3月の特別公演『吉本新喜劇記念日2023』で行われた「寛平GM杯争奪ネタバトル最終決戦」で、年間王者に輝いたのは座員の吉岡友見でした。ふだんの新喜劇で演技派として知られる吉岡ですが、今回は出場者のなかで唯一のピンとして参加。“おひとりさま”でクルーズ旅行に参加する独身女性になりきったリアルな演技力で、爆笑をさらいました。今回はそんな彼女に、ネタの台本を担当した諸見里大介とのエピソードや、賞金30万円の使い道、さらには新たな目標や夢まで、じっくりと聞きました!
最終決戦は、昨年4月から月1回開催されてきた新喜劇座員による「ネタバトル」の月間王者と間寛平GM(ゼネラルマネージャー)らが推薦した出場者が、コントや漫才、ショートネタなどでネタ対決。審査員を務めたのは矢野・兵動の兵動大樹、藤崎マーケットのトキ、そして吉本興業ホールディングスの岡本昭彦社長CEOで、吉岡は圧倒的な演技力で栄冠を勝ち取りました。
「新喜劇は難しいなぁって思う」
──優勝が決まった瞬間は、どんな気持ちでしたか?
毎月、(吉本新喜劇)セカンドシアターで開催していた『寛平GM杯争奪ネタバトル』で優勝したわけでもなく、グランドバトルも推薦枠での出場でしたし、ネタは諸見里(大介)さんが書いてくださっているので、そもそも出られると思ってなかったんです。だから、意識が皆さんとちょっとちゃうかったかも。終わってからも「えっ! 私!?」ってなってました(笑)。
──ピンでの出場は、吉岡さんだけでした。
逆に1人のほうがやりやすいなっていうのもありましたね。練習も1人でできるし、のびのびできるというか。舞台袖ではずっと緊張してヒザ抱えてましたけど(笑)。
──最初に『ネタバトル』に出ることになったきっかけは何だったんですか?
突然、諸見里さんから電話がかかってきて「ネタ書いてんけど、やってくれへん?」って言われて。始まりはそれです。
──「やります」と即答したんですか?
私は、新喜劇でもネタを作ったり、ギャグをやるという感じではなく、芝居をやるっていうポジションが多くて、「与えられたものはちゃんと120%でやろう」っていうスタンスの人間なんです。だから、もらえたらちゃんとやろうっていう感じでした。
──台本は吉岡さんに“当て書き”されたものだったんでしょうか。
最初のネタは“寂しい独身キャリアウーマン”みたいな内容で、それを私がやったら面白いと思いはったんですかね。「何人か候補はいたけど、吉岡かな」みたいに言ってくださって、純粋にありがたいなあって思いました。諸見里さんとは(2012年の)「金の卵6個目オーディション」で入団が一緒なんです。だから、ずっとお世話になっていて。
──最初に台本を読んだ時の感想は?
設定とか、「私がやるやつやな」とは、すごい思いましたね(笑)。面白かったです。
──実際に演じてみて、手応えを感じましたか?
ネタを1人でやること自体、初めてやったんで、どこでどんな反応があるのかも全然わからなかったんですけど、諸見里さんを信じてやったら、皆さんが反応してくれて、だんだん楽しくなってきた。もちろん緊張はめっちゃしましたよ。でも、舞台に立ったら楽しくなっちゃうタイプなんで。
──1人でお客さんを笑わせるのは、新喜劇と違う難しさがあるんじゃないですか?
なんか、新喜劇より楽だったかもしれないです。間とかテンポとか、新喜劇は難しいなって思うことが多くて……。もう一生、難しいと思います(笑)。でも、あのネタは1人芝居なんで、そこは楽でしたね。お客さんが笑ってはるから、こっちもめっちゃ楽しくなるし、ずっと「楽しいな」と思いながらやってました。
優勝賞金を使って鳥貴族で“同期会”
──今回のグランドバトルで優勝したクルーズ船のネタは、2回目の月例『ネタバトル』で披露したものですね。
モロ(諸見里)さんから「船で一人旅する女のネタやりたいねん」って言われたんですけど、私、実際に大学のとき、1人旅で地球1周する船に乗ったことがあるんです。それを言ったら「めっちゃおもろいやん!」ってなって、「どんなんなん?」と聞かれたので、ちょっとアイデアを出したりもしました。
──だから、あんなにリアリティがあったんですね!
大学3年のときに乗ったんですが、ほぼ船の上に3カ月半。それが不思議と飽きないんですよ。ネタにもありましたけど、レクリエーションがあったり、自主企画みたいなのとかも。乗客は同世代の子が多かったかな。ご高齢のご夫婦なんかも乗ってらっしゃるんですが、そういう方たちは上のほうの高い部屋で、私はいちばん下にある4人部屋。もう学生ばっかりでした。
──諸見里さんが、吉岡さんのキャラをよく知っているからこそ生まれたネタかな、とも感じました。
それは、めちゃデカいと思います。ふだんから、よく飲みに連れて行っていただくし、めっちゃお世話になってます。それこそ昨日、賞金の30万円で……。
──そう、それを聞きたかったんです! 優勝の賞金30万円はどうなりましたか?
モロさんに半分渡そうと思ったんですが、ほんまにいらんって言われて。「じゃあ高級焼肉行きましょう」と言っても、「いや、鳥貴族がいい」と(笑)。だから昨日、鳥貴族に行ってきました。
──優勝したとき、舞台上で宣言した通りの使い道ですね。
そうなりました(笑)。同期の鮫島幸恵ちゃんともめちゃくちゃ仲良くて、いつもメンタルを支えてもらってるので、鮫も誘って3人で。結果、「金の卵6個目」の同期会みたいになりました。入団したときは14人いたんですけど、いまはその3人しか残ってないんです。
──鮫島さんの反応はどうでしたか?
めっちゃ喜んでくれました。しんどいことやイヤなことがあっても言える相手やし、ライバル意識とか全然なくて、仲間みたいな感じなんです。鮫がいなかったら、ほんまにやめてたと思います……っていうのを、お互い言い合ってます(笑)。
──鳥貴族で豪遊した残金は何に使いますか?
残ったおカネは人間ドックに使おうと思ってます(笑)。年齢的に、やっぱ健康に気をつけないと。あとは保険払ったり。すっちー兄さんにそれ言ったら、めっちゃ笑われましたけど。
“第2の浅香あき恵”を目指して
──先ほど「新喜劇は難しい」と言ってましたが、大学卒業後、東京で10年間お芝居をしていた吉岡さんにとって、ぜんぜん違うものなんでしょうか。
違いますね。まわりの先輩からは、入ったときから「(浅香)あき恵さんを目指せ」ってめっちゃ言われてるんです。
そのあき恵姉さんが、「お芝居はぜったい裏切らないから、それだけをしっかりやってたらいいよ」と言ってくださってて。ネタを作ってボケるタイプではないから、お芝居の流れでボケられるように、とか。ボケるにしても、芝居ができんかったらヘンになっちゃうし、新喜劇では自然にできるボケが大事やから……。
これまでやってきたこと、芝居をちゃんとやるっていうのは間違ってないのかなと思いながらやってます。あき恵姉さんは、ちゃんとネタやキャラもあって、笑いもとって、でもシメるとこではきっちりシメはる。すごいなっていつも思ってます。イジられたらバーンって返せるのとかも、見ていてめっちゃ勉強になりますね。
──あき恵さんのほかに憧れる座員は誰ですか?
(酒井)藍姉さんには、もうめちゃくちゃお世話なってて。人としてもすごい方で、みんなのこと見てはるし、すごくやりやすい空気を出してくれはる。私、最初のころはぜんぜん出番がなかったんですけど、藍姉さんが「吉岡ちゃん、芝居できるんや」っていうので使ってくれ出したので、めちゃくちゃ感謝してるし、すごい人やなと思います。
すっちー兄さんも、アドバイスをめっちゃくださるんですよ。2回目に「ネタバトル」に出場したとき、2位になったんですけど、皆さん自分らで考えたネタやってるし、私としてはちょっと引け目を感じてたんですね。そしたら、すっちー兄さんが「もらったものをちゃんと再現できるのも新喜劇では大事やから、めっちゃいいやん」って言ってくれはったので、気持ちがすごく楽になりました。そういう一声をさりげなくかけてくださるんです。
グランドバトルで優勝したときは、(池乃)めだか師匠や(未知)やすえ姉さん、あき恵姉さんとか、皆さんがすっごい喜んでくれはって。「おめでとう」がほんとにありがたくて、私もいる意味あるんやって思いました(笑)。
プライベートもおひとりさま好き!?
──ふだんの吉岡さんについても聞きたいのですが、最近ハマっていることはありますか?
もともと本を読むのとか何かを書いたりするのが好きで、FANYマガジンでライターのお仕事をもらってるんですが、お芝居も含めて好きなことが仕事になっているので、趣味やハマることがだんだんなくなってきてるんです。
う〜ん……ゴハン食べるとかかな?(笑) アジア料理が大好きなんで、いまはめっちゃタイに行きたい。ちょっと気持ちが落ちてるときは、ずっとタイ旅行のYouTube動画を見て、行った気になってます(笑)。
──世界1周の船に乗るぐらいだから、海外にもよく行っているんですよね。
それが私、海外はそれでしか行ったことないんです(笑)。地球1周が初めてで唯一の海外旅行。ただ、国内旅行も好きで、去年はずっと行きたかった青森の恐山に行ってきました。ほかにもキリストの墓とか河童の伝説が残ってるところがあって……。めちゃくちゃマニアックですけど、そういうの好きなんです。
──フットワークが軽いんですね。
旅だけじゃなく、人生がそんな感じなんで。新喜劇に入ったり、船に乗るとかも、やろうって思ったらやる。1人旅も全然OKです。映画館とかお芝居はぜったい1人で行きますし。なんか、一緒に見に行った人が同じ意見じゃないと、やっぱしんどいし、終わったあとに会話がね(笑)。1人でジンワリ噛みしめたいんです。
アピールポイントは「顔が大きい」!?
──新喜劇に入ってから10年たって、入団当初と比べて気持ちに変化はありますか?
最初はわからないことだらけやし、自分がどう見られてんのかとかもわからなかったんですけど、それこそすっちー兄さんが「舞台上ではかわいらしくおらんでいい。求められてるのはそっちじゃないから」って言ってくださって。舞台上ではいつ何を言われてイジられても返せるようにしようっていうメンタルが、最近ようやくできてきました。
(新喜劇に)入ったのが32歳で、年齢も見た目も中途半端で難しかったんです。でも、考えてみたら、いまそこって誰もおらんなと思って、開き直ったら、なんかちょっと楽しくなってきたというか。だから、舞台上ではめっちゃ気ぃ強くなりました(笑)。常にファイティングポーズの気持ちでいようと思ってます。
──ご自身のアピールポイントを教えてください。
顔が大きくて、舞台映えします(笑)。あと、顔でめっちゃしゃべるから、顔圧がすごいって皆さんに言ってもらいます。これが、たぶん私の持ち味。(顔が)大きいほうが舞台ではいいんですよ。遠くからもよく見えますし。
──これから挑戦したいことはなんですか?
文章をもっと書きたい。いまはインスタとかにちょっと書くぐらいなので、ブログでもなんでも書いていかないと、と思ってます。日々のことというか、エッセイ的なものを書いてみたいんです。そのためには、もっといろいろ本を読んだりもしないと。
新喜劇に入って5年間は、実家のある三田から通ってたので、電車の時間でめっちゃ読めたんですけど、いまは祇園花月に行くときの電車ぐらいやから、ぜんぜん足りてません。
──新喜劇、そしてお芝居での夢も聞かせてください。
ちゃんとお芝居できるけど、愛嬌もある、笑いも取れる……って欲張りですけど(笑)、そういう女優さんになりたい。それと、NHKの朝ドラに出るのが目標です。これ、もうどんどん言っていこうと思って(笑)。新喜劇以外の舞台も、お話があれば出たい。
私、お芝居がめっちゃ好きなんです。高校も演劇科のある学校で、大学も芸術演劇専攻やって、もうそれしかやってなかったんで。
──好きこそものの……というやつですね。
いや、上手になってるのかはわからないんですけど(笑)。新喜劇でのお芝居を軸に、いろんなことに挑戦していけたらいいですね。