんだ」と思う部分が両方ありました。

――そのなかで印象的な出来事はありましたか?

西野 「(M-1の結果で)前年の成績を下回ったら解散する」というルールを毎年、設定していまして、一度、1回戦で落ちた年があったんですよ。結局、追加合格というかたちで勝ち上がったんですけど、そのルール縛りがけっこうキツかったというのがありますね。

よしおか 毎年、準々決勝で落ちるんだったら、もうやり続けてもその先が見えないし、変に期待を抱いて人生を過ごすよりは、サクッとやめて、お笑い以外のことをやったほうがいいんじゃないかな、と思っていました。

出典: FANY マガジン
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M-1準決勝でつかんだ光明

――2021年は不参加でしたが、そのような気持ちの流れもあったんですか?

よしおか あれは仕事のメンタルです。

西野 (笑)。仕事をやりながらお笑いをやっていると、平日仕事で休日がお笑いだから、ほかのことがいっさいできなくなっちゃうんです。1年間休んでいた時期は、相方が体力的にも精神的にもキツい感じになっちゃったんで、お笑いどころじゃないから、とりあえずいったん休もうと。僕がネタを書いているんですが、休んでいる間にネタを考えて、次に動くときに「お笑いだけでやっていける結果を残したい」と思っていました。

――そして、2022年に準決勝進出を果たします。1年間、大会から離れたことで、コンビのことやM-1について、見え方は変わりましたか?

西野 休んでいる年に、お客さんとしてM-1の予選を観に行ったんですよ。ここ数年、なかなか客席側に行くことはなかったんですが、そこで思いついたネタもあって……。翌年の予選ではそのネタで挑めたので、1年間休んだのは意味があったし、その1年があってよかったのかな、という気はします。

よしおか (休養中に)錦鯉さんがM-1決勝に行く直前に、ラジオで私たちのネタを褒めてくださったり、まわりの芸人さんが心配してくださったりして、すごく嬉しかったです。それまで、自分のことでいっぱいいっぱいだったんですけど、「こんなにも応援してくれる人がいるんだ」「こんなにも支えてもらっているんだな」と実感しました。

――準決勝進出が決まって、どんな気持ちでしたか?

西野 2017年から「準決勝に行ったら仕事を辞めて頑張ろう」とは話し合っていたんですけど、いざ準決勝に行けるとなった瞬間、「これ本当に辞めるのかな?」と思いました(笑)。散々辞めようと思って頑張っていたのに……。一応、社会人で6、7年働いて辞めるって、けっこういろいろあるんで、「本当に来ちゃった」という気分でした。

出典: FANY マガジン
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よしおか あと、急に考え方がガラッと変わって。いままで「準決勝に行ったら仕事を辞めよう」と思っていたのに、「準決勝でウケなかったらお笑いを辞めて、仕事1本にしよう」という気持ちにシフトしていたんです。準決勝はいろんな人が見るから、そこでウケなかったら世間に受け入れられなかったってこと。「準決勝でウケたら仕事を辞めて、ウケなかったらM-1は“いい思い出”として諦める。これからの人生、ツラいことがあったとしても『準決勝に行ったことあるし』と思いながら仕事頑張って、別の趣味を見つけて生きてこうかな」と思っていました。

吉本所属は「自分たちの成長につながるから」

――その後、敗者復活戦のトップバッターで抜群のインパクトを残しました。あの場に立ってみていかがでしたか?

西野 悪口をたくさん言われるんじゃないかって思っていたんですけど、ぜんぜんそんなことなかったんで嬉しかったです。

よしおか (敗者復活戦が)暗い漫才から始まることになるから、ちょっと幸先悪そうじゃないですか(笑)。思ったより反響がよくてすごく嬉しかったです。

西野 ただ、準決勝に出る芸人さんって、たぶん屋外でも広い場所でもネタをやったことがあると思うんですけど、われわれは完全に初めて。マイクの使い方だったり、舞台の使い方だったり、ほかとくらべて圧倒的に技術が足りていなかったので、このままやってもきっとダメなんだろうなと思いました。

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――この時期に、プロでやる決意が固まったんですね。

西野 M-1の敗者復活戦の出番が終わってはけたときに、カメラマンの方に「事務所とかに入るの?」と言われたんですよ。そこで相方が「所属します」と勝手に発言してて(笑)。そこから本当に話し合って、12月下旬ぐらいに「どこかに所属させてもらおう」となりました。

――多くの事務所があるなかで吉本を選んだ理由は?

西野 いろいろ理由はあるんですけど、ほかの事務所のライブに出る機会が多かったなか、どの事務所の芸人さんたちもほぼ全員、「吉本でやったほうがいい」とおっしゃっていて。あとは、吉本の劇場におジャマしたとき、圧倒的に劇場の環境が違うなと思いました。メディアのひとつみたいな感覚で行っていたかもしれないです(笑)。

よしおか もちろん、ほかのライブ会場でもそうなんですが、劇場スタッフさんも誇りを持ってお仕事をされていますし、厳しい環境に身を置いたほうが、自分たちの成長にもつながるのかなと思いました。

西野 吉本には、自分たちの足りないものを持っている方がたくさんいるイメージがあって。「逆のイメージのほうに行ってみよう!」というのが大きな理由です。簡単に入れるわけではないので、一度、話を聞いてみようとなりました。

出典: FANY マガジン
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「そんなにライブに出てるんだ!」と言われる芸人に

――事務所に所属することでチャンスは広がると思います。やってみたい仕事は?

よしおか 『ザ!世界仰天ニュース』(日本テレビ系)の再現VTRに出たいです。

西野 スタジオに出たいわけではなくて?

よしおか シリアス回の再現VTRに出たいです。

西野 (笑)。ネットラジオはやらせてもらっているんですが、地上波のラジオに出られたら嬉しいです。漫才も、喋るのも、視覚情報がなくても完結できることをやっているんで、そういうこともたくさんできたらなと思います。

――おふたりが理想としている漫才師の在り方は?

よしおか 恥ずかしいんですけど、舞台が似合うシュッとしたカッコいい漫才師に憧れていて。胸を張って「漫才師です」と言えるような芸人になりたいです。

西野 長い期間、働いてきたんで、社会人の方でも面白さがわかるような感覚は意外とあるのかなと思っています。そこを忘れずにいられたらなと。お笑いを見たことない人が、休日に劇場に来て、笑ってもらえるような漫才師になるのが目標です。

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――シンクロニシティの魅力を自己分析するなら?

よしおか 強みかどうかはわからないですが、「本当にボケようと思ってボケてる感じがしない」とよく言われるので、そこが強みなのかなって。

西野 相方が「そういうネタしかダメです」と言っているからなんですが(笑)、文字で見ても面白いネタをやってるつもりです。あと、最初はそんなつもりなかったんですけど、「私も暗くてお笑いやりたかったんですけど、 勇気が出ました」みたいな声をいただくことがあるので、「クラスの中心じゃなくても面白くなれるんだよ」みたいな勇気が与えられる漫才をやれているのかなと少し思います。

――初単独ライブ『おわりのはじまり』が54日(木・祝)に開催されますね(オンラインチケット発売中)。ネタが中心ですか?

西野 結成から(いままでで)良かったネタをやるライブも全然ありだと思うんですけど、去年のM-1が終わってからつくったネタをやろうと思っています。

よしおか あと、どれも次のM-1に出しても大丈夫なようなネタばかりです。

西野 つくるのはこっちですけど(笑)、それぐらいのつもりですし、どれをM-1にかけるのか、お客さんに決めてもらうぐらいの気持ちでネタをやりたいと思っています。

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――幕間はどんなことをするんですか?

よしおか 映像なんですけど、いままで自分たちがやったことない試みをやるので、それも楽しんでもらえたらなと思います。

西野 相方が体調不良で休んで復帰するにあたって、移動が大変だという話になったので、僕が車でライブの送迎をしていたんですよ。そんな車中の映像を流す予定です。

よしおか ウラ側を見せるということが、いままでなかったので、新しい試みです。

――シンクロニシティとしての目標を教えてください。

よしおか 地方で応援してくださっている方も多いので、地方の劇場でライブができたらいいなと思っています。

西野 いままで仕事をしていたぶん、月1本ほどしかライブに出られなかったから、「あまりライブに出たくない人たち」だと思われてるフシがあるんですよ(笑)。プロになったんで、「そんなにライブ出てんだ!」と言われるようになりたいです。

取材・文:浜瀬将樹

公演概要

シンクロニシティ初単独ライブ「おわりのはじまり」
日時:5月4日(木・祝)開場14:00 開演14:30 終演15:30(予定)
会場:赤坂RED/THEATER
チケット:前売り2,000円 当日2,500円 配信1,200円
※劇場席は完売

FANYオンラインチケット(配信)はこちらから。

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