初の末廣亭に「正直ビビッてます」 繁昌亭大賞・新人賞の桂三実が東名阪で記念独演会

昨年から新たに設けられた「繁昌亭大賞」新人賞を受賞した桂三実の独演会が、4月28日(金)の東京を皮切りに、名古屋、大阪で開催されます。2012年5月に現・六代 桂文枝に入門してから10年、古典のみならず、新作落語にも積極的に取り組んできたことが評価されている若手の実力派です。今回はその三実に直撃して、独演会のみどころや、これまでの修業の話、新作落語のつくりかたなどを大いに語ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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受賞の知らせは「すっぽんぽんで…」

――繁昌亭大賞新人賞は入門15年以下の若手落語家が対象の賞で、三実さんは記念すべき第1号の受賞者となりました。受賞の連絡があったときはどんな気持ちでしたか?

電話でご連絡をもらったのですが、ちょうどシャワーを浴びていて、とりあえず裸でスマホを見たら、上方落語協会からで。出たら、「繁昌亭大賞に新人賞が新しくできて、選ばれました」みたいな。そういうおめでたいニュースを、すっぽんぽんで聞きました(笑)。

――「獲ったー!」というような喜びは?

あんまり実感がなかったです。新設の賞というのもありましたし……。でも、ありがたかったです。新人賞が新設されたことも知らなかったので、“棚からぼたもち”みたいな感じで嬉しかったです。

――その後、実感は湧いてきましたか。

そうですね。インタビューのお仕事とか、新聞の取材とか、いままでにないお仕事をさせていただけるのはありがたいです。それこそ今度の落語会もそうですね。

出典: FANY マガジン
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――「芸歴10周年・繫昌亭大賞新人賞記念落語会『しゃんぐりら』 in 東名阪」ですね。どういう経緯で決まったんですか?

マネージャーさんから、やりませんかと打診があって。東名阪、しかも東京は末廣亭なのでめっちゃ嬉しいんですけど、正直ビビッています(笑)。「マジで大丈夫ですか?」って聞いたんですけど、マネージャーが「大丈夫です」と。末廣亭さんは初めての会場ですし、格式ある劇場と聞いています。上方の落語家さんでも高座に上がった人は、ほぼいないんじゃないんですかね。右も左もわからないまま、決まってしまったという感じです。

――名古屋は大須演芸場、大阪は天満天神繁昌亭と、どこも落語の聖地ですね。

マネージャーさんいわく、落語だけでやりたいっていう思いがあったみたいです。

――末廣亭のゲストは、兄弟子の桂三四郎さんと立川吉笑さん。

おふたりとも100%笑わせてくれると思うので、ありがたいですね。吉笑さんは去年、「NHK新人落語大賞」で優勝されて、いちばん勢いがあると思います。三四郎兄さんも、当日は何をされるかわかりませんが、けっこうポップな感じになると思うので、初めて御覧になる方でも楽しみやすいと思います。大阪の新人賞を獲った若手が末廣亭に来ると言うことで、「1回見てみようか」と思ってもらえると嬉しいです。

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――名古屋と大阪にも、ゲストに強力な落語家が登場しますね。

今回は、東名阪とも「落語っておもろいな」と思ってもらえる方々にゲストで来ていただきます。とにかくお客さんを笑かす人を選びました。

――三実さんご自身の意気込みはどうですか。

東京は「初めまして」ですね。大阪にこんな落語家がいるんだというアピールになればと思います。名古屋は地元ですので、“故郷に錦”じゃないですけど、知っている人とかいっぱいいるので、これだけ続けて来れましたという感謝の会になれば。大須演芸場は何回か出たことはありますが、自分の落語会ではないので、めちゃくちゃ嬉しいですし、なんとか頑張りたいなと思います。大阪は10年の集大成という感じですかね。けじめの会になると思います。

「古典のパロディはしない」というルール

――芸歴10年、どんな歩みでしたか。

思ってたのと違いました(笑)。修業の3年間が終わって、その当時から新作落語をやっていたのですが、「こんなにも新作の需要が大阪の落語会にはないものか……」と。もちろん師匠もそうですし、諸先輩方にも、ずっと新作を作っておられる方がいらっしゃいますが、大阪の落語ファンには、「上方落語四天王」(桂米朝、三代目桂春団治、六代目笑福亭松鶴、五代目桂文枝)をリアルタイムで見ていた方もまだまだいらっしゃるので、伝統を受け継いだ、きっちりした古典が好きという方が多くて。それは、とてつもなく大きい壁だなと。

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でも、そんな環境の中でも唯一、前座から「自分が作った落語をやったらいい」と言ってくださったのが師匠で、それこそ1000人規模の師匠の独演会で新作をやらせてもらえて、その経験はものすごく大きかったですね。いちばん尊敬している人が肯定してくれたので、それだけを心の支えに10年、続けられました。

――文枝師匠は、いまも落語を作ってますもんね。

作ってますよね……もう、おかしいですね(笑)。80歳で、2カ月に1本作るって……。リスペクトしかないです。

――これまでに作った新作落語はどのくらいありますか?

いまは60ぐらいあります。

――落語の作り方は誰かに教わるんですか? 

うちの一門は独学ですね。見て学ぶという感じですかね。皆さんが、どういうふうに作っているのか知りたいですけどね。

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――いちばん気になるのは誰ですか。

笑福亭仁智師匠です。どういうふうに作っているのか、めっちゃ気になります。ノートに書くのか、家で作るのか、スタバとかカフェなのか。あと、完成するまでの時間はどのくらいかかるのか。ネタ下ろしをした後、次にどう変わるのか、どこを残して、どこを捨てるのかとか、めっちゃ気になります。設定もどう思いつくかとか。恐れ多くて聞けないんですけど、めっちゃくちゃ気になりますね。なので、YouTubeの「よしもと落語チャンネル」の企画で、お願いしたいです。

――「師匠に聞く!」みたいなコーナーですか。

はい。新作を作るうえで、文枝師匠は日常生活の普遍性を、もっとも大事にされているのですが、仁智師匠は何に重きを置いてるのかとか、これだけはしないというルールがあるのかとか、聞いてみたいですね。

――三実さんの新作落語には「これだけはしない」というルールがありますか?

ありますね。古典のパロディをしないようにと。1カ所だけ似るとかはありますけど、噺の筋はかぶらないようにしようとか。気づいたら、「これは古典のあれと同じやな」と思うこともあるので。

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落語の進化を楽しんでもらえれば

――話は変わりますが、金髪も落ち着いてきましたね。髪の色を変えるのは、伝統芸能の世界においては大きな決断ではなかったですか。

思い切りました。でも思ったより、お客さんも気にしていないような感じはします。最初は「え?」って思っても、噺に入ったら気にならないんじゃないかなと。40分ぐらいの古典の人情噺だったりすると、気になるかもしらないですけど、僕は新作落語が多いので……。それに、なんといっても春風亭小朝師匠もそうですから(笑)。

――今回のツアーで初めて落語を聞くお客さんもいると思います。三実さんが考える落語の聞きどころを教えてください。

古典落語は、今も昔も人間の性格って変わってないんだと思えるところが面白いです。たとえば、習いごとに行く動機が、教室の先生が美人だからとか。そういうのって、いまもあるじゃないですか。それが昔もあったんだなとか。

出典: FANY マガジン
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新作落語の場合は、現代的な噺もあるんだと思ってもらえるところです。たとえば「SNS」みたいな現代の語句も使っていたりするので。落語は古いというイメージがあるかもしれないですけど、そういう新しさを感じてもらえると思います。兄弟子の三幸兄さんは、落語中にiPadを使ったり、カラオケで歌ったりもしていますから(笑)。
あと新作の場合、前に聞いたときと変わっている可能性があるのも面白いと思います。何回も足を運んで、落語の進化を楽しんでもらえれば嬉しいです。

公演概要

「芸歴10周年・繫昌亭大賞新人賞記念落語会『しゃんぐりら』 in 東名阪」

【東京公演】
日時:4月28日(金) 開場20:45 開演21:15 終演22:30
会場:新宿末廣亭
出演:桂三実 <ゲスト>桂三四郎、立川吉笑
チケット:前売 2,500円 当日3,000円

【名古屋公演】
日時:6月24日(土) 開場18:15 開演18:30 終演20:30
会場:大須演芸場
出演:桂三実 <ゲスト>桂三度、月亭遊真
チケット:前売2,500円 当日3,000円

【大阪公演】
日時:8月17日(木) 開場18:30 開演19:00 終演21:00
会場:天満天神繫昌亭
出演:桂三実 <ゲスト>笑福亭鶴笑、月亭秀都
チケット:前売2,500円 当日3,000円

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